第2話 恋愛相談。筋肉質なのかスタイルなのか、それが問題だ
「うん、実はクラスの女子が一人、気になるようになってしまった」
「なるほど。その女子が実は最近校内を騒がす、連続窃盗事件の犯人なのね」
「……犯人まだ見つからないのか」
「まだ。なかなかしっぽ出さないわ。監視カメラだってあるのに、なんでだろう」
そうか。なかなかの怪盗だな。しかしそんな話はしていない。茶化すな全く。
「怪盗は忘れてくれ。ちょっとした恋愛相談だ」
「え、あんたが……。明日春なのに雪が降る。先輩大変です。防寒具忘れないで下さい」
「分かった」
山井先輩まで何を。人を馬鹿にして。
「先輩やめて下さい。防寒具着たら汗だくになりますよ」
「僕は何も聞いてない。続けなよ」
なんか先輩、明らかにおかしいな。
後で少し話すべきかもしれない。
とにかく話を続ける。
「まさかあんたから恋愛相談受けるなんて」
「意外か。まあなあ、もしかしたら人生初だ」
「初恋とか、なんで高二まで温めてたの。私たぶん、保育園ですませてる」
田中真奈美はそう言って、幼き日々を思い出すかのようだ。なぜか天井を見上げている。やめろ、こっちの話に集中して欲しい。
「仕方ないが事実だ。そして相手の好みは一つ判明してるんだ」
「誰?」
「それは言えない。筋肉質な男が好きと、つい耳にした。本人が言ったんだ、間違いないだろう」
「ああ、あんたのクラスでそれだと坂下悠菜だ」
飛び上がりそうな気分だ。たったこれだけの情報で、恋の相手を見抜くなんて。まるで名探偵田中真奈美。さっさと校内の怪盗事件を解決して欲しい。
いや、だからこそ彼女なのだ。
その優れた頭脳から、最適解を導いてくれ。
「相手はともかく、俺は筋肉質な男じゃない」
「坂下悠菜は認めるのね」
「肯定も否定もしない」
「分かった。合ってて良かったわ」
だから肯定も否定も……まあいい。もういっそその方が話が早い。
「彼女の言う筋肉質が事実として、それは筋肉の鎧をまとうようなプロレスラーみたいな体つきだろうか」
「ああ……細マッチョなスタイルいい系か分からないわけだ」
「そこまでは話してなかった」
ここで、黙っていた山井先輩が割り込んだ。
「和田、お前聞き耳立ててたのか」
「先輩と同じように、たまたま耳に入ったんです。席が近いから」
「そうか。まあじゃあ仕方ない。僕は関係ないから続けてくれ」
二人して頷き、話を進める。
田中真奈美が先んじた。
「もしプロレスラーとかラグビー選手みたいな体つきが好きなら、どうするの?」
「時間をかけてつくり上げるしかない」
きっぱり告げると、田中真奈美は顔を曇らせた。なぜだ。
「あのさ、あれ結構大変だし、あんた成長期終わってる?」
「終わってる。身長はもう伸びてない」
いわゆる骨の成長線、これが消えたら大体成長期は終わる。人によっては成人年齢に達しても背が伸びる。稀だがままある、高身長な人の話だ。
「一応美術部だから、筋肉は語れるけど、そういや裸は描いてないなあ。まあ高校の美術部で描かせたら、部どころか学校が吹っ飛ぶわよね」
「学校は吹っ飛ばない。顧問と校長と教頭が飛ぶだけだ」
そね、と田中真奈美は呟いて、なにがしか考え事を始めた。すまない俺の恋愛相談の為に。
自分が筋肉質ではないが為、どうすればいいか分からない。きっと無理だろうと分かってはいる。
それでも初恋に全力を尽くしたと、これからの為、そしてまさかの奇跡に備えたい。
少し憂鬱な話だが、前向きに捉え進みたいんだ。