第十二話:君はいつも近くに居てくれた
今日は一時間目の授業から、灯、常和、心寧を含めた四人で図書室に来ていた。
試験内容である魔法射的。また、心寧から四人の魔法を知っておきたい、という話になり勉強会になったのだ。
授業が自由課題になったのを良いことに決行に移したのだ。
学校の図書室と言うこともあり、棚には様々な種類の本が整頓され並べられていた。見回した後に、各自で必要な本を棚から出し、一つのテーブルへと集まった。
「……あかりーの選んだ本だけで正直充分だよね」
「右に同じく」
席に着くなり、常和と心寧が唖然としていた。それもそうだろう、灯の選んだ本は一番欲しい情報が書いてあると、表紙を見るだけでわかってしまうのだから。
二人が唖然としている中、灯は当然のように必要なページまで本をめくっていた。
「いえ、二人の本にも思いがけないことが載っているかも知れませんから、私のだけでは物足りませんよ?」
勉強と言うより、知識への強欲と言うべきだろうか。それは、必要以上に知ることを拒まないからこそ、様々なことへ適応できるのだろうかと思えるほどだ。
気づけば、灯はこちらの方に目をやっていた。
清が持ってきた本を見ているあたり気になるのだろう。
こちらが持ってきた本は『魔石と魔法の関係』と言う本だ。正直、灯の持ってきた本と比べると必要ないように見える。
本の表紙に目をやっていたら、灯の手が止まって、四人の真ん中に本を置き見やすくしてくれていた。
「これが魔法射的のルール説明ですね」
「灯、ありがとう。助かる」
「おー! あかりーやる!」
「清、俺たちは基本的に知っているから、お前読めよ」
笑いながらに言う常和にイラつきながらも本に目をやった。
「ええと、魔法で的を打ち抜き点数を競うルールである」
「ほんとに読——」
「まことー、気にせず続けてね」
余計なことを言いかけた常和は、心寧により制裁を食らっているようだ。
続けて問題はないようなので続けることにした。
「使える魔法の回数には制限が設けられており、その場のルールに従うことが重要だ」
簡易的にまとめるならば、的を射抜くにも、限られた回数の魔法で高い点数を狙えと言ったところだろう。
魔法勝負もそうだが、簡単にわかりやすくされていることほど、勝敗が決まりやすいのだろうか。
本に魔法射的の事がこれ以上書かれていないのは、他に定められていることが無いのだろう。
「ルールは理解しましたし、この本は大丈夫そうですね」
灯はそう言いつつ本を閉じるのだった。
次に、心寧が何か気になったかのように口を開いた。
「そういえばさ、魔法スタジアムにいつ行く?」
「そういや決めてなかったな」
この前の買い物帰りに、魔法スタジアムに四人で行こうと話したのだが、日程までは決めていなかったのだ。
心寧がワクワクしながら聞いているあたり、だいぶ楽しみにしていることが窺える。
清は楽しみじゃないのかと言われればそうではない。灯と心寧の珍しい組み合わせで、勝負が見られるのは滅多に無い事なのだから。
気絶していたらしい常和が目を覚ました。
「今週の日曜日にでもどうだ?」
「うちは賛成だけど二人はどうする?」
灯と目を合わせるとアイコンタクトをくれたので、お互いの意見は同じであろう。
「俺は構わないぞ」
「私も日曜日で大丈夫ですよ」
行くことが決まると、常和と心寧はやはり仲が良いようで、心寧が嬉しそうに抱きついていた。それと、常和が心寧の頭を撫でているのだ。
彼女が居ずに見せられているこちらとしては、とても複雑な気持ちになりそうだ。
そんな二人の空間を観察していると、制服の袖を横から引っ張られる感触があった。
横を見れば、隣に座っている灯が何か言いたげであった。また、手で小さく手招きしている。
耳を近寄せれば小さく囁くように、喋り始めたのだ。
「清君、そんなに見て焼きもちですか?」
「ば、馬鹿か、焼きもちなんてあるわけないだろ」
「からかっただけですよ。そんなに怒らないでくださいな」
優しい口調と笑顔で謝る灯とのやり取りは楽しく思えてしまう。
常和が心寧にしているのと同じように、灯の頭を撫でる行為が出来たらなという雑念はよくない。
清は意識を逸らすために、何かないかと考えた。だが、目の前にあるのは置かれた本とノートだけだ。
それに、ここは図書室で周りを見渡してもあるのは本くらいだろう。
諦めたように常和の方に目をやると、二人のイチャつきは終わっていたようだ、
「そういやさ、星名さんと清は魔法スタジアムがどんなところか知っているのか?」
魔法スタジアムと言う名前は何回も出ているのだが、どういう所かと聞かれれば知らないな、と改めて思った。
「俺は知らないな。灯は?」
「私も行ったことが無いので知らないですね」
「そういうことなら教えてやるよ」
常和はそう言うと魔法スタジアムについて教えてくれたのだ。
常和が言うに魔法スタジアムとは、魔法勝負などを安全にできるところらしい。だから、魔法射的や魔法勝負の練習にもってこいの場所らしい。
灯も感心して聞いていたので、本当に知らなかったのだなと窺える。
とりあえず、決まることも決まり。ルール確認も済んだところで、お互いの魔法の話に移ることにした。
灯とこちらの魔法の事は先だと話をしづらいということで、常和たちの方からしてくれることになった。
「俺から言わせてもらうな! 俺は風を主属性魔法としているんだ」
主属性魔法が風なのはいろんなことへの応用が利いて便利だろうと理解できる。
「合成魔法に関しては風同士を合わせて使っている感じだな」
合成魔法の事を常和が得意げに話すのは、他人の魔法、主に心寧の魔法と合成していることがあるからだろう。
ましてや他人の魔法に合成させるというのは、魔力を精密に操ることが要求されるため、やってのけるのはすごいことである。
常和が次どうぞと言うように、隣の心寧に目線でアイコンタクトを送っていた。
それを理解したようで、心寧は待っていましたと言わんばかりに言葉を出し始めた。
「うちの主属性魔法は水なの! 扱う水魔法の種類だけなら、あかりーの合成魔法にも負けないよ……多分」
多分と言う心寧に対して、灯が苦笑いをしているのを見るあたり、負けていることは無いと察せてしまう。
学校の中で合成魔法トップである灯に、魔法の種類で勝つのは困難だろう。
心寧は合成魔法のことに関して触れたくないようなので、こちらの番となったのだがどうしたものか。
そんなことを考えていると、灯の方から切り出した。
「私の魔法は合成魔法を主にしています。主属性は氷なのですが、それ以外の魔法は合成で補わないと弱いままなのですよね」
合成魔法の事もそうだが、灯の魔法に意外な弱点があることには驚きだ。
灯が前回の事件で使っていた魔法が強かったのは、氷が主属性であることが原因だったのだろう。あれを本気で使われれば、抜けるのは困難を要するのが確実なのは確かだ。
「……あかりーもそうだけど、まことーたちが属性魔法を、他を主として使えることを疑問に思うべきなのかな?」
心寧が言うように、普通に考えれば一つ以上を扱えることが疑問になるのは当然だろう。
星の魔石を持つ者の宿命としか言いようがないため、返答をしないようにした。
言い終わった三人は、お前の番だと言わんばかりにこちらを見てきた。
「はいはい、俺の魔法は――」
(な、なんだ、急に、意識が……)
話そうとした瞬間、意識が朦朧としてきたのだ。
「ま、清君!? しっかりして!」
かすかに灯の声が聞こえ持ち直そうとしたものの、意識は暗い水の中へと落ちていくようだった。
「……まさかさ、お前が魔法使いだったとはな」
「現実世界からいなくなれよ」
「人間の皮をかぶった化け物が」
「お前の人生はこれで終わりだな」
「清、お前はみんなを騙した最低な奴なんだよ」
(なんだよ、これ)
意識が沈んだ先で見たのは、星の魔石を庇いながら罵詈雑言を浴びせられている過去の清だった。
服装から見るに中学生時代だろう。過去にこんなことがあったなんて記憶はどこにもない。
記憶が無いと言うよりは覚えていなかっただけで、本当にあったことなのかも知れない。
そんな、過去の清がいじめに合っている瞬間を見ていると、一人の女の子が現れた。
透き通るような金髪の髪をした女の子で、前に見た夢と同じ女の子のようだ。
清を庇うように前に立ったその子は、いじめていた人らに対して言い放ったのだ。
「清君をいじめないでください。暴力を持って制すことは、魔法を使える者がやる恐怖と変わりありませんよ」
「あ? 他クラスの星名灯が偉そうにでしゃばるんじゃねえよ!」
「星名もそいつと同じようにされたいのか?」
(……なんで、灯の名前が)
周りが金髪の女の子に対し、灯と呼んでいるのはなぜなのだ、と清は思った。
今の灯と見比べても、瞳と髪の色が違うことからは合点がいかない。
ハッと気づいて過去の清たちの状況に目をやると、一人の男が灯と言われる女の子に拳を振り上げようとしていたのだ。
過去の清が拳を止めようと、前に出て魔法を発動させたのだ。
「星夜の魔法――星粒【スターダスト】――」
「清君、使っちゃだめ!!」
灯の制止も聞かずに発動させた魔法は、周りに多大な光を解き放った。それは、周りのいじめていた人らに当たり、小さな爆発を発生させ吹き飛ばしていったのだ。
……どれほど寝ていたのだろうか。
目を覚ますと並べられた椅子の上に横になっていたのだ。
あれは本当にあったことなのだろうかと思いつつ、脳を覚醒させていると声が聞こえた。
「清君、大丈夫ですか? 具合とか悪くないですか?」
「まことー、いきなり倒れて心配したんだからね」
「無理に起き上がろうとするな。一時間くらい気を失っていたんだから、少し安静にしとけ」
常和が言うには、一時間ほど寝ていたようだ。
「すまない皆。心配かけて」
「それよりも、具合は大丈夫ですか……?」
「灯、大丈夫だから。そんなに心配するなよ」
心配してくれている灯に笑うように返すと「この馬鹿」と言われてしまったのだ。情けないものだ。
これ以上の無理はしない方が良いということで、この後の時間は無理のないように過ごすこととなった。
学校が終わり、家に帰ってきた清はソファに据わり、意識の中で見た出来事を思い出していた。
「清君、本当に大丈夫ですか?」
灯は心配そうな顔で聞きつつ、清の隣へと座った。
「……あのさ、何も言わずに聞いてくれるか」
灯にそう尋ねると、小さくうなずかれたので喋ることにした。
今日思い出した事と、その女の子の名前が灯と言われていたことを偽りなく話すことにした。
清が話終わると、急に灯が腕を伸ばし、清の身体を灯の方へと引き寄せたのだ。
灯に抱かれるような形になり、清は動揺を隠せなかった。
「清君が今言ったことは、私がいずれ話す予定の一部でした。前に何度か言ったでしょう、私の事を覚えていますかと」
そう言いつつ、灯は清の頭を優しく撫で始めたのだ。それは、灯を受け止めた時にしたような感覚に似ていた。
撫でつつも話を続ける灯。
「本当の記憶が戻りつつあるあなたを止める気はありませんよ」
「なら、こう、抱いて撫でるのはどうかと」
「これはこれです。だから、今はおとなしく受け入れてくださいね」
灯の言葉に清はおとなしく受け入れることにした。
とても優しい撫で方は心が落ち着き、和んでいくのを感じていた。
今だけのこの嬉しい感情は清き灯と言っても過言ではないだろう。
(灯、本当に君は……ズルいよ……)
この度は数ある小説の中から、私の小説をお読みいただき誠にありがとうございます。
読者の皆様は、近くに居る人ほど本当に大切だと思えた事はありますか?当たり前だと思っている日常に居てくれる人に、感謝できていますか?
笑い合える友人、笑い合える家族、笑いあえた過去の仲間のどれもが、私にとって大切なものだと思えています。
長くなりましたが、次回も読んでくださると嬉しいです。