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ソウルディア戦記 ~魂歌の響く大地~(砦の魔女編)  作者: 槍の人。


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第26幕:「王命」


第26幕:「王命」


◇新生王国暦5年 陽光季99日



祈祷室へと走るファヴァルたちへ、各所で控える多くの兵たちが何事かと視線を向ける。

曲がり角の手前で壁を背に腰を下ろす者、身長より高い位置に開いた壁穴から顔を出す者、矢の束を持ち階段を上りながら振り返った者。

バーレットの言う通り迎撃の態勢は既に整っているようだ、そんな兵士たちを掻き分け時に挨拶しすれ違いながら駆け抜ける。

だが例の村人たちかという思考と、一行の中に同じ蛇の徽章を付けたバーレット配下の兵がいる事で見咎められることは無かった。

そしてファヴァルの記憶を頼りに迷わず祈祷室まで辿り着くと、なるほどそこはもぬけの殻である。

バーレットと祈祷室での治療を助けるための側近と思われる兵士数名が居たはずだが、今は迎撃の為に出払っているようだ。

本来ならば兵士では無い下働きの者たちも居て、バーレット不在でもこの部屋の管理や負傷者の面倒を看ていたのだろうが、これまでの情報から察するに彼らはソウルキーパーとして在るに至らず魂を還したものと考えられた。


「うん、やっぱりあった、これなら。さて…、兵士さん警護ありがとうございました!ここまで来ればもう安全ですね!」

「 …、ああもう大丈夫なのかい… …てもいいんだがどう… 」

「大丈夫です!バーレット様は勝利は堅いと言ってたけど、総力戦なんですよね?皆さんの所へ行ってあげて下さい!」

「 …だな頑張るとする… …れじゃあここは任せたよ… 」


しっかりと移動の免罪符として同行させておきながら、用が済めば邪魔者は追い払う、結末への糸口を掴みいよいよ感覚が研ぎ澄まされ始めたファヴァルである。

人懐っこい笑顔で手を振り警護の邪魔な兵を見送ると、スッと真面目な顔になったのをブノンズは見逃さなかった。


「…それでは、いかが致しやすかファヴァル様」

「ここで眠るベリュークの英雄たちには悪いけど、彼らの主の魂を救うために、アレを借りよう」


そう言ってファヴァルが指さす先は、古い英雄たちが横たわるベッドの下、そこには生前に身に付けていたであろう鎧や兜などがあった。

ブノンズもすぐに何をするか察し、ここまで共にやって来た村人感役の兵士たちにも目的の物を伝える。

それはこの砦の白い波を掻き分け深くに潜るための潜水服、欲しいのは虎の徽章が付いた一式だ。

早速と思い動き出そうとするブノンズたちをファヴァルが手で制した、見上げる先には英雄たちを見守るシーサックの護り竜、黒雲の竜の石像がある。

そっと片膝を着き黒雲の竜と古い英雄たちに祈りを捧げるその姿は、天窓から差し込む月明かりも相まって一枚の幻想的な絵画を前にしているようであった。

そして空を流れる黒雲でもあったのだろうか、照らす月明かりが時折明滅する様子は、まるで竜がその祈りに応えているかのようにも見えた。

目を閉じ祈るファヴァルの後ろで自然と膝が落ちたブノンズたちも、今は盟を結ぶ過去の敵国の護り竜に祈りを捧げるのだった。


しばしの静寂の後、これで竜の加護も得て事がうまく運ぶぞと意気込んだブノンズたちであったが、全てのベッドを確認しそう簡単には行かないものかと落胆する。


「考えてみりゃ、近衛兵なんてのは最前線には出ないでやしょうし、力量もあるから簡単には深手も負わないって事でやすかね」

「確かにその通りかも、だから1つだけでも見つかったのは儲けものなのかな」

「ですかね、それはファヴァル様が使ってくださいや、あっしらは適当に選びやす」

「えっと、ブノンズさんはこの弓矢を、で貴方は剣と盾、貴方は猪、貴方は車輪でお願いします」


手近な鎧に手を伸ばしかけていた兵士たちが互いに目を合わせ困惑する、欲しかった近衛の鎧かそれ以外か、とだけ思っていたから当然だろう。

密かに他の鎧より少し重装で格好良い近衛の鎧が回って来ずガッカリしていたのだが、何やら自分たちにも役割がありそうだぞと俄然やる気が出てくる調子のいい兵士たちである。


「何か考えがおありですかい、これだけ指揮系統がしっかり分かれてやすから複数の徽章が入り混じって行動してると怪しまれそうですぜ」

「そうだね、さっきのバーレットもそうだけど敵は思っていたより遥かに頭が良くて遥かに統率がとれてる、だから見つからないように解け込むんじゃなくて敢えて堂々とこちらから仕掛けようと思う」

「それはまた、何と言いやすか…」


そう言ってファヴァルが提案した作戦内容は、一つでも間違えたら行き詰まるパズルを組み合わせるような内容で、ブノンズたちは頭を抱えてしまった。

果たしてそんな細かい動きが自分たちに出来るのか、一歩間違えれば全員が芋づる式に時の止まった牢送りになるんじゃないか、そんな不安がよぎる。

これまでなんだかんだうまくやってきた彼らだし、なんだかんだ信頼はしているファヴァルの作戦である、だが、しかし…と。


作戦ではここに居る5人全てに明確な役割があり、しかも単独行動や敵の騎士相手に台詞まであったりするのだ。

我らが主はついさっきバーレット相手に言い負かされた(その後挽回したが)のを忘れたのだろうか、それと同じ事をただの兵士に一人で行ってやれと言うのか。

兵士たちは再び顔を見合わせ互いの不安を共有し、意見具申の意志を確認して頷いた。

村人感役として選ばれた彼らは、まさに元農民であり辺境伯軍の新設に当たって召募に応じた志願兵、つまり新兵である。

戦争の終わった時代に武功を求めて、名を上げ貴族の仲間入りを目指して、金貨袋を手に故郷へ錦を飾るため、新たな領地への優先的な入植権のため…。

志願兵たちの従軍理由はそれぞれだが、やる気は有る、しかし経験は無い、皆と一緒なら頑張れる、でも一人で行けと言われると怖い、そんな者たちなのだ。

意を決し兵士の一人がおずおずと手を上げようとして、しかし先に口を開いたのはファヴァルであった。


「今回の辺境伯軍の派遣に当たり、女王陛下より頂いた言葉があります」


女王陛下、と言う言葉が出てそれを遮る事は出来ない、少なくともメイヤーナの民は血気盛んな武勇の民であっても無頼の民では無いのだから。


「陛下は過去の戦争を止められなかった事を悔いており、その戦火に消えた魂や、故郷や家族を失った民を憂えています」


自然と背筋が伸び、踵がカツンと音を立て揃う。


「そんなお優しい陛下が辺境伯軍に望んだ事は、“ラグンの地、スホータムに平和な未来を”というものでした」


両の手は後ろ手に組まれ、口は引き結ばれる。


「当初、得体の知れないソウルキーパーたちが巣食う廃砦への進軍は、当然その討伐と平定が目的であり、私たちは戦い勝つ為に王都を発ったのです」


ブノンズも兵士たちも、真剣な眼差しでファヴァルを見つめる。


「しかし得体の知れないソウルキーパーという存在は、こうして接してみれば生前の意志や個性を色濃く残す“人”でした」


皆微動だにせず、静かな空間にファヴァルの声だけが響く。


「ならば、優しき陛下の思い描く理想の未来のために成すべきは、戦火に燃えながら故郷や家族の許へと帰れずにいる彼らの魂にも平和な未来を見せる事ではないでしょうか」


彼らの主、辺境伯ファヴァル=レギエンの声だけが。


「だから私は、“砦の魔女を討つのではなく砦の聖女と話がしたい”」


たった一人の従者と、たった三人の兵士。


「そのために皆の力を貸して下さい」


そして、たった一人では何も出来ない事を識る王。



恐怖が無くなった訳では無い、命と金貨を秤にかければ間違いなく命が重い、だがそれでもこの湧き上がる感情は何だろうか。

自分たちは今、新たな王の誕生を見ているのか、新たな王国の建国に関わっているのか、新たな歴史にその名を刻んでいるのか。

止まらない体の震えが妙に心地よく、恐怖を感じているのか興奮を覚えているのかも定かではないが、ひとつだけ確かな事がある。

それは「この人と共にこれからも同じ道を歩んでいきたい」という想い。


間抜けな一面も、頼りない言動も、呆れるような子供っぽさも知っているから、「このお方のために命を投げ出してでも」とは思わない。

でも、「一緒に旅をするためにちょっとだけ命を張ってみてもいいかな」とは思えたのだ。


既に頭を下げ、その言葉に従う意志を示していたブノンズに続き、三人の兵士も頭を下げた。

こうして綱渡りの作戦が実行される、ラグンの地の平和と、その先に続く未来を賭けた、小賢しい作戦が。


果たしてその様子を見て、見守る黒雲の竜と眠る英雄たちは、どう思っただろうか。



暁光、それは新たな一日の始まり、新たな出会いの始まり、新たな歴史の始まり。

歴史の初めは分からないと学者が言った、歴史に終わりは無いと詩人が言った、歴史はこれから創ると新たな王は言った。



「それじゃあ、スホータムの平和と未来は君たちの双肩にかかってるぞ頑張れ大作戦開…ったぁぁぁ舌噛んだぁぁぁ」



◎続く◎

少し短めですがキリが良いので。

“ファヴァル覚醒”からの残念ヴァル坊でした、でもブノンズの評価はなんか放っておけない人からなんかやってのけてくれそうな人くらいに上がりました。

二歩進んで一歩下がる、差し引き一歩前進、やったね!(?

予稿自体は29話まで出来てるのでぼちぼち見直して少し先との整合性を取って投稿していきます。

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