幕間:「近況」
幕間:「近況」
ファドライア・シーサック陛下
大変ご無沙汰しており、誠に申し訳ございません。
臣・バーレット、謹んでお慶び申し上げます。
前回、炎熱季末に王女ファイル様のご懐妊をお伝えしましてより月日が経ち、
本日この日を無事迎えられました事は、シーサック王国に住まう全ての人々にとって喜びに他なりません。
銀風季53日黎明、ラグン地方スホータム砦にて、ファイル様の第二子となります男児が皆の祝福に包まれ誕生致しました。
名は、ファヴァルと命名されましてございます。
ファイル様とドノヴァー様のご意向により、皆に愛されるようにとの願いを込め「ノア」の音を使い命名された第一子ファノア様とは異なり、
お二人に愛され生まれた事を示す、名譲りの形にて名付けられました。
すなわち、陛下、そしてファイル様を含む王家にて引き継がれし「ファ」の音と、
ドノヴァー様の生まれ故郷での正確な発音だと言う、「ドンノヴァール」からも音を取り、「ファヴァル」でございます。
果たしていずこの言葉であるのかこのバーレットをもってしても未だ不明ではありますが、響きは悪くないかと思われます。
この慶事に砦内はもとよりラグンの民は皆揃ってファイル様への祈りも高らかに舞い歌い、今この地は喜色満面でございます。
陛下、そしてファイル様のご威光は遍く王国内を照らし包んでおり、この民の笑顔こそその証左にございましょう。
このバーレットがこの時代、この治世にここに在れたこと、何より陛下とファイル様にお仕えできたことは幸せ以外の何物でも無く、
更にはそのお子様にもお仕えできるであろうことは、望外の喜びでございます。
シーサック王国の未来に憂いなく、その繁栄に翳りなく、光ある限りこのバーレットは身命を賭してお仕えしますこと、改めてここに誓います。
さて無才の画家の絵ほど滑稽で無価値なものはございませんが、近日中にお子様とファイル様を描いた1枚をお贈りいたします。
陛下のお目汚しになるやもしれずその際にはこのバーレットの命を持って償わせていただきたく存じますが、
以前に王妃殿下がファイル様の笑顔が恋しいと、またファノア様のご成長についても知りたいと申しておりました故、
臣なりに考えました末、ここ1年ほど絵画の技法を学びましたところ、最近は納得のいく表現で描けるようになってきたと愚行する次第でございます。
陛下のお側にてお仕えしております息子、才の無い息子ではございますが、アレに届けさせますので、
よろしければ午後のひと時を過ごされる際に、王妃殿下と笑い話のひとつにでもご覧いただけますと幸いです。
最後に、本来この喜びの手紙とは分けて送るべき内容ではございますが、陛下は無駄を好まぬご性格と存じます故、追記いたします。
先日砦内にてファノア様の名を冠した闘技会が開催され、実に見応えのある闘技が繰り広げられました、以下はその結果です。
最優秀闘技者、ベリューク卿
準優秀闘技者、ランザーク卿
優秀騎闘者、ラドック卿
優秀剣闘者、騎士アローネ
優秀弓闘者、兵士ソルクス
優秀拳闘者、騎士ルダン
やはりドノヴァー様とその戦友方は、個人技においては王国でも指折りの存在であることは疑いようがございません。
しかしながら、次回はファヴァル様の名を冠して駒遊びや闇行戦術披露などによる対戦での競技会開催を是非にと提案しており、
もしその様な頭脳戦が競われました際には、このバーレットやアストガル、バントレオら“姫付きの臣”が必ずや名を連ねて見せましょう。
最後に、ファノア様の名を冠したで思い出しましたが、ファノア様は最近その美しい髪の毛が生え揃い、日々増す愛らしさの天井が見えません。
まさにその姿は幼きあの日のファイル様そのものであり、今この地には聖女が2人いると言われれば否はございません。
ファイル様譲りの艶やかな黒髪に、瞳の金玉、いずれは流麗な眉もその顔を彩り、至高の歌声もその身に宿ることでしょう。
そういった点においてのみは、ドノヴァー様にはご遠慮願いたいと、切に願わざるを得ません。
…無論、他意はございません。
しかしながらファノア様がこれほどまでファイル様に似ておられるのであれば、ファヴァル様はドノヴァー様に似て人に好かれる好青年に育つのではないでしょうか。
人の上に立つために必要な素質は多岐に渡りますが、そのような得難いものを受け継がれているならば、ベリューク家はこの先100年安泰でしょう。
さて最後に、近頃ラグンの地の森で捕らえました幾頭かの馬を乗騎として調教しておりましたところ、素晴らしい成果が出ておりますのでご報告いたします。
調教師の言によれば、この地の馬は長く森内での生活を続けているためか、その加速性においては草原の馬に劣るとのことでした。
実際、これまでも森の馬は質が低いと言われており、乗騎は全て草原地帯の村々より買い集めておりましたが、
この程調教された森の馬において、その急停止力、転身力、上方への跳躍力、そして夜間活動などはむしろ優れているとの結果が出ました。
早馬としての利用や、草原や荒野など広く開けた土地において行われる会戦では活かせぬ能力ですが、森や岩場などの難所悪路や夜襲には使えるやもしれません。
今後時間をかけて更なる調教と研究を進めて参ります。
さて最後に、これは書くべきか否か悩んだのですが、アストガルめがファノア様に続きファヴァル様の誕生も見届けたことで不遜にも曾孫の顔でも見た気にでもなったのでしょうか、
もうこの世に思い残すことなど無いなどと戯言を申しており、年甲斐もなく泣きじゃくるわ儂は幸せ者じゃあなどとのたまい煩いのです。
無駄に口達者な老人ほど煩わしいものはないと申しますが、まさにその通りで古き格言の言い得て妙を実感しております。
どうか陛下におかれましては、あの老害に新たな役割と使命を与え、死ぬまでしっかり働くよう導いていただければと存じます。
忠誠心だけなら国一番を名乗っても許される程度の先の短い老人です、陛下の一言で感激しどのようなことでもやるでしょう。
…できますならば、ファイル様にご一筆いただきあの老人をファヴァル様の指南役にでも任命させてやって下さい、それで文字通り死ぬほど喜び成長するまで死ぬなどとは言わぬでしょう。
無論、ファノア様のご指南はこのバーレットめがしっかりと勤め上げてみせましょう。
それでは最後に改めまして、この度は陛下のお孫様に当たりますファヴァル様の無事のご生誕、誠におめでとうございます。
スホータム砦におります臣下を代表し、お祝い申し上げます。
また季節が変わる頃に、ご連絡差し上げます。
季節、で思い出しましたが、このラグンの地は涼音季になりますと色彩豊かな風景が砦から一望でき、
実りは多くその種も多様で、王都から来た料理人たちが食材の多さに驚いていたほどです。
また森の獣たちもよく肥え太り、その丸々とした的を相手に狩りを楽しむのも、その後にその新鮮な肉を豪快に味わうのも一興です。
来年の涼音季には是非、ご家族の顔を見にこの地への巡行などご検討くださいませ。
その際には、王妃殿下やファルタ様の顔も見れますと、ファイル様も砦の皆も喜びましょう。
それでは、早馬の者が気を緩めずこの手紙が迅速に王都へと届くことを願い。
七王国暦272年 銀風季53日
王国領ラグン地方スホータム砦より
シーサック王国上級騎士 バーレット・デルゲント
七王国暦272年、物語の17年前に送られたとある騎士の手紙。
(差出人書いてあってとあるも何もありませんが)
ちなみにファヴァルの誕生日は272年銀風季53日ですが、誕生日不明のためエキルが決めた誕生日が273年陽光季10日となっています。




