第十話:君と居るために誰も傷つけない
作中に出てくる魔法の読み方に関して先に述べさせていただきます。
失われた魔法=ロストオブマジック
償えない寂しい過去=つぐなえないさびしいかこ
今後はこのようなことが無いように対策できるよう精進します。
※追記:現在は最新に合わせ修正済みとなっております
(朝から何で変な目で見られているんだ……)
学校に登校して、教室に向かっている最中なのだが、廊下ですれ違う人たちに殺意のこもった眼差しで見られるのだ。
灯と仲が良いと言う噂が流れていても、特に音沙汰がなかったのだが、今回ばかりはどうもそういうわけじゃないらしい。
教室に着くと、その理由を知ることとなった。
教室の黒板にはでかでかと紙が貼ってあり、『ペア試験の全体分け』と書いてあったのだから。清と灯がペアになっていることもしっかりと書かれている。
(……最近になって報告させた理由はこのためか。まずいな)
「あ! まことーおはよー!」
「お、清おはよう! 元気か、と言いたいとこだがそうもいかないよな」
「常和、心寧……おはよう」
常和と心寧が、張り出された紙を見つめていたら声をかけてきた。
笑いながらも心配してくれる常和には安心させられる一面がある。ありがとうと言うのは心の中だけにしといた。
ふと気づくと、最近は常和たちの近くにいる灯の姿が見えないのだ。用事があってか、もしくは距離をとるために居ないと窺える。
「なあ常和、灯はど……」
「黒井ってやろうはどこだ! 星名とのペアを変わりやがれ!」
灯の所在を常和に聞こうとしたのだが、教室に突如として鳴り響いた、けたたましい声でかき消されてしまった。
けたたましい主の名は知らないが、灯から話で出るストーカーとして扱われている人柄にそっくりだから、ストーカーで間違いないだろう。
そいつはこちらを見つけるなり距離を詰めてきた。そして、圧をかけるような声で話しかけてきたのだ。
「おい、お前が黒井かよ? 要注意危険人物のくせして、成績目当てか?」
無言を突き通そうとしたのだが、次の瞬間には手を伸ばしてきたのだ。だが、その手は途中で止まることとなった。
「あんたさ、いきなり突撃してくるなり手を出そうとするのはヤバすぎだろ」
常和がそいつの伸ばした手を、途中で掴んで静止していたのだ。
「チッ、ここだと分が悪すぎだ。今回は見逃してやるが、覚悟しとけよ」
捨て台詞を吐くと、常和の手を振りほどき、一目散に逃げて行ったのだ。
これには助かったと思って安堵してもいいだろう。また、近くにいた常和と心寧もホッとしているようだ。
灯とペアになるリスクは充分に承知していたのだが、このことが起こった以上は、さらに気を引き締める必要があるだろう。
一息つくと常和が話しかけてきた。
「清、今日は一緒に行動するか。星名さんにさっきの事は秘密にしといて」
「その方がいいよ! あかりーの事はうちにまかせて!」
「二人とも……関係ないのに迷惑かけてすまない。ありがとうな」
「関係ないわけないだろ? 俺たちはグループでもあるんだからさ、困ったことがあれば助け合おうぜ」
常和の言う言葉に心寧も頷いているのを見るに、余計な思考を巡らせてしまったようだ。
ペアだけではなく、グループとしても繋がっている。それを忘れかけていたのはよくないし、最高の親友を持ったな、と改めて思うことになった。
そうこうしているうちに、灯が教室に姿を現した。こちらを見つけるなり距離を詰めてくる。
「清君、この件はごめんなさい」
「灯、気にするな。充分承知の上でペアになったんだからさ」
そういうと、灯の顔からは曇りが取れ、晴れた表情を見せた。
どこに行っていたのか尋ねたところ、職員室に行っていたようだ。ペア表を、いきなり張り出したことを聞き出そうとしたらしい。だが、黙秘を突き通され諦めたそうだ。
常和たちは灯に先ほどの事を伝えずに、今日の動き方を灯と話し合っていた。
動き方には嫌々ながらも灯は引き受けてくれた。それにより、清と常和、灯と心寧の二人一組で動くことになった。
リスクを減らすのに、合理的な手段を選ぶのは当たり前と言ったところだろうか。
「にしてもさ。試験内容言わずにペアを提示するって、やっぱり馬鹿だよな」
この学校では日常茶飯事の事を、常和が呆れたように言うので笑うしかなかった。
時間になり朝のチャイムがなったので、席に着こうとしたのだが。
「まことー、お昼は落ち着きが見えたら合流するからね」
一緒に行動しないことを心配してか、心寧はそう言い残すと席に戻っていった。
お昼休憩になり、常和と一緒に食堂へと来ていた。そして、お互いに頼んだものを受け取り席に着いた。
いつもの食堂ではあるのだが、清は少し落ち着かない様子があった。
「清、落ち着かないのか?」
「ああ、まあな」
外に出てしまっていたのか、常和にも心配されてしまうことになったので心を落ち着かせようとした。
四人で食べるようになったお昼ご飯も、数が少なくなるだけでも寂しい感じがするものだなと改めて実感した。
そんなことを考えながら食べていると、放送の呼び出しがかかった。
「……ごめんな清、職員室に呼ばれたみたいだから行くわ。無視したら面倒だしな」
「心配するな、俺の事は気にせず行ってこいよ」
放送で呼び出された常和は場を離れていった。
わかってはいたものの、常和が離れるだけで、狙うものはここまで魔力を込めるものなのだなと思ってしまう。
――次の瞬間、魔法が清をめがけて飛んできたのだ。
(防御魔法——魔法の壁)
あらかた予想をしていたため、瞬時に魔法で壁を作り出し防ぐことに成功した。
だが、事態が収束したわけではないので、被害が拡大しないように清は食堂を抜けることにした。
(合成魔法は苦手なんだが、やってみるか)
清は手を合わせると魔力を集中させた。そして、目の前に出た二つの魔法陣から炎と水を生み出し、合成させた。
「襲撃してきた人よ、俺は校庭に逃げる」
そう言い残し、魔法を発動させた。混ざり合った炎と水は圧縮され、水蒸気になり、食堂に煙幕替わりを実現させることに成功したのだ。
どさくさに紛れて校庭に出た清は、周囲の警戒をしていた。
抜けて出てきた方向から魔力の流れを感じるものの、追うのに時間がかかって要るようだ。
体勢を整えようとしたのも束の間、またもや魔法が飛んできたのだ。校庭の為、避けるのはたやすいが、魔力シールド無しで当たれば怪我ではすまないだろう。
「朝は邪魔が入ったから仕留め損ねたが、今回はいねえからやりたい放題だな」
外なのに、けたたましく響く鬱陶しい声の持ち主は、朝突撃してきたやつだった。
「しつこすぎだ。名前くらいは聞いてやる、何て言うんだ?」
「なんだとてめえ! 要注意危険人物を潰す刺客とでも思っておけや!」
こちらが煽るように名前を聞いたのが気に食わなかったのだろうか。刺客らしいそいつは、顔を真っ赤にして怒っているようだった。
感情に任せて怒る人間は単調になりやすいと言うが、刺客も同類らしく、魔法をところかまわずに放ってきたのだ。
魔法を避けつつも刺客を見ると、魔力シールドが貼られているのが目視で確認できた。
(まさかだけど嘘だろ、魔力シールドは本来なら目視で確認できないはずなんだが)
魔力シールドを目視で確認できてしまった分、脳内には嫌な予感が走ったのだ。
「このままじゃ埒があかないな。空間魔法――失われた魔法【ロストオブマジック】――」
魔法を発動させると周囲には透明な空間ができ、刺客からの魔法を全て消滅させていった。
失われた魔法は、周囲に魔法を望まない空間を作り出し、入り込んだ魔法を消滅させることが出来る。
魔法で誰もが傷つかないことを望んだ清が持つ、唯一無二のオリジナル魔法だ。
「なんなんだよその魔法はよ! 反則だろうが!」
怒鳴り散らかしている刺客は魔法を打つ手を止めようとしなかった。だが、刺客には魔力切れというタイムリミットは迫ることだろう。
魔力切れが存在しない清はただ何も言わずに、桜が落ちきる時を待つことにした。
……刺客の魔力切れが起こる前に事態は変わった。
「無制限合成魔法――償えない寂しい過去【つぐなえないさびしいかこ】――」
氷の牢屋とでもいうのだろうか、それが刺客を閉じ込めたのだから。
「清君、一人で抱え込む無理は駄目ですよ」
声のする方を見ると、灯と心寧が立っていたのだ。
灯は怒っているようでもなければ、悲しんでいるようでもなく、ただただこちらを見ていた。ただ、隣にいる心寧の顔が引きつっているため、朝のことがバレているのは確実だろう
「まことー、大丈夫? とりあえず、その魔法止めてね……」
「そうですよ、清君」
心寧が話し終わる前に灯が口を開いた。
「私に対しては干渉しませんが、学校全体に魔法が使えない被害出ていますよ」
使った魔法はいつの間にか強大になっていたらしく、清の周囲だけだと思っていたのだが、学校全体に及んでいたらしい。
灯たちに言われ、清は慌てて魔法を止めた。そして、魔法を止めると灯たちが近づいてきた。
その後ろで、やってきた監視役の先生達によって刺客は連行されているのが見えた。
「朝の事は心寧さんから聞きましたよ。私を心配させないためなのは理解できました」
「本当に悪かったと思っている。すまない」
「謝って欲しいわけではないのですが、まあいいでしょう。家に帰ったら、ちゃんと話をしましょうね」
そう言って、笑顔を見せてくれる灯は本当に怒っていることはないようだ。
灯たちと一緒に校内に戻ると、常和がちょうど駆けつけてきていた。
「清すまない! 大丈夫だったか!?」
「常和、大丈夫だから心配するなよ」
常和はホッとしたようで胸を撫でおろしていた。
心寧が常和のことに笑いつつも、思い出したかのように言い出した。
「ねえ、とっきー。これって事件として扱われるから、この後は帰りになるよね?」
「そうだな。魔法関連の事件は安全確保のために、生徒は帰る決まりがあるしな」
常和にそう言われ、心寧はどこか嬉しそうにしているようだ。
学校が早帰りになると言うのは、灯と先ほどの事を話すのも自然と早くなりそうだ。
教室に戻ると案の定、帰宅することとなったのだ。
今日は特に予定もないので、灯と一緒に帰宅をすることにした。ただ、お互いに帰り路はほとんど喋る様子はなかった。
それでも、手を繋いで離そうとしない灯の可愛らしい一面は健在していた。
「……清君、話したいことなのですが」
帰宅をして、灯と隣同士でソファに据わっていた。
真剣に見つめてくる水色の瞳は、反射して清の姿が映っていた。また、灯が凛とした佇まいから雰囲気が伝わってきていた。
「なんだ」
「私関連で巻き込まれるようなことがあれば、私を頼ってくださいね」
どんなことを言われるのかと思っていたが、頼ってほしいというお願いだった。
確かに一理ある。灯関連のことなのに、迷惑をかけたくないという理由で、当事者を除け者にしてしまったのだから。
「ごめんな、俺が悪かった。次からは頼るよ」
「わかってくれたのなら嬉しいですよ」
嬉しそうな顔でこちらを見てくる灯には、やはり敵わないものだ。
灯はふと思い出したかのように出来事の事を聞いてきた。
「そういえば、あの強大な魔法を使った理由ってアレですか?」
「灯も気づいたか。魔法をまともに扱えていないシールドの証明を」
灯がうなずいたのを見るに気づいていたようだ。
魔力シールドは魔法をちゃんと使えていれば目視確認なんて事はできない。つまりは、刺客が魔法をまともに扱えない者だと分かってしまったのだ。
「本当に清君は優しいですね。襲ってきたのにも関わらず相手の無事を優先するなんて」
「それもあるが、反撃すれば学校側が黙ってないだろ?」
それもそうですね、と笑う灯は楽しそうで、見ているこっちも嬉しくなる。
こちらも気になったことがあるので聞いてみることにした。
「そういえばさ、灯の使った魔法ってオリジナルの合成だよな?」
「……はい。唯一名前のある合成魔法、償えない寂しい過去ですね」
合成魔法の名前を言った灯の目は、冷たい視線へと変わっていた。
本来なら言いたくなかったと思われる魔法だったのかもしれない。そんなこと、今になっては後の祭りだ。
瞬時に今やれることは何なのかを脳内で模索した。それにより叩き出された答えを、清は行動へと移すことにした。
「灯」
「は、はい、なんでしょうか?」
「少しだけ寄り添っていいか?」
「……少しと言わずに、寄り添ってください」
灯はそう言うと、静かに体を寄せてきたのだ。とても温かい体温を感じる、こちらが冷えすぎていたのかと思えてしまうほどだ。
眠くなってしまいそうだった。
「眠いなら寝ていいですよ。夜ご飯前には起こしてあげますから」
目を閉じると温かい気持ちでいっぱいになりつつも、意識は暗い水の中へと沈んでいくようだった。
この度は、数ある小説の中から、私の小説を読んでいただきありがとうございます。
無事に十話を投稿できているのも、読者様がいるおかげです。本当にありがとうございます。
これからも頑張っていきますので応援よろしくお願いします!