第十八話:君と信じる未来を歩みたい
※十八話から、二十話までは一連の流れとして関係させております。
不安定な書き方であるので、先にここでお詫びさせていただきます。
目が覚めると、カーテンの隙間から透き通るように陽ざしがのぞき込んでいた。
清は眠い体を起こし、服を着替えつつ、自身の頬をつねった。
(……痛い)
階段を下り、リビングに入ると、ソファに座っている灯の姿が見えた。
「灯、おはよう」
「清君、おはようございます。朝ご飯の準備はできていますよ」
「いつもありがとうな」
灯は「ふふ」と軽く笑いながら、ソファから立ち、朝ご飯の用意をしてくれた。
朝からご機嫌がいいようで、いつもより柔らかい動きが目に入った。
嬉しそうにしている灯を見ているだけでも、気分が良くなる。
朝ご飯を食べ終わり片づけていると、灯が話しかけてきた。
「清君、今日は平和に過ごせたらいいですね」
「唐突だな、何か良いことでもあったのか?」
「え、い、いつもと変わらないですよ?」
ご機嫌が良かったので変わったことがあったのかと思ったが、そうではないらしい。だが、動揺した声を出したので、何かあったのは確実だろう。
「……そうか。灯の言う通り、平和に過ごしたいな」
素っ気ない返事で言葉を返してしまったが、灯は特に気にした様子を見せなかった。
片づけが終わり、制服に着替えた後、灯をリビングで待つことにした。
数分後、階段の方から足音が聞こえ目をやると、灯が立っていた。
手にはラッピングされた細長い箱を持っていた。
灯はそばに近寄ると、腕を前に出し渡してきた。
「……清君、私からの小さなプレゼントです」
「灯、ありがとう」
清は差し出された箱を優しく受け取った。
「開けていいか?」
「いいですよ」
ラッピングを解いて箱を開けると、そこにはボールペンが入っていた。
色は黄色で、ボールペンの手触りはよく、手に馴染むのがわかる。
灯からプレゼントをもらえるのはとても嬉しいものだ。
「嬉しそうで何よりです」
「大事に使わせてもらうよ」
「ええ、端から使ってもらう気で渡しましたので」
どうやら、買い替える気もないボロボロのペンを使い続けていたのがばれていたようだ。
本来であれば清自身で用意するべきだが、それを見抜いた上の、灯の小さな気遣いには感謝しかない。
清は嬉しい気持ちで満たされた後、灯と一緒に学校へと向かった。
教室に着いてからは四人で集まり、グループの絆の拡散方法について話していた。
話は平行線をたどるばかりで、答えという答えに辿りつけずにいた。
「まことー、あかりー、ほかに良い案は無いかな?」
「良い案って言われてもな……うーん」
「ええと、まずはそれぞれで拡散できる方法をあげてみませんか?」
拡散と言えば簡単なイメージで思いつくが、実際に直面すると、想像が浅はかであるのを実感した。
まずは何をどう伝えたいのか、忠実にイメージした構図を思い浮かべなければならないのだ。
そこから繋がる線と線を結んで、どうすれば拡散しやすいかを考察するのだ。
内容だけでも危険と隣り合わせのため、目立つ拡散は避けたいところ。
「思いついたんだけど……直接さ、先生どもに言いに行くのは駄目か?」
常和は予想外の発言をしたのだ。だが、遠回しに伝える拡散をしなくてもいいのは利点だろう。
不都合な情報を隠そうとする学校なので、情報漏洩の心配はしなくてもいいだろう。
問題としては未来の不確定要素を含んでいる点だ。
「……一応言っとくが、俺は記憶を完全に取り戻せていないんだ」
「清、知っている。けどさ、動き出している未来の否定は……誰にもできないはずだ」
「清君、古村さんの言っている通りですよ」
常和が言い終わるのを見計らって、口を開いた灯は言葉をつづけた。
「たとえどれだけ長い道のりでも、信じて歩き続ければ、夢で見たような幸せな未来をつかめるものです」
灯が言うからなのだろうか、言葉の重みが、深く胸を刺してくる。
心寧は何も言わず横に立ち、背中を押すかのように優しく叩いてきた。この行動には、後押しの意味合いが強いだろう。
これだけ信頼してくれる仲間が居るのだ。
(可能性の未来に賭けるのも悪くないのかもしれないな)
小さく呼吸をした。そして、灯、常和と心寧の方をしっかりと見た。
「みんな、ありがとう。決めたよ……星の輝く未来をつかむって」
「星、すなわち希望……覚悟を決めた清君、かっこいいです」
かっこいいと言いながら、小さく微笑んだ灯はとても可愛く見えた。
褒められるのには慣れていないが、嫌では無い気がした。
今までなら、一人で悩み続けたかもしれない。けど、一人で悩まずに相談したのは、成長と言えるのだろうか。
行くべき場所が見つかったので、四人ですぐさま行動に移した。もちろん、行先は職員室だ。
行動せずに失敗するよりも、行動して失敗した方がとても良い経験になるだろう。
職員室で話しをして、教室へと戻っていた。
「みんな……やったね! うちらが学校の中で一番強い絆のグループであるって認められたよ!」
意気揚々に、とても嬉しそうな声で心寧は喋っている。
「清も喜べよ! ペアの先生が直々に認めたんだ」
職員室での話はとても嬉しい成果で、なんと、グループの絆は無事に伝わったのだ。
心配であった記憶は、監視の先生方からしてみれば、好ましい状況ではなかったようだ。
だがそこに、ペアを担当している先生が現れ、ペアとグループの全てが合わさっているのを、大きく評価したのだ。
話は直ぐに上へと伝わり、無事にグループの必要性が認められたのだ。
「嬉しいんだ……けどさ、グループ内で試験の時に勝負するのかって思うと悲しくてな」
嬉しいと悲しいが混ざり、複雑な心境が渦巻くのを感じていた。
「清君は本当に優しい人ですね。私は清君の優しい一面も好きですよ」
「え、なに……あかりーからまさかの告白!?」
「……心寧さん、してな――」
「お前が原因だろ!」
灯の言葉を遮るように、荒々しい声が廊下に響き渡った。
焦りつつも耳を傾けると、魔法の飛び交う音が教室の方から聞こえてきた。
音の発生源は清たちの教室からだ。それにより、ゆっくりと歩いていた足を速め、四人で教室へと急いだ。
教室に着き、ドアの前で中を覗いた。中ではクラスメイトの二人が喧嘩をしており、周りはひどい惨状だ
床は魔法の衝撃でボロボロになっており、黒板は原型すら保っていないのだから。
このままではまずいと思い、中に入ろうとしたが、常和に止められた。
気づけばその荒々しい中に、ローブを着た人物……灯がいつの間にか入っていたのだ。
「今すぐ魔法による無駄な争いはやめてください。強い憎しみと恨みに飲まれれば、残るのは穢れた自分自身だけなのですよ」
灯は悲しそうに、二人を静めるために説得の言葉を発した。だが、それは逆効果だったようだ。
「は? 部外者が口を挟んでくるんじゃねえ」
「というか、お前馬鹿か? まんまと騙されたな」
二人は演技をしていたのか、標的を灯へと変更したのだ。
「あんたには悪いけどよ、ここでくたばってくれ」
魔法で狙いを定め、灯に対して放とうとしている。
灯は動揺しているのか、無防備のままだ。
(……灯だけは絶対に守らなきゃいけないんだ。傷つけさせてたまるか)
気づけば、清は灯の方へと足を踏み出し向かっていた。
「俺らが有名になる礎になれたことに感謝すんだな!」
二人は灯へと魔法を放った。
「そんなの……させてたまるか!」
(防御魔法――魔法の壁)
間一髪、灯と二人の間に立ち、魔法を発動させた。その時、守ろうとして、灯の手を取ったのが原因だろうか。
魔法の壁は、灯の魔法である魔法シールドと混ざり、守りの空間に壁を作り出し、清と灯を放たれた魔法から防いだのだ、
「灯……大丈夫か? 一人で無理するなよ」
「……清君ありがとう。別に、無理はしていません」
「それが無理だって言っているんだよ……このばか」
お互いに無事で傷は無かった。また、灯が無理をしていそうで心底心配になる。
「俺らを無視するなんて良い度胸だな」
二人の世界に入り込んでしまい忘れていたが、今の状況はまだ解決していないのだ。
反撃をしてしまえば、相手と同じやり方で悪になってしまう。だが、何もせずに防御していれば状況は変わらないままだ。
クラスメイトの二人は再度、魔法で狙いを定めてきた。
灯は動揺により魔力が乱れているのを感じる。そうなると、頼る真似はできない。
(頼る……失われた魔法の影響を受けないやつが一人いるじゃないか)
「常和、力を貸してくれ! 空間魔法――失われた魔法【ロストオブマジック】――」
魔法の空間により、二人の魔法は封じた。だが、武術は使える。
行動自体を封じられていないと気づいた二人は、すぐさま無言で殴りかかってきた。
本当に行動を封じられる、その瞬間までは。
二人は、清たちを殴る寸前のところで気絶した。いや、気絶させられたが正しい。
「安心しろ……加減はした。清、これで貸し借り無しな」
「常和、ありがとな」
常和はいざという時に、絶対と言っていいほど頼りになるのだ。
四人で安心して一息ついたところに、監視の先生方がやってきた。
元凶である二人は有無も言わさずに連れていかれたのだ。
ペアの担当である先生も一緒に来たようで、二人が連れられるのを見送ると、こちらへと近づいてきた。
「そんな身構えるな、安心した前、君たちは私が責任を持って白にする」
「あの、一つ質問良いですか?」
「なんだね」
灯は何か疑問があったのか、少しためらい気味に聞いた。
「最近、学校内の結界が機能していませんよね」
「……しばらくは結界の見直しの為、休校になる。だから、君たちは早く帰りたまえ。再開は追って連絡される」
先生に言われるがまま、今日は帰りとなった。
心寧が何か話したそうにしていたが、今はそんな雰囲気でなくなってしまったのだ。
また、今回起きた出来事は事件として処理されるようだ。
灯と一緒に家に帰ると、しばらく無言の時間が続いていた。
二人でソファに座っているのは変わらない。ただ、言葉を交わしていない。
刻々と過ぎる時間の中、灯と共に使えた魔法を思い出していた。
まぐれだとしても、使えたというのに変わりはない。近くて遠い間にあった壁が、少し薄くなったのではないかと思えるほどだ。
「……清君」
黙っていた灯はこちらを向き、急に口を開いた。
「手を繋いで……ほしいです」
言われたのはささやかなお願いだった、
「ほらよ」
灯の手を優しく触るように、包む感じで握った。
触れた手はとても温かく、気づけば灯の温かさを自然と受け入れていた。
わざと力を緩めると、灯の指は離さないと言うかのように絡ませてきた。
お互いに普段から必要以上に話さないし、干渉もしない。
気持ちが遠い、と言うよりは今の間隔が最適なのだろうか。行動で伝える言葉とでも言うのだろう。
「……清君、私……ちょっとだけ眠くなっちゃいました」
「俺がそばで見守っていてやるから、安心して寝てもいいぞ」
「うん。ちょっとだけ……寝かせてください」
灯はそう言うと、右肩に寄り掛かるようにもたれかかってきた。
数分経つと可愛い寝息が聞こえてきた。本当に安心しているのだろう。
「灯、いつもありがとう……こんな俺の隣に居てくれて、ありがとう」
灯の寝ている横で、少しだけと思いつつ目を閉じると、優しく温かい感覚が身を包んでいた。
この度は、数ある小説の中から、私の小説をお読みいただきありがとうございます。
大切な人の近くで安心して眠れるのは良いですよね。