第十三話:君の魔法勝負を見守ることで
「ここが、魔法スタジアム……」
日曜日になり、約束をしていた魔法スタジアムに灯と一緒に来たのだ。
スタジアムの中は空間魔法が使用されているらしく、外見からだと想像できないほど広い場所となっていた。
灯も興味が湧いているのか、目をキラキラさせながら、待合室をあちらこちらとキョロキョロ見渡している。
自然と出る灯の可愛らしい仕草は、清にとっては正直なところ毒でしかない。
見渡していると、少し離れたところに見慣れた二人を見つけた。また、灯も見つけたようで、瞬時に清の手を取り近寄って行く。
近づく清たちに気づいたのか、心寧が手を振っているのが見えた。
「まことー、あかりーおはよう! 今日はあかりーと魔法勝負……よろしくね!」
「古村さん、心寧さんおはようございます。こちらこそよろしくお願いします」
灯と心寧は一見仲良さげに見えるのだが、清からは近くて遠いような感じに見えた。
「お二人さんおはよう。朝からお熱いようで何よりだ」
「おはよう。常和、一体何のことだ?」
常和を睨みながら、先ほどの発言に追跡を入れるように探ろうとした。だが、常和は愛想笑いをし、なかったことにしたいのが目に見えていた。
灯と心寧が普通に楽しくお喋りしている横で、常和とバチバチした会話は避けたいものだ。
「そんなことよりさ、勝負場に移動しようぜ。予約して場所は取ってあるからよ」
魔法勝負をするところとは聞いていたが、空間に建設されているこの場所でさえ、予約は必要なものらしい。
常和を先頭にしつつ、予約している場所へと向かうことにした。
転送魔法を潜り抜けた先には、先ほどの待合室よりも広い場所に出た。
見た感じは完全に隔離されている空間らしく、周りには結界が貼ってあり、強力な魔法を放っても他のところに被害が及ぶ心配はないと思われる。
ふと気づくと、灯と心寧が勝負できる位置についていた。灯の方は、地形の感覚を確認しているようだ。
「清、観戦するんだからさ、立ってないでベンチに据わろうぜ」
「ああ、そうだな」
常和に案内されるがままにベンチの方へと向かった。ベンチの横には、イヤホンみたいなものが置いてある。
清は好奇心の向くままに、手に取った。イヤホンといえばイヤホンなのだが……魔法で作られているようだ。
「それか? それはな、観戦時に付けとくと便利なマーホンだ。勝負しているやつらの声を雑音無しで拾ってくれるんだ」
常和がそこまで言うものだ、付けておくことに越したことは無いのだろう。清は左の耳にマーホンを付けた。
ベンチに座り、二人の方に目をやると、あちらも準備ができているようで間合いを取っていた。
見ているこちらからは、展開の合図が聞こえてきた時が魔法勝負の始まりを知る時だ。
「心寧さん、行きますよ! ――魔力シールド展開です」
「あかりー、やるからには負けないよ! ――魔力シールドてんかーい!」
お互いに展開を宣言すると、魔力シールドが二人の身体を包み込むように透明と化した。
灯は魔力シールドの展開と同時に、ローブへと身を包んでいた。
最初は互いに出を見る様子だったらしく、魔法を打つそぶりを見せようとしていなかった。
「来ないなら、うちの方から行かせてもらうよ」
心寧は、右手に作り出した魔法陣から魔法を打ち始めた。属性を付与していないあたり、誰でもできる魔法弾を打つことにしたようだ。
灯は魔法を右から左へとうまい具合に避けている。更には、魔法が地に当たった衝撃もいなせているのは、さすがとしか言いようがない。
躱しているだけなら反撃する瞬間が分かるはずなのだが、灯はなぜだか反撃しようとしないのだ。
楽しそうに避けつつ、ローブをひらりとさせているのは芸術を見せられているかのようだ。
「私もそろそろ行かせていただきますよ。無制限合成魔法――複合式【ふくごうしき】――」
灯が魔法を発動させる。後ろから複数の魔法陣が召喚され、合成された魔法が次々と弾幕のように放たれていった。
心寧の魔法を次々と打ち消しながら、狙いを定めた鷹のように心寧へと向かっていった。
「これでやってみようかな! 水魔法――雨【レイン】――」
いつの間に設置していたのだろうか。各場所に魔法陣が召喚され、雨の粒のように放たれたのだ。
合成魔法とぶつかった雨粒はその場で小さく爆発していった。それはまるで、はじける水しぶきのようだ。
有無も言わさずに魔法を放ち続ける心寧の設置型の魔法は、合成魔法の隙間を縫うように、灯へと狙いを定めていた。
雨のように打ち付ける魔法を躱すのは容易でないだろう。
……そんな躱すなんて考えは、甘かったようだ。
「無制限合成魔法――魔法シールド――」
避けきれないのなら守ればいいと言わんばかりに、灯は自身の周りの空間にシールドを作りだし、防いでいた。
シールドもそうだが、すごいのはそれだけじゃない。なぜなら、相手の魔法を防げる、性質の魔法をシールドにして防いでいるのだから。
見ていた常和も唖然としているあたり、これで勝負ついたと思っていたのだろう。
この状況を見てしまえば、周りから魔法の事で言い寄られていたのも納得がいく。
「あかりーやるね。でもね、うちの魔法はまだまだこんなものじゃないよ!」
心寧は再度、水魔法の雨を発動させた。だが、先ほどの設置式とは明らかに違った。空中に複数の魔法陣を一か所に召喚させているのだ。
「清、心寧の水魔法の真骨頂はこっからだ」
「常和、どういう意味だ?」
静かに試合を見ていた常和が、思いもよらない言葉を漏らしたのだ。
「水が溢れ出る様に、心寧の魔力は徐々に勢いを増していくんだよ。つまりさ、ここからは心寧のペースが上がるぞ」
「なら、灯が心寧の魔法をどう対処していくか見ものだな」
少し目を離したすきに試合は動き出していた。
雨の魔法は一つの大粒になり何発も放たれているのだ。しかも、小粒が混ざっている。隙を見せない二段構えとはまさにこれだ。
灯は上手くシールドを使いつつ避けているが、心寧の放つ魔法弾が行動制限をかけているようだ。
「狙いは外さないよ!水魔法――水圧【すいあつ】――」
一直線に放たれた水は、勢いの増した川の如く灯を狙った。
「避けきれない……なら、これを! 無制限合成魔法――単発式【たんぱつしき】――」
灯は瞬時に避けられないと判断するや否や、一つに集中させた合成魔法で迎え撃っているのだ。
魔法同士の押し合いはベンチで見ている清たちにも衝撃波が伝わるほど恐ろしい。
競り合いになっていた魔法は、中央で爆発を起こし、爆風によって当たりの土や砂を巻き上げている。
「互角……やっぱり、あかりーはすごいね!」
「それは私のセリフですよ。心寧さんの魔法の精度に応用は、見習うものがありますから」
すごく楽しそうに魔法勝負をしているのはわかるのだが、清の目にはどうしても互いに加減しているように見えるのだ。
「なあ、常和。あのさ、心寧は本気……なのか?」
「本気を出しきれてはいないだろうな。清こそさ、星名さんは本気なのか?」
「……本気を出す気はないと言っていたよ」
「あかりー、今、清が言っていたことは本当なの?」
どうやら、常和との会話が心寧には聞こえていたようだ。常和は心寧の発言に、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。よほど聞かれたくなかったのだろう。
……沈黙があたりを包んでいた。
「心寧さん、勝負できた感謝として本気に近い実力を——今からお見せします。覚悟してください」
「わかったよ。なら、わたくしは本気で行くよ」
心寧は本気宣言をした瞬間、水圧を弾幕のように数か所の魔法陣から打ち始めたのだ。まるで、吹き上がる水の檻とでも言うべきだろう。
一方、水圧に囲まれた灯は、とても冷静な感情で水圧の当たらない位置を保持している。
「――無制限合成魔法――」
灯は静かに右腕を上げ、魔法を発動させた。それは、単発式、複合式のどれもが混ざっているのだ。
水圧を単発式で防ぎつつ、複合式で心寧へと攻撃を加えているのだ。複合式の弾幕と言う名の嵐に、心寧は防戦一方を強いられている。
弾幕の合間に隙を見つけたのか、心寧は立ち止まりながら両手を合わせ、魔力を集中させている。
「これがわたくしの合成魔法——雷雨【サンダーレイン】——」
発動させた合成魔法は、雨に電気を纏わせ槍のような形状をしている。
降り注ぐ雨の中落ちる雷の如く、灯の魔法を打ち消しながら、狙いを定めたようだ。
「やばい、合成が間に合わない、魔法シールド!」
間一髪のところで、灯が魔法を防いだ……かのように見えたのだが。
「う、痛い……どうして……」
魔力シールドこそは割れていないが、灯は左腕を抑えていた。
「……合成魔法――水斬【水切り】――。心寧のやつ、防がれるのを前提で雷雨に混ぜていたんだよ」
気になっていたところに、常和が説明をしてくれたのだ。斬る系の魔法は空間防御魔法との相性がいいため、雷雨を防いだところに入ったのだろう。
「なるほどな」
灯が左腕に魔法陣を展開している。回復魔法で応急処置をしているようだ。その様子を見て、清は胸を撫でおろした。
心寧は次の魔法で勝負をつける気なのか、今までに無いほどの魔力の集中を感じる。
この勝負、次にどちらかの魔法が入った時点で勝負が決まるだろう。心寧も魔法を躱してはいたものの、全てを躱せていたわけではないのだから。
「あかりー、これで決めるよ。オリジナル水魔法――自然の怒り【しぜんのいかり】――」
「私だってこれで決めます。――無制限合成魔法――単発式プラス、魔法シールド合成」
お互いに放った魔法は威力がとても高いようで、ぶつかる衝撃で地を揺らし、風を巻き起こしている。気を抜けば地から足が離れそうだ。
「私は負けていられないのです! 清君を……この世界から守り抜くためにも!」
魔法がぶつかり合う中で聞こえた灯の言葉と共に、灯の魔法は心寧の魔法を押し返し、あたり一帯は光に包まれたのだ。
光が収まると、心寧の魔力シールドは無くなっていた。灯の勝利だ。
常和がすぐさま、心寧の方へと走り近寄るのが見えた。見た感じ怪我とかはなさそうだ。
……勝負がつき、スタジアムの食堂へと来て食事をしていた。
「あかりー、今日はありがとう! すごく楽しかったよ」
「心寧さん、こちらこそ楽しかったです!」
勝負をして灯と心寧の距離が縮まったのかなと感じる。また、連絡先の交換をしているあたり、間違いないだろう。
頼んだ食事をみんなで賑やかに囲んで食べるのは美味しいものだ。
「……清」
「常和、どうしたんだ?」
帰り間際に、常和から声をかけられたのだ。
「星名さんのこと、どう思っているんだ?」
「どうって……」
「どうこういう気はないけどさ、少しくらい気持ちに寄り添ってやれよ」
「……言われなくともわかっているよ」
常和は「そうか」と言うと、心寧と共に帰路を辿って行った。
「古村さんと何を話していたのですか?」
「別に、ただの世間話さ」
清の問いに、灯は笑いながら笑顔を見せてくれた。
灯に手を繋がれながら、月や星に照らされた道を辿り、家を目指した。
(君への気持ちか、考える必要もないか。過ごすうえで大事な存在になっているんだから)
数ある小説の中から、私の小説をお読みいただきありがとうございます。
今回は魔法勝負をメインで書かせていただきました。お試しの事もあり、違和感のある表現が多々含まれてしまいました。
読者様の為、私の為にも、違和感のない最高の文を作り上げるため、今後も努力していきます!