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第4幕:「斥候」

第4幕豆知識

【アルダガ村】…メイヤーナ王国南東部のメルヴ地方に存在する村。街道から外れた位置にあり狩猟と果樹栽培が主な収入源。女性が多い。

【ソウルキーパー】…死者がその魂を還さず、死ぬ間際の強い意志や感情、または強大な精神力などによって、魂のみの存在として世界に在り続ける姿。

第4幕:「斥候」


◇新生王国暦5年 陽光季70日



 俺の使命は敵の位置や規模、その編成をつかみ、情報を仲間の元へと持ち帰る事。

 それが斥候の仕事だ。

 だが今回はしくじった、森を進み敵を探していたら突然射かけられて怪我をした。

 もうだいぶ前になるが、奴めしつこく追ってきてやがる。

 しかも大事な行動記録を入れた鞄もあの時に失ってしまった、あれも回収しなければ…。

 失敗は許されない、新たな主に働きを認めてもらい、村で待つあいつらに袋いっぱいの金貨を届けてやるんだ!




「さぁこちらへどうぞ、田舎ですが森の幸は豊富な村です」

「おお、猪の丸焼きに蜂蜜酒ではないか!これは豪勢なもてなしだ!」

「エグレン様、我々はソウルキーパー討伐に来たのですよ」

「だが出された酒や食事を断るのは失礼というものだ、兵たちの士気も上がる、さぁ頂こう!」


(どうやらお気に召して頂けたようだ、よかった)

事前にしっかりと歓待の準備をして辺境伯軍を迎え入れた【アルダガ村】の村長は、内心ほっとしていた。

王都から遠く離れたこの地では、装飾の施された食器や大量の金貨で取引される上等な肉や美酒などあろうはずもない。

相手は貴族、失礼があってはならないし、かと言って無い袖は振れない。

それでも助けが必要だと思ったからこそ、なんとか村で調達できる食材を工夫して大々的な酒宴の席を作り上げた。

老人たちは手慣れた手つきで楽器を演奏し、村の多数を占める女衆は兵士たちに自慢の蜂蜜酒を注いでまわっている。

最初はどのような態度でいればよいのか計りかねていた兵たちも、エグレンを始めとするベテラン騎士たちが野太い声で歌い始めた頃には、村人と意気投合してそこら中に笑顔が溢れた。

(あのエキル将軍のご子息と聞いてはいたが、親子というのはやはり似るものだな)

緊張していた村長の頬にいつもの深いしわが戻り、酒を楽しむ余裕も出てきてふと思う。

以前の戦争時には、南から敗走してきた将軍が村を略奪した事があった。

逆に南から凱旋してきた将軍が、村に戦利品を分け与えてくれた事もあった。

軍隊に助けを求めるのは賭けだったが、この人たちなら大丈夫そうだ、と。

彼の願いはただ一つ、戦争が終わって世界が平和になった今、この村だってのんびりと生活させて欲しいと。


「それで、例のソウルキーパーですがどこに現れるのですか?」

「かなり以前から、北側の森の中で狩人や山菜を採りに行った者たちが見かけていたようです。森の中を彷徨っているようで、近づかなければ危険もありませんでした」

「(おい、これは絶品だな!もうひと塊貰えるか)」

「それではなぜ助けを求める事態に?」

「最近になって、遭遇したという場所の報告が村に近づいて来ているようなのです、それに以前よりも姿がはっきりと見えるようになったと」

「村長、ソウルキーパーであれば時間の経過と共にその存在は薄れ霧散していくもの、生前の意志に縛られているなら行動が変化する事も無いはずですが…」

「(ん?おおっすまないな!まったくなんて濃厚な蜂蜜酒なんだ)」

「ソ、ソウルキーパーであるのは間違いありません!私も数年前に一度見かけておるのです!」

「まぁそこに居るのがソウルキーパーだとして、本当に討伐は必要かなぁ、無害ならこちらとしても被害は出さずに済ませたいところだけど」

「お、お待ちを、奴め昨季頃より活動的になっていて、村人を見つけると追いかけてくるそうで。さらには先日、矢まで放ってきたとか」

「矢を…?それは確かに、まずい状況だな」


【ソウルキーパー】は死ぬ間際の強い意思や想いが、その魂をその地に留まらせたもの。

霧散し空へ還る日を先延ばしし、それでもやがては摩耗し、消える。

だが、より意思が強ければ、より想いが深ければ、それだけ長い時を得、同時に生前の人格や技、愛用の品なども具現化する。

長らくその地に存在しており、明確な意志のある行動を取り、武器などの道具も使いこなすという事は、それだけ強いソウルキーパーであると言える。


「ファヴァル、はぐれソウルキーパーかと思いきや、少々やっかいな事になりそうだな」

「そうだね、ずっと前からそこに居て矢を扱える技量も残っている、生前は狩人か弓兵か…」

「(むあっはっはっはっはっはっは!肉も!酒も!王宮に勝るとも劣らんぞ!)」

「叔父上!!!」

「エグレン様!!!」


しっかりと話を聞いてくれる辺境伯に期待を膨らませていた村長は、内心考え始めていた。

軍隊に助けを求めるのは賭けだったが、この人たちで大丈夫だろうか…?、と。


「ところで、誰か先行して偵察に出していたんじゃないの?」

「ああ、射手隊の志願兵に南部出身の元狩人がいたから軽騎馬で送り出したんだが…」

「軽騎馬で単騎先行したなら、2日は早く到着したんじゃない?」

「あ、あの、その方なら確かに3日前に村に来て、水と干し肉だけ求めてすぐに北の森へと向かったそうです、馬もお預かりしています」

「であれば、我々の到着に合わせて一度報告に戻るはずなんだが…何かあったか?」

その後もソウルキーパーに関する情報交換と、村人を巻き込んだ大宴会は続いたのだった。




 いったい何処にあるのか、やはり鞄も奴に持ち去られたのか?

 あの鞄は妻が俺のために用意してくれたもの、そして娘の手作りのお守りも縫い付けられている。

 帰りを待っている家族がいる、報告を待っている主がいる、怪我の痛みは治まらないが休んではいられない。

 息は整った、足跡や気配は徹底的に消した、少なくともここ数時間は奴を見かけていない。

 …行こう、鞄を取り戻すために、今の状況を正確に把握するために。




翌日は朝からどんよりとした雲が空を覆い、やがて降り始めた雨が歩哨の外套を濡らす。

エグレンの大宴会に巻き込まれた兵や村人たちは未だ寝床にいたが、当の本人はいつも通りの時間に目覚めて朝の素振りを始めた。

そんなエグレンを見ながら、ファヴァルは偵察に出た者の帰りと追加の部隊派遣に頭を悩ませていた。


「夜通し村の四方に篝火をたいてもらったけど、結局戻って来なかったね」

「そうだな、あの元狩人の射手はここら辺の気候や森の性質は熟知している様だったし、これは本当に何かあったかな?」

「まさか、例のソウルキーパーに」


宴会場跡で作戦会議を開いていた面々の頭を最悪のシナリオがよぎる。

戦えば無傷とはいかないのが戦場、これから砦を陥としに行く辺境伯軍とて一人も欠ける事無く目標を達成する事は出来ないだろう。

だが、本戦を前に立ち寄った村での頼まれごとで、早々に兵を失うのは何としても避けたかった。


「とにかく、昼まで待って戻らないようなら森で動きやすい兵を中心に救助と討伐の部隊を編成しようか」

「そうだね、僕とデノンで歩兵100人と射手10人、叔父上にも同じだけ率いてもらって2隊で動こう、残りは村で待機だ」


そして昼時、食事を済ませたファヴァルたちのもとに帰還の便りは無く、2隊はそれぞれ北東と北西を目指して村を発った。


「まさかこんな形で初指揮になるなんて…」

「ま、仕方ないさ。どうせ敵の軍勢を相手に全軍突撃ぃぃっ!!とか言いたかったんだろ?」

「言い方!なんか言い方が違う!もっと格好良く言えるはずだって!」

「…否定はしないんだな」


やがて村の管理する果樹園を抜けた一行は緑生い茂る森へと足を踏み入れるのだった。



(村長、また来ました、奴らです)

(何?こないだ襲撃があったばかりじゃないか…)

(昨日のどんちゃん騒ぎを嗅ぎつけたのかもしれません、村の東外れの木こり小屋が襲われて、床下に隠していたのが根こそぎ奪われたそうで)

(ちゃんと隠しておいたんだろうな、これ以上の被害は村の存続に関わるぞ)

(すいません…小屋番の奴らにも酒を振舞っちまって、逃げるのが精いっぱいだったと…)

(全くソウルキーパーだけでもこの小さな村には手に余ると言うのに、なんだってこう次々と、あの森の宝石をこれ以上持ってかれたら…ああまずいな)

(急いで残りの隠し場所の警備を厳重にしますが、いっそあの兵隊さんたちに守ってもらうってのはどうです)

(馬鹿者!あれは領主様から直々に交易路を絞って密かに取引を行うようにと言いつけられているのだぞ)

(う、でもあのエキル様のとこの軍なんでしょう?それなら同じ南部諸侯の仲間でもあるはずですし、大丈夫なんじゃあ)

(分かっておらんな、もちろん南部諸侯の方々は友好的にまとまってはいるが、その中での順位争いのようなものはあるんだよ)

(ああ、ダリーシュ様は同じ子爵のエーゲン様とライバル同士だし、ドラット男爵だっているのか)

(そうだ、ここメルヴ地方のダリーシュ子爵としては、北のズロヌ地方のレギエン侯爵、西のコルデ地方のエーゲン子爵、東のルワン地方のドラット男爵はエキル様と遠縁で、

 さらに今後は南に同じくエキル様の縁者のファヴァル様がラグン地方に伯爵として来られるからな、自分の発言力の一つとしてこの森の宝石の存在は取っておきたいんだろう)

(はーお貴族様ってのは…でその我らが領主様は助けには来てくれないので?)

(手紙は送ったが、領主様は大事な用事があってしばらく遠出するとかですぐには来れぬそうだ)

(なんだかなぁ、とにかく武器を扱えそうな奴らを集めて隠し貯蔵庫に張り付かせます)


「なぁ、昨日の蜂蜜酒だけど、まだいっぱいあるようなら個人的に子樽で一つ買い求めたいんだが、どうかな」

「あ、あれはその、この村の特産品の一つですのでまだあるはずですが、村長に!村長に言ってみてください!」

「おうそうか、ところでまた猪狩りでもやるのか?弓やら槍やらを持った村人が集まっているようだが、昨日の丸焼きは美味かったからな、そうなら何か手伝うぞ」

「え、猪?…いえ!いえいえ!兵隊さんの手を煩わせるような事はなにも!今夜も美味い飯は用意しますんでどうぞそのままで!」

「そうか?これだけの兵が村に居ても訓練しかやる事が無いからな、何かあれば気にせず声を掛けてくれ」

「ありがとうございます、お気持ちだけ確かに、はい」


(…おい、誰か騎士さんを呼んで来い、いいか自然にだぞ)

(いったいどうしたんだよ、蜂蜜酒買えなかったのか?)

(いやそれはもういい、何か村の奴らがおかしいんだ)

(はあ?さっきも村の若い娘たちが差し入れ持って来てくれてたけど特におかしな事なんて…)

(男どもが武器を持って密かに集まってる、俺たちがいるのにそんな警戒する必要なんてないはずだろ、それなのに)

(…狩人ってんじゃないのか)

(狩りでは無いらしい、村でも丈夫そうな奴らが揃って武装してこそこそしてやがった)

(まさか、反乱!?)

(慌てるな!とにかく騎士さんが来たら報告してそれからだ…)




 さて困ったな、奴には会いたくないが鞄を持っているなら戦う必要もあるかもしれない。

 果たして戦ったら勝てるだろうか、狙いは正確で気配は薄く熟練のレンジャーなのは間違いない、何とか戦いを回避して鞄を回収出来ないものか。

 あれからの移動距離を考えるとだいぶ村があった辺りまで来ているはずなんだが、奴の痕跡は見当たらない。

 こっちの方には来ていないのか、今も俺を探してこの森に息を潜めているのか。

 このまま南下してそのまま味方と合流出来たなら、その時は仕方ない頭で記憶している限りで報告しよう。

 …ん、この金属音は鎧のこすれる…近くに軍が来てるのか?




森に分け入ったファヴァル達一行は、複雑に張り巡らされた木の根に悪戦苦闘していた。


「なんでこんなに根っこが太くて大きいんだよ!こんなにもじゃもじゃしたの見た事ないぞ!」

「王都育ちじゃ人が普段から踏み入ってる森しか見た事なかったか、ほぼ手付かずの森なんてのはこんなもんだぜ」

「これ邪魔だし少し燃やすか伐るかして通りやすくしようよ」

「森の生き物が逃げて獲物が減ったりしたら村の人が困るだろ、あと一応ここはダリーシュ子爵の領地だから勝手にそんなことしたら後で問題になるぞ」

「う…でもこんなにも進みずらいなんて、これじゃあ探すのも一苦労だな」

「だから森に慣れた狩人やそういった経験のある兵士は貴重なんだよ、もちろん森以外でもその土地や地形に精通してる人材は大事だって分かるだろ?」

「なんで村の人が道案内してくれるって言ったの断っちゃったんだろ?」

「俺はおまえが自信があるから断ったんだと思ってた、正直失敗したと思ってる、次からは誰かに相談してから結論を出してくれお願いします」

「はい、スミマセンデシタ」


ファヴァルが己の至らなさを嘆いているその時、兵士の一人が絡み合う木々の隙間に動く影を見つけ、確認をしようとすると。


「あそこ!誰かいます!っうわぁあ!」


ガンッ!


「撃たれてるぞ!盾構え!周囲警戒!」

「そこにいるのは誰だ!こちらはメイヤーナ王国ファヴァル辺境伯軍!味方ではないか!?」

「背を低く、木の陰に!全員狼狽えるな!射手は前へ!」


ガンッガンッ!


「まだ撃ってくる、味方の兵士じゃない、対ソウルキーパー戦の経験がある者も前に!」

「おいおい、まだ村を出て数刻だぞ、本当に村の近くまで来てるじゃねぇか!ファヴァルどうするよ」

「こんな森で見失ったらまた探し出すのが難しくなる、包囲して削り倒そうと思う」

「出来れば当たりはエグレン様の方で引いて欲しかったがな、仕方ねぇやるか!」

「ファヴァル様、敵が森の奥へ!あの身のこなしは間違いなく森での生活に慣れている者の動きです、追いつけるかどうか」

「射手隊は敵の追跡を、でも無理はせず見失わないようにだけしてくれればいいから!」


やがて夕闇が迫る中、ファヴァルたちは森の奥へ奥へと、追撃戦に挑むのだった。

エグレンが居れば止めたであろうその判断は、まるで夜の森という獣の口に飛び込んでいくような危うさがあった。



その頃、エグレンの隊もまた敵に遭遇していた。

それは歴戦の戦士にはちょうど良い獲物であったが、視界が悪く足場も定まらない森での戦闘に慣れていない兵には脅威となる獣。

いつしか隊を取り囲むように現れ、ヒタヒタと一定の間隔を保ったまま木々の隙間に見え隠れする追跡者の影。


「よぉしこのまま追いかけっこしてても埒が明かねぇ!ここで密集陣形を組んで撃退する!うまく引き付けろ、突出すればここぞとばかりに群がってくるぞ!」

「いっそ全員で雄叫びでも上げれば奴ら逃げだすのでは?」

「いやいや、こいつらは賢いぞ!相手の挙動や心情を読んで襲うべき相手かどうか見定めてやがるのさ」

「新兵たちがあたふたしているみたいよ、狼たちもやる気みたい!」

「奴らは動物の群を見つけると、的確に子供や弱っているのに狙いを定めて襲い掛かる、新兵は陣形の内側に集中させるんだ!」

「か、囲まれてる!本当に大丈夫なのか!?」

「狼狽えるな!いや、適度に狼狽えろ!奴らを誘き寄せるんだ!」

「エグレン殿その命令は新兵にゃ無理ですってば」

「あそこ!水たまりがある方向には狼どもがいません!アルダガ村へ引き返しましょう!」

「うわぁ来るな来るな!俺は村へ帰る!帰るぞー!!」

「人間相手ならともかく狼なんかと戦って死ぬのはゴメンだぜ!」

「あ、馬鹿野郎引き返せ!!」


一部の新兵たちが隊列を抜け出し、ぽっかりと開けた湿った土地を強引に突っ切ろうとする。

しかしそこに狼たちが居ないのにはしっかりとした理由があった。


「お、わぁ!?沈む、沈むぅぅ!」

「なんだこれ!動けねぇ…ひぁぁぁぁぁぁ」


落ち葉が腐ってふかふかとした地面は、天然の落とし穴であった。

その下は泥の沼と化しており、重装ではなくとも鎧を着込み武器を携えた兵士たちは勢いよく沈み始め、そのまま不運な幾人かは足場を得られず姿を消した。

なんとか沈まずにいる者も身動きが取れなくなり、もがけばもがくほど深みにはまっていく。

そしてそれを待っていたとばかりに幾匹かの狼が襲い掛かる、彼らの庭で、彼らの狩り方で、張り出した木の根や地面のしっかりとした場所を身軽にするすると走り抜け泣き叫ぶ兵士たちに。


「今助けてやるから諦めるな!狼どもをにらみ返してやれ!」

「おい新兵!真っ直ぐ狼を見て目を合わせろ!本当にそれが効くんだ!」

「くそー、こんな死に方嫌だ!来るなら来やがれ狼どもー!」


やがて落ち着きと統制を取り戻したエグレン隊は狼の群を撃退しこの窮地を脱したが、沼の底へと沈んだ何人かはついに救出出来ず、幸先の悪い初戦となったのだった。



ファヴァルやエグレンたちが辺境伯軍として苦い初戦を経験している頃、村へと向かう武装した一団がいた。

それは統率が取れ、防具も揃えられた正規軍の様であり、同時に多くの者が顔が隠れそうなほど髭や髪を伸ばし、武器は粗雑な手斧や武骨な大剣など、蛮勇ここに極まれりと言わんばかりの風体だった。

そんな脱走兵の集団だか稼ぎの良い山賊だかわからないような一団は、しかし一つの旗を掲げて粛々と行軍している。


「なるほど。街道を逸れたあとアルダガ村へ向かったんだな?」


頷く部下に一団を率いる熊のような大男は労いの言葉をかけ、そして髭を撫でながら考え込む。


「辺境伯の狙いは何だ?ラグン地方へ向かうのにこの街道から逸れる必要は無いはずだ。それをわざわざ…」


大男の肩には熊の頭が、腰には熊の毛皮を使った腰巻を身に着けており、取り巻きの者たちもそれぞれ狼や狐など様々な森の動物たちの毛皮で着飾っている。


「俺の庭で勝手に遊ばれちゃ困るってことをしっっっかりと教えてやらねぇとな。それにあの村には宝石がある。あれは俺の物だ」

「お頭、あれ!村の方角で軍隊が使う狼煙が上がってますぜ」

「ぁあ!?なんの合図だ、ちくしょう状況が分からねぇがとにかく急ぐ必要がありそうだ。おい野郎ども村まで強行軍だ!」


もし遥か上空から一団を見下ろす者がいたら、森の動物たちの巨大な群が村を飲み込まんとしている様に見えたかもしれない。

そんな迫力と猛烈な勢いで移動し始めた彼らの旗には、大樹とそれを守る熊の意匠が施されていた。




 くそ、痛ぇ、傷口が開きやがった…!

 でもとにかく走るしかない、走って走ってなんとか主の下へと帰るんだ。

 この重大な情報をなんとしても持ち帰りお伝えしなければ。

 このままではまずい、このままでは味方が危険だ、休んではいられない。

 走れ走れ走れ、任務を果たすんだ!それが味方も家族も救う事に繋がるんだ!

 例えこの魂を還すことになろうとも、走れ走れ走れ…はし……しれ……は…ぐ…



約束、それは果たすべきもの、守るべきもの。

家族との、恋人との、友との、主との、想いや重さは違えども自らの魂を裏切らぬ為に。



「追い詰めたぞ、邪悪なるソウルキーパーよ!その彷徨えし魂を辺境伯の名において解放してやろう!」



◎続く◎


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