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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第三章:record with you

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百二十五:君の存在を感じる幸せ

「清くん、どうぞ」

「灯、いつもありがとう」


 夜ご飯の後、ソファに座っていれば、灯がマグカップを目の前に差し出してきた。

 マグカップから香る匂いで察するに、いつもの美味しい紅茶が入っているのだろう。


 灯は笑みを浮かべる清を見ながら、隣にふわりと腰を下ろした。

 少し落ち着いたところで、清はゆっくりと口を開く。


「そう言えば、星を見るのは楽しみか?」

「一番楽しみです」

「灯は本当に星が好きだな。……そんな灯が俺は好きだけど」


 小さく呟いたのもあり「何か言いましたか?」と灯が首をかしげて聞いてきた。

 何でもない、と言えば、灯の表情には笑みが宿っている。


 何気ない笑みであるのに、愛おしく、近くて遠いように感じてしまう。


 手を伸ばせば、いつでも届く距離に居るはずだろう。

 清は手を伸ばしたい、と思った気持ちを、テーブルのマグカップに向ける。

 カップはひんやりとしており、それでいて確かな温かさを感じさせてきていた。


 マグカップを両手で持ち、揺らめく水面を見ていれば、灯が視線を天井に向けている。


「世界を繋ぐ流星……二人で静かに見たいですね」

「珍しい星だから、その日なら常和と心寧も理解してくれそうだな」

「毎年見ている、的なことを言っていましたからね」


 灯の発言の主は理解できていなくとも、少なくとも灯は、清と二人きりで見たいのだろう。

 清としても、ずっと一緒に同じ星を見てきた仲であり、灯の笑みが見られるのなら願ってもないことだ。


 ふと気づけば、灯はペンダントにはまった星の魔石を手にし、真剣に見ていた。

 最初の頃に言われた、明るく輝いていれば星が綺麗に見える証拠だからだろう。

 星の魔石を持つ者の特権ではあるが、正確な星の座標まで判明しない、というのは致し方ないのだろうか。


「灯はさ、四人で見られなくて、寂しくないのか?」


 疑問気に尋ねれば、灯は胸の付近で手を重ねていた。

 悩んだ様子もなく、ただ真剣に何かを見つめるように。


 質問した清は、灯に対して想いを固めているからこそ、特に問題が無いと言い切れる。

 今年四人で見られなくとも、来年仲良く見られると思えるからだろう。


「一番近しい存在であり、星を一緒に見てきた清くんとなら、寂しくありませんよ」


 小さく微笑みながら言われるため、清は思わず目を逸らした。

 灯は何事かと首をかしげており、その笑みが心臓に悪い、と理解していないのだろう。

 深く気にしないのは灯の良いところであり、抜けた面でもある怖いところだ。


 表情を見ていたくとも、清は恥ずかしくなり、両手で持っていたマグカップを口に近づける。


 一口すすれば、優しい匂いが鼻を包み込み、二人でいる幸せを実感させてきていた。

 一人で生活していれば、丁寧に気遣い、飲み物を笑顔で用意してくれる存在は居なかったのだから。


 清は表情に笑みを宿し、そっと灯の方を向く。

 灯は笑みにやられたのか、白い頬に赤みを帯びさせていた。


「灯、いつも紅茶とかを作ってくれて、ありがとう。幸せだよ」

「べ、別に……いつものことですし、毎回感謝しなくてもいいのですよ」

「感謝の言葉は、ちゃんと口にしておきたいからさ」

「清くんの感謝する気持ち、しっかり届いていますから」


 灯は誤魔化すようにマグカップを手に取り、静かに紅茶を嗜んでいた。


 清としては、ありふれた日常の一つであろうと、灯への感謝の気持ちを忘れたことは無い。

 当たり前だと思っている日常でも、いつの日か羽ばたくように、愛おしいものに変わっていくのだから。


 ふと気づけば、灯がふわりとした目線でこちらを見てきていた。


「あ……話は変わりますが、ちゃんと心寧さんにヒントを渡しましたか?」

「ちゃんと問題なく渡してある」

「ふふ、私の隠したもの、絶対に探し出してくださいね」


 ふわりとした笑みで言う灯に、清は軽く鼻で笑う。


「ヒントはどんな感じなんだ?」

「ヒントの内容、ですか……」


 灯は口許に人差し指をあて、うーん、と悩んだ仕草をしている。


 隠すものを聞いていないだけ、良心的と言えるだろう。

 ある程度ヒントの傾向を理解しておきたい反面、本番になってから知りたい、という対極的な考えが清の中では浮かんでいる。


 秘密探しである以上、灯の隠しそうなものは想像がつかないため、好奇心が湧き出ていた。

 数分ほど悩んだ灯は、思いついたように手を鳴らして見せた。


「見てからのお楽しみでも良かったのですが、一括りでまとめるとー」

「まとめると?」

「記憶のカケラみたいな感じで、巡って探せるようにしてあります」


 秘密探しは巡ること前提であるが、灯の言うカケラみたいに巡る、というのは清だからこそ理解できる範囲だろう。


 記憶のカケラに関しては、一つ一つの場所を、記憶を思い出すように探したのだから。それは、灯という存在を小さなキッカケから見つけたからこそ、言えることだ。


「……ヒントが出なきゃ見つからない感じか?」

「えっと、察しがよければ見つかります」


 妙にハードルを上げられてはいるが、灯はこちらを鈍感だと思っているため、仕方ないのだろう。

 鈍感という自覚がなくとも、灯や心寧にさんざん言われれば、自ずと理解している。


「じゃあ、絶対に見つけてやるから」

「どういう意気込みで?」


 笑みを携えて言われているが、茶化しているわけではないだろう。


「灯が世界を跨いでまで、俺を見つけて、一緒に過ごしてくれるようになったくらいかな」

「ふふ、頼もしいですね」

「悔いなく、灯と星を見たいからな」

「嬉しいです……お互いに、悔いのないようにしましょうね」


 灯に想いを伝えずに終わる、というのは避けたいため、悔いが残らないようにする気だ。

 その後、灯から紅茶のお代わりをもらえば、対価として清はぎゅーっとされて堪能されるのだった。

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