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ソウルディア戦記 ~魂歌の響く大地~(砦の魔女編)  作者: 槍の人。


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第29幕:「表裏」


第29幕:「表裏」


◇新生王国暦5年 陽光季99日



ファヴァルが通路を進むと、やがてカーンカーンという鍛冶場特有の音が聞こえて来た。

この砦の中に入ってから、人工的な音、生活音とでも言うべき音を聞いたのは久しぶりである。

通路の途中にあった小部屋には猪の徽章の白い兵士、ベルニオン配下の近衛兵が待機しており戦いを控えた緊張感が伝わってくる。

何だどうしたと視線を向けてくる彼らに兜を深く被り直し軽く挨拶をして、ファヴァルは音の根源へとその歩みを早めた。


「誰か来ますね」

「今度こそファヴァル様だと良いんでやすが」

「どうします、ベルニオンとかグノッサリオとか、はたまたあのバーレットとかが来たら」

「そんときゃまあ、さっきのシナリオの通り適当に口裏合わせて乗り切るしかないでやしょ」

「その話術戦、勝てますかね…」

「…いざとなったら、あんたの犠牲は忘れないでやすから」


鍛冶場に到着してみると、なるほどなかなかにしっかりとした規模の鍛冶場がそこにあった。

地下とは思えぬ設備だが流石に炉は小ぶりで最低限の熱を鉄に加えるための物のようだ、鉄鉱石や銑鉄からの加工は意図されておらず、他で製造された武具の追加加工や調整・修理などを主目的としていると考えられる。

そんな鍛冶場の隅で何やら言い争う二人を見て、ファヴァルは安堵の息を吐いた。


「良かった二人とも無事で」

「良かったはこっちの台詞ですぜファヴァル様、なかなか来ないから心配してやした」

「そうですよ、もう少しでブノンズ様を敵に差し出して逃げ出すところでしたよ」


再び睨み合う微笑ましい二人を余所に、ファヴァルは辺りを見て回る、作業途中であったと思われる刀身だけの剣や、逆に柄部分だけの物などが仕分けされて置かれていた。

多くの剣が同じ幅と長さの物だが中には全く大きさや作りが異なる物もあり目を楽しませてくれる、きっと他の鍛冶場で作られた規格の同じ量産品の他に、敵から回収した武具や商人が持ち込んだ他国や他領の武具などもここで手を加えて再利用していたのだろう。


「それでそちらの首尾はどうでやしたか」

「ああ、うん、大成功!ブノンズさんが見たのってこれでしょこれ」


そう言って腰の小袋から取り出された太い鍵を見てブノンズは大きく頷いた、間違いなくあの時見た白い武器庫の鍵のシルエットと一致する。


「やりやしたね、それじゃさっさと隠し通路ってのを探してこの戦いにけりをつけやしょうや」

「うん!ちなみにね、どうやってこの鍵を発見出来たかって言うとそこには緻密な推理と常識を覆す機転が…」

「それじゃあさっき話したシナリオ通りでいきやすよ」

「了解しました!」


さっさと移動を始める二人の背中を涙目で追いかけるファヴァルであった。


軍議室から伸びる主要な通路の一つ、途中に兵が待機出来る小部屋や脇道に鍛冶場などがあるその通路は、そのまま真っ直ぐ進み階段を下ると突き当りには重厚な扉がある。

多数の近衛兵に守られ足元には砕けた骨片の散乱するこの扉こそ、武器庫への入り口だ。

歩きながらブノンズの考えていたシナリオを共有し階段を下る三人、当然扉を守る近衛兵たちもその足音には気付いていた。


「 …うした、何か問題でもあったの… 」

「お疲れ様、いや何この兵の剣が欠けてしまったそうでね、鍛冶場を覗いたんだけど職人たちは避難済みらしくて、修理がうまくいかなかったんだって。さ。」

「 …きな戦いを前にそれは運が… …かし保管してある予備の武器はどうしたん… 」

「あーすみません、予備の武器はみんな輜重隊の方でアストガル様の所なんかに持って行ってしまってまして」

「それでグノッサリオさん…様に報告したら追加の武器を運ぶようにって、ほら鍵を」


ファヴァルが例の鍵を取り出して見せれば、近衛兵たちも深くは考えずに道を開けてくれた。

何と言っても本来彼らの長である近衛騎士長のグノッサリオが管理している鍵である、簡単に手放す品では無いしそれを虎の徽章を付けた兵が持って来ればそれなりの事態だと判断するだろう。

まるで鍵を免罪符か何かの様に掲げながら進むファヴァルの後ろを、弓矢の徽章を付けた“大弓隊の”ブノンズと、車輪の徽章を付けた“輜重隊の”兵士が続く。

両脇から近衛兵に見守られながらこれ見よがしに鍵穴に差し込んだ鍵がしかし回らず、明らかに焦り始めるファヴァルを後ろから軽く小突き、代りに鍵を握ったブノンズがゆっくりと回した、ファヴァルでは力が足りなかっただけのようだ。


ギ ギ ギ …と以前と変わらぬ重厚な音をたてて扉は動き、暗く広い空間への道が開かれた、それは聖堂、聖女の許へと繋がる道でもあるはずだ。

通路に設置されていた松明から火を貰い、新しい松明を片手に武器庫へと足を踏み入れると、すぐに同行していた兵士が立ち止まり硬直してしまった。

それもそうだろう、視線の先、照らし出された武器庫の床には多くの遺骸や遺品が転がっていたのだから。


「あ、あのあれは、動いたりしませんよね?」

「少なくとも死体や遺骸が動いたって話は物語や文献でも見た事が無いよ?」

「昼にここに来た時は追加でソウルキーパーがうじゃうじゃ居たんですぜ、暗闇の中にぃ~次々と浮かびあがるぅ~白い魂たちがぁ~」

「う、うわぁぁぁぁぁ」


いつものお返しとばかりにブノンズの太ももを蹴るファヴァルと笑うブノンズ、半泣きの兵士はまるでいつもの見慣れたファヴァルの様で、いつもと違うのにいつもの様な光景がそこにあった。


「 …だどうした、何かあった… 」

「いえいえ大丈夫です、ちょっと虫が服に付いてたみたいで」

「 …るよなぁそういう事、それで俺たちは何か… 」

「あ、それではこの兵士に武器を扉まで運ばせるので、それを鍛冶場まで運んでおいて貰えませんか?」

「 …、任された… 」


怖がる兵士が武器庫の奥まで行かなくて済むように、そして扉の外の白い兵士の気を少しでも逸らすために、シナリオ通りの仕事を任せるとファヴァルとブノンズは奥へと進む。

この武器庫のどこかに隠し通路の入り口がある、そしてそれは恐らく部屋の奥にあるだろうと思われた。


「ブノンズさん、板張りの場所を探して欲しい、そこが隠し通路の入り口だよ!」


自信満々にそう言ったファヴァルの言葉を信じ、奥の奥、隅の隅まで壁や床を見て回るがそんな場所は見つからず、振り向けば自信の砕け散った表情のファヴァルが居た。

そのあまりの落差にブノンズはファヴァルへの再評価を再々評価するべきか悩む、本当に判断の難しい御仁だなと。

そんな魂の抜け殻の様なファヴァルを蹴り飛ばして改めて色々と見て回れば、前回見た時と同様に本当に様々な物が保管されているのが分かる。

そういった品々をゆっくりと見たい気持ちを抑えて、怪しい場所を探していると一際大きな額縁の前で足が止まった。

沢山の絵画が置かれている一角で存在感を放つその額縁には、笑顔を浮かべる男女とそれぞれの胸に抱かれた幼子が2人、恐らく家族であろう4人の肖像画が収められている。

そのタッチは繊細で親の笑顔の優しさや、少しつまらなそうにする幼子、今にも泣きだしそうなもう一方の幼子の表情まで見事に描き出している。

圧倒される大きさも相まってとても見応えのある絵であったがブノンズが気になったのはそこでは無かった、目に留まったのは絵の隅に記されていた英雄と聖女の文字、その家族の肖像画である事を示す一文だ。


「見て下さい、ファ…」


振り返れば綺麗なコインに目を輝かせ探索の手の止まった少年の姿と、その背景には役目を果たすため武具の入った重そうな木箱を運ぶ兵士の姿が。

ため息をひとつつき、ツカツカと歩み寄るとブノンズは問答無用で主を蹴り飛ばした。


「見て下さい、ファヴァル様」

「はい…」

「こちらの、この絵なんでやすが」

「はい…」

「ここに英雄と聖女の家族と書いてありやす、つまりこれが」

「はい…あ、この人が聖女ファイルで、この人が英雄ドノヴァー?」

「そういう事だと思いやす、やっと顔を拝めやしたね」


ほぼ等身大で描かれたのであろうその絵の中の二人と、ファヴァルは目が合った気がした。

英雄の背が高くないのか、それとも聖女の背が高いのか、同じ長椅子に腰かける二人の目線はほとんど変わらず並んでいる。

英雄の顔はその肩書や叩き上げの剣士のイメージからするとやや柔和で凡庸な印象だ、どこにでもいそうな気の良いお父さんといったところだが、プラチナブロンドの髪は淡く美しく描かれている。

逆に聖女は端正な顔立ちに切れ長の目と吊り眉が特徴的で、肩書や元王女という点から想像を膨らませていると驚くほど勇ましく感じるだろう、そして長く真っ直ぐに下ろした髪は吸い込まれそうな漆黒だ。

英雄の抱く幼子は恐らく女の子で髪は母親と同じく黒い、逆に聖女の胸の幼子は父親譲りのプラチナブロンドだが、まだ小さく性別はこの絵からは分からない。

そして何よりも大事な点は、優しさに満ちたこの空間を画家はよく理解し全身全霊を込めて描いた渾身の作だろうということ、家族の肖像を示す一文の下には更に小さな字で「バーレット・デルゲント」の署名があった。


しばし見入っていたファヴァルは長年探していた人にやっと出会えた様な不思議な感覚に、その二人に向かって手を伸ばしかけて引っ込める。

思わず触りそうになったが汚したりしてはまずい、何より聖女に触れるという事に何とも言えない非礼を感じたのだ。


「綺麗な人だね、それにとっても優しそう」

「そうでやすね」

「…女王陛下とどっちが綺麗で優しいかな」

「え、そこを比べるんでやすか…いや、どちらも綺麗で優しい方だと思いやすが」

「そうだよね、変なこと聞いてごめん」

「本当ですぜ」


言葉に詰まるファヴァルを余所にブノンズはその絵に近づくと、額縁を触って押してみたり絵の表面をそっと指先でなぞってみたりし始めた。

素晴らしい絵画、の一言で片付けるには少々この絵の存在感が強すぎると感じたからだ。


「ああブノンズさんダメだよ、聖女に怒られちゃうよ、それに傷をつけちゃったりしたら大変だよ」

「だからでやすよ」

「なんでぇ!?」


ごそごそと決して雑では無いが力を入れて絵を動かそうとし、ブノンズは確信した。

この大きさの絵、そしてその大きさと描かれた内容に見合う豪華な額縁、当然重いはずだがそれにしても大の大人が力を入れて全く動かないのだ。


「この絵、ただ置いてあるだけじゃなくて壁に張り付いてやすね」

「たまたまここに保管されてるんじゃなくて、元々ここに飾るために設置されてるってこと?それとも倒れたりしないように固定したのかな」

「絵だと思うからいけないんでやすよ、要するにこれは壁に貼り付けられた板ってことでやしょ?」

「おおおおお、確かに!」

「それにファヴァル様の言った通り、この絵を見て安易に触ったりしようとは思わないでしょうや、よほどこの絵の主に恨みでもない限りは」


改めて描かれた家族を見て、その平和な雰囲気と高貴な印象に胸を打たれる。

聖女の味方ならこの絵に手を出そうなどとは夢にも思わないだろう。

聖女を知る者ならこの絵に価値を見出し壊しはしないだろう。

聖女の敵であったならばこの絵を汚す事もあるかもしれないが、周りの武具宝物に目を奪われることなくその裏まで調べることは無いだろう。

そんなちょっとした心理的効果も狙っていたなら、これを設置した人物はなかなかの切れ者だと思うブノンズであった。


「でもこれ、扉になってる訳じゃないし、隙間も無いし…」

「聖堂からの脱出用と考えれば、向こう側からしか開けられないのかもしれやせん」

「そんな、ここまで来てまさかの展開」

「とは言え閂でも掛かってるなら厳しいでやすが、単純に取っ手が無いってだけならなんとかなるかもしれやせんぜ」

「ブノンズ卿…!」


まるで気持ち悪い物でも見たかのような視線をファヴァルに向け黙らせ、ブノンズは手斧を取り出すと刃とは逆の突起部分で額縁の四隅の岩を削り始めた。

入り口では今も兵士がガチャガチャと音を立てながら一生懸命に武具の入った木箱を運んでいる、多少の削岩音は問題無いだろう。


「メルヴの森には、いくつか洞窟がありやしてね、まぁ厄介な獣たちの棲み処になってたり、賊どもが隠れ家にしてたりするんでやすが」

「賊は大々的に討伐したんだったよね」

「ええ、捕虜にしたその賊の生き残りが教えてくれたんでやすよ、岩から宝石を上手に採る方法ってのを」

「えええええ“あの”宝石って岩から採れるの!?」

「絶対勘違いしてやすが、まぁその方法の一つがこの手斧式なんですぜ」


額縁の角の岩壁を少し削り、腰布の下に巻き付けていた縄を取り出すと額縁の四隅の裏に出来た隙間に通して端をファヴァルにも持たせる。

後はブノンズとファヴァルによる綱引きだ、額縁を壁から引き剥がすような形で力いっぱい引っ張れば、武器庫の扉を開けた時の様にズ ズ ズ と重厚な音を立てて絵が、いや壁の一部が動いた。

壁から引き抜いた絵の裏からは額縁より二回りほど小さな穴が姿を見せ、底知れぬ闇へと誘っている。

重かった絵の裏は手のひらから肘くらいまでの厚さの岩壁と一体化しており、なるほど押しても額縁が引っ掛かり動かないが反対側からなら岩壁を押すだけで動かせそうだ。


「かがんで行かないと通れやせんね、それにしてもあの奥は突き当り?ああいや下に穴が開いてやすね」

「流石にこれだけの大掛かりな仕掛けがあって、聖堂以外の場所へ繋がってるって事は無いと思う、当たりだね」

「それじゃファヴァル様この松明と縄を、健闘を祈りやす」

「は?ブノンズさんも来るんだよね?ブノンズさんも来るんだよね?ブノンズさ…」

「入り口付近の武具はほとんど運び終えちまったみたいでさ、ほらあいつがそわそわしてやす」

「でもきっとうまく時間を稼いでくれ…」

「さっき軍議室で“ファヴァル様みたいなへったくそな言い訳してた”奴ですぜ、無理無理、交渉が終わるまでの時間稼ぎといざって時の退路の確保も兼ねて残りやす、大丈夫ファヴァル様ならやれますって!」

「ねぇ僕今貶された?褒められた?」


無言で武器庫の入り口へと引き返して行くブノンズの逞しい背中と、それを見送る哀愁漂う背中がそこにあった。



狭い穴で頭をぶつけ半泣きになっていたファヴァルであったが、無事隠し通路への侵入を果たした先には更なる絶望が待ち受けていた。

遠くから照らした際には階段か何かになっているのだろうと思われた下に開いた穴、本当に穴だったのだ。


「この真っ暗な穴をこの梯子で下りて行くの…?」


真下へ向かって伸びる底の知れない縦穴は暗く冷たい、そして松明の炎は明らかに弱まっていて風の通りも悪そうだ。

試しに硬貨を落としてみようとしてさすがに大きな音がするのはまずいだろうかと思いとどまり、代りに軽い木片を落としてみたが姿も音も闇に吸い込まれそのまま消えた。


「ここまで来たんだ、スホータムの平和と未来作戦の第五段階もあとちょっと、さぁ頑張れファヴァル!」


声だけ聞けば勇ましかったが表情は情けない上に鼻水も垂れてきていて、その姿を見る者も鼻水を啜り上げる音を聞く者もいないのが救いだった。

ぶつぶつと繰り返し何事か呟きながら消えかけの松明を頼りに狭く底の見えない穴を梯子で下りて行くファヴァル、やがてその声も、灯りも姿も、先程の木片と同じ様に闇の中へと消えていった。



月光、それは静かな夜の観測者、静かな狂気の観察者。

法は民の為にあると貴族が言った、法で縛られていると貧民が言った、法は等しく絶対であると厳格な騎士は言った。



「あのルダンの名を騙った伝令兵を探せ!そこの二人、私に続け、聖門が開いた合図が鳴った、確認に行く」



◎続く◎


隠し通路、はっけ~ん!ブノンズのINTが足りたようです(メタい

ようやく聖女と英雄の顔を見ることが出来たファヴァル、その見事な絵の作者はバーレットでした…

次回はその絵の本物に会いに行きます、行けるといいな、行けるよねファヴァル?

行けてなかったらだいたいファヴァルのせ

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