触れられると…。
「夕陽…。ナースコール、呼ばせて」
「どこか痛いの?」
「痛いわけじゃないから」
桜賀さんは、布団をまた掴んでる。
「なにがあるの?」
俺は、その手を握った。
「あっ…」
「どうしたの?」
「夕陽に触れたり、触れられると、駄目なんだよ」
「もしかして」
俺は、布団を捲った。
「ごめん。」
「これを、俺以外に見せようとしてるの?」
「俺を、いじめないで」
桜賀さんは、泣いてる。
「だったら、俺が手を貸してやるよ」
「夕陽、駄目だよ。そんな事…。もう男とそんな事してないだろ?」
「うっせー。黙ってろ」
俺は、桜賀さんにキスをした。
「夕陽…」
夕陽に感じた体を、俺は愛した。
「ダメ…。夕陽」
桜賀さん、俺。
あなたに、ずっとこうしたかったよ。
「夕陽ッッ…」
桜賀さんは、俺を夕陽だと思って果てた。
「待って、ティシュ」
「いらない」
「汚いから」
「汚くない」
俺は、桜賀の全てが欲しいんだよ。
「久しぶりだったんじゃないの?よかったの」
「うん」
「まだ、俺を愛してくれてるの?」
そう言って、頭を撫でられた。
「あんたの事なんか嫌いだ」
「どうして、またあの日みたいに傷つけるの」
それは、桜賀さんが俺を傷つけるからだよ。
「トイレ、行くわ」
俺は、泣きそうになって病室を出た。
「あーあ、拗らせちゃったか」
命が、立ってた。
「はい、ついてるから、口ふけよ」
「ありがとう、悪い」
命は、ティシュを渡してくれた。
「お味は、よかったか?」
「ふざけんな、よくねーよ」
「あらら、そっちも可哀想だね」
「命も同じだろ?」
俺は、トイレに歩く。
「神の嫁になってるからね」
「そうだよな。ってか、男子便所についてくんなよ。先生」
「いいじゃん、別に」
俺は、トイレで自分の顔を見る。
情けない顔してる。
顔を洗って、口をゆすいだ。
「はい」
「ありがとう」
命が、ハンカチをくれた。
「コーヒー、奢ってやるよ」
そう言われてついていく。
命は、缶コーヒーを奢ってくれた。
「宇都宮さんを抱きたくなった?」
「ならないよ。桜賀さんは、夕陽だと思ってとろけてたよ。酔ってるから幸せな夢見てる感覚だろう」
「朝陽の方が、綺麗なのにな」
命は、俺の頬を撫でる。
「命だって、神さんより綺麗だよ」
「私も言えないよね。神が、いない隙に熱があって意識が朦朧としてる。紗羅とキスしたりしたから」
「二世帯だろ?相変わらず向こうに行ってんのか?」
「そう。神からも親からも頼まれてるから…」
「命は、それでいいの?」
「あっちは、私の気持ちなんか知らないよ。宇都宮さんも同じだろ?」
「ああ、知らないはずだよ」
「今日一日だけは、夕陽のふりしていなよ。辛くたって…。こんな事、二度とないよ。キスだってしたってバレない」
命は、俺の背中をポンポンって叩いてくれた。
「初めに出会ったのは、朝陽だったのにね。覚えてる?あの日」
「覚えてるよ。命だって。南条に出会ったのは、俺と命が最初だったんだから」
「そうだよ。だけど、私は女で、紗羅が選んだのは兄さんだった」
命は、涙を流してる。
「大丈夫か?」
いつだって俺は、命の涙を拭ってあげる。
俺は、命以外の女に触れた事も触れられた事もない。
「命は、熱がある南条とキスして、その先も…。それで、幸せだったか?」
「そんなわけないよ。二人の子供も5歳と3歳だろ。来月には、家を出るつもり」
「なんで?」
「あっちも、そろそろ跡継ぎ欲しいでしょ。女、女だから。私が居たら、思うようにタイミングとれないだろうし。好きな奴が、他の奴に抱かれてんのもう見るのうんざりだわ」
そう言って、命は泣いてる。