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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第五章:hope union

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百九十七:行動で示す者たち

 次の日の正午となり、清は魔法の庭で常和と見合っていた。

 向き合っているとはいえ、お互いに言葉を交わすことはなく、魔法の庭で準備された勝負場に降りたっている状態だ。


 校舎前の校庭が勝負場になっており、四方が芝生の坂に囲まれた平地となっている。

 灯と心寧曰く、清と常和がお互いに全力を出せるように整えてくれたらしく、二人には感謝しかないだろう。


 清が地の感触を確かめていれば、坂上から校庭を見渡せる位置に立っていたツクヨが手をあげていた。


『これより、魔法勝負を開始とする。魔力シールドが割られるか、どちらかの降参の宣言を勝敗とする』


 指を鳴らす音が聞こえた瞬間、坂上との境を基準に魔法結界が貼られていく。


 魔法結界が空を覆い隠した時、清は常和と真剣に見合った。


「常和、やるからには全力だから――魔力シールド展開」

「当たり前だ。全力で勝負だ――魔力シールド解放」


 お互いの魔力シールドはいつもより濃い色をし、透明となって体に纏わり展開される。


 魔力シールドを展開した瞬間、清は息を吸うように右腕をまっすぐ前に出した。


「――炎の魔法」


 手の先に魔法陣が浮かぶと同時に、炎は激しい音を立てて一直線に放たれる。

 無印(むじるし)の炎の魔法だが、今までよりも魔力の質を上げた最高状態で放ったのもあり、風を大きく揺さぶっていた。


 炎が常和に当たりそうになった時、常和の手に魔法陣が姿を見せる。


「いきなりか! 創成(そうせい)風魔法(かぜまほう)――風剣【ふうけん】――」


 常和が風剣を出し、炎を真っ向から切り裂いていく。

 炎は常和を中心に二つに分かれ、常和の後ろで火柱を立てた。


 炎の音が鳴りやまぬ中、地を力強く蹴る音が鳴る。


 常和は風剣を解除し、清風剣(せいふうけん)に持ち替えて突っ込んできていたのだ。

 清も瞬時に適応し、魔法の壁を手に限定して生み出す。


 音よりも速い風が、重い音を立てて魔法の壁とぶつかる。


「清、ずいぶんと懐かしいことをしてくれるな!」

「初めて常和に会った時、これがキッカケだったからな!」


 魔法勝負、両者の過去のキッカケではあるが、今の状況には関係なかった。


 常和は一歩も引く様子を見せず、絶えず清風剣の軽さを活かした風の雨を降らせている。

 清風剣は片手持ちであるが、振り終わりの隙を無くすように、風の性質を活かして逆の手へと移しており、両手による攻撃で残像が生み出されていた。


 縦、横、斜め、といった剣の振り幅及び持ち方も含め、見切るだけで精一杯となってしまう。

 清風剣は魔法の壁とぶつかる度、衝撃の風を吹かせ、徐々に清を後ろへと下がらせていく。


「守ってばかりじゃあ――隙があって弱い」


 油断していた。上部ばかりを意識していたのもあり、常和の下部をしっかりと見ていなかったのだ。


 常和の蹴りが入る直前に清は辛うじて気付き、手のひらで蹴りを防ぐ。


「甘い」

「くっ、なに!」


 蹴りを受け止めた、というのは一時の安心にもなっていなかった。

 常和はそのまま蹴りを続行し、受け止めた清を力強い蹴りで弾いたのだ。


 常和との力量差を計算に入れていなかったのもあり、踏み留めた足は地を抉り、清は後ろへと下げられていた。


 抉られた地は清の足が通った後を示し、常和の蹴りの強さを間接的にすら証明してきている。


 土煙が軽く舞い上がる中、清は常和との距離があいて見合う状態となった。


 気づけば、常和は清風剣を持ち替えており、最高火力を放つ暴風剣(ぼうふうけん)へと置き換わっている。


「清、救うって奴ほど……威勢だけは立派なんだよ」

「威勢だけのはず――な、この風、まさか!」

「じゃあ、示してくれよ」


 常和は真剣な瞳をし、暴風剣を持っている手を上にあげた。

 風は激しい音を立てて吹き荒れ、常和を中心に渦巻き、暴風剣へと集まっていく。


 暴風剣が振り下ろされる瞬間、高密度の風が一直線に清へと放たれた。


 今の状況で逃げ場、防ぐ手段がない清は、そっと両手を前に出す。


「受け止めて、やる」


 魔力シールドありきとはいえ、常和の力が相まった暴風剣の風は、素手で押さえた清に力強く襲いかかる。


 清は持てる力で魔力を全身に込め、その場で風を受けとめていた。押されることも、前に進むこともなく、ただその場で。


(……くっ! 今の俺がこれを受け止めないと、駄目なんだ!)


 清は本気で力を込め、吹き荒れる風を素手でかき消した。


 常和は受け止めきると思っていなかったのか、驚いた表情をし、拳に力を込めてこちらを見てきていた。


「魔力シールドが割れないからって……何をやってるんだ、お前は!!」


 魔力シールドがこの勝負で割れる確率は限りなく零だと、清は知っていた。だが、割れる可能性があっても、あの風は受け止めていただろう。


 清は魔力を膨大させ、足に力を入れて常和を真剣に見た。


「常和ぁぁ!!」


 清は一喝入れるように、大声で最高の親友の名を叫んだ。


「知りたかったんだよ! 今のお前を!」


 常和は言葉に気おされたのか、うつむきをみせた。だが、再度暴風剣に魔力が込められていく。


「それが迷いで、救える者も救えない、曖昧な気持ちなんだよ!」

「……そんなわけ、あってたまるか」


 (くう)は一気に裂かれ、激しい音を立てて渦巻く風がもう一度清に迫ってきていた。


 風の壁と向き合った清は、体内から湧き上がる熱さを実感し始めている。


 清が右手を前に出せば、清の周囲は燃え上がり、風に掻き消えない熱さを増していく。

 向かってきた風は周囲の炎に当たり、衝撃波を起こして舞い上がらせ、弾ける音を轟かせている。


(最高火力――炎の魔法)


 音も立てぬ炎は強く輝き、暴風剣の風を向かい打つ。


 炎と風がぶつかった瞬間、周囲は音無き爆風に包まれ、濃い霧が立ち込めていた。


 霧が晴れれば、常和に光が差し込み、一人の人物を照らして見せる。

 気づけば、常和との距離は縮まり、魔法勝負時の適切な距離感へとなっていた。

 風が炎と混じり吸い込む圧を生みだしていたため、それが起因となって自ずと中央に引き寄せられていたのだろう。


「……俺が生まれ持っていたものを、清は才能として、努力として手に入れてきた。俺が唯一持ちえない、折れない気持ち、不安な気持ちを乗り越える力」

「そんなの才能や努力じゃ!」

「傍から見れば才能なんだよ! だから俺はお前を――清の壁になると決めたんだ」

「……何を言って。……なんだ、この魔力」


 この時、清は初めて理解した。常和は全力を出していたが、全力ではなかったのだと。


 魔力の感知をせずとも理解できる、常和の周りを未知数の魔力が渦巻き始めていた。

 常和は多くの言葉を交わさないからこそ、行動で示してくる。


 魔力の圧から察するに、常和が今まで使っていた魔力は、自然のままに扱う力ではなく、自分と同じ我がままに扱う力だったのだ。


 清は息を呑み、常和を見た。


「これが俺の最高魔法だ。創成風魔法――風来剣【ふうらいけん】――」


 今までの風魔法の剣とは違い、風来剣という創成魔法は、持ち手の無い風の刃が常和の握り締めた拳から出ている。


 それだけでもわかるのは、常和の自然のままに扱う力で生み出された風来剣は、先ほどの勝負とは比にならない力を秘めていることだ。


 常和は流れる動作で、清に風来剣を向けてきていた。


「今ここで、お前に最大級の試練を与えてやる」

「……やっぱり、常和は凄いな」


 清は息を吐き出し、目をつむりながらそっと息を吸い込む。

 自然に流れし魔力は清に寄り添い、清の周囲に魔力を纏わせた。


 目を開けば、お互いに魔力を増幅させる。


「常和」

「清」

「今日こそ決着をつけてやる」

「今日こそ決着をつけてやるよ」


 互いに向かいあう想いは、純粋な笑みへと変換されていた。

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