第8話 条件を変えてくれ
「山井先輩は何か言わなかった? あの後少し、お説教されたでしょう」
「確かにされたが、悪魔の契約と言われた。山井先輩に何があったか知らんが、田中お前何か知ってるな」
「さあ。大体私絡みで先輩が大変な思いをしたってことぐらいしか」
お前が原因じゃねーか。
人格者を攻撃するな。山井先輩が酷い有り様で、正直見てられなかった。
だからあんな空気だったのか。
よくキレなかったな、先輩は。
「なんで坂下さんが、俺に告白するんだ。そもそも話がおかしいだろ」
「気づかないってとことん不幸。だけどそれがあなたの最大の武器。気にしない面の皮、というかなんか感覚おかしいわ。なんで所属してない文化部に、土足で上がり込めるの」
「どこも人手は必要だ」
「人の弱みにつけこんで、それでなお怒りを買わない特殊能力。坂下悠菜が恋するわけね」
だから……恋してるのは俺で、彼女じゃない!
もはや話が噛み合わない。
「分からないでしょう?」
「分からん」
「本人に確かめる?」
「ふざけるな。お前俺に惚れてんだろ? とかどんな勘違い野郎だ」
「意気地なし」
誰が意気地なしだ。仕方ないだろ、初恋なんだから!
「坂下悠菜もきっと、初恋か久しぶりの恋愛なのかもね。さすがにそこまで調べるほど、無粋じゃないわ」
田中真奈美は清々したと、窓から外を眺めている。
彼女の言い分が事実なら、これはお互い両想い。
約束された、恋の物語。
だがしかし、明らか目に見える障害がそこにある。
田中真奈美は一つの条件を提示している。
それが問題だ。
話にならない大きな問題。
「ちょっと待て、大体理解したから条件変えてくれ」
「いいわよ」
「よし、じゃあ恋以外でよろしく頼む」
「和田君、あなた私を愛しなさい」
田中真奈美に遠慮や容赦は存在しない。
ボーイッシュな彼女は今や傲然とし、続けざまに言い放つ。
「和田君、あなた私を一生幸せにすると誓いなさい」
「状況と条件が悪化している! 待て、おかしいだろ!」
「なんでも聞くって約束したわ」
「人の約束された恋路を邪魔するなよ!」
「嫌よ。ダメ絶対許されない。だって私がいないと、お互いに不器用過ぎて成立しない恋だもの」
事実と現実で串刺しにしてきやがって。返す言葉が見つからない!
それでも探せ、なんかある!
傷心の初恋の人、坂下悠菜が待っている!
「なんの為だ。意味ないだろ?」
この言葉が、全ての始まりと終わりを告げた。
「あるわよ。山井先輩から身を守らないと」
「田中、お前先輩に何した」
「恋のキューピッドよろしく誰かを紹介されたんだけど、粉々に砕け散るぐらいに断って破壊した」
……なんで穏便に断らない。仲介した山井先輩の立場に裁ち鋏を入れるな! 何してんだこの女! 事実上爆破ミッションみたいに断ったな!
先方は誰だ! 傷心で入院してないだろうな!
だから山井先輩はあんなに酷い有り様になってたのか!
田中真奈美よ、お前よくもそれで山井先輩の前に堂々と面晒せたな!
って間に俺がいた!
完全に巻き込まれてる!