第31幕:「奇跡」
第31幕:「奇跡」
◇新生王国暦5年 陽光季99日
ファヴァルはその言葉の意味を理解するのに、しばしの時間を要した。
それも当然だろう、今、おまえは16年間父と信じて疑っていなかったエキル・レギエンの子では無いと言われたのだから。
ファヴァルにとって家族とは、父のエキルであり、叔父のエグレンであり、そして〝母〟のマインサである。
勿論メイヤーナの女王マインサが実の母では無いこと位は知っていた、母であって欲しいと思い、実はエキルとマインサの隠し子なのではなどと考えた事もある。
だが、自分はレギエンですら無いと言われても頭がそれを容易には受け入れてくれない。
これまでの人生をレギエンとして過ごし、レギエンとして学び、そしてレギエンだからこそ今の地位と仲間たちがあるからだ。
何かが崩れていくような感覚に陥りつつも、それでもまだ冷静で居られたのは、直前の聖女との出会いが余りにも強烈だったから。
今日という短い時間に余りにも色々な事が、発見が、驚きがあった事でどこかで緊張の糸が焼き切れてしまっているのかもしれない。
「…~いファヴァル、放心するのは後にしてくれ、まだ安全とは言い切れないんだぞ」
「何て言うか、デノンはデノンだね、デノンのままで良かったよ」
蹴り飛ばされたファヴァルはそれすらも嬉しそうで、気味が悪い。
怪訝な顔で「はあ??」と応じるデノンに言葉が続く。
「デノンは僕がレギエンじゃなくても何も変わらなそうだから、何だかそれが嬉しくってさ」
「ああ?俺は元エキル様の直属だぞ?エキル様がこの話を聞いてもうファヴァルなんて知らんって言ったらそれまでだ」
「んーん、何か例えそうなったとしてもデノンはやっぱりデノンな気がするよ、だってデノンだもん」
再び蹴り飛ばされたファヴァルだったが、気恥ずかしそうにスタスタと歩き始めたデノンを見てまたしても嬉しそうに笑うのだった。
その後ろでは未だ散発的に物が宙を舞っていたが、何だかそれももう怖くは無い、こんな非日常の状況下で、素晴らしく日常的なやり取りが出来ているのだから。
「なぁおいファヴァル、この部屋は…」
「ああ、うん、そうだ紹介するね、僕の姉さん、ファノア姉さんだよ、たぶんだけど」
「は?いや、ああどうも初めまし…て?」
「もし本当に僕がベリュークの子なら、あの絵画の中の同じ髪色の子なら、僕には聖女と同じ髪色の姉さんが居たはずなんだ」
「それが、この子だって言うのか、まぁ確かにこの場所は砦の一番奥なんだろうし、聖女一家の部屋っぽくは見えるな」
「間違いないと思う、これまで砦内で見たどの調度品より格式が高いし、この剣、この手記、この服…」
「そっか、じゃあおまえの部屋でもあるんだな」
「あ…そう、だね、きっとそうなんだね」
改めて部屋を見渡してみるファヴァルだが、本当に自分がここに居たとして、それは余りにも幼き日の話。
過去を思い浮かべて出てくるのは、王都オウベリンにあるエキルの館、城下町、王城、そしてマインサと過ごした日々。
でも確かに、そのパズルを順番に並び変えようとした時に、はめ込む場所が分からず放り投げていたピースがあったような気がする。
あれはマインサと過ごした書庫の隠し部屋だったのか、それとも大冒険の末に辿り着いた王城の地下牢だったのか、それともこっそり果物を齧りに入った貯蔵庫の奥だったのか。
そういえば昔から狭くて暗い場所が好きだった、もしかしたらそれは…
「ねえデノン、どうして僕はレギエンじゃなくてベリュークなの?」
「あー…っとな、その話先にした方が良いか、逃げるのが先じゃなくて大丈夫か」
「実はこの先の退路も既に塞がれてる可能性があって、それに本当にこのスホータム砦をどうにかするには、たぶんその話を聞かなくちゃいけないと思うんだ」
「うわぁ助かったと思ったのに助かってなかったのかよ、チクショウ」
「ふふ、人生そんなに甘くは無いってことだよデノ…ッンガッ」
「聖女さんお宅のお子さんはちゃんと躾けときますんで」
涙目になりお行儀よく木箱に腰かけるファヴァルを見下ろしながら、しっかりとした椅子を持って来てそこに座るデノンは二つの選択肢を告げた。
「んでどっちから聞きたい、砦を守りたい聖女さんの話と、砦を離れたい聖女さんの話」
「砦を守りたいのに離れたいの?もしかして聖女、んっと、んーー」
「なんだよ」
「いや、なんて呼べばいいのかなって、あはははは…」
「ママでいいんじゃね」
「母上様はこの砦を嫌々守っていたのであろうか」
「ここで蹴り飛ばすと部屋傷つけそうだしおまえの姉ちゃんも見てるからやめといてやるわ、な」
「もうさっきその拳振るったよね?頭に拳骨落としたよね!?あ、いや、でも、それはつまりその方法なら部屋を傷つけないと言っている訳ではンギャ」
「んでどっちから聞きたい、砦を守りたい聖女さんの話と、砦を離れたい聖女さんの話、まぁ分かりやすく言うと聖女と魔女の話ってこった」
「っぅ~痛いよ…それにそれ全然分かりやすくないって」
「よし聖女の話からだな、分かった」
デノンが痺れを切らして語りだしたのは、矢による大怪我でここに運び込まれてからこれまでに見た話。
デノンを感激させ、同時に恐怖のどん底に突き落とした体験。
「まずあの聖女さんだが、結論から言うと本物だ、間違いなくあの戦争でエキル様と戦ったあのシーサック王国の聖女ファイルだ」
「ソウルキーパーとなって、今なお当時の記憶のままに戦い続けてる」
「ああそうだ、俺を治療してくれている間、メイヤーナとの戦いでこれ以上民を死なせてはならないとか、必ず追い払ってディオニ村に帰してあげるとかって言われてたからな」
「聖女の癒しを、受けたんだよね」
「そうだよあれすごかったぜ!血が流れ出るとこに手を当ててさ、歌うみたいに祈ってたんだけどさ、そしたら痛みが和らいで血の流れも止まったんだよ!まぁその後は普通に傷口に葉っぱみたいなのあてがわれて見ての通り布でぐるぐる巻きにされて寝かされてたんだけどな」
「怪我が自然に治って行くのを、一気に進めたって感じなのかな」
「そうかもしれない、今も訓練でヘマして数日寝込んだ時の治りかけの日に近い感覚ってのがしっくり来るかな」
「魂官さんの祈りでお腹痛いのが治るののすごい版、だね」
「おまえ、そんな事で魂官に祈らせるなよ…」
「んんん、それでその優しい聖女がどうしてああなっちゃったんだろう」
先程見た幻想的ながら極めて攻撃的で無差別な破壊の光が思い出される。
グノッサリオやベルニオンが見せた記憶の混濁したような言動も見られた。
「俺への治療が一通り終わった後なんだけどさ、椅子に座ったまま眠ったように動かなくなったんだよ、聖女さんが、それで声を掛けてみたんだ」
「主の母親を口説こうとか下衆の極みなんだけど」
「もっぺん殴っとくか?ん?」
「ンッグ…もう殴ってるもう殴ってるもう殴って待った待った待った!話を進めよう?!」
「じゃあ余計な事喋んな、あと俺の主は確かファヴァル・レギエンて名前でファヴァル・ベリュークって奴じゃないんだよなぁ」
「なー!?」
「えーっと、でだ、動かなくなった聖女さんに話しかけてたら反応があったんだけどさ、まるで別人だったんだよ、いや、別人では無いけど同じじゃないと言うか」
「もしかしてデノンって説明下手?」
「おい敵将ファヴァル・ベリューク?」
再び大人しくなったファヴァルに満足し、しかし言葉にするのに苦労しながらデノンは続ける。
そもそもソウルキーパーという存在自体が非現実的すぎて説明困難なのだ、その中でも極めて特殊な例など尚更である。
「二重人格が一番近いと思う、とにかく起きたと思った聖女さんはさっきまでの聖女さんじゃなくて、声も優し気な雰囲気も同じなんだけどまるで別人だったんだ」
「あの、聖女さん…?」
「…貴方はどなただったかしら?この前来た狩人の方とは違うし、もしかして商隊でいらした方?」
「いや、俺はその」
「商隊、商隊、もうこの砦に商隊が来る事なんて無いのに、私ったら何を言っているのかしら」
「戦争が終わったらまた来るんじゃないですか」
「戦争なんてもうとっくの昔に終わっているのでしょう?」
「…貴女は」
「初めまして名も知らぬ方、スホータム砦へようこそ、私はシーサック王国のファイル、以前であれば来訪を歓迎し温かい料理でもてなしたかったのだけれども」
「今は、歓迎してくれないんですかね、はは」
「その怪我が治ったら発ちなさい、ここは貴方が来るべき場所ではありません、そして村に帰ったらここに近づいてはいけないと皆に伝えて」
「それはどうしてですか、現に貴女は今、俺をどうする事だって出来るのにただ追い返すだけだなんて」
「ここはドノヴァーの帰りを待つ私の家だから、そしてそれが叶わぬなら、せめて還るその時まで静かに眠りたいから」
「英雄ドノヴァーは、帰ってくるんですかね」
「…分からないの、あの人の魂が今何処に居るのか、もしかしたらもう先に還っているのかもしれないわ」
「それなら」
「でも私はまだ還れない、還る事が出来ない、私の願いはこの家と家族を守る事だったから、私に尽くしてくれた皆が私が生きる事を願ってくれたから、そしてそんな皆も私の家族だから、私は家族を守る為に力を貸してとズィーに願い、彼らは私を還らせないで欲しいと黒雲の竜に祈った」
聖女の胸に揺れる首飾りにはシーサック王国の旗印と同じ黒雲の竜を彫り込んだ金属片の様な物が見える。
「その、貴女の力でもどうにもならないんですかね」
「無理ね、だって私の願いを阻むのは過去の私、何より私自身が知っている私の一番の願い、家族との幸せ、それを消し去る事も否定する事も私には出来ないもの」
「でもそれでは永遠に貴女は」
「そうでもないわ、この砦にいた全ての人の顔を今でも思い出せるけれども、私が初めて目覚めた時既に半数は還って居なかった、そして目覚める度にその数は減って、今は300人くらいかしら」
「(おいおい、ディオニの村長たちの話じゃ残りは200人くらいってとこじゃなかったのかよ)」
「少しずつ、ほんの少しずつだけれども私たちは空へと還っているわ、召使いたちや職人たちはもう居ない、若い兵たちも見かけなくなったわね」
「年寄ほど魂の量が多い、のか?…ああいや!貴女が年寄だとかそんな事は!」
「うふふ気を使ってくれてありがとう、そうね、魂に大きさや量があるのかは分からないけれども、輝きの強さの様な物はあるわ、そしてそれは年齢よりもその人の芯の強さ、想いや願いの強さに依る部分が大きいと思うの」
「魂の輝き、想いの強さ…それがソウルキーパーの原理、ソウルキーパーとなり得る理由…」
「だから私たちの想いが尽きるまで、願いが消えるその日まで、そっとしておいて欲しいの」
「それは、あと何年くらいでしょう」
「…もう数十年もすれば兵たちは全て還るでしょう、数百年あれば騎士たちも還れるでしょう」
「百…そんなに?それだと貴女は…」
聖女はただ微笑み、それには答えなかった。
「本当はこんなにも長く存在しては居なかったはずなのよ?そもそもこの砦にいたほぼ全ての人間があの日還ったはずだったのに」
「あの日、戦いのあった日の事を覚えているんですね」
「そうね、なんとなくだけれども、覚えているわ、水を被り外へ討って出ると言うドノヴァーと、必死に止めるベルニオンたち、私の横にはバーレットが居て、グノッサリオが部屋を飛び出して行った…」
「…」
「私が最後に考えていたのはファノアとファヴァルの事、あの子たちが無事か確認したかったけれども、もう声も出なかった」
「ファヴァル?」
「そうよ、私の大事な子、ドノヴァーにとっても似ているのよ」
「いや、まさか、なぁ」
「…?そして、私が目を覚ました時には、この砦は静まり返っていて、光も無く、あるのは気配だけだった」
「それが今もここにいる兵たちって事ですか」
「そうね、本来であれば還っていたはずの彼らの魂を私が縛ってしまった、私の想いがここに留めてしまった、私がいなければ今すぐにでも彼らは還れるはずなのに私が力を与えてしまった、気配に名を呼び掛けその顔を思い出した時、この砦は私の思い出の中にあった姿を取り戻してしまった…」
「本当にどうする事も出来ないんですかね、その、例えばドノヴァーのその後の話とか、気にかけていたお子さんたちのその後が分かれば…」
「貴方は知っているの?そう言えば所々上品な言葉使いよね、村の出では無いのかしら」
「俺は…実はメイヤーナ王国の人間です、この砦からソウルキーパーをその、追い出す為に来ていたんです」
「そう、そうだったの、メイヤーナ王国には良い思い出は無いけれども、貴方に恨みがある訳ではないわ、それに…」
「それに…?」
「追い出してくれるならむしろ歓迎した方がいいのかしら?」
「えっと、どう、なんでしょうね?」
しばしの見つめ合いの後、どちらからともなく笑いがこぼれた。
文字通り笑いすぎてお腹が痛くなったデノンに再び祈りを捧げるファイルは、やはり聖女だった。
「ありがとうございます、だいぶ痛みが引きました、命を救っていただいたお礼には到底及びませんが、俺の知ってる詩を教えますね」
「まあ、どんな詩なのかしら、私、詩や伝承、物語が大好きなのよ」
「ああいやどうしよう、その、メイヤーナの比較的新しい詩で、その、英雄ドノヴァーとの戦いが最後にあるんです…」
「…この砦を巡る、物語なのね?」
「はい、勝ったメイヤーナの視点で、たぶん脚色もされている内容なんですが…」
「いいわ聞かせて、今に伝わるこの砦の物語を、私の愛した英雄の最期の雄姿を」
デノンが紡ぐエキル軍によるスホータム砦攻略戦を描いた詩を、ファイルは目を閉じじっと、じっと、聴いていた。
外側から砦を睨む視点で作られた物語であり、ファイルにとっては当然初めて聞く内容であったが、当時のこの一帯の風景、そして砦内の様子を今も昨日の事の様に思い出せるファイルの脳裏では、その物語の語り部の視点も容易に思い浮かべられていた。
確かにあの戦いで自分たちはうまく立ち回り、うまく抗っていたのだと、褒めるべきはメイヤーナらしからぬ奇策を用いてでも勝利した敵将だったのだろう。
私もドノヴァーもアローネも、バーレットもアストガルもバンフルも、グノッサリオもベルニオンもルダンも、皆あの日を精一杯戦い抜いたのだ。
ぽたぽたと、頬を伝った白い涙は床に落ち、やがて霞んで溶け消えた。
「ドノヴァーに勝つなんて、そのエグレンという騎士はなかなかのものね」
「いや、エグレン様はドノヴァーは熱と炎で弱り到底万全の状態では無かったと、武人としては満足のいく戦いでも結末でも無かったと」
「まあ、貴方はそのエグレンという騎士にも詳しいのね」
「はい、まぁ何と言いますか、実質上官と言いますか、…今も砦の外で兵たちを率いているはずです」
「今この砦を包囲しているのは、そのエグレンという騎士の軍なのね」
「そんなところですが、一応総大将は別に居まして…名をファヴァル・レギエンと言います」
「ファヴァル…、そのエグレンやあのエキルと同じレギエン家の、ファヴァル?」
「はい」
「そのファヴァルに、ファヴァルという名の貴方たちの主に、会ってみみ、みたいわ」
「それならばこの砦にいるソウルキーパーたちに命じて下さい、そうすれば…」
「ファヴァ、ル、ファヴァル、私の、私のファ…」
「聖女さん?」
「何処かへ逃げて、今すぐに!砦の中で異変があった、気配が歪む、嘆きが聞こえる、私は大丈夫よランザーク卿…」
「そしたらピカピカーって、でバシバシー、ババーーン、ガラガラゴロゴローってさ」
「やっぱりデノンって説明下手だよね?」
「うるせぇあんなの今まで見た事も聞いた事も無いから説明出来ねぇんだよ、じゃあおまえならさっきのアレどう説明するんだよ」
「ふっふっふ、僕ならそうだな…こう、うーんと、ピカピ…いやいやえーっと」
三度落ちた拳骨に頭を抱えるファヴァルであった。
「よし。でまぁあの広い場所、聖堂でいいんだよな?あそこに転がり出て嵐が過ぎ去るのを待ってさ、治まった頃に覗きに行ったらベッドの一つは砕け散ってるし壁にも穴開いてるし、んでもって聖女さんはまた眠ったみたいになってたんだ」
「それなら眠ってる間に行けば何とかなるかな」
「それがよぉ、起きる気配は無さそうだと横のベッドに座って聖女さんを眺めてたらさぁ」
「ベッド…眠る聖女を…眺め…」
「やめろやめろ、こっちは手掛かりを探してちゃんと仕事してんだぞ」
四度振り上げられた拳から距離を取るファヴァル、今度は無事に逃げられたようだ。
「また聖女さんが光り出してさ、やべぇと思ってベッドの裏に隠れたら今度はピカピカバシバシしながら歌い出したんだよ、もう怖えの何の」
「あー、それってもしかして優しいけどちょっと悲しい歌?」
「そっちにも聞こえてたのか、そうあの心がぞわぞわする歌だよ」
「牢でベルニオンを鎮めた歌だ、離れていても本当に聖女にはベリュークの人たちの気配や変化が感じ取れているんだ!」
「おいちょっと待て、まさかあの歌の原因はおまえなんじゃないのか?」
「ソンナコトナイヨ、ゼンゼンチガウヨップグゥ!」
これでデノンの5戦4勝1敗、病み上がりにしてはなかなかの戦績である。
「とにかくその後はずーっとブツブツ言ってたり突然顔を上げて周りを見渡してまた気絶するように静かになったりと不安定なんだ」
「近づくと危ない?」
「不用意に近づいた結果がおまえのさっきのアレだぞ、反省しろ」
「ハイ」
「さてと、それじゃあどうすっかねぇ」
「ところで、何で僕がファヴァル・ベリュークって思ったの?」
「おまえの母親の情報は非公開だが女王陛下以外にその候補の名が挙がった事がねぇ、…まぁ民の可能性もあるがそれにしても噂すら聞かない、でもってエキル様は戦争時には女王陛下に嫌われていたって話なんだよ」
「え、父上って昔は悪人か何かだったの?」
「どっちかって言うと女王陛下が今みたいじゃなかったって話だぞ」
「いやいやそんなバカな嘘を言っちゃダメだよデノン僕は昔から女王陛下がとっても優しかったのを知ってるぞこの大嘘付きめ!って言ったら怒るよね嘘だよ大嘘付きは僕の方だよデノン万歳?」
「…チッ、それでまぁおまえの母親についてエグレン様はたぶん答えを知ってるんだよ、でも詮索するなってな」
「叔父上も?」
「エキル様とエグレン様は知ってる、恐らく今回の異例の辺境伯軍を承認した女王陛下も知ってる、そして行き先がここで、聖女と英雄には消息不明の娘と息子がいて名前がファヴァルだぞ」
「でも…」
「俺は奇跡なんてものは…少なくとも今日までは信じて来なかった、妥当な考えとしておまえはエキル様たちが連れ帰ったこの砦の生き残りだ、そして奇跡なんてものが存在するなら、やっぱりおまえはこの砦の生き残りだ」
鍵、それは思い出をしまう物、思い出を閉じ込める物、無くしてはならない物。
思い出を探して鍵を開ける者が居る、思い出したくなくて鍵を捨てる者が居る、鍵を拾った者が持ち主を探している、望まれるか否か分からぬまま。
「なぁファヴァル、奇跡が本当に起きるのか、俺たちで試してみようぜ」
◎続く◎
物語全体における、前中後の後編の開始です。
まずは長らく休暇を楽しんでいた(?)デノンのお話から。
ぼっちだったデノンですが恐らくファヴァルの次くらいにこの砦の状況を把握しています。
飲み会に一人は欲しい話題振り上手、聞き上手なタイプかもしれない。
聖女の圧倒的な破壊力の前に脱兎のごとく逃げ帰った二人ですが、どーするんですかねー。




