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01.夫婦

はじめまして、七海アカリです。

さかもとなつきさんたちとの共作・いなり駅の日常を読んだことがある人は私のことを知ってるかもしれませんが、ほとんどの方が初めましてだと思います。


今回はこの小説を広げてくださり本当にありがとうございます。感想などもお待ちしていますので、ぜひお願いします。

「健やかな時も病める時も隣の者を愛すと誓いますか?」

神父の言葉に僕は頷く。

「はい。誓います。」

彼は満足げに微笑んだ後、僕の妻となる女性(おみな)に向き合う。

「あなたは健やかな時も病める時も隣の者を愛すと誓いますか?」

彼女も深く頷き、「はい。誓います」と言う。

すると神父は「では、誓いのキスを」と言った。


僕たちはキスをした。


☆*☆*☆


00.プロローグ

僕の名前は月城亮介(つきしろ りょうすけ)。とある私立女子校で数学教師をしている。先月結婚した月城彩乃(つきしろ あやの)(旧名:犬伏彩乃(いぬぶし あやの))はちょっと特殊な仕事をしている。

彼女は紅血師(こうけつし)というのをしている。


紅血師とは。

まず前提として、この世にはブフカと呼ばれるバケモノがいる。

ブフカは人を傷つけたり殺したりする。対象はあくまでも人だけらしい。そして、ブフカが見える人は限られている。僕はその見える人の部類に入る。これは生まれながらのことだから誰にも操作できない。また、ブフカは基本物理攻撃では死なない。でも、唯一殺す方法はそれらの傷口に犬伏家の血を一滴垂らすことだ。するとブフカは自然消滅する。

感づいている方もいるかもしれないが、彩乃は犬伏家の人間。だから紅血師なのだ。

犬伏家に生まれた者は本人の意思関係なく紅血師にならなければいけない。国からの命令でもあるため逆らえない。

ちなみに僕は青血師(せいけつし)である。青血師は、血によってブフカを消すことはできないが、呪文を使ってある程度痛めつけることができるのだ。これは、家系などに関係なく、見える人なら大体できる。


01.日常

「仕事行ってくるね」

制服に身を包み、彼女は今日も家を出て行く

「行ってらっしゃい」

彩乃の朝は早い。6時頃には出発する。僕の出発時間は7時頃に出発するから1時間はぼっちタイム。

ふと窓の外を見ると、今日もブフカは存在しいる。

ビルを這っているものや電車の上に乗っているもの、

ブフカには決まった形がない。つまり、虫型もいれば魚型・軟体動物みたいなやつもいる。共通点はパッと見グロいということと、それらが歩いた跡には粘着性のある液体がある。簡単に言ってしまえば、とにかく気持ち悪いということだ。そんなやつと戦って血を渡しているのだから彩乃は本当にすごいと思う。僕は見るだけで逃げてしまいたくなる。


さぁ、僕もそろそろ家を出よう。

人が詰め込まれた阪和線に乗り、吐き出されるように天王寺駅で降りる。改札を抜けて、駅から出てすぐのところにあるのが僕が勤めている学校・私立光藍女子学園だ。

校門をくぐると沢山の生徒たちが声をかけてくれる。

「月城先生おはようございます」

2人組で来てくれる子や

「つっきーおはよ!」

やんちゃな子など多種多様な生徒が通うこの学校は割と楽しい。そして、彩乃の母校だからちょっとは彼女のことを知れるかなと思ってここの先生をやっている。100%私情だが。

職員室に入ると、僕のクラスの副担任の中野俊輔(なかの しゅんすけ)先生が声をかけてくれた。

「新妻さんと仲良くしてますか?」

「ああ。」

「いいですね。結婚」

「幸せだよ」

今日の小テストを作りながら中野先生と会話するのは結構楽しい。

「そういえば、奥さん仕事何してるんですか?」

「紅血師」

別に隠さなくてもいいと言われているので素直に打ち明けると彼は目を見開いた。

「あれって空想上の仕事じゃないんですか…」

「ブフカ見える?」

「ブフカって何ですか?」

あ、こいつ何も知らないタイプのやつだ

「いや、何でもない」

パソコンに向かって集中すると、自然と嫌な考えは抜けていく。中野先生もこちらをまじまじ見ていたけど、もうその視線も感じなくなった。


始業のチャイムが鳴り、校長先生が職員室に入ってくる。

教員は全員起立し、彼女の話を聞く。

「おはようございます。本日も何事もなく朝を迎えられたことを感謝して、神にご挨拶をしましょう」

「「「父と子と精霊のみなによってアーメン」」」

この学校はキリスト教系の学校だ。正直、僕自身は信者じゃないからよくわからないことが多いが。


教員朝礼が終わって、中野先生と中学一年のクラスへ向かう。

「おはようございます」

そういいながら教室に入ると、27名全員が今日の小テストの勉強をしていた。

「はい。じゃあ起立」

全員が起立したのを確認して、「おはようございます」と言うと、彼女らも「おはようございます」と返してくれる。


今日の1限目は数学だ。つまり僕のクラス。

「ハイ授業はじめます起立」

みんなが立ったのを確認してから、「礼、着席」と淡々と進め、授業を始める。

生徒たちが「健やかな時も病める時も隣の者を愛すと誓いますか?」

神父の言葉に僕は頷く。

「はい。誓います。」

彼は満足げに微笑んだ後、僕の妻となる女性(おみな)に向き合う。

「あなたは健やかな時も病める時も隣の者を愛すと誓いますか?」

彼女も深く頷き、「はい。誓います」と言う。

すると神父は「では、誓いのキスを」と言った。


僕たちはキスをした。


☆*☆*☆


00.プロローグ

僕の名前は月城亮介(つきしろ りょうすけ)。とある私立女子校で数学教師をしている。先月結婚した月城彩乃(つきしろ あやの)(旧名:犬伏彩乃(いぬぶし あやの))はちょっと特殊な仕事をしている。

彼女は紅血師(こうけつし)というのをしている。


紅血師とは。

まず前提として、この世にはブフカと呼ばれるバケモノがいる。

ブフカは人を傷つけたり殺したりする。対象はあくまでも人だけらしい。そして、ブフカが見える人は限られている。僕はその見える人の部類に入る。これは生まれながらのことだから誰にも操作できない。また、ブフカは基本物理攻撃では死なない(多少は弱るが)。でも、唯一殺す方法はそれらの傷口に犬伏家の血を一滴垂らすことだ。するとブフカは自然消滅する。

感づいている方もいるかもしれないが、彩乃は犬伏家の人間。だから紅血師なのだ。

犬伏家に生まれた者は本人の意思関係なく紅血師にならなければいけない。国からの命令でもあるため逆らえない。


「仕事行ってくるね」

制服に身を包み、彼女は今日も家を出て行く

「行ってらっしゃい」

彩乃の朝は早い。6時頃には出発する。僕の出発時間は7時頃に出発するから1時間はぼっちタイム。

ふと窓の外を見ると、今日もブフカは存在しいる。

ビルを這っているものや電車の上に乗っているもの、

ブフカには決まった形がない。つまり、虫型もいれば魚型・軟体動物みたいなやつもいる。共通点はパッと見グロいということと、それらが歩いた跡には粘着性のある液体がある。簡単に言ってしまえば、とにかく気持ち悪いということだ。そんなやつと戦って血を渡しているのだから彩乃は本当にすごいと思う。僕は見るだけで逃げてしまいたくなる。


さぁ、僕もそろそろ家を出よう。

人が詰め込まれた阪和線に乗り、吐き出されるように天王寺駅で降りる。改札を抜けて、駅から出てすぐのところにあるのが僕が勤めている学校・私立光藍女子学園だ。

校門をくぐると沢山の生徒たちが声をかけてくれる。

「月城先生おはようございます」

2人組で来てくれる子や

「つっきーおはよ!」

やんちゃな子など多種多様な生徒が通うこの学校は割と楽しい。そして、彩乃の母校だからちょっとは彼女のことを知れるかなと思ってここの先生をやっている。100%私情だが。

職員室に入ると、僕のクラスの副担任の中野俊輔(なかの しゅんすけ)先生が声をかけてくれた。

「新妻さんと仲良くしてますか?」

「ああ。」

「いいですね。結婚」

「幸せだよ」

今日の小テストを作りながら中野先生と会話するのは結構楽しい。

「そういえば、奥さん仕事何してるんですか?」

「紅血師」

別に隠さなくてもいいと言われているので素直に打ち明けると彼は目を見開いた。

「あれって空想上の仕事じゃないんですか…」

「ブフカ見える?」

「ブフカって何ですか?」

あ、こいつ何も知らないタイプのやつだ

「いや、何でもない」

パソコンに向かって集中すると、自然と嫌な考えは抜けていく。中野先生もこちらをまじまじ見ていたけど、もうその視線も感じなくなった。


始業のチャイムが鳴り、校長先生が職員室に入ってくる。

教員は全員起立し、彼女の話を聞く。

「おはようございます。本日も何事もなく朝を迎えられたことを感謝して、神にご挨拶をしましょう」

「「「父と子と精霊のみなによってアーメン」」」

この学校はキリスト教系の学校だ。正直、僕自身は信者じゃないからよくわからないことが多いが。


教員朝礼が終わって、中野先生と中学一年のクラスへ向かう。

「おはようございます」

そういいながら教室に入ると、27名全員が今日の小テストの勉強をしていた。

「はい。じゃあ起立」

全員が起立したのを確認して、「おはようございます」と言うと、彼女らも「おはようございます」と返してくれる。


今日の1限目は数学だ。つまり僕のクラス。

「ハイ授業はじめます起立」

みんなが立ったのを確認してから、「礼、着席」と淡々と進め、授業を始める。

生徒たちが小テストに取り組んでる最中、窓の外を見てみると、運動場でブフカが生徒たちを襲っていた。

「あっ!!」

思わず窓に張り付いていた。体育の授業中の生徒を襲ったのだろう。残念ながら僕には何もできない。また、体育教師は気づいていない。

ずっと窓の外を見ていたものだから、小テストを受けていた生徒はこちらを見ていた。

「ちょっと先生忘れ物してきたから一旦職員室戻るで。帰ってくるまでにそれ終わらせること」

大急ぎで教室を出る。行先はもちろん職員室ではない。


運動場だ…


☆・☆・☆


比較的楽な恰好で仕事をしているものの、動きづらいことに変わりはない。

ブフカを見てみると、生徒2名が既にそれの口に入っていた。ここから助けるのは至難の業だ。


やってみるだけやってみるか…


「青血の名において、目前にいる化物を攻撃せよ」


目の前のブフカはうめき声をあげて生徒を一人吐き出した。

あと一人…

もう物理攻撃でいっか。

ブフカには核がある。それは、脳の中心部。そこを殴るとかなり弱る。


思い切りそこを殴ると、脳から紫の液体が出てきた。よし、撃てた。

もう一人の生徒も吐き出された。ブフカはかなり弱っている。

あとは彩乃を待つだけだ。この気配でもう彩乃はここにブフカがいることを理解しているだろう。

生徒たちは当然おびえ切っていた。

「月城先生。どういうこと…」

震えた声で一人が聞いてくる。

「青血の名において、彼女らの恐怖を消し去れ」

ふたりの脳に触れながら言うと、もう彼女らは今のこと忘れた。彼女らを授業に返すと、彩乃が来てくれた。

「勤務時間中にこんなことしてていいの?」

呆れたように笑いながら指をナイフで傷つけ血を一滴絞り出す。見てるだけで痛々しい。

「じゃ、行ってくるね」

手を振って街の喧騒に消えていく妻を見届けてから教室に戻る。


授業残り時間20分。普通にやばくね。

「では小テスト答え合わせするぞ~」

校長先生とかが教室見に来てたら終わってたな。完全にクビだわ

「はい授業終わります起立」

号令を終え、休憩時間に入った。さっきのことは先生にはバレていないみたいだった。安心。(汗だくだった理由は色々聞かれたが)


02.日曜日

今日は日曜日。つまり教師も紅血師も休めるということ。だから僕は一日だらだらと過ごすつもりだったが、そうはいかないらしい。

「今日は!京都に!行くの!」

仰向けに寝ている僕に彩乃が馬乗りになって顔を覗き込んで叫んでいた。こんな日に京都とかふざけてるの?まぁ明日祝日だから別にいいけどさ。

正直超軽い。ちゃんと食べてんのか。

「今何時だよ」

「5時だね☆」

そんなノリノリで言うことじゃないでしょ…

「行くから。行くからもうちょっと寝かせて」

「電車6時発だから!さぁ早く!」

はぁ?京都だろ?

「10時発でも1時間30分くらいで着くよ」

「暴れてるんだって。ブフカ」

任務かよ…

「そこで、優秀な青血師の亮介くんについてきてもらいたのだよ」

そんなに言われたらついていくしかないじゃん…

「だから、ついてきて。お願い」

涙目で顔を手で覆う彼女は正直可愛かった。でも、この手であの化物たちを殺していると思うと怖いなとも思う。

「行く。すぐ準備するからさ」

一瞬言葉に詰まる

「降りて?」


青血師の制服に着替えて家を出る。

いつも職場に行くときに使う駅を通り、天王寺駅まで向かう。そこから京都へだ。

ちなみにだが、紅血師と青血師の制服は違う。言ってしまえばどちらも巫祝の服なのだが、上下の色が違う。上はどちらも純白。下は、紅血師が臙脂色、青血師が群青色だった。戦うときは基本この服装だが、以前学校で起こったときのように緊急の時は普通の服ですることもある。

そして今は彩乃も僕もその服を着ている。正直に言う。浮いている。

彩乃は慣れているのか大して気にしておらず、うきうきと電車の窓の外を見ている。

「やっぱ亮介君は制服似合うね!」

満面の笑みでこちらを見てくるので思わず目を背ける

「彩乃の方が似合ってるよ。なんていうか、しっくりくる」

「ありがと」

持っていた小説を制服の一部であるウエストポーチから出し、読もうとした。ウエストポーチにはブフカ攻撃用のナイフが入っている。呪文で小さくしているが、それを解くと長さ1メートルは超える。僕たちは呪文攻撃と物理攻撃しかできないのだ。

「そうだ。今日は犬伏家全員集合だからね。あと、紅血師の家族の青血師も総動員」

「は?」

紅血師は基本青血師と結婚する。つまり、かなりの人数が集まる。

「100人は超えるよ」

「そんなに大きな任務?」

「もちろん」

そう言って彼女はスマホに今回の任務の詳細を送ってきた。


ーーーーーーーーーー

4月21日(日)の任務


【被害】

・京都・渓流寺において発生したA級ブフカによる地元住民攻撃。

・A級ブフカに寄せられてきたB級ブフカの暴走。

・B級ブフカ激増

・A級ブフカの数は少なくとも3体。


【主力班】

・1班 彩乃(紅)・亮介(青)

・2班 雅(紅)・悠馬(青)

・3班 宗太朗(紅)・千代(青)


残りの人員には以上の3班の後衛を要請する。

ーーーーーーーーーー


ブフカは6つの種類に分けられる。

A級、B級、C級、D級、E級、F級だ。当然、A級に近づけば近づくほど強さは上がっていく。この前学校で倒したブフカは恐らくE級相当だ。普通、A級なんてそうそう現れない。

また、紅血師は4種類に、青血師は3種類に分けられる。

今回の主力班は皆A級紅血師・青血師だ。つまり、これでも僕と彩乃はA級紅血師・青血師なのだ。


「あれ?彩乃じゃーん」

天王寺駅で2班担当の中条雅(なかじょう みやび)さんとその夫の中条悠馬(なかじょう ゆうま)くんに会った。

「雅姉?」

雅さんは彩乃の従姉妹だ。

「一緒に行こ―!」

もちろん雅さんと悠馬くんも巫祝服を着ている。

「今回やばくない?」

「それな?」

彼女たちの会話を聞いていると、うちの学園の生徒たちの会話にも聞こえてくる。つまり若い。

「亮介くんはA級相手にしたことあるの?」

悠馬くんと雅さんは僕と彩乃より5歳年上。つまり32歳。

「あるよ。僕もA級」

「あ、そうだったね」

このジジイ絶対僕のこと下に見てただろ

「雅姉は制服似合うよね」

「そう?」

「うん」

雅さんはショートカットに吊り目で『カッコいい』という印象が強い。それに対して彩乃は茶髪ハーフアップに丸目で『可愛い』という印象を受ける。どちらも制服は似合う。

「亮介君も似合うよね」

雅さんは急に話を振ってくるときがある

「僕は全然」

苦笑いで言うと、悠馬君は「亮介くんは背が高いからね」と付け足す。

「私のダンナさまは世界一なんだからねっ!」

彩乃がニコニコしながら言う。可愛い。

「ありがと」


☆*☆*☆


京都駅に着いた。すると、もう主力班の紅血師と青血師6人は集まっていた。

真ん中に立つ老夫婦は犬伏宗太朗(いぬぶし そうたろう)犬伏千代(いぬぶし ちよ)だ。犬伏家の当主夫婦であり、彩乃と雅さんの祖父である。宗太朗さんの方が紅血師で、千代さんの方が青血師だ。

「これがブフカの写真だ」

宗太朗さんが出した写真を見る。

恐らくこれがA級ブフカだろう。見た目もグロテスクだ。僕たち1班が担当するのは目が6つ、腕が4本、脚が3本あった。口には鋭利な歯があって、舌がなんとも気持ち悪い。

「では、渓流寺まで行ってきなさい。」


彩乃が呪文を唱えると、瞬く間に渓流寺に着いた。

「うわ。派手にやってんね」

彩乃が苦笑いを浮かべる。

「ねぇ、彩乃」

「何?」

「写真、おかしくない?」

今思えば、変だ。

「ブフカは写真には写らないはずだ」

そう言うと、彩乃は血相を変えた。

「なんで…」

さっきの写真はスマホに送られてきていた。

「やっぱり写ってる」

意味が分からない。今までこんなことはなかった。

「どういうこと」

彩乃は冷静になって考えようとするが、やはり混乱が勝ったらしい。

「実体があるのかも。普通ブフカって紅血師の血垂らしたら消滅するでしょ?でも、このA級は血を垂らしても自然消滅はしなくて、ただただ息絶える…とか?」

一つの仮説を立ててみたが、本当のところはよくわからない。

「とりあえず、物理攻撃と血液でどうなるかやってみよう」


ウエストポーチから武器を取り出し、元の形に戻してやる。

「じゃあ行きますか」

A級は気配ですぐにどこにいるか分かる。

瞬時に居場所を特定し、攻撃に向かう。

「四重の塔あたりじゃない?」

「そうだね」

全力疾走しながら会話していると、耳のイヤホンから連絡がきた。

『渓流寺周辺3キロ範囲の住民は避難させました。しかし、国の重要文化財も多くあるため、建物の破壊は防ぐように。』

「「了解です」」


A級ブフカは塔をよじ登っていた。

「よく来たな。紅血師」

喋れんのかよ…

喋れるということは知性があるということだ。つまり、戦略的交戦ができるブフカであるということ。これは…厄介だ。

「僕のこと忘れんなよ!!」

さらっと青血師無視しやがってこのバケモノが。

「紅血師の名において、曼殊沙華の開花とともに散れ」

彼女がそう言った瞬間、本来なら狙ったA級の身体に糸が通り、原形をなくすくらいぐちゃぐちゃになるはずだった。


瞬間、彩乃の手首が吹っ飛んだ。


「え?」

彩乃の左手(・・)が目の前に転がっている。

鏡鬼(きょうき)だ」

まだD級青血師だったころ本で読んだ記憶がある。

「キョウキ?何それ」

「鏡の鬼って書くんだよ。こっちがどれだけ呪文ぶつけても鏡みたいに全部返してきやがる」

彩乃は目を丸くする

「それに、再生能力も高いから血を入れるタイミングが難しい。実体があるから物理攻撃も簡単にはいかないしね。」

「つまり最強ってこと?」

「そういうこと。でも、倒せないってわけじゃない」

「どうすればいいの?」

簡単さ。

「核を狙えばいい」

その核の場所が分かれば、の話だけど。

核はさっきの彩乃の呪文のような強い呪文でしか潰れてくれない。つまり、むやみやたらに呪文を撃てばその分自分にも返ってくる。

「超難しくない?」

「だからA級なんだよ」


まずは目を刺した。

顔に核があることは滅多にないため倒すことに意味はないが、視覚をなくすことでこちらの動きは読まれない。つまり、少しだけ戦いやすくなる。

「呪文使えないってことは私何もできないんだけどー!」

僕が鏡鬼の頭の上に立っているとき、彩乃が下から叫んだ

「後衛呼んできてくれ!!」

「分かった!!」

目をすべて突き刺した。

「青血師に目をやられるなど、童も劣ってしまったな。」

鏡鬼は「はっはっはっ」と不気味な笑い声をあげ、襲い掛かってきた。

首を切ろうと思ったが、そこに刀を振り下ろした瞬間、鏡鬼は姿を消した。

瞬間移動までできるのかよ…

辺りを見回すと、池の真ん中に鏡鬼はいた。

水上戦か。つくづくやりにくくしてきやがる。

東屋の屋根に上がって、鏡鬼の腕に飛び乗る。ウエストポーチから紅血師の血が入ったスポイトを取り出し、鏡鬼の皮膚に突き刺した。

普通は傷口から入れるのだが、このスポイトは先が尖っているため刺せば注入できる。

普通は一滴でいいが、こいつは体積が半端じゃないから軽く1Lは入れる。

一瞬、こいつは呻いた。暴れたため、僕は振り落とされた。

これで死んだはずだった。形は残ると思っていたから予想通りといえば予想通りだ。


しかし、A級をなめてはいけない。


「亮介くん!!後ろ!!」

男の人の声が聞こえた。

後ろを見ると、ブフカが僕を喰おうとしていた。

すぐさま逃げ、もう一度ブフカの腕によじ登る。さっきのスポイトはまだ刺さったままだった。

それを見たうえで肩まで駆け上った。そして、首の脈を自分の刀で切った。


「死ねえええええええええええええええええええええ!!!!!!!!」


僕はこいつが、鏡鬼が許せなかった。

ブフカの暴走動機は、基本遊戯として楽しむだけだと言われている。人を傷つけることが、殺すことが遊戯なんかであってたまるか…!!


今の首攻撃で鏡鬼は気絶した

「彩乃っ!!!」

「分かった!!」

彩乃も素早く首まで登ってきて、切られた左腕を傷口へ向ける。

ぽたぽたと血は垂れる。でも、痛々しい彩乃の傷口もむき出しだった。

紅血師は、体の一部がなくなっても翌日には戻っている。ただし首を除いて。だから、彩乃の左手も明日には元通り。

「死んだ…?」

「死んだね」

やはり、形は残るらしい。ぐちゃぐちゃになって池のなかに入っていった。

「よかったよかった 亮介くんは怪我してないね」

さっきの男の人が歩み寄ってきた。

声を聞いたときは分からなかったが、声の主は犬伏健太(いぬぶし けんた)くん。彩乃のお兄さんだ。その後ろにいる小柄な女性が、健太君の奥さんの犬伏心(いぬぶし こころ)さん。

「心配するの亮介君だけなの?」

彩乃が苦笑気味に自分の兄を見つめる。

「お前の手は明日には戻ってるだろ。それより、左手探さなくていいのか?」

「え?」

「結婚指輪。左手の薬指にあるだろ」

「あ、そうだ。探さなきゃ」

周囲を見渡すと明らかに場違いなグロテスクな物体が転がっている。

「あったあった」

彩乃は躊躇なく左手を掴み取って、「亮介君取って~」と差し出してくる。

元妻の左手から薬指にはまっている指輪を抜き取り、彼女に渡す。

「明日には付けれると思う」

「うん」

一息ついたところで、「えーっと言いずらいんだけどさ」と健太君が切り出す。

「今回、彩乃の血でブフカが死んだわけじゃないんだよね」

「「は?」」

「心、説明してあげて」

心さんは青血師でありながらブフカ研究所の研究員だ。

「鏡鬼は、彩乃ちゃんの血ではなく、亮介さんの血で死にました」

どういうことだ?

僕の血は青血師の血だ。つまり、見える人の血なら何でもよかったってこと?

「でも、青血師ならだれでもよかったというわけではありません。月城亮介さん。あなたの血が適合したのです。つまり、A級を倒すにはあなたの血が必要ということです。」

僕個人の血が必要…?

「じゃあ私が血を出したことは無意味だったってことですか?」

「悪い意味では意味がありました。A級ブフカにとって紅血師の血は栄養剤になる。なので、あんなに暴走できたんです。でも、亮介さんの血はそれをはるかに超えるくらいの力を持っていた。その結果がこれです。」

1Lのスポイトも鏡鬼にとっては栄養剤だったってことか…

「原因は私にもわかりません。また研究を進めていきます。」

「とのことだそうだ。まぁ今日はもう日没だ。屋敷へ行こう」

泊まる気なかったんだけど、なぁ…


犬伏家は京都が本拠地だ。つまり、犬伏邸も京都にある。

凄く大きな和風屋敷で、周辺の建物がおもちゃに見えてくる。

門から入り、また数十メートル歩いて、やっと扉に辿り着く。観音開きの重厚な扉を開けると、これまた広い土間を通して居間に着く。

「ご苦労だった。着替えはもうすでに用意してあるから着替えてきなさい」

ボロボロの制服で入ってしまったので宗太朗さんに指摘され、指定された部屋で着替えた。もう何度も来ているのに、いつも自分が使う部屋まではひとりで行けない。


「本日の成果を発表する。B級ブフカ半数減、A級ブフカ1体減、A級ブフカ2体封印だ。住民避難は解除済み。」

宗太朗さんの発表に姿勢を正して聞きつつ、制服を脱げたことに楽さを感じていた。

「心さんから報告があるそうだ」

彼の言葉で心さんが立ち上がる。

「A級ブフカを殺す方法が分かりました。」

彼女の言葉に一瞬場が騒めく。今までA級ブフカは一時的に封印するだけだったのだ。封印したとしても、早くて3年で解けてしまう。

「月城亮介さんの血を傷口に垂らすと死ぬことが分かりました。また、紅血師の血では死ぬどころかむしろ元気になることも分かりました。科学的研究は今後進めていく予定です。」

僕と彩乃、健太君と心さん以外は豆鉄砲を食らったように目を点にした。

「詳しいことはまた分かったら順次報告お願いします。今宵は宴としよう」

宗太朗さんの一言で、集まったみんなが「いただきます」と言って目の前の食事に手を付ける。


ここにいるのは、直接的に犬伏家と関係がある人。

雅さんと悠馬くん、宗太朗さんと千代さん、健太くんと心さんに加えて、大学生で彩乃の妹・犬伏美咲(いぬぶし みさき)ちゃん、雅さんの弟の犬伏夏陽(いぬぶし なつひ)くんとその妻の犬伏千歌(いぬぶし ちか)さんが来ていた。彩乃と雅さんのご両親は任務に出ていて来ていない。


「ほらほら、亮介くんも飲みなさいよ~」

隣から悠馬くんがお酒を勧めてくる。完全にこの人酔ってる…

「そうだよ!亮介くん!飲みなさいよ~!」

彩乃まで…

僕はそんなにお酒に強くないからあまり飲まないようにしているというのに。

「僕はもういいかな」

さらっとウーロン茶を手にとり、喉に流し込む。

「月城くん。お風呂が空いたよ。入ってきなさい」

宗太朗さんに優しい笑顔で言われたので、お風呂場に向かった。宗太朗さんも紅血師モードのときは怖いってイメージ強いのに、普通はすっごい優しいおじいちゃんって感じなんだよな。


服を脱ぎ、お湯に浸かると、一気に疲れが押し寄せてきた。

僕の血で死んだブフカ。僕の血じゃないと死なないA級。

もう、世の中の条理が分からなくなってきている。

僕自身、ブフカと戦うようになったのは彩乃と結婚してからだった。それまでは、何か気持ち悪いものは見えるけど、極力無視して生活してきたのだ。

青血師の呪を学ぶ青血呪文高等学校は一応通ったものの、卒業してからは関わってすらいなかったし、お見合いで彩乃と出会うまでほとんど忘れていたことだったのだ。

正直に言うと、今でもブフカは怖い。戦うことも怖い。逃げたいって思うこともたくさんある。同年代の友人たちを見ていると、『こいつらは一生僕が感じる恐怖を感じずに生きるんだな』と思うことだってある。

だんだんのぼせてきた。そろそろ出よう。

裸身を水面から引っ張り出し、服を着て、だるい体を引きずってさっきの大広間に行く。


「お先に失礼しました」

「気にせんでいい」

宗太朗さんは優しい。彩乃のことも孫として相当愛したんだろう。

「彩乃を連れて行ってやってくれんか。この状態で風呂に入れば危ないじゃろ」

「そうですね」

彩乃をお姫様抱っこし、僕たちのために用意してくれた部屋に向かった。

布団を敷いて彼女を寝かせると、とろんと目を向けてきた。酔った時はいつもこうなるのだ。まったく、僕の理性も考えてほしいものだ。

「私ね、亮介君」

「うん。どうしたの」

「すっごく、怖いの」

予想外の発言に驚いた。

「血を出すのも痛くて怖い。でも、何よりね」


大切な人たちがあの化物のせいで傷つくのが怖いの。


目を見開いた。

僕は彩乃の頭を撫でながら言った。

「僕も怖い。逃げ出したいくらい怖いよ。でも、大切な人を傷つけないために戦う。もちろん彩乃のことも傷つけたくない」

「亮介くんは傷つかない?」

「僕は自分より彩乃を優先するよ」

そんな無責任な。

我ながら思った。でも、彩乃はそれに「ありがと」と言葉一つ零した。「でも、自分の身体を一番に考えてほしいな」と言って、彼女は眠りに落ちた。


僕は彼女を、犬伏家を守れるのだろうか。

最後まで読んでくれてありがとうございました。

続きもよろしくお願いします。

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