05「卵」
慣れって、すごいんだなと思った。
あんなに辛いと感じていた生活が、別に苦ではなくなっていった。
慣れっていうか、麻痺?
どっちでもいいか、耐えられるなら。
そんな調子で、多忙生活もだいぶ板についてきた。
それは、喜ばしいこと。
結構不安もあったんだけど、何とかなって良かった。
頑張ったぞ、私。
「ねぇ、ここ間違ってない?」
「え、あ、すみません!」
「いいのよ、無理してもらってるものね。お休みあげられなくて、ごめんね」
大丈夫と思った矢先、普段ならしないミスを犯した。
重大なものじゃないけど、ミスはミス。
気を引き締めていかないと――頑張ろう。
ミスのないように。
頑張ろう。
そう思う程、失敗が重なった。
普段できることが、できない。
今までできていたことが、できない。
身体が、思うように動かない。
――何だ、コレ?
本格的に、休息取らないとまずいかな。
今日は少し早く寝て、身体を休めよう。
――ぐしゃっ!
嫌な音。
頼まれていた卵は、私の手をすり抜けて落下した。
咄嗟に袋を掴むことすらできなかった。
無残な姿をさらす卵を、しばらくじっと見つめる。
別に何を思っていたわけでもない。
ただ、見てただけ。
真冬の風に全身を切り刻まれながら、私はそこを動かなかった。