第6話 野球界のスーパースター。フィギュアスケートの王子様
「色々聞いたわ。女同士の繋がりって奴ね」
「そうか、言いふらすなよ」
「もちろん。でまあ勘の悪い和田君に、順序立てて説明してあげる。もしかしたら、山井先輩がもう言っちゃってるかもしれないけれど」
先輩の説は「坂下悠菜の好みは筋肉質ではない」だ。絶対ではないとも言っていた。
「まず、坂下悠菜は筋肉質が好き」
筋肉の話ではないと言っておいて抜けぬけと。田中真奈美は何が言いたい。
「筋肉に例えたの」
「なんだと……」
「坂下悠菜は人気者よ。陸上部を退部する時、マネージャーでも残って欲しい、続けて欲しいと顧問の先生や先輩達に翻意を促された。一年の終わりの話よ」
そうだったのか。そんなに早く、彼女は決断していた。知らなかった。最近好きになった俺に、知るよしもない話だ。
「大変よね、引き留められる人って」
「そうかもな」
「呼ばれてもいないのに、土足で踏み込む誰かさんとは大違い」
完全に俺への当てつけ。なんのつもりだ。関係ないだろこの話に。
大体、役には立ってる。
だから「文化系部活の守護神」とか、ふざけたあだ名つけたんじゃないのか。
「彼女から見たら誰かさんは憧れの的」
「なんでそうなる。仮にそうでも、筋肉もはや関係ないだろ」
「だから筋肉に例えたの」
意味が分からない。何をどう例えた。
「坂下悠菜は陸上部。ある種筋肉の専門家、とまでは言わないけど詳しい」
「そりゃそうだろ。毎日向き合ってんだ、詳しくもなる」
田中真奈美は、ここで一つ間をつくった。
そしておもむろに、
「今、日本人選手は世界で大活躍。世界一を決める野球の大会もあったわよね」
「過去最強のメンバーらしいな。まあそうだろ。メジャーでMVP獲る選手にサイヤング賞上位常連。三冠王に国内のエース級が揃ったんだ。そりゃ盛り上がるだろ」
「色々な分野で、今までの日本人には考えられない結果を出すアスリートが出てきたわね」
確かに。サッカーやバスケットでもそうだが、スポーツ選手は何かが変わった。だからなんだ。
「でまあ、そのMVPとかサイヤング賞の選手、三冠王な人は筋肉の鎧をまとってるわよね」
「でかいな、確かに。サイズが考えられない。今までとは違う流れだ」
「陸上だって九秒台が出てるわよね」
「百メートルの話だな。確かに、リレーでメダル獲るんだから凄い話だ」
記録は塗り替えられ、日本人選手は進化し続ける。しかしこれと、俺の相談となんの関係が。
だから急かした。
「まどろっこいしな。さっさと結論を言え」
「嫌。私に恋しなさい」
「なんなんだもう。分かった続けろ」
田中真奈美はにこりと笑い頷いて、続ける。
「かつて日本を代表するアスリートだった、メジャーでも活躍した偉大な野球選手は、どんな体型?」
あの稀代のヒットメーカー、内野安打からホームランまでなんでもやってしまうアスリート。
彼は細く、自らを「スキニー」と表した。
細身の身体から放たれる華麗なプレー、そして力強い送球。実に日本人らしい体型で、今まではあれが日本人のイメージだった。
フィギュアスケートの王者も、競技性からめちゃめちゃ細い。そしてイケメン王子様。
それぞれ引退が惜しまれる。