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9.


【沙月視点】


「じゃあ、私は買ってきた本を読まなきゃで忙しいからもう行くね。ばーい」


 そう言って、姉は立ち去っていく。

 嵐のような人だ。そんな自由な姿に少しだけ憧れてしまう。 


 ひとまず、姉から手渡された本を眺めてみる。

 ジャンルは様々。自己啓発本っぽいものから、ファンタジー作品や戦記物まである。

 せっかくだし、とりあえず何かを読もうかなと思ったがこれだと迷ってしまう。


 すると、他の本とは1つだけ毛色の異なる本が目に付く。

 ピンク色の背表紙、表紙には可愛い女の子が2人描かれている。


 どんな内容の本だろうと気になって手に取ってみる。

 そして、ページを読み進めてみる。


 ___

 __



 そして、しばらくの時間が流れたあと。


「おーい、沙月。ごめんね、さっき渡した本なんだけど私の趣味の本が混じっていたみたいで、ちょっと1冊だけ返してもらえる?」


 また姉さんが部屋にやって来た。


「おーい、聞こえてる? まあ、いいや。とりあえず、入るね」


 数回のノックの後、部屋の中へと入ってくる。


「お邪魔しまーす。__って、沙月!? もしかして、泣いてるっ!? 何があったの!?」

「……大丈夫です。姉さんにもらった本を読んで感動していただけです」


 気になった本を手にとって夢中で読みふけり、今はちょうど読み終わったくらいのタイミング。

私は作品に刺激を受け、感動の涙を流していた。


 そんな私の様子を見て慌てる姉さん。


「そうなんだ……、泣いてる沙月の姿なんて久しぶりに見たから心配したよ。ちなみに、どの本を読んだの?」

「これです」


 私は1冊の本を差し出す。


「……えっ!? 本当にその本なの?」

「……そうですが?」


 驚いた様子の姉さん。


 ……何でそんなに困惑した表情をしているんだろうか?


「いや,だってそれ私が表紙買いした百合小説やん……。ということは、百合にはまったのか……。なんだか、お姉さんは複雑な気分だよ……」

「百合?」

「その本のジャンルだよ……。超簡略的に説明するなら、女の子同士が仲いいやつかな?」


 女の子同士が仲いいやつのことを百合というらしい。

 確かにこの本でも、女の子同士がイチャイチャしていた。


「そうなんですね。参考になります」

「……あまり参考にしなくてもいいんだけどね。ちなみに、どのシーンで感動したの?」

「感動したシーンは数多くあるんですが、何よりもヒロインの生きざまに感動しました」


 もちろん、感動したシーンはいくつかある。

 だけど、私が1番感銘を受けたのはヒロインの生き方、その有り様。


「生きざま?」

「はい! 自分らしくありのままに生きる姿に!」


 作中の誰よりも、いや私が知っている中で誰よりも自分らしく生きる姿に憧れた。私もそうでありたいと思った。


「まあ、何はともあれ沙月が元気になってくれて良かったよ」

「心配してくれてありがとうございます。それで、この本の続きはありますか?」


 続きがあるような終わり方だった。続きがあるならすぐにでも読みたい。


「あー、その本は出たばかりだからね。続きがでるのはまだ先だよ」

「……そうですか。それは、残念です」


 本当に残念だ……。続きが気になってしまう。


「まあ、続きが出たら持って来てあげるよ。なんなら、その作者は他の作品も書いてるみたいだから今度買っておくよ」

「いいんですかっ!? ありがとうございます! ぜひ、ほかの作品も読んで見たいです!」


 この作品の作者さんの違う作品も読んでみたい。

 作者名は……あゆあゆ? なんだか変な名前だ。


「わー、私が今まで見てきた中で1番の沙月の笑顔。本当に複雑な気分だよ……」

「それで、他にはどんな作品があるんですか?」


 知っているなら、ぜひ聞かせてほしい。

あとで自分でも調べてみるけれど。


「よし! 貸すのはいいとして、お姉さんと1つだけ約束して欲しいことがある」

「何ですか?」


 借りれるなら、どんな約束でもしよう。


「まあ、身構えなくてもそんなに大変なことじゃないよ。私が沙月に本を貸したこと、これから貸すことに対して2人だけの秘密にしておいて欲しいってだけなんだけどね」

「……? それぐらいなら、いいですよ」


 思った以上に簡単な約束。

なんだか拍子抜けしてしまう。


「ありがとう、助かるよ」

「ちなみに何でですか?」

「……沙月にこの本を読ませたことが両親に知られたら私が怒られるからさ」


 なんで、それで姉が怒られるのだろうか?

むしろ、両親にもこの本を読んで欲しい。


「よくわからないけど、わかりました」

「うん、秘密にしてくれるなら何でもいいよ。……ははは、どうしよ」


 乾いた笑いをする姉さん。

 一体、どうしたというんだろうか?


 その後、姉さんは部屋から去っていった。


 そして、その日をきっかけに私は変わった。いや、変わることにした。

 自分らしく生きようと決意した。



   ***


 沙月先輩の独白が終わる。


「ちなみに、私のどの本を読んだんですか?」

「『学園の王子様が女性で百合で私を好きで』ってやつだ」


あー、私の最初の頃の作品だ。

確かヒロインに自分の性癖を詰め込んだんだよな。

……懐かしい。


「私はその本のヒロインのようにかっこよくなりたいと思ってね。昔は女の子ぽかった口調とかが、今みたいになったのもそ影響なんだ」

「そうなんですね……」

 

 道理で、私の性癖に突き刺さるわけだ……。


「だから私はあゆあゆ先生を__歩美を好きになったんだ! 私と恋人になってくれ」


 あらためての沙月先輩からの告白。

 結局、何で私なのかはまだ理解できてない部分もあるけれど、今なら結構本気の想いなのかもと思う。

 それに対して、私は__


「あ、それはごめんなさい」

「何故だっ!?」


 変わらない断りの返事を口にした。


「いや、最初から言ってるじゃないですか私は百合は好きでも女の子と恋愛する気ないですって」


 まあ、なんかいい雰囲気ではあったけど私の性的指向はそう簡単に変わらない。

 私が男だったら迷わず告白を受け入れたとは思うけれど。


「……そんな」


 本気でショックを受けている顔の沙月先輩。

 少しだけ罪悪感がこみ上げてくる。


「私の気持ちは迷惑か?」

「人の好意を迷惑扱いするつもりはないですよ。それが変に歪んでいない限り」


 人の好意は尊いもの。最大限、大切にするべきもの。

 それが私の考え。百合作家としての矜持(きょうじ)でもある。


 変に愛情が歪んで実害を及ぼすものにならなければ、迷惑がったり馬鹿にしたりなんてしない。

 2次元ならヤンデレやメンヘラも好きなんだけどね。


「じゃあ、私は歩美を好きでいてもいいのか?」

「それを決める権利は私にはないですよ。ただ、好きでいてくれたからといって返せるものは何もないですけどね」


 少し卑怯な言い方になってしまったかもしれない。

 

「なら前も言った通り、私は全力で君を好きにさせてみせる!」


 そんな沙月先輩らしい回答に、思わず苦笑してしまう。

 どう断るかと悩みながらも、どこかこの状況を楽しんでいる自分もいる。

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