表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

第1話 春は初恋の季節

「私、筋肉質な人が好きなんだ」


 昼休みが終わる頃、教室の一角で、気になる女子がそんなことを言っていた。

 少し長めのショートカット。ミディアムショートな髪をした、最近まで体育会系な部活に勤しんでいた彼女が友人と談笑している。

 受験に専念する為に、部活動に終わりを告げ、髪を伸ばし始めた彼女が気になって仕方ない。

 細面というわけでなく、丸顔というにはバランスが取れ過ぎている。つまり標準的なサイズと顔かたち。日焼けた肌が、部活動に取り組んでいたことを表している。


 そんな彼女に対し、俺はと言えば文化系の部に入っている。つまりはアクティブインドア野郎。

 好きなものならすぐに飛びつく、積極的文化系。

 しかし彼女には声をかけられずにいた。

 アクティブインドア派が、果たしてアウトドアかは知らないが、体育会系な彼女と何を話せばいい。

 クラスと受験勉強の話ぐらいしか、共通項がなさそうだ。彼女の友人から情報を得るか。しかしきっと気づかれる。


「あのさ、和田健二君だっけ。彼、ゆーなに気があるよ絶対」と話のネタにされて、坂下悠菜はどう思うだろう。

 冴えないとまでは指摘されたことないので言わないが、男としての魅力が果たして俺にあるのか。

 高二の春、俺は新学期の始まりと共に初めてに近い恋心を抱いていた。

 参ったな。文化系の部活動で、信頼出来る奴らにアドバイスでも聞くべきか。クラス内で相談したら、発覚した時玩具にされる。

 俺はいいけど、彼女に申し訳ない。


 あらゆる文化系部活は俺の庭。とまでは言わないが、とにかくよく顔を出すから、部活の顧問は部員と認識しているかもしれない。


 今日顔を出したのは、美術部だ。

 知り合いの先輩が部室で一人、物憂げな顔でキャンパスと向かい合っていた。邪魔にならぬよう、知り合いと待ち合わせる。

 目的の友人はホームルームが終わったのか、放課後部室にやっと来た。


「どうしたの? 呼び出しなんて珍しい」


 先輩への配慮もなく、同学年の田中真奈美は口を開いた。明るく遠慮ないボーイッシュな性格と容姿を携えた、見た目と中身のシンクロ率が高い同級生。仕方ない奴だな全くと、部室を出ようとしたが、先輩がそれに気づいた。


「いいよ。今日はみんな風景画をスケッチしてる。話して全然構わない。聞き耳立てたりしないから、なんならBGM代わりになんか話してくれ。そういう気分なんだ」


 山井先輩は顔も向けずそう言うが、中身は恋愛相談。いや、山井先輩は口が堅い。部内に限らず学内でも人格者として有名だ。


「だってさ。何、ついに美術部に入部する気になった?」


 扉を締め切り田中真奈美はさっさと席へと着いた。

 仕方なくそれにならう。


「話次第では考えてもいいが、もう二年だし大して活動出来ないと思う。絵はがきレベルならともかく、絵画は無理だ」

「いいよ別に。賑やかな方が楽しいだけ。話せる相手が増えて、私に損はないし」


 お前誰とでも仲良くなれるだろう?

 内心そう思ったが、相談するので黙っておく。


「なんの話? まさか私に告白するつもり? だったら先輩に空気読んで貰わないと」


 ぴくりと山井先輩が反応している。

 先輩、聞き耳は立てないってさっき言いましたよね。


「違う。方向性は大体合ってるが、他言無用で頼みがある」

「いいわよ。告白じゃなくて残念だけど」


 冗談めかし、田中真奈美は笑顔を湛えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ