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ソウルディア戦記 ~魂歌の響く大地~(砦の魔女編)  作者: 槍の人。


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第28幕:「欺瞞」


第28幕:「欺瞞」


◇新生王国暦5年 陽光季99日



スホータムの平和と未来は君たちの双肩にかかってるぞ頑張れ大作戦の第一段階は成功したみたい。

遊撃隊所属を示す剣と盾の徽章を付けて送り出した兵士は、無事に軍議室からバーレットと一緒に出て来てそのまま通路の先へと消えた。

役目が終わったらそれとなく離脱して何気なく祈祷室へ戻ってとりあえず待機してもらうことになってる。


バーレットの相手には一行の中で一番気弱そうな人を選んだ、バーレット相手にハキハキ堂々としてると、たぶんあっちもその気になってどんどん言葉が増えたり細かく質問したりするんじゃないかと思ったんだ。

あの人喋るの好きそうだし、ちょっとした違和感を見逃さないだろうし、プライド高くて負けず嫌いそうだし。

だから行ってもらう兵士には、敢えて曖昧に、気弱に、言葉少なに、ルダンという騎士が呼んでると言う事だけ伝わればいいってお願いしてみた。

きっとバーレットはイライラしちゃうだろうけど、あの人の性格ならきっと「もうよい自分で考える」ってなると思うんだよね。

そしたら不明瞭な伝令の内容を確認するべく再度伝令を出し直させるか、もしくは自身で確認に行くんじゃないかなって、動いてくれれば大成功、そうじゃないなら改めて別の兵士に行ってもらうつもりだったけど、これは花丸大成功だよ!


合図を出して残る皆で再びの軍議室へと向かうけど、はぁバーレットが居ないと分かっていても緊張しちゃうね。

軍議室からは明かりと色々な声が漏れ聞こえてきて、今も横を伝令の兵が走り抜けていった、自然に自然に普通に普通に…。


「ファヴァル様、右手と右足が同時に出てますぜ…」

「ハハハ、そんなマヌケな…事をわざとやってみたんだ緊張がほぐれたでしょ?」

「…」

「キヲツケマス」


ダッテ、バーレット、コワインダモン…。

そっと通路から軍議室を覗き込むと、壁際ではマント付きの兵士たちが黙々と作業をしていて、中央の長机の周りでは伝令の兵たちから情報を聞き集めて地図や資料に何やら書き込んだりしてる。

皆忙しそうにしてるから堂々と通ればたぶん怪しまれずに通過出来る、はず!

伝令の兵だと思われると声を掛けられそうだから、ここは敢えて走らず急がず用事があって移動中のただの何でもない何処にでもいる一般兵です感を醸し出しつつ臨機応変に…


「 …やかったな、ここへの補充… …がうのか?… 」


まずい、声を掛けられた、まずい、補充って何?、まずい、どうしよう。


「あ、すいやせんあっしの剣が調子悪くって、戦いが始まる前に鍛冶場で調整してもらおうかなと、もし直らなかったら輜重隊のこいつに代わりを都合してもらおうって、な?」

「ああ、はい、ほら戦友がいざって時に武器が壊れてそれが原因で還ったりしたら後悔してもしきれないじゃないですか、ねえ?」

「「あははははははは!」」


お互いの背中を叩きあって何だか陽気な戦友同士って感じがする、どうして皆そんなに咄嗟に言葉が出てくるの?

でもブノンズさんの機転と、違和感なく調子を合わせた車輪の徽章を付けた兵士のおかげで軍議室は温かい笑いに包まれてます。

「剣を抜いたら剣先が鞘に残って柄だけとか笑えないよな」とか「磨きすぎるなよ薄っぺらくなって折れるぞ」とか言ってるけど、えええそれ本当にあった話なんですか?

とても気になる、気になって聞いてみたいけど聞いちゃダメって分かってるけど聞いてみたい、ううう。


「まあえっと、補充は…隊の他の奴が今やってますんで、たぶんそのうち来ると思います」

「 …っきバーレット様がバンフル様を褒め… …だかんだ言って嬉しそう… 」

「バン、フル、様~を?へえそれは何と言うか」

「 …だ嬉しくないの… …ーレット様が素直に褒めるなんてなか… 」

「そらすげぇ、あのバーレット様がまだ若い輜重隊指揮官のバンフル様を!?バントレオ様も空で鼻が高いでやしょうなぁ、なぁ?」

「おお~!?それは勿論、輜重隊員として嬉しいですよ、当たり前じゃないですか~バンフル様万歳!」

「「あははははははは!」」


なんだかごめんなさい、ちょっとだけ、ちょっとだけ、いつも僕を蹴り飛ばす皆の気持ちが分かった気がします。

そんなこんなでブノンズさんがこっちに目配せして、車輪の徽章の兵士の肩に手を回してガッチリと掴んだままそれ以上喋るなと言わんばかりの勢いで一緒に鍛冶場や武器庫へと繋がる通路へと消えていきました、陽気な笑い声を響かせながら。

嵐が去った後の様な軍議室で、やれやれと言わんばかりに手を上げたマント付きの白い兵と一緒に苦笑して、僕と猪の徽章を付けた兵は牢と聖堂へ繋がる階段があった方の通路へと向かいます。


「 …そうだ、グノッサリオ様もベルニ… …が悪いと聞いてるがその後どう… 」


まずい、声を掛けられた、まずい、調子が悪いって何?、まずい、どうしよう。

って顔をしてる猪の徽章の兵士を見て僕は思いました、本当にごめんなさい、だいぶ、だいぶ、いつも僕を蹴り飛ばす皆の気持ちが分かりました。


「あー、今からグノッサリオ様の所へ行ってベルニオン様との役割分担や体調の話なんかもする予定です」

「 …か何か動きや変更があったらこちらにも… …が遅いとバーレット様の機嫌が、な?… 」

「分かってますって、バーレット様の機嫌を損ねたい人なんてこの砦に居ないでしょう」

「 …ははその通りだ… …の機嫌を損ねたらどれだけ説教を… …ったもんじゃないからな逃げたくても逃げ… 」


なんだろう、この人とはとても気が合いそうな気がします、人じゃないけど。

再びやれやれと言わんばかりに手を上げたマント付きの白い兵に別れを告げ、僕たちは階段を降って行きます。

よし、概ね無事に軍議室を抜けられたぞ!スホータムの平和と未来は双肩にかかってるぞ頑張れ作戦の第二段階も成功だね!


何度か折れ曲がりながら階段を降って、分かれ道で一度立ち止まり同行している兵士と作戦を再確認して曲がります。

あ、真っ直ぐ行くとまたグネグネと曲がって降ってさっきの牢に行き着く道だよ。

今回は硬貨を転がして奥行や深さを確認した方のながーい階段を兵士と二人で降りていきます、さすがに臨戦態勢で階段の松明は灯ったままだし、随所に兵も待機してて物々しい雰囲気です。

そんな中を同じ聖堂を守る近衛兵である事を示す虎の徽章を付けた僕と、同じく近衛兵だけど聖堂じゃなくて地下階層を守るベルニオン配下の兵である事を示す猪の徽章を付けた兵士とで慌てず騒がず何気なく…


「 …おいこっちに何か用か?もう… …着かないとまずいだろう、どこの配置… 」


まずい、声を掛けられた、まずい、配置場所?、まずい、どうしよう。

と思わず動揺しかけてしまったけど大丈夫、今の僕たちは近衛兵!だから作戦通りに台詞を言って…と思って隣を見たら。

まずい、声を掛けられた、まずい、配置場所?、まずい、どうしよう。

って顔をしてる兵士と目が合いました、え、どうしよう?え、どう…しよう?

どうしたどうしたって別の白い近衛兵も集まってきちゃったじゃん、どうしよう?ねえ、どうしよう!?


「どうした、何か問題かね」

「 …リオ様、いえ問題ではありませんが上のが… …置に着いていないと、と思い… 」

「ふむ、わざわざ来たと言う事は何かの伝令かね、ベルニオンかバーレット殿辺りが寄越したか」


なんだかこの人の声って落ち着くんだよなあ、どっしりと構えていて物腰柔らかい感じで、確かこの人も英雄ドノヴァーと同じで剣士出身のはずだけど、この砦で一番貴族っぽいかも。

おかげで落ち着きました、ありがとうございますグノッサリオさん、ありがとうついでにちょっと武器庫の鍵を下さい!


「この者がベルニオン様よりの伝言があると」

「は、はい!ベルニオン様は体調が優れず未だ配置に着けておりません!その件でご相談があるとのことです!」

「ふむ、あれもか。困ったものだ、私も少々調子が悪いのだがそうも言っておれぬか」

「 …サリオ様大丈夫ですか?ベルニオ… …程度調子が悪いのか分かりませんがこちらに来て… 」

「いやこの時点で直接来ていないのだ、きっと相応に悪いのだろうよ、こちらから出向こう」

「で、ではベルニオン様にグノッサリオ様がお越しになる事を先触れておきます!」


猪の徽章の兵士は僕に向かってへったくそなウインクをして、役目は終わったとばかりにいそいそと軍議室の方へと引き返して行きました。

彼もこの後はそれとなく身を隠して何気なく祈祷室へ戻ってとりあえず待機してもらうことになってる。

とにかくこれで無事にグノッサリオさんを部屋から引き剥がせたかな、やったね!スホータムの平和と未来は双肩にかかってるぞ作戦の第三段階も成功っ!

あとはこの僕、辺境伯ファヴァル=レギエンが名演技を披露して鍵を入手すれば大きく前進出来る!


「 …れで、おまえはどうしたん… 」

「え?あーえっとですね、薬を、そうグノッサレリオ様の体調が優れないと聞いて祈祷室から薬を貰って来たんでうす」

「 …だ気が利くじゃないか、グノッサリオ様薬だそう… …ても聞きなれない声だ… 」

「おや何か良い薬があったかね、なんとも名状しがたい症状なのだが効果があると助かるな、ところでどこの出身かね?なんとも不思議な訛りだがその声、そなたは誰だったか…」

「ん?ん?んー…ってグノッサリュオ様本当に顔色が真っ白ですよ大丈夫なんですか!?田舎者の僕の事なんてどうでもいいですからあとこの薬はお水でしっかり溶かないと飲めないらしいので戻られるまでにお部屋にご用意しておくますね!」

「む、そうかでは用意を頼む、戦うには万全とは言えぬが歩き回る分には問題無さそうだ、ベルニオンの困り顔を拝んで来るよ」

「行ってらっしゃ~い…ませ!」

「 …理はなさいませんよう… 」


グノッサリオさんに笑顔で手を振り、かけて隣の人たちが頭を下げているのを見て慌てて合わせました、危ない危ない。

声を掛けて来た人と、集まって来てた近衛たちのうち何人かは鎧が更に重装でカッコイイから、たぶん近衛兵じゃなくて近衛騎士、なのかな。

近衛兵は軍の指揮官とかそれなりの貴族のお供になら見る事があるけど、近衛騎士ってなるとそれこそメイヤーナでは王都の我らが麗しの女王マインサ様の側近でしか見た事無いんだよね。

あそっか、元王女様の近衛だからいてもおかしくないのか、いいなぁカッコイイなぁ僕も欲しいなぁ近衛騎士、ここの領主になったら誰か近衛騎士に任命してみようかな。


「 …したんだどこか汚れている… …と毎日ピカピカに磨いて… 」

「いえそんな事無いです綺麗です、綺麗だから僕もいつかそんなカッコイイ鎧を着てみたいなーって思って」

「 …はは、その気持ちは分かるぞ私も騎士から… …士に取り立てられてこの鎧を拝領した時は… 」

「うわーいいなー僕も女王陛…王女様からそんな風に剣とか鎧を貰ってみたい!」

「 …気込みだ頑張れ若いの、それでそんなに若くして近衛… 」

「あ、あ、そうだ薬の用意しなきゃグニョッサリオ様のお部屋そこの中でしたよねそれではこれで失礼します!」


確か前に見た時にここの横穴へ入って行ったはず!

ちょっと足がもつれかけたけど慌てず騒がずグノッサリオさんの部屋に到着出来ました、やれば出来る!

途中ちょっとだけ危なかったけど僕の名演技見た?格好良く決めて見事に絶体絶命の危機を乗り越えたよね!楽勝楽勝。


「 …おい何か手伝う事はある… 」

「っひぁぉぅあ!?」

「 …!? …どろき過ぎだろうまったく、それで手伝いは… 」

「う、うしろからいきなりこえをかけたあだめっておかあさんにおしえあえなかったんですか!!」

「 …かったって、そんなに怒らなくて… 」

「ふぅー!ふぅー!大丈夫です、一人で出来ます、怪しくないからもう出て行って下さい!」

「 …ったよ何かあったら声掛け… 」


今のはちょっとだけ焦った、でも大丈夫問題無い、この程度想定の範囲内さあははははは…。



そうして無事にグノッサリオさんの部屋に辿り着いた僕は、部屋の扉がしっかりと閉じられている事を二回確認して、目的の物を探す事にした。

ブノンズさんから聞いた武器庫の鍵、グノッサリオさんが管理していて、見た時は腰のベルトに着けていた小袋から取り出したっていう鍵。

たぶんこの部屋の何処かにしまってあるか、グノッサリオさんの遺骸が持ってるかだと思うんだけど…もしここに無かったらあの人の遺骸はその最期を考えると聖堂内の可能性もある、それだとマズイんだよなあ。

グノッサリオさんの部屋は近衛騎士長の地位にしてはかなり小さいながらも、綺麗に整えられていて調度品も立派な物ばかりで、しかも上層部と違って近くに外が見える窓なんかも無いし全て岩で囲まれているからかな、砂埃とかも溜まっていなくてすぐにでも使えそうなほど状態が良い。

物もきちんと整理され並べられていて、探し物をするにはやりやすい環境だった、だからすぐに部屋の隅から隅まで調べ終えて…無かったよ鍵どうしよう。


「困った、ここには無い、遺骸も無い、無い無い無い、どうしよう」


ぼふっとベッドに体を投げ出して大の字になる、このまま作戦は失敗に終わってみんな帰れずに彼らの仲間入りするんだろうか。

上にいる潜入組の他の仲間は変装したままきっと何とか外に出れると思う、トゥリスさんも敵だとは思われないだろう、ブノンズさんも機転が利くから同行してる兵士と一緒に何とかすると思う。

あとは聖堂にいると思われるデノンは…絶望的だけど、僕も帰れるか怪しいかな、時間が経てばバーレットやグノッサリオさんも嘘に気付いて戻って来るだろうし。


「すっぱりデノンを諦めて今すぐ撤退すれば帰れるとは思うけど、うーんそれはなぁ、はあ黒雲の竜さん僕はどうしたらいいんでしょうか」


見上げた壁の上の方に設置されていた黒雲の竜の小さな首像が目に入ったから祈ってみる。

…するとなんと黒雲の竜の目がカッと光り壁が割れて聖堂へ繋がる秘密の通路が…!!現れたりしなかった、残念。

だいたい詩人の詩や伝承なんかだと、ここで奇跡が起きて活路が開かれてハッピーエンドになるはずじゃないか、なんで奇跡が起きないんだよ。

もう一度黒雲の竜を見て文句を言おうと見上げたら、部屋の他の壁にも同じ首像が彫られているのが目に入った。

長い階段から横穴を通ってこの部屋へと入って来る時の扉のすぐ上にひとつ、寝っ転がっているベッドの正面にひとつ、真上にひとつ。

四角形の部屋の入口側の壁と左右の壁に設置されていて、部屋に入って来て正面にあたる一番目に入りやすい壁には…無い。


「普通は護り竜なんだから一番良く見える位置に彫るんじゃないの?」


入り口正面の壁には四方に竜の彫刻が施された綺麗な机が置かれていて、その脇には木箱や壷に刺さった丸めた地図なんかがあって、その上には…何も無い。

他の壁には首像があるけど、そこの壁の上部だけは木製の板張りになってるから、これじゃあ岩に彫って作られた首像は無理か。


「なんでここだけ板張り?」


ピーンとキタね、これは間違いなくあの板を剥がすとその裏に何か秘密があるんだ!

そう思って部屋の中にあった布を机の上に敷いて、ちょっとお行儀が悪いけど机の上に立って板に手を伸ばす。


「これ、ものすごくしっかりはまってて、ビクとも…ん、んー、んー!んんーー!!」


壁にちょっと板を打ち付けましたって感じじゃなくて、しっかりとはめ込まれている感じでどの板も全く動かない。

絶対この板のどれかが外れるとか、何か仕掛けがあるはずなんだ、僕の感がそう言ってる、間違いない!

なのに何で動かないのー!もしかしてこの板を開ける為にも鍵が必要とか!?

鍵を手に入れる為には鍵が必要ですって何だよそれ、そんな仕掛け要らないよ、あーけーてー!!

ドンドンドンッ!(ォンォンォン)


「え?音が、響く、この板の裏は岩じゃなくて空間があるんだ!やっぱりここに何…か…と…だぁぁぁぁー!」



ってててててて、腰、腰打った、重装のせいで逆に痛い、変な体勢で落っこちた痛いってこれ。

でも泣いてる場合じゃない、僕は泣かない、この程度でへこたれたりしない、胸甲にポタポタ染みが付いてるけどこれは汗なんだ!


「 …何かすごい声と音が聞こえたけど大丈… 」

「…!あ、(ゲッホゲホ)大丈…夫です、ちょっと汗で滑って焦って転んだだけですもう大丈夫!」

「 …ぱりちょっくら手伝っ… 」

「大丈夫でし!!」

「 … 」


ふぅ、危ない危ない、でも急がないとそろそろ本当にマズイ。

やっぱりあの板の向こうに何か…何か…あれ?

ドシーン!ビターン!って感じで落っこちて起き上がった姿勢で見ると、壁の上部の板張りとは別に竜の飾りの机の下にも壁に板張りが…。

いやまさか、まさかね?近衛騎士長様ともあろう者がまさか机の下をくぐってなんて…。


「開いた…軽く押しただけで開いた…嘘だよね」


竜の飾りの机の下、奥の壁の板を押すと、更にその奥の真っ暗な空間に向かって開きました。

急いで部屋の中にあった魂芯灯を手にして息を整えて、改めて板の扉を押して中を照らしてみます。


「こんなところに」


照らし出されたその空間はとても小さな祈りの為の部屋でした。

人が10人くらい入ったらギュウギュウになりそうな本当に小さな、クローゼット程度の広さしかない空間。

そこに動かぬ一人と一匹、毛皮の絨毯の上にうずくまる様にして最期を迎えたグノッサリオ・ランザークと、それを見下ろす黒雲の竜の首像。


「ここに居たのですね、グノッサリオさん。貴方は最期のその時まで、黒雲の竜に祈っていたんだ」


その空間は綺麗にまとまっていたグノッサリオさんの部屋らしく、いやそれ以上に壁は磨かれ床岩も平らで如何に大事な場所だったかが分かる、扉を閉めてしまえば光も音も無い状態で黒雲の竜と二人きりになれたのだろう。

ここで祈っていた、主であるドノヴァーとファイルへの加護を黒雲の竜に、砦が陥ち命が消えるその時まで。


魂芯灯を扉の側に置き、そっと遺骸の横に回り込み腰のベルトを見れば確かに小袋が括りつけられている。

なるべくそのままにするつもりだったけど、小袋を縛っている紐を緩めようと思ったらブツッと切れてしまった。

仕方なく小袋ごと借りる事にして、中身を確認すればとても頑丈そうな太い鍵が入っていた、間違いなくこれが武器庫の鍵だろう。


そしてうずくまり前に伸ばされた両手で握りしめられている硬そうな金属片の様な物も気になる。

わざわざこうして最期まで握りしめていたのだから、きっと何か大事な物なのではないだろうか。

何かのお守りか、それとも何か書いてたり彫ってあったりするのかな、もしかしたらこれも交渉の糸口になるかもしれない。


「ごめんなさいグノッサリオさん、ちょっとだけ、ちょっとだけ見せて欲しいん…で!?」


ビックリした、ものすご…ちょっとだけビックリした!

ビリってしたよ、触ったらビリって、何これ何か変な呪いでも…違う、そうじゃない、これは雷に打たれた兵士の話や雷が落ちた水辺に浮かぶ魚を獲ろうとした漁師の話で見たじゃないか。


「雷の、これが“雷鱗”?」


シーサック王家に伝わる黒雲の竜の鱗、護り竜と王家との友情の証、王女ファイルが一部を受け継ぎここへ持ち込んだ王家の宝。

グノッサリオさんは“雷鱗”に祈れば黒雲の竜に届くと信じていたと思う、その祈りは届いたのかな。

そっと手甲をずらして、今度は来るぞ来るぞビリっと来るぞと思いながら鱗だと分かったそれを掴むと、やっぱりビリっとしてゾクゾクした、これクセになりそう…。

武器庫の鍵が入っていた小袋に一緒にしまって、もう他には何も無いかなって見回すと、首像と目が合った。


「あ、えっと、どうも。あはははは、なんかこうやって間近で見ると緊張しちゃいますね、えっとご趣味は…なんて」



…僕、何やってるんだろう。

虚しさを祈りに変えて、黒雲の竜に作戦の成功を願う僕でした、泣かない。



改めて黒雲の竜とグノッサリオさんに感謝をして隠された小部屋から出ると、どかしてた椅子を元に戻して、机の上に敷いた布をパタパタとはたいて戻して、ベッドの皺を伸ばして、ティーセットを一応用意して部屋を出た、ふぅ完璧。

腰に吊るした小袋の中のずっしりとした重みがしっかりとした達成感を実感させてくれ得も言われぬ成功の薫りを醸し出しいよいよ後世に語り継がれる伝説の領主の物語の始まりの予感の


「 …おい随分と時間が… 」

「っうひぃぁぉう!?」

「 …から驚きすぎだろうって… 」

「ふー!ふー!驚いてませんって!ぜんっぜん驚いてませんって!!」

「 …なに言うならそれでいいがよ… …備は整ったのかよ… 」

「問題ありませんよ!部屋の整頓もティーセットの用意も万全ですから!」

「 …前本当に近衛兵か?メイドじゃあるま… 」

「ちゃんと作戦は完了してますから!それでは僕は配置に戻りますね!」


こういう時はとにかく話を広げずにその場を離れるに限る、これで問題なし!

あーびっくりしたぁ、いやびっくりしてないしてない、あー疲れたぁの言い間違えだから。

よしよしこれで武器庫の鍵とついでに“雷鱗”も入手できちゃったし、スホータムの平和と未来は双肩に作戦の第四段階も成功っ!


「 …若い奴は元気だな… …ても本当に綺麗に… …れはお掃除大作戦ってか?… …?… 」



今頃調子の悪そうなグノッサリオさんはベルニオンの部屋に着いてる頃だろうか、猪の徽章の兵士も役目を終えて祈祷室に合流してると思う。

後は僕がこの鍵を持ってブノンズさんたちと一緒に武器庫に行って、隠し通路を探して聖堂に乗り込むだけ、あとちょっとなんだ、待ってろ聖女!…あとデノン。

意気込みも新たなに軍議室に入るとマント付きの兵士にお礼を言われた、ちゃんと伝えてくれたんだなって、何だっけ?

…あ、グノッサリオさんもここを通って行ったのか、だから近衛の配置状況がどうなってるか連絡くれって言うあの言葉が自動的にグノッサリオさん経由で伝えられたんだね、うん、計算通り。計算通り!!


軍議室の面々に得意げに笑顔を振り撒いて、僕はブノンズさんたちの後を追う形で鍛冶場や武器庫のある通路へと向かうのでした、順調順調。



雷光、それは彼方の旅人、頭上の悪魔、眼前の天使、王の武器。

祈りは力になると魂官が言った、祈りで楽になれると患者が言った、祈りは確かに届いたと立派な騎士は言った。



「 …かあの声と顔、最近何処かで見たような… …近衛兵だから印象に残ってるだけ、かな… 」



◎続く◎


RPG風に言うと、キーアイテムの“雷燐”を手に入れた!状態です。

とっても良い人なグノッサリオをまんまと騙し、部屋荒らしの末に金目の物をその手から奪い取ったファヴァル(←

後で怒られないといいね( *´艸`)

次回は武器庫、そして隠し通路を目指します。

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