6.愉快なランチ
その後、私たちは4人で近くのカフェに来ていた。
学校から近いこともあって、店内には同じ学校の生徒も見える。
私もこの店にはよく来る。
4人掛けのテーブルに案内され、どこに座るかでひと悶着あったものの着席。
テーブルを挟んで座るのは香澄と麻衣。
私の隣に座るのは沙月先輩。
「初めまして、私は五月川沙月だ。よろしく」
「こちらこそ初めまして。舞園麻衣です。よろしくお願いします、五月川先輩」
初対面の2人が軽い自己紹介。
麻衣も香澄相手じゃなければ、非常に礼儀正しい子だ。
「えーと、気になってたんですけど会長って歩美と仲良かったでしたっけ?」
香澄が沙月先輩に恐る恐るといった様子で質問。
うん、気になるよね。だって、今までそんなに仲良くしてなかったし。
でも、告白した相手なんて素直に話されたら困ってしまう。
伝わるかどうかわからないけれど誤魔化してと沙月先輩に目配せ。
私のアイコンタクトが伝わったのか、沙月先輩からのウインクが返ってくる。
とりあえず、伝わったのかな? 不安だ。
「私と歩美の関係か……。とある事情で仲良くなってね。今の私にとっては大切な相手だ」
言ってること自体は、友達という意味でとれないこともない。
だけど、香澄から私に対して、どういうこと? っていう視線が突き刺さる。
沙月先輩が今まで大切な相手なんて言葉を使ってるの見たことないだろうしね。
どう誤魔化せばいいだろうか。
「舞園さんは、歩美とは昔からのつきあいなのかい?」
沙月先輩から麻衣への質問。
「中学からの付き合いですね。今ではラブラブの恋人です」
「「ん?」」
麻衣以外の2人が疑問の表情を浮かべる。
今度は香澄だけではなく、沙月先輩の視線も突き刺さる。
いや、でも私には麻衣に告白した覚えもされた覚えもないんだけど。
まあ、またいつもの冗談だろう。
「一体いつからあなたと歩美が付き合ってるのかしら? 告白でもしたの?」
「告白なんてなくても気持ちが通じ合ってますから」
海外的な考え方だ。
これからのグローバルな社会には必要かもしれない。
「あなたの頭はお花畑牧場なの? 生キャラメルレベルで脳内トロトロなの?」
「あゆ先輩にトロトロにとかされちゃいましたから」
「あ゛」
香澄のイラつき度がマックス。
女の子が出しちゃいけない声が出てしまっている。
「ど、どういうことだ歩美。君はもう他の子と付き合っているのか?」
わなわなと震える沙月先輩。
いや、あなたが動揺するんですか。
麻衣の冗談だって。女子が女子に付き合ってるなんて言うのはよくある冗談だ。
「いや、私は誰とも付き合ってないですよ」
「そんなっ!? あたしに対しての、あの夢の中でのロマンチックな告白はどうなるんですか?」
麻衣の夢の中での出来事まで知らんがな。
そうこうしているうちに頼んだメニューがそれぞれの前に届く。
私が頼んだのはデミグラスソースのオムライス。
この店での私の一押し!
この店に始めてくる麻衣は、私と同じ料理を。
沙月先輩と香澄はそれぞれ違うパスタを頼んでいる。
「美味しそうですね。さすがあゆ先輩のおすすめのオムライスです!」
「ふわふわ食感で味もすごく良いよ。早く食べてみて」
美味しいものを食べるのが嫌いな人はいないからね。
香澄も料理を目の前にして、先ほどよりも上機嫌だ。
その後、少し料理を食べ進めた後。
「歩美、私のパスタを少し食べる?」
「あ、少しもらおうかな」
そう言って、差し出されたフォークにまかれたパスタを口に入れる。
うん、このパスタも美味しい。
今度、来た時に頼んでもいいかもしれない。
そのお礼に私のオムライスをスプーンに乗せ、香澄に差し出す。
「ありがとう。相変わらずこの店のオムライスは美味しいわね」
「そうだよね!」
なんてやり取りを交わす。
「自然なやり取り。これが付き合いの差か……。私も負けていられないな」
沙月先輩が何かをつぶやいている。
何を言っているんだろうか?
「私のパスタも食べないか。美味しいよ」
「いいんですか? それなら、この小皿に少しもらってもいいですか?」
「……」
何故か残念そうな表情の沙月先輩。
「あたしのオムライスをどうぞ、あゆ先輩。はい、あーん!」
「いや、私も同じオムライスなんだけど……」
「……っ!?」
すごく悔しそうな表情の麻衣。
同じ料理を分け合っても……。
「残念だったわね。ざまぁみろだわ」
「……次は負けません」
2人はなんの勝負をしているんだろうか?
食事後、これからどうするかとみんなで話し合う。
せっかく時間が空いてるのだからどこかに遊びに行くのも悪くはない。
麻衣とは久しぶりに会ったしね。
まあ、私としては執筆の時間も欲しいので解散でもいいけれど。
すると、沙月先輩が話を切り出す。
「少々、この後に用事が入っているのでね。私はここらへんでお暇させてもらうとするよ。本当は、一緒に遊びに出かけたいけどね。それは、また次の機会で」
私たちに別れを告げると、凛々しく立ち去っていく。
習い事とかも多いらしく、沙月先輩はいつも忙しそうにしている。
香澄からも忙しすぎて倒れないかよく心配している。
その後、近くのショッピングモールに遊びに行くことで話がまとまり、店を出る。
お会計しようとレジに行ったら、すでに沙月先輩によって支払われていた。
頭があがらないね。これ以上、貸しを作るとあとが怖い気もする。
とりあえず、あとでお礼の連絡でもしなければ。
***
その後、目的のショッピングモールへと着く。
なかなかに大きい建物。ショッピングモールの中でも大きい部類にあたるんじゃないだろうか。
お嬢様学校や高級住宅街が近くなのもあってか、中には結構なブランドショップも入っている。
私にはあまり関わりのない世界だけれど。
「いやー、あゆ先輩と買い物に来るのも久しぶりですね」
「そうだね、半年ぶりくらいかな」
麻衣が受験シーズンだったこともあって、しばらくは誘ってなかったしね。
たまに息抜きで近場のカラオケに付き合ってたりはしたけれど。
「私が歩美とここに買い物に来るのは2週間ぶりくらいね」
「そ、そうだね」
学校の近くで遊べるような場所が少ないから、ここのモールにはよく来るしね。
でも、そうやって張り合うとまた言い争いが始まりそうだ。
「それって自慢ですか?」
「ただ記憶を振り返っただけよ。そう感じたなら、ごめんなさい」
「……そうですか、なら仕方がないですね。小さいマウントを取りに来る心の狭い人かと思いました」
「「……」」
なんでこの2人はこんなにお互いにけんか腰なんだろうか?
最初に会ったときは、割と仲が良かった記憶があるんだけど。
話題をそらさなきゃ。
「そういえば、麻衣は沙月先輩と初対面だけど緊張しなかった?」
「五月川先輩ですか。さすがにあれだけ美人だと、多少は緊張しました。けど、すごく良い人でしたね」
「そうでしょ。会長は素晴らしい人なんだから。優しくて、後輩思いで、仕事も出来て」
会長大好き香澄さんが、自慢げに語り始める。
香澄は、沙月先輩のこと大好きだからな。
願わくば、そのままゴールインして欲しい。
「そうですね。香澄先輩に比べて、すごくよく出来たひとでした」
「それは当然ね。私なんかじゃ、比べ物にならないわ」
「……」
嫌味が通じず、若干だが呆れた表情で香澄を見る麻衣。
そのまま香澄の会長トークにしばらく付き合わされる。
「__ふぅ、これで会長の素晴らしさが伝わったかしら」
「ええ、嫌というほど伝わりましたよ」
少しげんなりとした様子の麻衣。
それも致し方ない。
ちなみに私は同じ話を何回も聞いているので慣れたものだ。
「そういえば、香澄先輩もあゆ先輩も、五月川先輩とはずいぶん仲がいいんですね」
「私は生徒会で一緒だからね。それにしても歩美が会長と仲が良くなったのは、つい最近のことなんじゃない? 私も、今日初めて知ったわ」
「そ、そうだね。なんだかんだ今までも関わる機会はあったし、香澄の話を聞く限りすごくいい人なのは知ってたからね」
出来れば近くで関わることなく遠くで眺めていたかったけれど。
こうなった以上、私への矢印を他に向けてもらうしかないよね。
むしろ、沙月先輩の矢印が女性に対して向くとわかっただけ、リアルで風紀委員長や香澄とのカップリングが見れる可能性があるとプラスにとらえよう。
そう考えないとやっていられない。
「じゃあ、さっそく見て回ろうか。2人はどこか行きたいお店はある?」
「あゆ先輩の行きたいところがあたしの行きたいところです! あんまり、このモールに来たことないのでよくわからないですし」
「私は、軽く服とか見たいぐらいかしら」
その後、麻衣にモールを案内がてらに、いろいろな店を見て回った。
その間、服屋で着せ替え人形にされたり、フードコートでスイーツを食べたり。
ゆったりと楽しい時間を過ごす。
麻衣も久々に羽を伸ばせたからか、だいぶはしゃいでいたし少しでも楽しんでくれたなら幸いだ。
香澄も気に入った服が見つかったらしく上機嫌。
このまま、喧嘩することなく終わってくれれば完璧だね。
なんて、考えたが運のつき。
「いやー、久々にあゆ先輩と遊べて楽しかったです! また、今度2人で遊びましょうね」
「私も歩美と一緒にいろいろ見て回れて楽しかったわ。今度は2人で来ましょうね」
「「……」」
またもやピリつく空気。
まあ、とはいってもこの2人は本当に嫌いあってるわけではないだろう。
なんか引くに引けなくなって素直になれなくなってる感がある。
よくある百合パターンだね。必修科目レベル。
ここは私が理由を聞いて、百合の伝道師として2人の仲を取り持とうじゃないか。
とりあえず、軽くでいいから理由さえわかればなんとかなるだろう。
「2人は、なんでそんなに仲たがいするの? 理由だけでも聞かせてよ」
「「なんか気に入らないんです(のよ)」」
うん、無理。
***
その後、夕ご飯前には解散して家に帰ってくる。
忘れないうちに沙月先輩にお礼のメッセージを送っておこう。
歩美『ありがとうございます! 今日はごちそうになりました。麻衣や香澄もお礼を言っていましたよ』
沙月『どういたしまして。お礼は、今度デートに付き合ってくれるだけでいいよ』
歩美『???』
沙月『あゆあゆ先生であることを黙っている代わりの最後のお願いってことで駄目かな?』
歩美『……最後ですよ』
沙月『ああ。今度の土曜日は空いてる?』
歩美『空けときます』
さあ、どうするか。