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ソウルディア戦記 ~魂歌の響く大地~(砦の魔女編)  作者: 槍の人。


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第36幕:「信頼」


第36幕:「信頼」


◇新生王国暦5年 陽光季99日



…。

……。

………。


視界はぐるぐると回り、床を踏む足の感覚もきつく握りしめる手の感覚も曖昧で、こちらを見る多くの目も歪み笑っているように見える。

本気のバーレットの迫力とベリューク騎士たちの容赦の無い視線、しかしそれ以上にファヴァルの疲労は限界を迎えつつあった。


思い返してみればそもそも成人間もない16歳の男が、異例の抜擢で辺境伯となり一軍を率いてここまで来たのだ。

レギエンという名と支える古参の騎士たちがいなければ、道中での出来事や兵たちの士気忠誠心も含め無事にラグン地方に到達出来たかも怪しいところだ。

相対するは難攻不落と謳われた天険の砦であり、待ち受けるのは詩や伝承の中の存在であったソウルキーパーたち。

明かされた過去の欠片は鼓動を加速させ、隠されていた真実は胸を抉る、自分は失われていた母とその記憶を甦らせると同時にもう一度失わなければならないのだ、と。


まだまだ未熟な肉体と精神と魂が、疲労と緊張と動揺によって一斉に悲鳴を上げたとしても無理からぬ事だろう。


「殿下、レギ・ア・ベリュークなどという家名は聞いた事も…殿下?殿下!!」


やれやれと言わんばかりに分かっていて指摘をしようとしたバーレットが、ファヴァルの焦点の定まらぬ目に異変を感じた時には膝から崩れ落ちていた。

咄嗟の反応で伸ばしたバーレットの手は空を切り、その俊敏さで片膝で机に飛び乗り伸ばされたアローネの手も届かず、一番近くに居たベルニオンの手が手首を掴むが支えるには至らない。

しかしファヴァルの体は床に打ちつけられる事無く、ギリギリのところで背後から手と足を延ばしたデノンとブノンズに受け止められていた。

…もしかしたら、日頃から手も足も出ていたのが役に立ったのかもしれない。




スパーーーーーーンッ!!


と、軍議室にとても良い音が響いた。

デノンの渾身の平手打ちにも目を覚まさず、バーレットによる診断で呼吸や脈拍に異常は無い事が確認されたファヴァルは現在、アローネに膝枕される状態で床に横たわらされている。

眠りに落ちたのかと思われたが気を失っている事が分かった為、とりあえずそのまま軍議と言う名のバーレットによる説明会は続けられる事になった。

ファヴァルが居た方が話は早いがファヴァルが居なくても話は出来る為、特に問題は無いだろう。


「予定が大幅に狂ってしまったが、まあこれならこれでやりようはある、か」

「疲れが溜まってたんでやしょう、飛びぬけてバカみたいに元気だしたまーに別人みたいにしっかりとする事もあって忘れてやしたが、昨季に成人したばかりの色々とまだまだこれからの人でさあ」

「そうだよなぁ、俺だって今すぐ何もかも放り投げて寝ちまいたいんだから、こいつはそれ以上だよねぇ」

「君の場合は騎士として、何より副官としての気構え心構えがなっとらんようだ、後で時間があったら鍛え直してやろう」

「お、あ、はい、オネガイシマス…」


ファヴァルをアローネとブノンズに任せ、デノンを大人しくさせると、後はバーレットの独演会だ。

如何にファイルが素晴らしい存在であるか、如何にドノヴァーが優秀な存在であるか、如何にベリューク軍の結束が固いかなど、言われずともここにいる誰もが理解している事を改めて語って聞かせる。

その語り口と熱量こそいつものうんざりするほど見慣れたバーレットであったが、聞いていた騎士たちは今日の真剣さにはいつもの厳格で狂信的な雰囲気だけでは無く、思い出を語るような優しさが共存している事に気付いた。

だからだろうか、いつもなら途中で飽きて聞き流すルダンも、真面目に聞いているふりだけしているバンフルも、すぐに横槍を入れるアストガルも、これまでの自分たちの足跡を思い出す様に聞き入っている。


「すなわち我らの結束力とは、皆が共有するファイル様とドノヴァー様への変わらぬ忠誠心にあると言えよう。そこで再度問う、この砦の未来と皆の覚悟についてだが」


少し離れた場所にいるアローネも含めて、未だこの砦の事実を知らぬ4人の騎士たちと一人ずつ視線を合わせ、一つ深く呼吸をしてから続ける…ニヤリと笑って。


「あるかと聞けば皆あると答えるだろう、だがこれは本当に重大な判断なのだ、果たして貴卿らがその重さに耐えられるかどうか…」


いつもならこう言われる場面なのだ「貴卿らの覚悟の有無は聞かぬ、とっとと覚悟を決めよ」と。

有無を言わさず、だが決して無理では無いギリギリのラインを提示し、後は覚悟が決まっているかどうかで成否が分かれる、そんな内容に対して覚悟を決められるのは分かっているぞと。

それがどうだろう、今更何を言い出すのか、散々これまで共に歩んで来た道程や団結、連帯感の必要性とその結果により勝ち取ってきた歴史を振り返っておきながら。

バーレットは本当に無理な事は言わない、だが選びうる中で最善で最難の道を突き進む、そして味方には絶対の信頼を置き、同時にそれを求めるのだ。


「バーレットよ何故いつもの様に命じぬ、お主がもったいぶっておるソレには勝算があるのじゃろう、ならば何故命じぬ、今更儂らを見くびっておる訳ではあるまい」

「本当に覚悟が必要な為」

「おいおいバーレットさんよ、どんな厳しい作戦なのか知らないが俺たちにやれないとでも?」

「失敗すれば魂を失う」

「それは怖いですが、でもそんなの今までと一緒じゃないですか!」

「これまでとは訳が違う」

「歯切れが悪いのはバーレット様らしくありません、どうぞ命じて下さい、魂を懸けろと」

「その言葉、信じて良いな?」


皆が無言で頷きバーレットに話の先を促すと、大袈裟に、ようやく覚悟を決めたとばかりに間をたっぷりと置いて、バーレットは命じるのだ。



「では皆に命じる、一度死ね」


「…は?」

「…あ?」

「…へ?」

「…ん?」



4人の中で唯一剣を抜いたのがアローネだったのが救いだった、何故なら抜いたものの膝にはファヴァルの頭が乗っており立ち上がる事など出来なかったからだ。

鋭さだけなら恐らくこの中で最速であろうアローネが本気で振り抜いていたら、人の首など簡単に宙を舞うのだ。

…ソウルキーパーの首が飛ぶかどうかは試してみないと分からないが。

何はともあれ動かせぬファヴァルに邪魔をされる形で機を逸したアローネは、忌々し気にバーレットを睨むと剣を収め、その腹いせとばかりに膝の上の綺麗な顔を引っ叩いた。


「それで、死ねとはどういう意味ですか、本当にそういう意味ですか、実は私たちが気付けていないだけでこの砦は騎士を死地に送り込まねばならぬほどの危機的な状況にあるのですか」

「いや、砦外の敵は動かぬ、砦内にも“敵は”おらぬ」

「では食糧や矢などの備蓄、継戦能力に問題が?いやしかし私の把握している限りではまだもう少しは」

「バンフル、貴卿はもっと自信を持ちたまえ」

「わっかんねー、ドノヴァー様かファイル様、もしくはお子さん達のどちらかが重い病気とかで殉死でも求められんのか」

「もしそのような状況があったとしてもファイル様がそのような事は許すまい」

「バーレットよ、流石にちと勿体ぶりすぎでは無いかの?」


「…そうだな、さて散々話して色々と頭を使っただろう、改めてこの砦の事について色々と考えただろう、これが最後だからもっと頭を柔らかくして聞いて欲しい」



「我らは既に死んでいる」



少なくともバーレットが軍議の場で冗談を言った事は無い、誰も見た事が無い、むしろ誰よりも真剣で他人の冗談にも皮肉かバッサリと切り捨てる事で応じる程だ。

そしてこれだけ勿体ぶった長い前振りをしておいて、冗談でしたなどと言ってこれまでの時間を無駄にさせる様な事もあり得ない。

この場にこのタイミングで、何を馬鹿なと言う者はいない。

若いバンフルだけが少し戸惑い、そして確認するように周囲の顔色を窺うが、一緒に話を聞いていた先輩の騎士たちも、そして既に話を聞いていたであろう近衛騎士の二人も、黙って俯くか頷くのみ。

その静寂こそが真実であると告げている。


「本当は今こそファヴァル殿下にご活躍頂きたかったのだが、既に詳しい経緯は聞いているので引き続き私から話そう」


バーレットが語るファヴァルによってこの砦にもたらされた驚愕の事実と歴史は、やはり相当な衝撃を与えた。

話の途中から少し離れて聞いていたマント付きの兵士たちが体勢を崩し苦悶の声を上げ始めた。

しかしバーレットは話すのを止めない、むしろ魂に叩きつけるかのように雄弁に、饒舌になって行く。

従騎士で一人年若いバンフルも体の震えが止まらなくなり、やがて机に突っ伏す様に倒れ込んだ。

バンフルを心配するように手を伸ばしたルダンを、グノッサリオが止めた、そのままで良いと。

やがて話に火が点き砦が燃え始めた頃には、ルダンもアローネも頭を押さえるようにして体を揺らし、既に一度体験済みのバーレットやグノッサリオ、ベルニオンも生前で言う所の軽い眩暈の様なものを感じていた。


そんな中一人、未だに腕組をしたままむすっとした表情を崩さず話を聞いているのは老いた、しかしそれ故に老練な騎士である。

既に体の輪郭は滲み始めており、魂に影響が出ているのは間違いないのに、声を上げる事も苦しそうにする事も無く、只々黙して話を聞き続けている。

突っ伏したバンフルも、存在が混乱しているルダンとアローネも視界に入っているはずなのに動じる様子は見られない。

ただ淡々と、内容を受け入れるように、噛み締めるように、思い出すように、静かに聞いている。



「…アストガル殿、恐らく人生最大の試練の時です」

「…う…む…」

「私の話を聞き続けて下さい、そして…」

「…勿体…ぶるで…ないわ…」

「貴方の最愛の声を、聴かないで下さい」


岩山の内部にいるとは思えない程、閉鎖された空間に居るとは思えない程、その歌声は空から降って来るかの様に、床岩から湧き出してくるかの様に、岩壁から染み出して来るかの様に、軍議室中に響き満たしゆく。

アストガルの良く知る、聴き慣れた聖女の歌声だ。

だが老騎士は祈りを捧げる事も、跪く事も、恍惚の表情を見せる事も無い、唯一いつもと同じであったのは涙を流している事であったが、それすらも感動の涙には程遠かった。


アストガルは知っている、長い付き合いだから。

バーレットが如何に王女を想い大事にして来たか、身を粉にして守って来たか、その命を捧げて仕えて来たか。

忠誠と親愛の情なら負けぬと思いながらも、その実際的な行動力と実務的な面では間違いなくベリューク軍トップであった男なのだ。

そのバーレットが言っているのだ、聴くなと。

そして涙無しには聞けないこの砦の終わりと、その後の世界に存在する自分に対して言っているのだ、死ねと。


ならば耳を塞ごう、塞いでも心に直接響いてくる歌声を、心が求めている歌声を、今は聴かぬよう努めよう。

そして死のう、それがどの様な意味を持つのか分からぬが、言い間違いなどしないバーレットが言ったのだ、“一度死ね”と。

既に死んでいて、もう一度死ぬ事が聖女とこの砦にとって意味を持つと言うのなら、いくらでも死んでやろうではないか。



背筋を伸ばして椅子に座り、バーレットを見つめたまま、老騎士は滲み溶け、消えた。



ルダンとアローネも歌声に繋ぎとめられる様に人の形を残してはいるもののその存在は希薄で、バンフルも微かに人型であることが分かる程度、周囲に控えていたマント付きの兵士たちに至っては一人残らず白い靄の様になっている。

このままであればやがてルダンとアローネは歌声で“元”に戻るかもしれない、バンフルはどうだろうか、マント付きの兵士たちはもう戻れないだろう。

グノッサリオとベルニオンが苦しむ騎士や兵士たちを痛ましげに見つめるが、今彼らにしてあげられる事は何も無いのだ。

そしてアストガルの消えた椅子を凝視したまま、バーレットが呟いた。


「遅いぞ、貴卿らしくもない。とっとと覚悟を決めて戻って来い」



「うぅ…痛ってててて…って、ほわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


違うのが先に戻って来た。

滅茶苦茶に手を振り回すファヴァルは手の甲を床岩に自ら打ち付け自滅しているが、デノンもブノンズも、勿論他の騎士たちも助けはしない。

アローネの膝枕で両の頬を真っ赤に腫れ上がらせながら気を失っていたファヴァルであったが、アローネの存在が失われかけた事で床岩に頭をぶつけ意識を取り戻していた。

そして目を開けたファヴァルが見たのは白一色の世界、その頭は滲むアローネの体の中に埋まっていたのだ。


「なんだろう、なんかムカつく」

「そんな事言ってるとまたバーレットの旦那に怒られますぜ」

「修正すべき点は多々あるが、奇遇だな、私もこのタイミングには少々腹が立っている」


会話が聞こえたのかどうかは定かでは無いが、ピタッと動きを止めたファヴァルはスッと上体を起こすと周囲を見渡し、軍議室である事を確認すると何事も無かったかの様に椅子に腰を下ろした。


「おはようございます殿下、よく眠れましたか」

「ハイ」

「それは良かった、ところで状況はお分かりですか」

「ハイ」

「それは良かった、ところでご自身の体調管理は出来そうですか」

「ハイ」

「それは良かった、ところで痛いところはありませんか」

「ハイ」

「…それは良かった」


赤い頬を見ながらバーレットは溜息を一つ、深くついた。


「しかし遅いな、爺さんならすぐにも戻って来ると思ったのだが、本当に還ったか?」

「縁起でもない事を言わないで下さい、バーレット様」

「うむ、老体とは言えアストガル殿の魂が我らに劣るとは思えぬ」

「しかしこのままではルダンとアローネが“戻って”しまう、あの爺さんに一喝してもらうのが早いと思ったのだが」

「では私たちで何とか追加の衝撃を与えてみましょう」

「そうだな、もう一度バーレット殿の様に歴史を語って聞かせるのが良いか、それとも訴えかけるのが良いか、ふむ」

「まったく使えん爺さんだ」


「使えんとは何じゃ使えんとは!!」


「よし。遅いから使えんと言われるのだ、自業自得だろう」

「ぬぅぅ、後で覚えておれよバーレット」

「生憎と物覚えが悪くてな」

「お主ほど記憶力の良い奴はおらんだろう!」

「おお、まさか爺さんに褒められるとは光栄だ」

「褒めとらんわ!!」


白い霧が膨れ上がると同時に軍議室に怒声が響き渡った、まるで歌声を打ち消すかの如く。

口角の上がるバーレットと、逆に口を尖らせるアストガル。

ついさっきまで見ていた光景が、この砦で、いや古くはシーサックの王城でも見られた光景がそこにある。

グノッサリオとベルニオンは出番無しとばかりに再び椅子に深く腰を下ろすのであった。




「ほれ、いつまでそうしてるつもりじゃ!早くこっちへ来んか!」


一度は存在を失いかけていたルダンとアローネは聖女の歌声に導かれる様にその姿を取り戻しつつあったが、現状を理解してしまったアストガルによる怒涛の口撃が始まった事で再び滲み乱れ、そして消えていた。

霧散した瞬間こそ驚きと不安の色を見せたアストガルも、バーレットの自信に満ちた姿と、グノッサリオとベルニオン両名の落ち着き様、何より今しがた自分が経験した事を考えればきっとすぐに戻って来るのだろうと安堵した。

だが自分の言葉で人が消え、戻って来ると信じてはいてもそれを待つ時間は途方もなく長く感じる。

いつしか響き渡っていた歌声も聴こえなくなったが、今頃失意の中にいるであろうファイルを想うと、それも辛かった。

ああこんなにも不安な時間をバーレット達は既に何度体験したのだろうか、そう思ったら黙って待っては居られなくなったのだ。

だから残滓の様に残る靄とも歪みともとれる空間に向かってアストガルは声を上げていた。




そんなアストガルを見ながら、まだ少しぼんやりとしているファヴァルは一つの記憶を思い起こしていた。

幼き日の断片的な、霧のかかる不鮮明な記憶だ。



あれは王都にある父エキルの館だっただろうか、大きな石造りの家であった事は確かなのだ。

父上はとても忙しそうにしていて、代りにいつも近くには髭を生やした執事長が付いていた。

ちょっと意地悪でちょっと手厳しいけど、それは悪戯が好きだった僕をしっかり見るように言われていたからだと思う。

そんな僕が執事長のお説教から逃げ込む先はいつもお爺ちゃん執事と呼んでいた僕に優しい老執事の所だった。

その他にも館には多くの使用人や騎士、兵士たちが出入りし、皆僕を可愛がってくれていた様に思う。

よく顔を合わせたあの大柄な騎士は、きっとエグレンだったのだろう。

あの優しい声はランバレアで、あのカッコイイ後ろ姿はビューネに違いない。

騎士たちを引き連れ父上と話していたのは…王命を伝えに来た当時の王妃マインサだろうか、お供の騎士と食糧がどうのって話をしていた。

そういえば妙にお姉さんぶるあの女の子は今頃どうしてるかな、館の使用人の子で口癖の様に「ほらほらおっそーい!」って言ってた。


そうだ、確かあの日もその女の子に引っ張りまわされて、館の中を走り回って…

飾り台に足を引っかけて花瓶を割ってしまったんだ、もうその日は椅子を一脚、その上で飛び跳ねて壊して怒られていたのに。

だから執事長に見つかるのが怖くてお爺ちゃん執事の部屋へと逃げ込んで、でもお爺ちゃん執事もそれはちゃんと怒られて来なさいって。

それなのに僕は悪いのは女の子の方で僕じゃないって言ってまた逃げ出して、使用人のいない場所、兵士の立っていない場所、すぐに見つからない場所を探して走って走って走って…

真っ暗な、たぶんあれは絶対に入ってはいけないと言われていた地下の貯蔵庫だったと思う、樽が並ぶその部屋の奥でうずくまっているうちに疲れて眠ってしまって…


体を揺すられて目を覚ますと、松明を持ったお爺ちゃん執事の泣きそうな顔があった。

泣きそうで、嬉しそうで、でも怒ってもいそうで、そんな不思議な顔だったのを覚えている。

遠くでは使用人や兵士たちが僕の名前を呼んでいるのが聞こえる、館の皆で僕の事を探しているのが分かった。

ああこれは物凄く怒られるなって思ったけど、その不安が表情に出ていたんだと思う、お爺ちゃん執事は優しく、とても優しく僕の頭を撫でてくれたから、僕はお爺ちゃん執事にギュッと抱きついて声を殺して泣いた。

少しすると僕の涙を拭ってニッと笑って、貯蔵庫の入り口から外の様子を確認すると僕を呼んだんだ、トーンを落とした低い声で。


「ほれ、いつまでそうしてるつもりじゃ!早くこっちへ来んか!」


結局その後、二人でこっそりお爺ちゃん執事の部屋に移動したら中で執事長が待ち構えていて、二人揃ってこっ酷く怒られた…

でもなんだかちょっとした冒険をして来た様な気分で、楽しかったんだ。

ほらお爺ちゃん執事も申し訳なさそうに俯いてるけど、視線の低い僕には分かる、口元が笑ってるもん。

それにしても、何故今思い出したんだろう、何故こんなにも朧気なんだろう、何故、執事長もお爺ちゃん執事も鎧なんて着ていたんだろう。



死、それは肉体との離別、空への帰還、伝説の終わりと伝承の始まり。

伝説を作った者たちが去り、伝承が生まれ受け継がれる、だが伝説が終わっていなかったとしたらそれは何と呼べば良いのだろうか。



「聞いていますか、殿下、爺さん、同じ事を何度も言わせないで下さい」



◎続く◎


遅れ馳せながら明けましておめでとうございます。

皆様が良い一年を過ごせますようお祈り申し上げます。


…本当は年末にこの36幕を上げて良いお年をって言うつもりだったのに、なんだかんだでだいぶ空いてしまいました。

去年の10月頃には年末までにこの砦の魔女は完結まで書き上げたいなぁとか思っていたのも今では良い思い出なはずもなく…

遅筆なせいもありますが、だいたいバーレットさんのせい。

おいここは私の出番だろう、私にしゃべらせなさいと脳内バーレットさんに何度も言われる今日この頃です。

ちなみに次話でも活躍する模様、誰かこの男を止めてくれぇぇぇ

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