第一話:星夜の魔法、君との出会い
※追記
6月29日、読みやすくするための改稿をしました
8月09日、人物名の始めだけルビを追加させていただきました
(魔法なんてなかったらよかったのに)
そう思いながら、星の輝く夜に黒井清は家を飛び出して、ある場所に向かっていた。静まった夜のこともあり、走る足音が周囲に響きわたる。
清の向かった先は、家からそう遠く離れていないところにある、木に囲まれた草原とでもいうべきところだ。
生い茂る木々や草花を走り抜け草原に出ると、月明かりがぼんやりと先にいた人影を露にした。
普段はこの時間帯に来ても誰かがいたことはなく、妙な珍しさを覚える。
警戒しつつも少しずつ距離を詰めるように歩くと、見覚えのある彼女の姿が目に映った。
月の明かりに照らされながら、透き通るような水色髪のポニーテールが風に揺らめき、星の光を反射しつつ、彼女の姿を可憐に見せてくる。
こちらの存在に気づいたように彼女が振り向けば、不意に目と目が合う。
目が合うとは思っておらず、清は一瞬固まった後、鼓動が早くなる。そんな気持ちを落ちつけながら一呼吸おけば、平然とした様子の彼女が声をかけてきた。
「こんばんは。……もしかして、黒井清さんですか?」
清の名を口に出した彼女は、清と同じ高校に通っている同級生で、他クラス故に挨拶を時折交わす程度の仲だ。そのため、彼女が名前を憶えていたのには驚きだ。
名前を憶えられていた、というよりは、学校全体の人数が少ないから覚えられるのだろう。
また彼女は、透き通るような水色の瞳と髪を持ちあわせており、学校内では一際違う存在感を放っている。
その時、忘れかけていた彼女の名がゆっくりと脳内に浮かんでくる。
「こんばんは。そうだな。えっと、たしか……星名灯さん、だったか?」
普段話さない人の名前を覚えられないため、名前を間違えていないか不安でしかない。
「そうです。私は星名灯。あなたと同じ要注意危険人物に認定されている者、と言った方が理解しやすいでしょうか?」
彼女――星名灯の言う要注意危険人物というのは、この世界での魔法使いの危険度を指している。分けられた危険度は本来なら一般人が普通であるが、清と灯は最高危険度の人物として認定されている。
そもそも灯はこんな夜遅くに何をしていたんだ、と清は思ってしまう。
こちらが言えた口ではないが、おせっかいだと思われても仕方ない、と思いながら灯に聞いてみることにした。
「ところで、星名さんはここで何をしていたんだ?」
灯は水色の瞳をぱちくりとさせ、少し考えたように空を見上げてから、静かに呼吸しているようだ。
(この感じ、触れない方がよかったか……)
ゆっくりと呼吸を繰り返しながらも空を見上げている灯は、とても美しく、どこか寂しげにも感じる。
少し時が過ぎれば、灯は落ちついた様子を見せた。
「……星を見るのが好きなので、星を見るためにここに来たのです」
灯はそう口にすると、再び空を見上げていた。
その姿を見ていた清は、灯に見とれてしまっていたことに気づき、動揺を隠すために空へと目をやる。
すると、綺麗な星々が視界を埋め尽くした。
いつもなら星空を見ても、この世界の模造品だよな、という感情しか生まれなかった。しかし、この視界に映る今の世界はどこか違う。
「黒井さんも星を見るのが好きなのですか?」
空を見上げていれば、空を見終わったらしい灯がゆったりとした口調で声をかけてきた。
気づいた清は、一呼吸おいてから灯の方に顔を向けた。
灯の方を向くと、何故か不思議そうな顔でこちらを見ている。そんな灯の顔は、先ほどの気持ちを突っつくような表情をしており、心臓に良いとは言えない。
「……そうだな。俺も星を見るのは好きだな」
「星はいいですよね。ひとつだけで輝かずに、複数で輝くことにより星座となる。協調性のある自然の恵みを私たち人間に、命燃え尽きるまで提供してくれるなんて感謝しかありません」
物騒な言葉が聞こえた気がするが、それを置いても納得しかないだろう。
清は少し悩んだ後、気になったことを灯に聞いてみることにした。
「ひとつだけ聞きたいんだが、なんで要注意危険人物なんかに認定されたんだ?」
聞かれると思っていなかったらしい灯は、悩むようにまた空を見上げてしまった。
確かに今聞くことではなかっただろう。それに、全く話したことのない相手に自分の過去を打ち明けてほしい、とお願いされているようなものだ。
要注意危険人物に認定される理由。それを見ず知らずの他人に話すこと自体、この世界では禁忌に触れる、と言っても過言ではないほど愚かな行いだ。
さすがにこれはやらかした、と思った清は悩んだ灯を見ることしかできなかった。
「……やはり、あなたは覚えていないのですね。」
「覚えていないって、何を言っているのか俺には理解できないんだが?」
灯が悲しむような声で言った『あなたは覚えていない』、とは清に何を意味しているのか理解できず、答えを待つしかできなかった。そもそも、今日初めて灯と二人きりで話すのだから、理解のしようがない。
「理解してもらおう、とは思っていません。だから、別にそれでもいいのです」
灯からそっけないように返された返事は、これ以上深入りすることを拒む棘のようにすら感じる。
このまま探ろうとしても埒が明かない、と判断した清はどうすればいいのか考えた。
「……結局のところ、なんで危険人物に認定されたんだ? 覚えているや、覚えていない関係なく俺は聞いているんだが」
失礼だと理解しつつも、あきれたような表情で清は危険人物のことを掘り返した。これでも先ほどの事を掘り返すようなら、模索するのは諦めるしかないだろう。
「そうでしたね。話の論点がずれていました。お答えすることはできませんが、お互い危険人物同士の魔法使い、魔法勝負をすれば多少なりともわかるとは思いますよ?」
唐突に灯が口にした言葉、それは清に対して魔法勝負をしないか、と持ち掛けているようだった。
急展開なことに理解が追い付かず混乱していれば、当の本人である灯は表情ひとつ変えず、真剣な眼差しでこちらを見ている。
確かに灯と同じ危険人物に分類されているが、同じ学校でもお互いの魔法を見たことが無いほど、無縁の関係同士だ。だが、灯が合成魔法の使い手であるのは学校の中ではとても有名で、合成魔法を上手く扱えない清と対をなすような存在としても有名な話だ。
合成魔法を扱えない清が灯と魔法勝負をする、というリスクがどれほどのものなのか、考える必要もないほど不利だろう。
「何を考えているのかはわかりませんが……あなたと魔法勝負する際は、合成魔法の単発でお相手する予定ですから、安心してくださいね?」
沈黙が長いことを察したかのような物言いは、清が単発魔法しか使えないのを知ってのことだろうか。
合成魔法の単発という、どこか矛盾したようで理にかなったような灯の発言。今だけは有難く思った方が良いのだろう。
「気遣いありがとう。今ここで魔法勝負をお願いしたいのだがいいか?」
「いいですよ。端からその気ですし、ここならどこにも影響が及ばないので好都合ですから」
魔法勝負を前提で持ちかけられていたことに清は驚きつつも、周囲を見渡す。
周りは木で円状に囲まれている。そして、周囲には清と灯以外に人の姿はないため、好都合の条件であるのは間違いない。
清が魔法勝負をするために距離を取ろうとした時、灯が思い出したかのように声をかけてくる。
「忘れていましたが……私はあなたと同じで、星の魔石から通した魔力で魔法を使います」
「……星の魔石か、忠告ありがとう。本当の意味で、お互いに手加減できないってことか」
星の魔石は所持しているだけでも、即座に要注意危険人物へと割り振られる危険な代物だ。灯から微かに感じていた、不思議な感じの正体はこれだったのだろう。
お互いが距離を軽く離し、この世界のルールに基づいた方法で始めようとした。
「それじゃあ、いくぞ。――魔力シールド展開」
「魔力シールド展開です」
お互いに魔力シールドの展開を宣言した。すると体の周りを覆うように魔力シールドが現れ、瞬時に透明と化した。
魔法勝負で注意すべき点は、魔力シールドは一定以上の魔法が当たると破壊される仕組みになっている、ということだけだ。
「俺が持っている星の魔石は、瞬時に膨大した魔力を圧縮し放つことができる。――炎の魔法!」
清が右腕を伸ばすと前に魔法陣が現れる。そこから炎の光線ともいえる形で、魔法を一直線に放つ。
灯に当たった魔法は激しい光を発して、爆発音の後に煙が舞い上がる。直撃したようだ。
清が魔力の確認をしようとした――その時だった。
一か所を中心に、体を激しく打ち付けるような風が急に吹き荒れ、周囲を舞っていた煙が消えていく。
(――くっ! この風は……)
風の中心に目をやれば、灯は魔力シールドに傷ひとつなく立っている。
「……すごい火力ですね。合成魔法でシールドを作っていなかったら負けていましたよ」
簡単な魔法を使える少年を褒めるような灯の立ち振る舞いに、清は驚くしかなかった。
「なんでだ! 確かに俺は全力で……」
それもそのはずだ。清の中では全力で放った魔法であり、学校の中では単独魔法トップに君臨するほどの火力で放ったのだから。
真正面から受け止めて無傷でいた、というのは一人の例外を除き見たことがない。
驚いている清の様子を見ていた灯は、残念そうな表情をした。
「星の魔石の真理にたどり着いていないのですね。残念です。これは私からあなたに贈るプレゼント、という名の誰も見たことが無い。――無制限合成魔法」
灯の発言と同時に複数の魔法陣が現れ、瞬く間に一つの魔法陣となり、清へと狙いを定めていた。
「……あなたと再会し、勝負できたこの時に感謝を」
灯から囁くように聞こえた言葉と共に、魔法陣から魔法が放たれる。それは流れ星のように神秘的で美しくも、はかない夢のようにすら清には見えていた。
そして気づいた時には、既に魔法が直撃していた。魔力シールドで防ぎきれなかった魔法により、清は気を失った。
……どれくらい気を失っていたのだろうか、目を覚ますとまだ夜のままだ。
清は起き上がりつつ周りを見渡したが、灯の姿はどこにもなかった。
ふと軽い痛みを感じた腕を見れば、魔法の包帯が巻かれている。灯がこの場を立ち去る前に、看病して巻いてくれたのだろう。
(お互い知らない者同士なのに、ありがたいな)
重い足取りで帰路についた清は、軽くふらつきながらも自宅に着き、自室のベッドで横になった。
その時、ポケットに違和感があり手を入れて探ると、綺麗に折りたたまれた一通の紙が入っていた。
『今日はありがとうございました。勝負したこと、学校では内緒ですよ。あくまで私たちは接点の無い他人ですから。星名灯』という文章の手紙だ。
手紙を読んだ清は小さく呟くように「初めて話した他人のようには思えなかったんだけどな。ありがとう、か……」といい、目を閉じて眠りについた。
この度は私の小説を読んでくださりありがとうございます。ゆったりと完結まで書ききるように精進していきますので、応援よろしくお願いします。できるだけ無いように見直していますが、間違い等があればご指摘していただけると幸いです。