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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第三章:record with you

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百十二:君ともどかしい距離の中で

 勉強会はどうにか無事に進んでいき、灯が作ってくれたお昼を食べてから再度開始となっていた。

 試験の範囲を心寧が聞いてくれたのもあり、迷うことが無いのは救いだろう。


「星名さんの料理、いつ食べても美味しかったな……いつも食べてる清が羨ましいわ」

「あはは、とっきーにはうちがちゃんと作ってあげるからー」

「お褒めいただきありがとうございます」

「常和、心寧の目が笑ってないぞ」


 心寧の料理は興味本位で食べている、と常和は言っていたが、未だに苦手意識があるのだろうか。もしくは、心寧が真面目に作らないせいだろう。


 清自身、灯の料理はいつ食べても美味しい、と思えるほどの虜に落ちきっている。

 灯と一緒に過ごし始めてから、ずっと口にしてきた至高の料理なのだから。


「とりあえず、勉強再開するか」

「まことーやる気だね」


 ニヤニヤしながら言ってくる心寧に「まあな」とだけ返し、勉強会は再開となった。

 常和に教えながらもあってか、自分の成長に繋がっている、と清も直感では理解している。


 お互いに得意教科が違うとしても、欠点を補いながら教え合えるのは頼もしい限りだろう。

 試験となれば個々の実力が試されるが、それまでは協力関係かつ競争相手であり、複雑でもある。


 常和は国語で相変わらずつまずくため、集中力がやはり問題と言えるだろう。

 苦手科目が無ければ、ほとんど平均以上にこなせる実力を持ち合わせている彼だからこそ目立ってしまう、唯一の欠点だ。


 才能というのは時に牙をむき、努力を惜しまずに磨いた数だけ光る、というのは全てに応じて適応されるのかも知れない。


 ――たった一つの気持ちも、磨けば光るのだろうか。


 ふとそう思った時、常和が疲れたように腕を伸ばしていた。


「疲れた……清、遊んでもいいか?」

「なんだかんだ時間が結構経っているからな……」


 お昼を食べ終えた後、優に二時間はやっていた為、ガタが来るのも仕方ないだろう。


「遊ぶ、って言っても何をする気だよ?」

「俺には策がある」

「とっきー、もしかしてあれをやるの? それならうちもやりたい!」


 常和が心寧にうなずいた後、テーブルの半分を片付けて綺麗にした。


 そして、常和が手に小さな魔法陣を展開すれば、テーブルに魔法で小さな正方形のフィールドが展開されていく。

 見た目はマス型のボードゲームのようだが、現実世界ではまず目にしない代物だろう。

 ふと気づけば、形の違う各種の駒が近くに置かれていた。


 見たままで言うのであれば、羽を携えた駒に、槍を持った駒や弓を持った駒など様々だ。


「休憩するのであれば、お茶菓子を用意しますね」

「あかりー、うちも手伝うよ!」

「清ももちろん参加するよな?」

「……灯がやるなら」

「じゃあ、清くんも一緒にやりましょう」


 灯が微笑みながら言ってくるため、清は恥ずかしい気持ちを抑えながら首を縦に小さく振った。

 灯と心寧の手によってお茶菓子やお茶が運ばれてくれば、常和がゲームのルールを説明した。


「この魔法で創ったフィールドを範囲に指定したんだ。で、この何種類もある駒から一つ選んでターン制で進んでいく形だ」

「大雑把ですね」

「まー、元はうちが創った遊びだからね」

「常和、駒ごとに能力はあったりするのか?」


 駒ごとの特性はあるらしいが、それは状況が進むにつれて教えてくれるらしい。

 駒は一人三個所持できるようで、一回のターンでマスをどれほど進むのかも駒次第らしく、攻撃手段もマスの範囲によると言っていた。


 ターン制かつマスでのゲーム性となっているためか、様々な思惑や思考が飛びかい、意外にも白熱した接戦となっている。

 また、駒各種の特性に縛られているのもあり、攻撃したくても出来ない距離が妙にじれったさを感じさせてきていた。


「……もどかしいですね」

「まー、魔法の庭に居たうちが、手が届くようで届かない距離にしたてあげたゲームだからね!」

「常和、それよりもこれって……魔力消費は大丈夫なのか?」

「これは創成魔法だから、駒を再度作り直さない限りは問題ないぜ」


 最初に音を上げた灯だが、一度勝利を収めているので妥当な反応と言えるだろう。


 このゲームの性質上である故か、今の灯との距離感のようにも思えて、清ももどかしいような感覚に襲われている。

 閉じ込められたような籠の中から見る、外の景色に手を伸ばしている状態に近いだろう。


 それから数分後、勉強側と遊ぶ側で分かれ、各自がやりたいように過ごしていた。

 灯と一緒に勉強しているが、分からない範囲を丁寧に教えてくれるため、清としてはありがたい限りだ。


 また、常和は継続して遊んでおり、心寧が勉強しながら遊びをこなす器用さを見せている。


「ところで、あかりーはまことーに今回もご褒美をあげるの?」

「お、教えませんからね」


 心寧が灯に聞いたとき、ちょうどお茶を飲んでいた為、清は危うく吹きそうになった。

 胸を抑えていれば、常和が遊ぶ手を止めて寄ってきている。


「お兄さん、ご褒美はあるとして、内容は何でしょうかね?」

「灯が許可を出したら俺は教える」

「へー、あかりー」

「駄目です」

「まあ、俺は清に個人で教えてもらうからいいや」

「教えるとは言ってない」

「二人共仲が良いねー」


 灯とのご褒美に関しては、火を見るよりも明らかなほどにまで言い難い内容ではある。

 また、二人に話した場合、鎌をかけられて先に清の精神が終わるだろう。


 灯の頬がうっすらと赤みを帯びたのを理解してか、心寧も勉強に戻っていた。

 常和がフィールドを消したのを見るに、心寧から教えてもらうつもりなのだろう。


 静かになった空間には、紙とペンの擦れる音がカリカリと鳴り響き、一定の心地よいリズムを醸し出していた。

 それは、ここに居る四人が一つの目標に向かっている、という風にも思わせてくる。


「あかりーはさ、二人でのお出かけどんな気持ちだったの?」

「……楽しかったです」


 唐突な心寧の質問に、灯はピクリと体を震わせていた。


「具体的にはどんな感じだったの?」


 灯は答えたくなさそうに、頬を赤らめながら首を横に振っていた。

 灯が首を振るたびに、なめらかで透き通る水色の髪が肌を撫でてくるため、清はむず痒さを感じてしまう。


 灯の反応に心寧は困っていたようで、思いついたように顔を明るくした。


「伝えたい思いは、言葉に出来た?」

「……まだ、言えていません」


 か細くも、それでいて芯のあるような声は、清の耳にしっかりと届いていた。

 灯の伝えたい思い、という言葉を聞いて、胸の内では引っかかるような感覚が清にはある。


 花畑で伝えあった思い以上に、灯が伝えたい事があったとすれば、それを聞こうとできなかったのだから。


「心寧、それまでにしとけよ……星名さんや清が可哀そうだから」

「はーい」

「常和、すまない」

「謝るなよ、困ってたらお互い様だろ」


 常和は少し悩んだこちらの気持ちを読み取っていたようで、本当に頼りになる最高の親友だろう。

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