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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第五章:hope union

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百八十八:星の魔石に隠された真実

 現在、清と常和、ツクヨは徒歩で校舎への帰路を辿っていた。

 ツクヨが心寧から魔法の庭の空間移動の権利を与えられていないらしく、滝の場所に行く道中も歩きだったのだ。


 滝から校舎までは、徒歩で小一時間の距離にある。

 夕方になっているのもあり、空いた森の道に生える並木は煌々と金色の光に照らされ、自然の姿を教えてくるようだ。

 夜までには戻れる予定であるため、明かりの無い森中を歩くことは無いだろう。


 三つの足音が草を踏み鳴らしていれば、そっと柔らかに吹いた風が木々を鳴らし、流れゆく命の音を芽吹く。


「月夜さん、ただ見に来るだけでついてきたわけじゃないよな?」

『おや、バレていたのかね?』


 ツクヨは圧気味で声をかけてきた常和に白状してか、淡々と言葉を口にした。

 清は後ろから二人の後を追う形だが、今だけは隣に立っていなくてよかった、と内心思っている。


「……今になってもわざわざ徒歩で帰らせる理由、ましてや心寧がここに通せばな」


 呆れたように常和は話しているが、ツクヨの考えを察しているのだろうか。

 清は二人の意味不明な会話に、ハテナマークが頭に浮かびそうだった。


 常和とツクヨが次元の違う会話をするのは、今に始まったことではないので、この二人だから成立する会話程度に思った方が良いのだろう。


 気づけば、ひやりとした風は肌を撫で、木々の葉を擦り合わせて音をこだまさせていた。森の合唱とも言える、自然に近しい場所に居なければ感じない、微かな空気の揺れ。


 木の音に清が気をとられていた時、ツクヨは後ろを振り向いてこちらを見てきていた。


『黒井君、唐突ですまないが、君たちの持つ【星の魔石】の歴史について知りたくないかね?』


 ツクヨの言葉に、清は思わず息を呑んだ。

 常和も予想外だったのか、足を止め、驚いた表情を隠せずにいた。


 清はその場で立ち止まり、少し地を見た後、顔を上げる。


「……ツクヨさん、知りたいです。お願いします」

『そうかね。じゃあ、歩きながら話すとしよう』

「月夜さん、心寧と星名さんは校舎に居るから、この話は二人に聞かれることは無いからな」


 夕方であることを踏まえれば、足を止めてしまっては暗闇に明かりを灯すことになるので、三人は帰路に足を進める。


 清自身、持っている星の魔石がどうして自分の所に来たのか、なぜほかの魔石と魔力が違うのか、生まれた理由は、と様々な謎を抱えた状態で今に至る。


 だからこそ、星の魔石について聞けるのはありがたい話だろう。

 もしかしたらそこに、魔法から灯を救うすべが見つかるかもしれないのだから。


『前置きとしてだが、星の魔石は流れ星から出来たもの、とつい最近までされていたのだよ』

「厳密に言えば間違いではないんだけどな」

『古村君の言う通りなのだよ。管理者、美咲家、双方の持つ歴史の言い伝えにズレがあった、その裂け目から生じた話になっていたからね』

「……ズレがあった?」

「ああ。美咲家は本や書物による、書き換えの出来ない古の魔法文字による伝承なんだ。あれだ、前に清と星名さんにあげたあの本もその一種だ」

『そして管理者だが、外部に漏れないよう、口伝えで引き継がれたのが悪さしてか、管理者の都合良い解釈の歴史話になってしまったのだよ』


 ツクヨは管理者側であるはずだが、現当主中立派とも言っていたので、そこを踏まえれば敵対視したような発言もありえるのだろう。

 常和が言っているあの本というのは、清が記憶のカケラの一つ目を取り戻す前に、灯が魔法のかかったページを解除した本の話だと理解できる。


 現在その本は、灯の思い出保管の本となっているため、清からしてみれば記憶に真新しい本とも言える。


『この先の話になるがね、私は偶然でも起きてしまいそうな危機を先んじて防ぐ方針で話す、というのを前提に聞いてくれないかね?』

「わかりました」


 重たい空気であるのに、ツクヨから感じる真剣な雰囲気を見て、清はどこか安心感があった。


 ツクヨだからこそ、余計な焦りや心配はいらない、と気持ちを預けられるからだろう。

 ツクヨは清の返事に安心してか、静かにうなずいた。


『二つの歴史をすり合わせた結果、狭間にだが……星の魔石は願いを叶える力を持っていると推測できたのだよ』

「……願いを叶える、力」

「清、心当たりがあるんだな」

『……その力だが、初期に魔法世界を創成して以降は願いを叶えた者は居ないとされているのだよ』


 ツクヨ曰く、星の魔石は長い年月もの時を超え、幾度となく二人一組の人物間を移動し、現在の清と灯の手へと渡ったらしい。

 あくまでも歴史であるため、元ネタが研究結果という二次創作だと思った方が良いのだろう。

 その時代に生まれた訳でもなければ、その文明や人が存在していたかも憶測に過ぎないのだから。


 清は自分の気がかりを一度飲み込み、思ったことを口にした。


「あの、その人たちの生存や、星の魔石に宿る主属性は同じだったのでしょうか?」

「主属性は俺が教えてやるよ……主属性は、渡り継がれるごとに変化していったんだ。だから、今もっとも歴史上の中では、清と星名さんが星に関する魔法に近いだろうな」

『生存者だが、願いの内容が悪かったのか、その後見たものは居ないと記されていたよ』


 ツクヨの言葉を聞き、清は息が止まるようだった。

 清は、灯と偶然でも願いを叶える出来事が起きていたらどうしていたのだろうか、という考えが脳裏をよぎったのだ。

 言い伝えが正しいのであれば、この場に立ち、灯と今を過ごせている、それだけでも下手すれば奇跡に近いのだから。


 ましてや、ペア試験で常和と一対一の空間で勝負した際、清は確かに願いの力が星の魔石にはある、と実際に体験している。

 常和の風魔法は魔力シールドに適応できない魔法であった。だが、魔力シールドに適応した魔法にペア戦以降はなっているため、救いたい願いが叶った意味を物語っているだろう。


 一人で叶えた願いとはいえ、灯を巻き込みかねない事態であった、というのは心に来るものがある。


 灯の笑みを誰よりも求め、灯を幸せにすると約束したのだから尚更だ。

 清が長く悩んでいれば、常和は隣へと下がり、肩に手を置いてきていた。


 肩に置かれた手や、真剣にこちらを見てくる瞳は、強い信念をもった覚悟を教えてくる。

 夕日は常和を照らし、輪郭にそった白い光が輝きとなって纏わり、自然と勇気をもらえる感じが清にはあった。


「……常和」

「清、救われた俺が言えたような口じゃないけどさ――今この場に四人で欠けることなく立って生きている、それだけでも幸せなんじゃないか?」

「そうだよな。常和、ありがとう」

『歴史を話したとはいえ、心配をかけてすまない。頭の片隅にでも置いておくといい』


 清は息をそっと吐きだし、ツクヨをしっかりと見る。


「ツクヨさん、灯には話さないでください」

『それは彼女次第だ。確約はできないね』

「清、星名さんは言ってたぜ『私が星の魔石を理解して、清くんを守る』って。だから、遅かれ早かれ、いずれ辿り着くだろうよ」

「……灯が、そんなことを」


 灯は清の前では弱音を基本的に吐かないため、裏では知らぬうちに努力をしていたのだろう。

 灯は自分を偽るのが上手いため、少しでも観察を見誤れば、気づけば変化をしているような高嶺の花とも言える存在だ。


 灯が事実を知って悲しむ顔をする可能性があると思うと、清はどこか胸が苦しめられるようだった。

 常和は落ち込んだ清を見てか、軽く背を叩いてくる。


「清――彼女を守ろうとする気持ちはいいけどさ、逃れられない運命を見て見ぬフリするくらいなら、受け止めて一緒に進む決断はしろよ。ましてや、弟との勝負、気持ちを伝えなきゃ星名さんは迷いなく危険であっても清に付いていくからな」

「……今日、灯と話してみる」


 確かに灯と未来に向かう話はしている。だが、今目の前に立ちはだかる壁の話をしているかと言えば、少なからず否だ。

 清は常和に言われなくとも気づいていた。自分が今、一人で全てを背負い、支えてくれると言った灯を守ろうとして、わざと危険から遠ざけていることも。


 今進んでいる未来への道治(みちじ)を思えば、改めて灯と向き合い、しっかりと伝えた方が良いだろう。

 二つの試練にキリがついたからこそ、迷いはない筈だ。


(……灯と一緒なら、俺はどこへだって進めるさ)


 灯との時間を欲した自分に清は鼻で笑い、気づけば小さな微笑み一つこぼれていた。

 その時、森は音を鳴らし、柔らかな風が優しく肌を撫でてくる。


 ふと顔を上げれば、前に進んでいた常和とツクヨはこちらを向き、清が来るのを待ってくれていた。

 清は自分の迷いを振り切るように、草花で足音響かせながら二人に駆け寄るのだった。

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