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3.お姫様はいじわるで


 生徒会長の告白があった翌日。

 今日は入学式当日である。


「今年の新入生も粒ぞろいだ……」


 風紀委員として新入生の案内をしながら、今年の新入生を観察する私。

 昨日のことがなければ、人生でも最高の日の1つとして純粋に楽しめただろう。

 

 新たに入学するあどけない新入生。

 入学式に急いでいたせいで服装が乱れてしまう。

 そんな時に__タイが曲がっていてよ。

 さっと登場してネクタイをなおす上級生。

 理想のシチュエーションである。


「入学式なのにやけにテンション低いわね、歩美。いつもならテンション振り切ってそうなものだけど。体調でも悪いの?」


 生徒会副会長として私と一緒に新入生の案内をしている香澄が、私の様子が気になったようで質問を投げかけてくる。

 気づかいできる幼馴染。百合ポイントを3点加点してあげよう。


「いや、体調は大丈夫。ただ、すこし悩み事が出来てね」

「あなたに悩みごとっ!?」

 

 晴天の霹靂へきれきといった具合の大げさな驚きよう。

 心外だ。私にだって悩みごとの1つや2つある。

 

 そんなことを話していると生徒会長の姿が見える。 


「あ、会長。おはようございます!」

「やあ、香澄。今日も綺麗だね」

「ありがとうございます。会長こそ今日もお綺麗ですよ」


 挨拶は「おはよう」でも、「ごきげんよう」でもない。

 まさかの「今日も綺麗ですね」である。

 さすが百合適正100%。ナチュラルな口説き文句。

 まるで、これだと姫ではなく王子様である。


 普段からこんなことを言っているのがうちの生徒会長。

 だから、答える香澄も慣れたものである。


 さて、私は存在がバレないうちに立ち去ろう。


「やあ、歩美! き、今日も綺麗だね。まるで天使のようだ」


 ……見つかってしまった。


 少し照れた様子で、私の容姿を褒める生徒会長。


 生徒会長には一体、私がどう見えているのだろう。

 危ない薬でもきめてるのかな。


 実際、私の容姿は悪いわけではないが目立つほどではない。

 最低限、容姿に気はつかっているものの良くて中の上といったところ。

 可愛いって言われることはあっても、美人だねとはあまり言われない。

 生徒会長や風紀委員長に比べたら月とすっぽん。


「おはようございます、生徒会長。今日もお綺麗ですね」

「そんな綺麗だなんて……。照れるじゃないか」


 他と反応がぜんぜん違ーう!


 なんかいつもの威厳のある感じから、しおらしい感じになってる。


 さっきまでのやりとりなら、まだ違和感を周囲からも持たれなかっただろう。

 だが、これはまずい。


 隣にいる香澄も、あんた会長になにしたのっ!? ってギョッとした顔でこちらを見ている。


「じゃあ、また後で会おう歩美」

「また後で会えたらいいですね」


 私は合わないように全力で逃げるけど。


 そして、生徒会長は満足そうな顔で過ぎ去っていく。


「ちょっと、あなた会長となにかあったの?」

「別になにもないよ」

「本当に?」

「本当だよ。もう、かすみんは心配性なんだから」

「なんだ、なら良かった」

 

 香澄も納得してくれたみたい。

 よかった、よかっ__


「__って、そんなわけないじゃない! あんな会長の顔、初めて見たわよ」

「いつもあんな感じだよ、気のせいじゃない? 細かいことを気にしてると老けるよ」

「余計なお世話よっ! まあ、言う気がないならいいわ。会長に後で聞くわ」


 なんだって。


 それは少しまずいかもしれない。

 あの生徒会長なら普通に私のことが好きだとか言い出しそう。

 

 そんなことになったら会長大好き香澄ちゃんに敵視されるかも。

 少し前に香澄に対して生徒会に入った理由を聞いたら、会長がいるからって言ってたし。

 

 香澄は前から私が色んな女子に近づくことに敏感だ。

 女子に告白されようものなら後で問い詰められる。


 私が女の子を襲うとでも思われているのかな?


 会長に告白されたなんて知られたら……最悪の事態も考えなくてはならない。


「お、おなかが。ちょっと私トイレに行ってくるね」

「いきなりどうしたのよ、大丈夫?」

「じゃあ、また後で会おう」


 急いで生徒会長のところに口止めしに行こう。


 そもそも、昨日の時点でそうしておくべきだった。

 生徒会長の人気は学園でもトップ。

 男子がいないこの学園において、アイドル的存在である。

 会長ガチ恋勢が多く、私なんかが告白されたとなったら確実に暴動が起きるだろう。

 

 何とかしなければと頭をフル回転させる。

 

 生徒会長がいるのは、自クラスか生徒会室だろう。

 とりあえず、生徒会長が去っていた方向的にまずは生徒会室へと向かう。



   ***



 急いだからだろう。無事に生徒会長の姿をとらえる。

 生徒会室に入ろうとしているところだ。


「待ってください、生徒会長!」

「やあ、どうしたんだい歩美。そんなにすぐに会いに来てくれるなんて。嬉しいじゃないか」


 お願いだから、頬を赤らめるのを止めて欲しい。

 こっちまで気恥ずかしくなる。


「ちょっと生徒会長にお願いがあって」

「なら、生徒会室でゆっくり聞こうじゃないか」


 生徒会長からの誘いにのって、生徒会室に入る。


「で、お願いって何だい?」

「生徒会長が私に告白したのを内緒にしておいて欲しいんです」


 生徒会長に向けて頭を下げながら頼む。


「内緒にしてほしいか……。じゃあ、まずは沙月って呼んで欲しいな」

「へ? さ、沙月生徒会長」

「それだとなんか物足りないなー。呼び捨てでなくていいから、せめて沙月先輩かマイハニーがいいな」


 ……こいつ。

 こっちが下手したてに出てるからって。


「沙月先輩! ……これでいいですか?」

「沙月先輩……いい響きだ。後輩はみんな気をつかってか五月川先輩としかよんでくれないからね。歩美だけの呼び方さ」


 なんだか猛烈に呼びたくなくなってきた。


「で、お願いは聞いてくれるんですかね?」

「沙月先輩、これから毎日お昼ご飯を一緒に食べてくださいっ! ってお願いされたら、聞いちゃうな」


 笑顔でたわごとを言い始める。


 ……こいつ。

 どうしてやろうか。

 毎日、生徒会長とお昼ご飯なんてことになったら、ねたまれ具合でいえば告白をばらされるのと大差がない気がする。


「じゃあ、私はこれで失礼し__」

「待った! なら週に3日、いや2日でいい。それでも駄目か?」


 私が生徒会室を出ていこうとしたら、慌てて呼び止められる。


 そして、悲しそうな表情をしながら上目づかいでお願いされる。

 普段、凛々しい人だけに破壊力がすごい。


「まあ、2日だけならいいですよ。仕方ないですね」

「やった、作戦成功だ。もう断るのはなしだからな」

 

 さっきまでの悲しそうな表情はどこへいったんだと言いたくなる。

 

 そういえば、心理学にドア・イン・ザ・フェイスなるテクニックがある。

 はじめに大きな要求をして断らせ、そのあと小さな要求をするといったものだ。


 冷静に考えると、これは上手いように扱われたかもしれない。

 まあ、もう仕方がないと開き直る。


「じゃあ、絶対に内緒にしてくださいね」

「五月川沙月の名にかけて約束を守ることは誓おう。それにしても、なんで隠したがるんだ?」

「いろいろ女子からやっかまれて面倒くさいんですよ。特に私なんか一般人ですから。沙月先輩は自分の人気をもう少し自覚した方がいいです」


 生徒会長はそういうことににぶそうだ。


「そうなのか、なにかあったら言ってくれ。これから一緒にいるためにも」

「私はそんなに一緒にいる気はないんですが」


 なんでこれから一緒にいるのが前提になってるんだ。

 わけがわからないよ……。


「なかなかつれないね。それにしても、あんまり自分なんかって言わないで欲しいな。歩美はこんなに素敵なのに」

「もうっ! そうやってすぐ口説くんですから」


 恥ずかしくなるから止めて欲しい。


「好きな人を口説くのは当然のことじゃないか」


 恥ずかしげもなく、そんなことを言う。

 それがさまになっているんだからすごい。


 そんな生徒会長相手にこれからどうなるか本当に不安になってくる……。 


キャラ設定メモ2(作者用)

・霞ヶ丘香澄/黒髪/ロング/私/副生徒会長/お人よし、真面目



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