2.告白と宣戦布告
突然の告白に場が一時、静まり返る。
落ち着け。落ち着くんだ私。
とりあえず、勘違いじゃないか聞いてみよう。
「さっきのって恋愛的な意味での付き合うですか?」
「もちろん!」
自信満々な返答。
けれども、それだけは無理なお願い。
女性同士の恋愛は否定しないどころか肯定しかしない。でも、自分がとなると話は変わってくる。
「いや、無理です。ごめんなさい」
「なぜだっ!?」
「いや、私たちほぼほぼ初対面じゃないですかっ!? 逆になんでオッケーされると思ったんですか!」
女性同士であることとかを差し引いても、断る理由ならある。
生徒会長とは、生徒会と風紀委員として絡むことがあったとしても事務的な会話以外はあまりした覚えがない。
「でも1回オッケーしたじゃないか。だから私たちはもう付き合っている!」
「……なら別れてください。クーリングオフでお願いします」
「嫌だ! 返品不能だ!!」
「子供ですかっ!?」
なんかこの人、口調まで子供っぽくなっている。
いつものクールな様子からは想像が出来ない。
「自分でいうのもあれだが、私は美人だ。それにスペックも高い。学内テストでは常に1番だし、ピアノのコンクールで全国1位を取ったこともある。不満があれば直すし、真剣に君に向き合う。それでも駄目か?」
不安げに懇願するような表情。
あらためて聞くと生徒会長は超ハイスペック。
そもそも私のほうがわけわからない。
じゃあ、なんで私に告白してきたのかと聞き返したくなる。
「私は付き合う相手にそんな高スペックは求めてませんし。理由を1つ挙げるなら、女性であることですかね」
「大切なのは心か。そんな考え方も素敵だ。ならば、まずは性転換手術か……」
「いや、それだけは後生ですから止めてください」
私の百合成分補給のためにもそれだけは止めてほしい。
生徒会長と風紀委員長のからみを楽しみに毎日を生きているといっても過言ではない。
それに、性転換はそんな気軽に決意するものじゃないよ……。
「そもそもなんで私なんですか? 他にもたくさんいい人いるじゃないですか。うちの風紀委員長とか。私の親友の霞ヶ丘香澄もおすすめですよ」
百合のためなら親友でも関係なく売るのが私だ。
あと、生徒会長と風紀委員長がカップルになるなら100万までなら払える。
私が百合小説で稼いだお金を費やそう。百合で百合を買う。真理だね。
「私はキミに救われたんだ。鮎川歩美に、いや正確にはあゆあゆ先生に」
え? 私は百合小説を書いてただけなんですが。
百合は世界を救うってやつですかね。やっぱり、百合は最強だね。
「どういうことですか?」
「私は一時期、全部が嫌になってしまってね。みんなが求める五月川沙月に嫌気がさしたんだ。それで、少し引きこもってしまってね。その時にふとした拍子であゆあゆ先生の小説に目が留まったんだ。運命の出会いってやつだね。その小説に前を向く勇気をもらったのさ」
果たして私はそんな大層なものを書いてただろうか……。
まあ、百合の可能性は無限大だからね。ぜんぜん、おかしい話ではない。
「そして、私は考えた。将来、結婚するならあゆあゆ先生のような素敵な人がいいと。あゆあゆ先生であるならありのままの私を見てくれると。そして、私を支えてくれると」
「なら友人じゃ駄目なんですか? 女同士ですし」
それならば私もすんなり受け入れることが出来る。
「え? 女性同士でのカップルこそが友人や男女カップルを超えた至上の関係であるとおしゃってたのはあゆあゆ先生じゃないか。私は先生とそんな関係になりたい!」
強く断言する生徒会長。
百合カップルこそが最強であると小説で書いたのは誰でしょうか?
そう、私です。
「そういえば、最近あゆあゆ先生の最新作を読んでて思ったんだ。このヒロインなんか私みたいだなって」
それは、気のせい……じゃないですね。
最近、この先輩をモデルとして小説を書いていた。
ちなみに主人公のモデルが風紀委員長。ヒロインが生徒会長。鉄板だね。
「いやいや、気のせいですって」
「最初は私も気のせいだと思っていた。だが、同じ高校に通っているとなると話は別だ。気高いながら努力家で繊細なヒロイン。やはりあゆあゆ先生ならありのままの私を見てくれると確信したんだ」
やはり私の女の子を見る眼に狂いはないぜ。
なんて、ふざけたことを考えてる場合じゃない。
矢継ぎ早に生徒会長が次の言葉を紡ぐ。
「もしかして、これは遠回しな告白だったのか? ならば受け入れよう」
それは間違いなく勘違いだ。
「いや、違いますって。やっぱり、付き合う以外のことでなにか希望はないですか?」
「では、私が付き合ってくれなきゃあゆあゆ先生のことをバラすって言ったら」
なんてことを言うんだ、この人は。
美人な生徒会長に脅されて百合に誘われるいたいけな少女。
うん、次の短編のネタにいいかもしれない。
……はっ。いけない、このままだと私がそうなってしまう。
「それだけは……。これでどうですか?」
そっと財布から3万円を取り出し机に置く私。
何だか不満げな表情の生徒会長。
仕方ない……。私は追加で2万円を置く。
「いや冗談だ。だからお金は戻してくれ……。私としても、それであゆあゆ先生の活動が止まると困ってしまうからな。それに、好きな人には脅してじゃなくて、本心から好きになってもらいたい」
「なら良かったです」
なんとかやり過ごした。
これで一安心だね。
「だから覚悟するんだ、あゆあゆ先生。いや鮎川歩美。私は全力で君を好きにさせてみせる」
いや、何もやり過ごせていなかった。
「とりあえず、そうだな……。内緒にする代わりにデートでも行こうか」
その後、携帯が返ってくる代償として、連絡先と次の休日の予定を奪われる。
『私を全力で好きにさせてみせる』
五月川沙月の宣戦布告により、私の人間関係は大きく動き出す。
キャラ設定メモ①(作者用)
・鮎川歩美/茶髪/ショート/私/副風紀委員長/明るく元気
・五月川沙月/銀髪/ロング/私/生徒会長/クール




