第30幕:「聖女」
第30幕:「聖女」
◇新生王国暦5年 陽光季99日
そこは暗き闇の中とでも呼ぶべき場所だった。
狭く長い縦穴に掛けられた梯子を、松明を片手に少しずつ慎重に下りて行く。
果たして最後に使用されたのがどれほど前なのかも分からぬ木製の梯子は、足を下ろすたびに軋み不安を膨らませる。
どれだけ下りても底は見えず、もはや見上げても闇しか目に入らない、しかし梯子は確かに下へと続いている。
「キットモウスグ…キットモウスグ…キットモスグウ…っはぁぁぁぁダメだいったん休憩!」
ついに足が止まり梯子に抱きつくように腕を絡ませて一息入れようとしたが、手に持つ松明の火が梯子に触れ表面を赤く焦がした。
慌てて擦り火を消そうとして大事な、そして危険な松明を落としてしまった。
「あああああああああ!!…あ?」
だが文句を言いつつもしっかりと下りてはいたようで、闇に消えかけた松明はしかし微かに光を残して止まった、どうやらあそこがこの穴の底のようだ。
終着点が可視化されたことでやる気を取り戻したファヴァルは、手探り足探りで再び梯子を下り始めふと気付く。
「あの火、梯子に燃え移ったりしないよね…?」
下から梯子を飲み込みながら迫って来る炎を想像し、慌てて梯子を登ろうとして奇声を上げ頭を梯子にゴンゴンと打ち付け、今度は足を踏み外しそうになりながらも勢いよく眼下の火を目指して下りるファヴァルであった。
どこまでも続くと思われた闇の底に降り立ったファヴァルは、幸い地面に転がってチロチロと弱く光っているだけだった松明を拾い上げた。
そうして辺りを照らせば壁に掘られた窪みに魂芯灯がいくつも置かれているのが目に入る、なるほど脱出の際にはここで魂芯灯を手に取り腰にでも括りつけて梯子を上るのか、維持の関係で常用には向かないが火を使わず空気の濃度や風にも影響されないソレはまさにここが使いどころだろう。
ファヴァルは松明の火を消して代わりに一つ腰に括りつけ早速光を灯してみる、すると辺りは驚くほど明るくなった。
「王城や父上の館に設置されてるのと全然違う?こんなに明るい魂芯灯は初めてだ」
暗闇に目が慣れていたせいで明るく感じるのかとも思ったが、明らかに光りが大きい。
「きっとこれも聖女の力だ」などと適当な事を言ってみるが、あのファヴァルにしては極めて珍しく半分正解であった。
“聖女の光”を味方に着けて横に伸びる一本道を進むと、すぐに格子状に鉄で補強された木の壁に阻まれ行き止まりになっている。
「まあ木の壁って事は実質扉って事だよね」
ふふふんと得意げに押すが動かない。
ははぁなるほどと引いてみても動かない。
しばらく押したり引いたりしてみるが動かない。
「え…これもあっち側からしか開けられない系…?」
まずまばたきが止まり、伸ばした手が硬直し、汗が頬を伝い、鼻水が垂れ、汗の混じった塩辛い涙が唇に染みる。
絶望と共に溢れ出した汚い水分が顔面を支配する様は、顔立ちが良くプラチナブロンドの髪も綺麗なだけにとてもとても残念だった。
思い出したように押してみるがやはりビクともせず、縄で引っ張ってみるかと考えるも引っ掛けられそうな場所は見つからず、かと言って手持ちの武器は剣1本とナイフのみで先ほどのブノンズの様に壁面を削れそうな装備は無い。
一度引き返して相談をとも思ったがあの梯子を再び上る手間と苦労と時間と、そろそろバーレットやグノッサリオ、ベルニオンらが騙された事に気付いている頃だろうと考えれば、時間は残されていない様に思えた。
どうしようもなくなり、感情が無となって走馬灯のように思い出が甦る中、その光景に一番多く登場したのは王城で敗戦処理の政務に追われる父エキルに代わり幼少期の面倒を見てくれた女王マインサの姿であった。
実の母のように接し育ててくれた彼女と共に学び遊んだ日々が懐かしい、あああの頃に戻りたい…
「あああの頃に戻りたい…あの庭、あのバルコニー、あの書庫、あの…書庫の奥の…秘密の地下室…」
ふと思い出された光景に無となっていた感情が呼び戻される、大きくなってからはマインサに入れて貰えなくなった秘密の地下室、その、入り方は。
ファヴァルが鉄格子に手を掛け力いっぱい横に押すと、ゴ ゴ ゴ と重厚な音を立てて景色が開けた。
なんとも単純な話だがどうやら焦るあまり冷静さを失っていたようである、ある意味ファヴァルらしい。
「ありがとうございます女王陛下、貴女はやっぱり僕の女神です」
顔が汚くなければ完璧であった。
開けた先は小さな部屋になっており、どうやら動かした壁は書棚になっていたらしい、なぜ人は書棚の奥に隠し扉を作りたがるのか。
その部屋は先ほど訪れたグノッサリオの部屋と似て、綺麗にまとめられたいかにもプライベートな空間であった。
そして何より真っ先に目に入るのが部屋の中央を占める豪華なベッドであろう、天蓋付きで薄く透けるカーテンに囲まれたそのベッドには、幼い黒髪の遺骸が眠っている。
ここが聖女と英雄の私室であろうこと、そしてそこに眠るのがあの絵の中で英雄の胸に抱かれていた二人の娘であろうことは想像に難くない。
「名前は分からないけど、今ここに貴女が居ないという事はきっと還れたのかな、そうだといいな」
ファヴァルは眠る幼子に祈りを捧げ、改めて部屋の中を見回してみる。
服や靴、食器や調味料が入っているであろう小壷、本に紙の束など日用品ばかりだが、その中に一本の短剣を見つけた。
見事な竜の彫りの柄頭と、金の装飾が施された鞘、そしてスラリと抜き放った剣身には曇り一つなく、これが英雄の所有物だと言われれば納得の品だ。
ファヴァルはその短剣を腰に着けかけて思いとどまりやはりやめておいた、大冒険の末に発見した見事な剣に心は躍ったが、まだこれは英雄の所有物であるような気がしたのだ。
短剣と日記らしい書物を部屋にあった腰巻用の布で縛りまとめておく、後ですべてが解決したら改めて取りに来ようと思ったからだ。
そして扉を見つめて大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
書棚の裏の隠し通路へと繋がる道を除けばその扉が唯一の出入り口で、恐らくこの先が聖堂と呼ばれる場所へと繋がっているのだろう。
(外では叔父上たちが頑張っているだろう、バーレットの相手をさせてしまったショアナさんや伝令役の兵士は大丈夫だろうか、民間人なのに大役を任せてしまったトゥリスさんの事も気になる、そして上で時間を稼いでくれているブノンズさんやそれぞれの役割を果たしてくれた兵士たちだって心配だ)
「ついに、ついにここまで来たんだ、後は聖女を説得して終わらせよう」
今までの道程と苦労、出会った人々の顔や想い、ベリューク軍の意外な素顔、全てを背負い決意を込めてファヴァルはその扉を押し、押し…引いて開けた。
「ブノンズ様、本当にこれで良かったんですか?」
「良かないけどしょうがないだろう」
「でも、明らかに怪しいし帰れなくなっちゃったんじゃあ…」
「まぁ出口は塞がれたようなもんだから、ファヴァル様が交渉に失敗したら帰れないだろうなぁ」
「あああ辺境伯様どうかお願いします」
ファヴァルを見送った後、武器庫の入り口で武器の数の確認をしてみせたり、何処へどう分配するかを相談してみせたりして時間を稼いでいたブノンズと車輪の徽章の兵士であったが、今や窮地に陥っていた。
扉の前の近衛兵たちには問題無く対応出来ていたのだが、そこへ兵を引き連れたバーレットがやって来たからだ。
聞こえて来たやや急ぎの足音と、視界に入った瞬間に分かる五割増しの苛立った表情に状況のまずさを悟ったブノンズは慌てて武器庫の扉を閉めた。
兵士と共にとにかくそこら辺の木箱やら資材やらを扉の前に積み上げて立て籠もっているが、果たしてどれだけもつか。
いっそファヴァルの後を追って自分たちも穴の奥へと進む事も考えたが、交渉が終わる前に慌てる自分たちが、そして更にそれを追ってバーレットたちが押しかければ確実に交渉は失敗するだろう。
今はとにかく、ファヴァルを信じてこの扉を抑えるしかないと腹を括る二人であった。
瓦礫の山だった。
引いて開けた扉の先にあったのは、通路を塞ぐ瓦礫の山だった。
始めまして聖女様大ファンです!とか、聖女様の歌声に惹かれてここまで来てしまいました!とか、第一声をどうするか真剣に悩んでいたファヴァルの目に入ったのは瓦礫の山だった。
「そんなぁ…」
と、またしても半泣きになりながら近づいてみると、どうやら短い通路の先にもう一つあった扉が砕け、更にその周囲の壁も傷つき崩れてしまっているようだ。
しかし瓦礫の上部にはそれなりの隙間があり、潜り抜けられそうだと分かればすぐに元気を取り戻した。
瓦礫の山から飛び出した木材に足を掛け背伸びをし、そっとその隙間から通路の先を覗き込んでみる。
「うわぁ…あれぇ?なんだかすごく綺麗なのにボロボロだ…砦内の他の場所より、奥にあるはずのここの方がこんなにも壁が崩れて調度品も散らばってるのは何故だろう」
魂芯灯の光が届く範囲、視界に入ったのは正面に見える痛みの激しい扉と一部が崩れた壁、そして床に転がる大小の壁の破片や調度品の数々、恐らく自分がいる瓦礫の山と化した扉の周囲も同じ様な有り様なのだろうと見当がついた。
とにかく悲惨な状態であることを除けば天井は高く壁の装飾や、調度品などは凝った作りで如何にも砦の要人の部屋、もしくは大切な場所であろうと思えた。
ファヴァルは隙間からその部屋へと這い出し、パタパタと汚れてしまった服をはたく、そうして床に置いていた魂芯灯を手に取ろうとしてふと気付く。
「こんなに明るかったっけ?いや明るい魂芯灯だったけど、こんなに明るかったっけ?」
さっき隙間から魂芯灯の光で照らした時には天井はぎりぎり見えるかどうか、そしてどうやら長方形だった部屋の両端までは光が届いていなかったはずなのだ。
それがどうだろう、今は床に置かれたこの一つの魂芯灯の光で、薄っすらと部屋の全体像が分かる程度には光が届いているではないか。
ファヴァルは驚きながらもその光源を高く掲げぐるりと見渡す、そこはかなり大きな、そして荘厳な雰囲気の空間であった。
長方形の片端には大きく重厚な扉(いやこれはもう門と言った方が良いかもしれない)があり、その大きさに見覚えがある。
「あれはきっと、聖堂へと繋がっていたあの長い階段の奥にあった扉、近衛兵たちが守っていた門だよね」
長方形の長い側面に当たる壁には、両側に同じように小さな扉があり、片方は今しがたファヴァルが這い出して来た崩れた扉でその先には聖女と英雄の私室がある。
逆側の扉の先にも同じような構造で部屋があるとすれば、きっとこの聖堂で働いていた者たちの部屋なのではないだろうか。
そしてあの長い階段を下りてきて、その重厚な扉を開けた時に正面に見えるのが、王座とも言うべき豪華な2台の石造りの椅子である。
「ここは間違いなくスホータム砦の聖堂、そして在りし日、聖女と英雄があそこに座っていた」
感慨深さと達成感に満たされしばしその光景を眺めていたファヴァルであったが、そこで重要な事に気付いてしまった。
そう、肝心の聖女と英雄が、あとデノンが見当たらないのである。
もう一つの小さな扉は壊れてこそいないものの、崩れ落ちた瓦礫に挟まれているのか、それとも上の壁が崩れてのしかかっているのか、とにかく押しても引いてもずらそうとしてもビクともしない。
無論、あっちの大きな扉を開けようものならグノッサリオが、そうでなくともあの近衛の騎士や兵士たちが雪崩れ込んでくるだろう。
「これは、またしても想定外だな…おーいデノ~ン!聖女様~!英雄さ~ん!」
ファヴァルが目的の人物たちに呼びかけながら石の王座へと近づくと、その更に奥から声が聞こえる、どうやら後ろにもまだ部屋か何かあるようだ。
「…おい、ファヴァルいるのか、いるなら返事するな静かにしろ」
「デノン!その声は間違いなくデノン!やった見つけた無事だった~!!」
「おいバカアホドジマヌケチビ!っ痛ってててて…」
その瞬間、手に持っていた魂芯灯が一際明るく眩しいくらいに光りを放ち思わず目を瞑る。
聖堂全体にぶわっと光の波が広がり、聖堂内の各所に設置されていた魂芯灯が一斉に点灯すると、そこに広がったのはまるで聖堂自体が輝いているかの如き幻想的な光景であった。
光りの渦に包まれそっと目を開けたファヴァルは、聖堂のあまりの変わり様に信じられないものを見たような、それでいて聖女の座す場所として相応しいと思えてしまうような不思議な感覚を覚える。
「う…わ…ぁ~…すごいや、聖女に祈りを」
カツン、カツン。
聞こえた靴の音に振り向けば、そこに聖女がいた。
白顔で明確な顔つきは分からずとも、それが聖女であることは疑いようが無かった。
視界に入った瞬間から鼓動が加速を止めず、実体は無くとも存在感は圧倒的で、その佇まいには王女の風格がある。
ファヴァルでなくとも、言葉を失い畏敬の念から思わず後退りしてしまうのは想像に難くない、そんな理想の中に追い求められそうな聖女の姿がそこにあった。
「ドノヴァー?」
「…はえ?僕ですか?」
「やっと、やっと戻って来てくれた…」
「いや、あのごめんなさい違います僕はファヴァルと…」
「私はずっと貴方を、貴方たちと一緒に還りたいと願って自我を保ってきました…」
「ああああ、あの、泣かないでください!」
「やっとあの日に帰れる、やっとまた皆で一緒にいられる…」
「あの聖女様、ドノヴァーさんは一緒ではないのですか?」
「…ドノヴァー?そうだわ、ファノアも起こさないと、あの子泣き疲れて先に眠ってしまったのよ」
「待って下さい聖女様!ファイルさん!」
「ねぇ、ファヴァルは?」
「…はい?」
「ねぇファヴァルは?ねぇファヴァルは?ねぇファヴァルは?ねぇファヴァルは?…」
「え、え、え、あのファイルさん、ファイルさ…!!」
突如として膨れ上がった光と共に、放たれた雷撃に撃たれ弾かれるように吹き飛ばされるファヴァル。
手に持っていた魂芯灯は砕け散り、自身も転がった先で理解した、この聖堂の無残な有り様の理由を。
「ぅ、ぁ…どうして、ファイルさん」
「あなたは誰?」
「僕は、僕はファヴァルと言います、貴女と話をするためにメイヤーナから来ま」
「あなたはファヴァルではないわ、それに砦の者でもない、私はあなたの顔を知ら…知らない…はずよ」
「ファイルさん、お話ししましょう、ゆっくりと」
「残念ですが貴方の相手をしている時間は無いのです、私の怪我は…きっとバーレットがやってくれたのね、これならまだ歌える」
「お願いです話を聞いて下さい!もう戦いは終わっているんです!もうあの戦いは…」
「下がりなさい!皆まだ殺気立っている、砦の中でも外でも、騎士や兵士たちが戦うために、この砦を守るために今なお力を尽くしているのです」
「それは、ああ!違うんです!ファイルさん!」
「…邪魔、しない… …ないで… …邪魔しないでよ!」
再び膨れ上がった光を見て咄嗟に腕を顔の前で交差させるが、正直これはもうダメかもしれないと思う。
(ああ、みんなごめんね、なんとか無事に逃げて、あとデノンは一緒に還ろうね)
「おらぁ!食らえぇ!!」
クワァーン、ととても良い音がした。
驚いて見た先には体勢を崩す聖女と、放物線を描いて飛ぶ金属の水差しが。ひしゃげてしまっていてあれはもう使い物にはならないだろう。
驚いて固まっているのは聖女も一緒で、床に落ちた水差しが盛大に潰れる音だけが聖堂に響いた。
「…っつぅ~、おいファヴァルボケっとすんな、一時撤退だ!」
石の王座の後ろ、奥にあると思われる部屋から腹部を押さえながら出て来たのは久しぶりに見るデノンであった。
先程聖女もあの部屋から出てきたところを見るに、祈祷室にあったようなベッドが並べられた空間でもあるのだろうか。
腹部を貫通していた矢柄は取り除かれたようで、今は赤く染まった布が多重に巻き付けられている。
たとえ聖女の癒しでも失われた血までは戻らないと言われていた通り、顔色は悪く体調も万全とは言い難いようだが、それでも動いて喋れる程度には回復したようだ。
少なくとも水差しを勢いよく聖女に投げつけられるのだから、戦時にはこの癒しによって傷ついた兵たちが戦線に復帰していた事を考えれば、なるほどベリューク軍は倒しても倒しても数が減らないと敵から恐れられるのも納得と言うもの。
「デノン助かった~!それ血がすごいけど大丈夫なの?ねえ大丈」
「んなの後だ!おいファヴァルおまえ何処から入ってきたんだ!あの門か!?」
デノンが指さすのは石の王座の正面の門、グノッサリオたちが守る長い階段へと繋がる大きな扉。
隠し通路を除けば恐らく唯一の出入り口であろうあの扉からデノンは運び込まれたのだろう。
「違うよこっち!あそこを開けたら近衛兵が束になって襲ってきちゃうよ!」
「そいつはマズイな、よし急げ!」
全力疾走とはいかないデノンと合流し、その手を引いて瓦礫の隙間へと誘導するファヴァルの後方で発光があり、そして前方の壁の一部が砕けた。
「待ちなさい!誰か、ランザーク卿はいないの?“君ハ家族ヲ守るのダロウ”だから侵入者にここを荒らされる訳にはいかないの!」
「ほらデノン早く!そこ登ってほらほら早くぅぅぅぅ!」
「くそ痛てぇぇぇ待て押すな逆に引っ掛かる!」
「そこへは行かせない!逃がしません!“ならばナゼ家族デ争うのダ”あの者たちは砦の者ではありません、だから私の家族ではないのよ、ズィー」
「ほら手ぇ貸せファヴァル、よし来い!」
「今行く!すぐ行く!お願いだから撃たないで聖女様~!」
「お願い力を貸して、私に家族とこの家を守る力を。“我ガ友ノ娘よ、君ハ…”私は私は私は私は私は私は…砦を…砦の…」
「よしここまで来ればもう大」
「…帰りたい」
魂芯灯の光りを遥かに凌駕する光源に視界が真っ白になり、続いて壁が砕け落ちる音、様々な物が吹き飛び叩きつけられる音が乱舞する。
ファヴァル達がぎりぎり隙間を潜り抜け転がり落ちるように通路へと飛び込むと、その後ろでは無差別な破壊の光が飛び交っていた。
焦りと怒りと混乱と、そして自分自身への憤りと…ファイルの心は残っていた、だが、壊れかけていた。
聖女の願いはあの幸せな日々へと帰ること、その叶わぬ願いを胸に戦い続けている。
魔女の願いは家族と共に静かに眠ること、その訪れぬ夜に胸を焦がし戦い続けている。
そして、聖堂に集う多くの魂はお互いがお互いを想うあまり、互いに互いを縛りつけ、どうすれば守れるのか、何が守るということなのか、その意義を見失い出口の無い地下を彷徨い続けている。
閃光、それは闇を払う力、敵を討ち払う力、代償を支払う力。
誓いは守るものと行商が言った、誓いは邪魔なだけと豪商が言った、誓いは今や呪いになったと砦の魔女は言った。
「はぁ、はぁ、なあおいファヴァル、いいかよく聞け、おまえはな、はぁ…ファヴァル・レギエンじゃねぇ、ファヴァル・ベリューク、聖女と英雄の子だ」
◎続く◎
さて…物語は終幕へ向けて大きく動きます。
明かされたファヴァルの秘密、もしかしたら所々に散りばめられたヒントで気付く方もいるかもしれません。
物語のラストまでまだまだ予想を裏切れると良いなという展開を用意していますので、お楽しみに?
と、言いながらここで少し大事な幕間を3つ挟みます、ソルクスの記録以来ですね。
既に書き終え第31幕に着手出来たので、なるべく早めに上げられればと思います。
3名の人物による過去の断片、その最初は私の好きなあの曲者から。




