プロローグ
私、鮎川歩美。今年で高校2年生。
趣味は人間観察と百合小説の執筆。好きなものは百合。百合ラブ!
二次元百合、三次元百合ともに大好物。
女の子がイチャイチャしてるのって、なんであんなに心が躍るんだろうか。
今日も屋上から百合を眺める。
「ああ、女子高に来てよかった……」
ご満悦の表情でうなずく私。
女子高というものは割と世間から見て、女子を捨ててるだとか野暮ったいだとかっていうイメージがついている。
実際、ほとんどの女子高はそうだろう。いろいろな女子高に体験入学で行った私にはわかる。
まあ、女子だけの環境でだらしなくなってしまう人が多いのは仕方がない。
けれど、私は諦めたくなかった。
女子だけしかいないけど、清く正しく美しくを体現したような場所があることを。
だから、私は県でも有数のお嬢様学校へと入学した。
親が金持ちでもない私はめちゃくちゃ勉強を頑張った。
そのかいもあってテストは主席。無事に特待生として入学出来た。
いや、本当に頑張ってよかった……。
そのおかげで純粋培養なお嬢様たちを特等席で眺めることが出来ている。
「あんた、また気持ち悪い顔で外なんか眺めて……」
「誰かと思えばかすみんじゃん。一体、どうしたの?」
いつの間にか、私の後ろに立っていたのは親友の霞ヶ丘香澄。生徒会副会長。
強気な黒髪ロングの美少女。普段はポニーテールにしたりして後ろ髪をまとめている。
ツンデレだけど面倒見がいい。そのため、みんなから慕われている。
百合適正80%。なかなかの逸材。
「かすみんって呼ばないでって言ってるでしょ! こんな女好きの変態が風紀委員の副委員長なんて、うちの高校は大丈夫なのかしら……」
「何度も言ってるじゃん、かすみん。私が好きなのは百合であって、女の子じゃない。ここ重要」
女の子が好きなわけじゃない。
イチャイチャしてる女の子が好きなだけだ。
私自身は女の子を恋愛対象として見ていない。
「それに変な男が百合の間に挟まらないように誠心誠意、風紀委員として尽くしてるっていうのに……ひどいよ、かすみん……おろろ」
「ちょっと、泣かないでよ……。謝るから」
この女チョロい。
ちなみに、泣き真似をした回数はこれで優に二桁を超える。
素直なかすみん。可愛いね。
「で、かすみんが来た用事はなに?」
「あ、えーとね。会長があなたを探してたから。あなた携帯もつながらないし……」
「生徒会長が? 一体、何の用事だろう」
うちの生徒会長といえば数少ない百合適正100%の逸材。その名も、五月川沙月。
容姿端麗、文武両道を絵に描いたような完璧美少女。
ハーフらしく、両親譲りのプラチナブロンドがいつも綺麗に輝いている。
その容姿から、沙月姫なんて呼ばれているところも目にする。
うちの風紀委員長とのカップリングは至高。異論は認めない。
「携帯を拾ったから、生徒会室で待ってるって」
試しにポケットを探ってみると、所定の位置に携帯が見当たらない。
これは落としたかもしれない。まあ、見られて困るものでもないだろう。
とりあえず、朝からの記憶を探ってみる。
今日は朝から入学式準備。
午前中はいろいろと忙しく動き回っていた。
そして、今は屋上で昼休憩中。屋上で携帯に触れた記憶はない。
……一体、どこで失くしたのか。
そういえば、途中で生徒会長を見て執筆意欲が湧いて取り出したかも。
その後、風紀委員長に呼ばれて急いでたからその時かもしれない。
「あっ!?」
「急に焦ってどうしたのよ」
まずい、記憶が確かなら百合小説書いてる途中かも。それもヒロインのモデルが生徒会長のもの。
面倒だし、今まで失くすこともなかったから携帯にロックをかけていないのも問題だ。
見られるリスクが跳ね上がる。
私はこれでも優等生キャラで通っている。
私が百合好きなのを知っているのも、かすみん含め少数。
まずい、まずい、まずい。
そんなことが知られたら、そういうことに耐性のないお嬢様方から遠巻きにされてしまう。
近くで百合を見物することも出来なくなってしまう。それは私にとって死活問題。
「香澄、情報ありがとう。私、生徒会室に行ってくる」
「あ、ちょっと。転ばないようにね」
急がなければ。
私は携帯の中を見られてないことを祈って走り出した。
***
生徒会室の扉をコンコンコンと3回ノックする。
「風紀委員の鮎川歩美です。生徒会長に用事があって来たんですけど、生徒会長はおられますか?」
「あゆあゆ__鮎川さんかっ!? ちょっと待っていてくれ」
中からは生徒会長の声が聞こえてくる。
ん? なにか今、聞き覚えのあるワードが。
まあ、気のせいだろう。そうであってほしい。
中からは少しドタバタと慌ただしい音が伝わってくる。
髪はこれで良し、服装も問題ないといった声が漏れ聞こえてくる。
一体、生徒会長は中で何をしているんだろう?
「もう入ってきても大丈夫だ」
そんな声が室内から返ってきたので中に入る。
生徒会室にいるのは生徒会長1人。
相変わらず綺麗な人だ。生徒会長がいるところだけ世界が違うみたいに映えてみえる。
「き、急にどうしたんだ? 生徒会室に何か用事か、鮎川さん」
なにやら緊張した様子の生徒会長。
「友達から私の携帯を生徒会長が預かっているって聞いてきたんですけど、ありますか?」
「そ、そうだったな。でも、携帯を渡す前に1ついいか?」
なにやら、覚悟がこもった声。
携帯を渡すのってそんなに緊張するものかな?
もしかして、私が百合好きの変態だってことがバレてるのか。
私の頭に不安がよぎる。
「あなたが、いやあなた様があゆあゆ先生ですか?」
「__なっ!? なんでそれを」
生徒会長の口から飛び出したのは私の小説投稿サイトでのペンネーム。
バレてはいけない百合小説家としての名前、そのものだ。
「済まない、携帯を拾ったときに画面が点いたままで。中が見えてしまったんだ」
ああ、私の不注意で……。
これはもう隠せないと思い、口を閉じてもらう方向で何とかするしかないと腹をくくる。
「……そうです。私があゆあゆです。何でもするんでお願いだからこのことを黙ってくれませんか」
全力土下座。
必要とあらばお金も払う覚悟。
「……何でも? 今、何でもって言ったのか」
「はい、私に出来ることなら何でもします!」
靴でもなんでも舐めます!
だからバラすのだけは止めてください。
「で、ではな。あゆあゆ先生のことが大好きだ! 私と付き合ってください!」
「はい、それくらいなら喜んで」
反射的に答えてしまう。
何だ付き合えばいいだけか。心配して損した……。
ん? 付き合うってどういうこと?
買い物かなにかかな。
まさか恋人的な意味じゃないよね。私、女だし。
「本当か? 聞き間違いじゃないよな。では、今日から私たちは恋人だな!」
満面の笑みで私にそう告げる生徒会長。
__って、んんん?
ここから私の波乱万丈な学園生活が始まるのである。