03「異常」
――調べに対し、少年は「誰でも良いから人を殺してみたかった」と話しています。
「……とんでもないわねぇ」
単調にニュース原稿を読むアナウンサーに、母はそう答えた。
テレビに話しかけるなんて、オバチャンの証だわ。
「異常よね、異常。人の命を何だと思ってるんだか」
まだ何か言ってるし。
私はその背中をじっと見つめる。
包丁を握りしめた手に、無意識に力が籠った。
そして、切っ先を彼女に向けた。
死刑宣告。
あなたは今、容疑者の少年を異常だと言いましたね。
残念なお知らせです。
あなたが、恐らく血を吐くような思いをして産んだ娘は、この少年と同じです。
気を付けて下さい。
あなたの背後に立つ私は、あなたの言葉を借りれば、興味本位で人を殺す「異常」な人間です。
別に、殺さなくても良いんだけどね。
ただちょっと、刺してみたいなぁとか思うわけですよ。
多分、殺そうと思って殺すと、つまらないと思うんだ。
だって、生き物って簡単に死んじゃうものでしょ。「なぁんだ、こんなもんか」ってなっちゃうと思うんですよ。
だから、刺すだけ。
どんな感触がするのかな、とか、どういう風に血が出るのかな、とか。ちょっと試してみたくなるじゃない? ホント興味本位。
包丁を水平に動かしてみる。
あと5メートル前に出てたら、彼女の首からドバーッ!って。血が噴き出しちゃうんだろうなぁ。白い壁が真っ赤だろうなぁ。きゃあ大変。
……ハイハイ、馬鹿な妄想はここまでにしよ。
私はくるっと回って作業に戻った。
母の代わりに切り刻まれたタマネギを、バターと合わせて火あぶりの刑。
「あー、良いにおい」
ふらふら寄ってきた母に、にっこり笑ってみせる。
条件反射で出てくる、お得意の愛想笑い。
どうせ私には、人殺しなんてできない。
だって「良い子ちゃん」だもん。
それに、殺しても良いと思えるようなクズのせいで刑務所ぶち込まれるなんて、それこそ馬鹿らしいじゃない?
優等生は、そんなコトしないものなのだ。
まぁ、理性が切れたら何でも出来ちゃうのが、優等生でもあるんだけどね。
「あんな真面目な子が……」って、よく聞くでしょ?
あなたの周りに真面目な良い子ちゃん、いませんか?
気をつけて下さいね。
あんまり刺激しちゃうと、核爆発、ですよ?