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ソウルディア戦記 ~魂歌の響く大地~(砦の魔女編)  作者: 槍の人。


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第43幕:「開幕」


第43幕:「開幕」


◇新生王国暦5年 陽光季99日



「どうして…」


どうやら侵入者は、未だ捕まらず砦内を逃げ回っている様子。


「どうして…」


私の、私達の配下は皆優秀な兵士ばかり、精鋭揃いと呼ばれた仲間達。

それがもう丸一日彼の者に翻弄されている。


「どうしてなの…」


ああ、彼の者の足音が聞こえる、皆を引き連れこちらへ向かってくる。

間もなくこの大広間の扉に辿り着き、私の前へと姿を現すでしょう。

なぜ逃げないのかしら、なぜ砦の奥へと、私の元へと向かってくるのかしら。


「私はただ…」


この砦の奥には、財宝が眠っているとでも?

それとも、私たちの使っていた武具や身に着けていた品が目的?

いえ、戦火に燃え陥ち、今やソウルキーパーとなった私たちが守り続けるこの地に、

まともな思考があれば近づこうなどとは思わないはず。

お帰りいただきましょう、如何なる理由があったとしても。

これまで同様、二度とこの地へ来ようなどとは思えなくなる恐怖を植えつけて。


「…家族と静かに眠りたいだけなのに」



そして彼女は、朗々と魂歌を歌い上げる。

幾百、幾千、幾万と歌い、磨き上げた己の技を。

魂に響く、慈愛と畏怖の歌声を、美しく悲しきその調べを。

さながらそれは、鎮魂歌か…



「永遠の炎に身を焼かれ 永劫の闇に身を委ね それでも私は……」




力任せに、それでも岩の扉は壊さない程度に難しい顔をしながら加減をして、閂をへし折り押し開けた聖堂門の隙間からは猛烈な炎が噴き出して来た。

咄嗟に叫び声で衝撃と風を巻き起こし、その勢いを抑え込むファレーザの表情からはそれまでの余裕がスッと消える。

炎自体は大したことは無い、その熱も肌を撫でる焔も彼女を傷つけるには至らない。

だがその炎は魂の息吹とでも言うべき奔流によって煽られ勢いを増し、まるで正面から滝の水を叩きつけられているかの様な猛烈さがある。

ファレーザはいつでも避ける事が出来たし、例えその身に浴びてもせいぜい身に付けている人間用の武具が熔け落ちる程度だろう。

だがそれでは後ろにいる彼女の甥っ子も、その甥っ子を守ろうとしている人間だった者達も肉体と実体を失う事になるのは明白であった。


「こらーーーファーーーイーーールーーー!!」


少し手前で近衛兵達を迎え撃つ為に気勢をあげていたバーレットとアローネも、雄叫びと共に迫り来ていた兵達も、その明らかに異常な光景に足を止め事態の推移を見守る事にしたようだ。

皆の視線が集まる先でチリチリと漆黒の髪の表面が巻き縮み若干の焦げ臭がしてファレーザは少し怒る、物理的な本物の体では無いがズィードのお気に入りだった古のファレーザの黒髪なのだ。

そもそも髪の毛と言う物も竜の身には存在しない部分で、体を模したファレーザもこのサラサラと手触りの良い黒髪を少し気に入っている。

押し寄せる炎を抗議と罵倒の声で封じ続け、やがて重厚な岩門を挟んで行われた聖女と黒雲の竜の娘の根比べは後者に軍配が上がった。

炎の消えた門の隙間から覗くのは二つ並んだ石の玉座の前に立つ、少し息を切らせた様子の怒れる聖女であった。


「ファレーザさん大丈夫!?」

「うん、ちょっと疲れただけで全然平気」

「さっきの何?もしかして聖堂の中は火に包まれてるの?」

「違う、これの炎だったみたいだよ」


聖女から視線を外さずファレーザが改めてゆっくりと扉を押し開けると、そのすぐ前の床には僅かに燃え残った松明の芯が転がっていた。

扉の前に置かれた火の着いた一本の松明、その小さな灯りにぶつけられた聖女の魂歌はその火を爆発的に燃え膨れ上がらせ、勢いのままに閂を砕いた外敵へと迸ったのだ。

たった一本の松明の火が、人を燃やし尽くす程の業火となった、それは偉大なる者の所業に他ならない。


「困ったな力比べなら負ける気はしないけど、こんな器用な魂の使い方は私には出来ないよ」

「それってとってもマズイんじゃ」

「うん、とってもマズイ。やっぱりこの砦ごと壊しちゃわない?」

「ダメ、絶対にダメ!ほんとのほんとにダメー!」

「…面倒くさい…殴りたい…」


ヒッと悲鳴を上げて、駆け寄って来たアローネの後ろに隠れたファヴァルはとてもとても格好悪かったが、その行動を責める者は居ないだろう。


魂歌という形で磨き上げられた聖女の技は、今や魂の輝きをただ体から溢れ出すだけの光に留めず、自在に操り人や物に影響を及ぼすに至っている。

その証拠に、聖堂内に設置されている魂芯灯の明かりは異常な量の燃料を吸収し今や光球と表現出来る程の光を放っている。

その眩しさは人間であるファヴァル達にも魂の輝きの強さというものを可視化させ驚かせたが、魂の輝きを感覚的に感じ取れているファレーザにはその比では無い聖堂内に充満する眩いばかりの光の渦を魅せていた。

それはとにかく強く美しく圧倒的な光を放つ巨躯の偉大なる者達の魂の輝きとは異なる、複雑で繊細な優しくも恐ろしい光景であった。

人は初めて見る物や理解の及ばない事象を恐れるが、この光の渦はおよそ恐怖という感情とは無縁の偉大なる者を畏怖させるに足る。


「(友達ならこんなにも心強い存在は他に無いかもしれない、敵だとこんなにも厄介な存在も他に無いかもしれない)」


黒雲の竜としてこの世に生を受けた、いや、正確には産まれずしてソウルキーパーとしてこの世に現れたファレーザにとって、これまで瞳に映ったほとんどの存在は取るに足らない吹けば消し飛ぶマッチの火程度の輝きであった。

稀に視界の中で強く主張する、焚き火程度の人間や獣も居た、そういえば薪木の量に違いはあるもののこの砦の中で会った騎士の何人かは比較的よく燃え盛っていると言えるだろう。

だが目の前の存在はどうだ、火は穏やかで手をかざせば温かく包み込んでくれるだろう、だがその熱量は一歩間違えばこの砦ごと山一つ燃やし尽くせそうな火力を秘めている。


「(なるほど聖女ね、あれ魔女だっけ?どっちにせよ人間達がこの魂を特別な存在として扱っていたのが良く分かる)」


ファレーザが本気を出せば燃える山を遥か空から睥睨し、風と言う名の空を叩きつけてこれを鎮める事は可能だろう、だが今のファレーザは人間と同じ姿形で翼も鱗も無い。

それでも兄と慕うファルタとの約束は守りたいし、その為にはこの聖堂の天井を見上げて呆けている甥っ子君の言う事も守らなければいけない、面倒くさいけれど約束を守る事は大事なのだと知っている。

かつてズィードはお腹の中の彼女に約束した、必ず外の世界を見せてあげると。

その約束を体と魂が溶けて砕けてもなお果たすために、彼女の魂を包み守ってくれていた時の様に、約束は守られるととても嬉しいものなのだ。


「思ってたよりもすごく大変な事になっちゃったけど、どうにかしないとねー」

「どうにかなりそう?」

「どうにかするけどご褒美が欲しい」

「え、っと…偉大なる者に協力してもらう時の相場って金貨何枚くらい、かな」

「そのような相場が存在するはずもありません、もし金貨に換算するなら国を守り栄え発展させたズィード様の例を参考に、国庫数百年分と言ったところでしょうか」

「そんなにいっぱい集められないよ!」

「そんな重いだけの石ころいらないよ!」


国庫数百年分の金貨、それがあれば国民集めも含めて一国を一から造れるだろうし、それを積み上げれば金で出来た館でも建てられそうなものだが、曇天を舞うのが好きな黒雲の竜にとっては人間的な金銭価値も物理的な金属としての価値も石ころ同然であった。

中には金や宝石の様な光り輝く物を好む偉大なる者も存在するかもしれないが、少なくとも自由な空を愛するこの竜には無用の長物だろう。


「ご褒美…ご褒美…」

「甥っ子君はこの場所の人間の王様になるんでしょ?だったらその時に王様にしか叶えられないお願いをするよ」

「僕は王様には…まあこの地の領主はこの場所の王様みたいなものか」

「交渉成立だな、ふっ」

「突然デノンみたいな変な台詞言い出さないでよ」

「これは変なの?そっか、一つ前の王様が良く言ってたんだけどなー」


その昔政変の可能性を警戒していたバーレットの眉がピクリと動いたが、それに気付く者は居なかった。



ファイルとファレーザ、互いに息も整い改めて対峙する二人。

一段高い場所から聖堂の彫刻や王座を背景に一人佇み睨みを利かせる聖女と、押し開かれた門に殺到する近衛達を背景に仲間と並んで手を腰に当て胸を張る黒雲の竜の娘。

両者共自分の実力は把握しており、今しがたの力比べがどのような意味を持つかも理解していた、即ち強敵である。

目を細めた拒絶の表情と、口角の上がった不敵な笑み、だが視線を交差させる漆黒の髪を持つ二人はなるほど、祖先と子孫の姿と知っていれば共通点は多かった。


「時間を掛けずに先頭の兵を焼き、圧倒的な力の差を見せつけるはずでした。見れば高貴な鎧を身に纏う招かれざるお客様、貴女はどなたでしょうか」

「随分な歓迎だったね、シーサックのお姫様は歌だけじゃなくて戦い方も上手みたい」

「お褒めに与り光栄です、ですがその様な言葉が聞きたい訳ではないの」

「そんなに怒らないでよ、私はファレーザ、ファルタの妹だよ」


ファイルが手を振り上げた瞬間、雷光が飛びファレーザの眼前で弾けた。

一瞬の、再びの攻防にファヴァル達も背後の近衛達も反応出来ず、遅れて顔を覆ったり悲鳴を上げたりしている。


「ファルタの妹なら私の妹でもあります、ですが貴女に心当たりはありません」

「一応、そういう事になってるんだけどな」

「ファレーザと言いましたか、その名は建国の歌姫の名です、代々王家の者はその名を慕いその音を引き継ぎましたがその名を名乗る事は無かった、父も母もその名は名付けません」

「私の名前は自分で選んだんだ、でももし名付け親と呼ぶ者がいるなら、それはズィードだよ」


今度はファレーザの後方、聖堂門の近くに転がっていた焼け焦げた壷が背後から襲い掛かったがこれも当たる事無く弾かれ、近衛達の展開する壁の上部にぶつかり砕け降り注いだ。

咄嗟に上に向けて揃って盾を構えている辺り、やはりとても優秀な兵達なのだろう。


「ズィードの魂は私と共に在ります、そしてその名はズィードの大切な友達の名前なの、誰かに与える事など有り得ないわ」

「それが家族でも?」


そこで初めてファイルに動揺が見て取れた、関係がどうのでは無く家族という言葉に強く反応を示したのだ。

ファイルにとって家族とは当たり前以上に大事なものであり、幸せそのものと言っても過言では無い。

王都の家族、スホータム砦の家族、その家族たちとの幸せを望んで彼女は生き、死してなおその望みは失われていない。

その望みこそが、聖女を今、偉大なる者たらしめているとすら言えよう。


「ファイル様、どうかファレーザ様のお言葉を信じて下さい、このお方は…」


聖堂の壁に取り付けられていた魂芯灯の一つがまるで何かに握り潰されたかの様にひしゃげもぎ取られ、眩い光を放ちながら輝く尾を引いてバーレットに降り注いだが、これも寸前で砕け光の粒となって飛び散った。

その儚い美しさは思わず見とれそうになるが場の緊張感がその誘惑を上回ったようだ、視界の端にその光を収めながらも誰一人とし…ファヴァル以外の全員がそこにだけ目を奪われること無く固唾を飲む。

とても人間業とは思えない様な出来事が立て続けに起こっていて、一瞬先にはまた別の何かが起こっているかもしれず、そしてそれは自分に向かって来るかもしれないのだ。


頭上から迫る光に思わず目は瞑ったものの、その場を動かず動揺も見せなかったバーレットは流石であった。

いや、もしかしたらファレーザが必ず守ってくれるという信頼や、ファイルが自分の魂を砕くはずは無いという信頼、はたまたファイルに魂を砕かれるなら…、という想いもあったかもしれない。

とにかく一度はその言葉を中断させられたものの、再び目を開けたバーレットはしっかりとファイルを見て言葉を重ねていく。


「…このお方は黒雲の竜ズィード様の胎内で育まれていた新たな命、言うなればズィード様の娘でご家族です」

「その様な…ズィードが人との間に子を持つなんて事…それに貴方は…本当にバーレットなの?だって貴方の魂は…貴方の魂が見えなくなって…」

「ファイル様、状況は複雑ですが話せば必ずご理解いただけるものと思います、ですからどうか…」


三歩、よろよろと後退り石の王座に片手を乗せ頭を押さえる聖女。

聞きたくないとばかりに頭を振るその仕草は全てを拒否している様に見えた。

聡明な聖女たる聖女はきっと頭のどこかで様々な状況を理解し始めている、そして自らの運命を受け入れた魔女たる聖女はもうそっとしておいて欲しいと思っている。

その混乱ぶりと諦めは深く仄暗く未だ聖女の心に希望の火が灯る兆しは見えない、その証拠にそれは雷光を纏うという形で発露されていた。


「またあのバチバチだ!」

「ファイル様…私達の言葉を聞いて下さい、昔のファイルに戻ってよ!」

「これが…この様な空に光る雷を扱うなど生前のファイル様には出来ませんでした、やはりこれも偉大なる者足る力と呼ぶべきなのだろうか」

「人間が呼ぶ偉大なる者って言ったって、ちょっと体が大きかったりちょっと長生きだったりするだけでこんな力は持ってないよ」

「それではやはりこれはズィード様の」

「そうだね、どんなに魂の輝きが強くたって何も無い所に火を起こしたり水を降らせたり雷を落としたりなんて出来ない。だけどそこに火があればそれを燃え上がらせられるし、そこに水があればそれを吹き散らせられるし、そこに雷があればそれを曲げ放てるし」

「雷、こんな地下にある雷なんてやっぱりアレしか無いよね、触るとビリっとする雷鱗の首飾り」

「こうして見て確信しました、間違いありません、ファイルの首飾りは雷鱗に彫刻を施した世界に二つとない物なんです、きっとあそこに黒雲の竜の魂が」

「グノッサリオが繋いだ守護竜の魂がこの砦に来ていたのであれば、その魂器としてこれ以上相応しい物はありませんな」


近づく者を撃ち払う雷光を纏う聖女の胸元で、青白い輝きを放つシーサック王家の宝。

その黒雲の竜の宿りし雷鱗の首飾りはファイルに永続的な雷を供給していた。

ただの雷鱗にこれだけの力は無い、曇天雷雲を飛ぶ黒雲の竜の魂が宿った事でそれだけの力を有し、かつ身に付けるファイルが生身では無くソウルキーパーであるからこそその力に耐えられ、その魂の輝きと魂歌の才によって能動的に扱い得るのだ。


「ファレーザさん、アレ、抑えられる?」

「力だけ抑えるなんて無理無理、やるなら壊すしかないかな、でもそうする予定だったんでしょ?」

「出来ればやりたくないけど、そうしないと近づく事も出来ないでしょ」

「あんな雷のハリネズミみたいな状態じゃ話なんて出来そうもないからね、それにどの道壊さないとこの砦も元に戻らないんじゃないかな」

「それはどのような意味でしょうか、元に戻すとは」

「ん?甥っ子君達はこの砦を人間の住む王国に戻すんだよね?この魂だけのは追い払ってさ、えっと、苦しませずにって面倒な注文付きで」

「あう、そうだけど…」

「あそこにズィードの魂の欠片が居る、その欠片がこの砦の魂達を守ってる、だからアレとファイルの両方を壊せば魂達はみんな居なくなるよ」

「壊しちゃうの!?」

「ファイルは壊してはダメです!」

「ファイル様も苦しませずの対象です!」

「あーーーーーーー面っっっ倒くさーーーーーーい!!」


ファレーザは「何で人間はこんなに!」と思ったし、ファヴァル達も「どうしてこうも考え方が!」と思った事だろう。

そもそもが根本的に違いすぎるのだ、あと数百年も寄り添えば種族の壁を超えてお互いの事を深く理解し合えるかもしれない。

しれないが、ソウルキーパーでもなければそれだけの時を共に過ごせる人間は存在しないし、ソウルキーパーとなってしまった者の多くは空への帰還を望んでいるのだ。


そしてそんなやり取りをしいている間にも、頭を抱えた聖女は頭を働かせていた、この聖女、狡猾である。

眼前の建国の歌姫の名を名乗る者は力強くまともに戦いたくは無い、横に並ぶ者達は親しい者達と同じ姿をしているがその魂の真贋が見極められない。

そこで聖女は外堀から埋める事にした、文字通りの外堀から。

聖女の命によって動き出したのは彼女らの背後の白い近衛達と、外郭の門を出て整列していた白い兵達、その異変に気付いたのもやはりファレーザであった。


「後ろ、取り囲まれるよ、それから上、山を下ってる」

「あーー!あーー!あーー!あーー!母さんお願いだから話を聞い…キョヘッ」

「甥っ子君は本当に学習しないよねー」

「それはまだまだ成長の余地があり、鍛え甲斐があるという事です。アローネ!」

「そうそう、そういう事にしておきましょ!はぁぁぁ!!」


突然飛び出したファヴァルを襲った雷光はファレーザによって弾かれ、ファヴァル自身はしりもちをつく様に崩れ落ちた。

後方の門付近で盾を構え成り行きを見守っていた近衛達はじりじりと横に展開し半包囲を完成しつつあるが、隊列を離れ打ちかかって来た近衛騎士がアローネによって一撃で盾を砕かれ首筋に剣を突き付けられた事で勢いを削がれた様だ。



同じ頃、砦外でも大規模な激突が始まろうとしていた。

外郭の門が開き中からは次々と白い兵達が出てくる出てくる出てきまくる、と歯ぎしりしながら愚痴っていたエグレン率いる辺境伯軍の面々は顔面蒼白である。

これまでは自分達が攻め手であり、敵は守勢に回っていたからこそ兵力差や戦力で劣っていても何とかなっていたのだ。

それが敵が攻勢に出たとなれば話は変わって来る、次々と砦から出て来る白い兵達は足場が悪く平地の少ない岩山に不揃いながらも整列し、その精強さを見せ付け見下ろしてくる。

対してこのまま戦わずに潜入組による説得で幕を閉じて欲しいと願っていた兵達は希望を打ち砕かれ、戦々恐々としながら敵を見上げるのだ。

それでも逃げ出さずに踏みとどまれているのは、率いているのが歴戦の騎士であるからに他ならない。

その不動の騎士の後ろに控え、遂に動き出した敵兵を見て上がったのは悲鳴混じりのやけくそ気味な雄叫びであった。


武器を抜き鬨の声と共に迫り来る敵を見上げて、それでも動かぬエグレンだがほんの数瞬前までは全軍撤退の命令を出す用意があった。

それを思い留まらせたのは見上げた敵のその更に上、夜が明け朝日に照らされるその空に再び立ち昇る煙が見えたからである。

前回とは異なる場所から上がった大量の太い煙の筋は、青赤白、持たせた四色のうち夜に見た黄煙を除く残り全てであった。

まるで合図の体を成していない煙だがそれでも潜入組の健在を知らせるには十分、未だ成功を信じ動いているならば耐えるのみ、危機を知らせるものであったなら尚更耐えて反攻の機会を窺わなければなるまい。

そう考えてエグレンは後方の麓の部隊へと合図を送った、先程ショアナを伝令として送り出したからランバレアが準備万端待ち構えているはずなのだ。

その期待通り山の中腹に陣を構えたエグレン達の頭上を越え、動き出した敵兵に向けて大量の矢が降り注いだ。

これで敵兵の勢いは削がれ、逆に情けない声を上げる味方の兵達は勢いを盛り返すだろう。


…迎撃の矢を放つ号令を出したのはランバレア配下の無名の古参兵で、それも事前に指示されていた通りに“撤退を援護する為の牽制”として放たれた矢であった事は伏せておこう。

直後に野営地から残る50名程の兵を引き連れ合流し、何食わぬ顔で指揮を引き継いだランバレアの名誉の為にも。



共演、それはもう一人の主人公、その他大勢の主人公、共に歴史を彩る主人公。

舞台に上がった演者達はそれぞれが皆、自分という人生の主人公である、時に陽を浴び時に日陰から支え、その全てが人生を象るのだ。



「さあ来いベリュークの精鋭よ、俺はエグレン・レギエン、エキル軍の副将だ!今度こそこの戦いに終止符を打とうでは無いか!!」



◎続く◎


ラストバトル(?)の開幕です。

旧ベリューク軍も、旧エキル軍も、辺境伯軍も、その戦いに決着の時っ。

皆が納得出来る結末は迎えられるのでしょうか~迎えられるといいな~。


完全に物語とは関係ありませんが、桜が綺麗な通りがあるんです。

すこーしずつ花びらが散り始めててもう少ししたら花吹雪になるかなぁとか思ってたんです。

途中で雨が降ってきたのでお店に入ってやり過ごしたんです。

外に出てみると桜はほとんど散ってて道が一面ピンクに舗装されてました。

ちょっとだけ残念だけどこの道はこれはこれで…そんなコロナ禍で3回目の失業の春の日でした。


あ、物語の方はもうちょっとだけ続くのじゃよ。

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