第22幕:「悔恨」
第22幕豆知識
【メリージュ】…メリージュ・カットガス。カットガス子爵家の長女でメイヤーナ王国従騎士。帝国戦争時に成人しエキル軍に編入されたが、初陣のスホータム砦攻略戦で戦死した。
第22幕:「悔恨」
◇新生王国暦5年 陽光季98日
暗く方向感覚を失いやすい地下の道をしばし歩き、やがて3人はたった一つだけ魂芯灯が灯る小部屋に到着した。
魂芯灯の明かりは本来そこまで明るくは無いのだが、地下深いこの場所ではとても明るく、眩しいくらいの光を放っている。
壁を見れば小さな籠状の金具が一定間隔ごとに取り付けられており、その下に燃え尽きた木片があることから本来は複数の松明で照らされていたのだろう。
しかし命が絶えて久しく松明を交換する者の居なくなったこの場所で、魂芯灯だけが魂の残滓を燃料に光り続けているというのはなんとも皮肉な光景だ。
先頭を歩いていた白い騎士、近衛副騎士長のベルニオンが小部屋に居た白い兵士たちに声をかけると、彼らは慌ただしく動き始めた。
「まったく、細かく指示を出さないとこうして無駄に待機しているのはいただけませんね」
「ここが牢の入り口なんですよね?こんなに兵がいるなんて厳重なんですね」
「いいえ、本来の牢番は2名なのですよ、残りは先ほどの村人、ショアナさんを送り届けるために付けた兵たちなのです」
小部屋の先には長い通路が暗闇へ吸い込まれて行くように延びており、その両脇に一定間隔で鉄格子の扉が見える。
白い兵士の一人が真新しい松明に火を着け、通路の奥へと闇を払いながら先導してくれる、途中のどの部屋も空のようで、もしかしたらまた祈祷室のベッドで見たような光景があるのではと想像していたファヴァルはそっと胸をなでおろした。
「どの牢も空っぽですね」
「そうですね、脱走兵や侵入者、近隣で捕まえた賊や戦いで捕らえた敵兵なんかが入っている事がありますが、ここスホータム砦では脱走兵の話は聞きませんし、立地から侵入者も無く賊も大々的な討伐が行われて以来新たな被害の発生報告はありません、今牢に居るのはショアナさんくらいでしょう」
「 …ニオン様、奥に聖女様の癒しで… …虜の扱いになっている敵の騎士が… 」
「敵の、騎士、ですか?おかしいですねそんな報告は…いや確かに、乱戦で…乱戦…あの乱戦は…」
「あの、ベルニオン様大丈夫ですか?どこかお体の調子が…」
「アニスさん?ああいえ、いや、いや、…瀕死ですが大丈夫でしょう、ファイル様ならきっと…そうすればあの油断ならない軍の敵情について…あの敵、あの敵、あの、敵?…」
胸元を押さえ何かを振り払うようにしきりに顔を左右に動かし、ついには片膝を着いて何かを喋り続けるベルニオンに、ファヴァルもトゥリスも兵士さえも困惑する。
酷く混乱したその姿は、ブノンズが居たならグノッサリオが武器庫で見せた姿と同じだと言っただろう。
揺れ動く白い体は時折輪郭を滲ませ、先ほどまでの紳士然とした流麗な言葉は失われ、まるで名も無き兵士たちと同じような有り様である。
この時ファヴァルは、このまま放っておけばもしかしたら霧散し存在を失うのではないかと考えていた、そうなれば強力で厄介な敵が一人減ることになると。
ここは敵地であり、ソウルキーパーはまともに戦うのが難しい相手で、一軍を預かる者としては被害やリスクは可能な限り少なくしたい、そう考えるのは何ら不思議な事では無かった、無かったがいつものファヴァルらしくも無かったかもしれない。
実際問題、その状態からソウルキーパーがどうなるかは不明だったが、ファヴァルの不安が垣間見えるような傍観という考えを否定し、その目の前で手を差し伸べた者がいた。
「ベルニオン様、しっかりしてください!今ベルニオン様に倒れられたら誰が鍛冶区画を守るのですか」
混乱し、姿を滲ませ、不安定なそのソウルキーパーの手を取り、ギュッと両手で包み込むと祈りの言葉を囁くトゥリス。
その献身的で、恐怖や躊躇など微塵も無い行動に、ファヴァルは眩しさと懐かしさのようなものを感じていた。
そうかこれが魂を眩しいと感じるという事、きっとその昔、この砦の人々が聖女に見出していたものなのだろう、と。
「聖女様、この砦にいらっしゃるのならどうかベルニオン様をお救いください、貴女の忠実な臣下をお守りください、聖女様…」
「聖女、様。聖女…ファイル様、ファイル様、ああファイル様…行くなドノヴァー!お前は王女さんの傍に居ろ!俺たちが討って出、る、ううううう、ああ…!」
「ベルニオン様!ベルニオン様!!」
「貴方はとても輝いてみえた、貴方はいつも笑顔だった、貴方には心繋ぐ友がいた」
「私には王宮は窮屈だった、私はいつも笑顔を求められた、私は家族の前でしか笑えなかった」
「家族が全ての私に貴方は言った、ならば家族を増やしませんかと」
「貴方がくれた沢山の笑顔を、貴方が集めた沢山の家族を、貴方と共に守りたい、いつまでも…」
突然のその“声”に、ファヴァルとトゥリスが受けたのはとてもとても不思議な衝撃だった。
天から降り注ぐような歌声、地の底から這い出てくるような歌声、家族を想う優しい声、家族を想う悲しい声。
砦に響いたのは明るく優しいはずなのに、どこか暗く悲しい歌声で、色々な感情がごちゃ混ぜになったようなそれは聞いた者の心を掻き乱した。
ファヴァルは体の内から湧き上がるゾワゾワとした感覚に身震いし、トゥリスはきつく目を閉じ体を強張らせより一層の力と願いを込めて手を握りしめる。
それでも聞きなれた声というのは安心をもたらすものなのだろうか、二人の反応とは異なり判別もつかないほどに姿を歪ませていた白い騎士は少しずつ“ベルニオン”を取り戻していく。
「…申し訳ありませんファイル様、私などのためにお手を煩わせてしまい…」
「ベルニオン様?あの、大丈夫ですか?」
「ファイル様?…アニスさん?」
片膝を着いたまま包み込まれた自分の手を見つめ、臣下の礼を執ったベルニオンはしかし、呼びかけられた声の主が自身の主の声では無いと気付き顔を上げ、そこに主と同じ優しい眼差しをもつ村人、兵士ソルクスの妻アニスを見た。
(あの感覚は何だったのでしょうか、懐かしいような、苦しいような、もうずっと昔の出来事のような…)
未だ鮮明にならない思考に若干の苛立ちを覚えつつも、理性を取り戻したベルニオンはトゥリスが最初に抱いた印象通りの“物腰の柔らかい騎士様”に戻っていた。
「 …イル様、どうしたんだろうか… …は何だかいつもより… 」
「ううむ、ありがとうございますアニスさん、大丈夫です立てますよ。ファイル様のあの歌声は…また戦いが始まった事を嘆いていらっしゃるのでしょう」
「何だかすごくゾワゾワってしちゃった、びっくりした~」
「それも含めて、魂に響くとはこういう事です、二人には是非気分が良い時のファイル様の歌声も聞いていただきたいものですね」
「わぁ、それはすごく気になります、どれだけ素晴らしい歌声なのか想像も出来ません」
「さてと、っと、むう、いかんな…」
自力で立ち上がるも足元の覚束ないベルニオンの手を再び取り支えるトゥリスは、なるほど立派に砦で働く者だった。
ショアナを解放する約束を最後まで果たそうとするベルニオンを、トゥリスは体の心配から、ファヴァルは打算で宥め、二人の説得に折れた騎士は無駄に待機していた兵に牢番の役目を交代させ自身も少し休むと言って来た道を引き返して行った。
ベルニオンを見送った視界の隅で瞬いた魂芯灯の明かりは、先ほどよりも更に光を増しているように見えた。
「(さてと、ナイスでしたトゥリスさん、いい感じにあの騎士を追い払えましたね)」
「(そうですね、ちゃんと休んでくれるといいんですけど)」
「(そういえば手を握ってましたけど、何か影響は出ていませんか)」
「(いいえ、とても優しい握り方で痛くは無かったですよ、むしろ私の方が必死で強くしすぎなかったか心配で…)」
「(…あの騎士にとても優しかったですね)」
「(ええ、だって父さんのお仕えした人たちで、家族みたいなものでしょう?)」
「(…)」
「(…?)」
「 …たんだ、ほらその突き当りの… …ーいショアナさん、出れま… 」
「やっと来た!もう途中で何やってたんですか、足音が聞こえたのに叫んだり何だりしてなかなかここまで来ないから待ちくたびれましたよ」
「 …ぁすみませんね、ベルニオン様がそこ… …くしたみたいで… 」
「え、あいつ…ベルニオン様も来てるんですか?今度は何も言われないといいんですけど」
「 …もうお戻りになられま… …は要りませんよ疑いは解けて… 」
「良かったー!…です、うふふ」
辿り着いた牢の奥、鉄格子の先ですっかりくつろいでいたショアナは元気そうであった。
拍子抜けするほどのその陽気な声に、むしろ心配していたファヴァルたちの方がどっと疲れ、先ほどのベルニオンの様にしゃがみ込んでしまいそうだ。
兵士が鍵を開ける間、松明を預かったファヴァルはふと背後に気配を感じて振り返るが、誰も居ない。
でも確かに今、声をかけられた気がしたのだ、それもしっかりとしたメイヤーナの言葉で。
松明をより高く掲げてみるが、見えるのは突き当りの壁と反対側の牢、その奥を照らし…
「良かったショアナ!捕まったって聞いたからびっくりしちゃったじゃない」
「トゥ、ゥー、アニスも元気そうで良かった、大丈夫だった?」
再会を喜び抱き合う二人、横で見ている兵士も何故かすごく嬉しそうだ。
キャアキャアと二人の歓声が牢に響く中、ショアナはトゥリスの肩越しに松明を掲げて立ち竦む主の姿を見つける、離れていたのは僅かな時間のはずだがその背中が妙に大人びて見えた。
そして先ほど暗闇の中で情報交換をした相手の事を思い出し、自分も改めて挨拶をしようと主の横に並び、そして固まった。
絶句し、思考が停止し、体も動かないがそれでも背後から近づこうとしたトゥリスを制止する為に手を伸ばすことだけは出来た。
その牢の奥、岩壁にもたれかかるように座り込む鎧は、見間違いようも無く、メイヤーナの、それも辺境伯軍にも何人か居る、見慣れたエキルの軍で採用されている物だった。
左の肩甲と左胸甲が大きくへこみ裂け、そこに大きな衝撃を受けた事が一目で分かる、そして鎧の無い部分、手先や首回りにもしっかりと革製の補助防具を身に付けており、だからこそ唯一素肌を晒していたであろう部分、兜の下に見える眼窩が、綺麗に並んだ歯が、胸を締め付けた。
そして背後の岩壁には、びっしりと文字が、人の名前らしきものが彫り殴られており、見る者により一層の悲愴感を与えるのだ。
「【メリージュ】さん…」
ポツリとショアナの口から人の名が紡がれたことで、一気に視界が歪む。
だがすぐにそれは涙ばかりでは無いことに気付く、ファヴァルは目から溢れ頬を伝う涙を手で擦り拭い、それでもなお歪む景色に違和感を覚えたのだ。
そこに、自身と先達の遺骸との間に何か在る、どうやら横にいるショアナも同様だと気付いたファヴァルは、壁の金具に残っていた余命幾ばくかという松明に火を移し、持っていた松明とトゥリスを兵士に託して先に戻ってもらった。
兵士と共に不安そうに離れていくトゥリスにショアナが笑顔を向ける、心配しないでと。
「ショアナさん、メリージュさんと言うのは」
「この子の名です、メリージュ・カットガス、カットガス子爵家の令嬢でカッサルト女卿の従者だと言っていました。…さっきまで話してたんです、この子と」
「ああ、そうか、やっぱり。ショアナさんはカッサルト女卿が誰の事だか分かりますか」
「いえ、でもエキル軍の騎兵隊指揮官だと…もしか、しますか」
「…父上の軍で騎兵隊を率いていたのは、ビューネ・カッサルト、ランバレア・カッサルト夫妻です。女卿と言ったのなら、それはビューネさんです」
辺境伯軍射手隊のショアナは元々狩人であり、決して頭が良い訳ではなかったが、とても勘が鋭く行動力も判断力もあることから重用されている。
そんな彼女はベルニオンによって嫌疑をかけられ牢に仮収監されていた間に、暗がりの先にある向かいの牢の少女と会話をしていた、ショアナはそこにソウルキーパーとなった古い同胞がいるのだと思って声を掛けていたのだが。
「そっか、私はショアナ。えっと辺境伯軍って言ってもたぶん通じないよな、レギエンの軍の射手隊に所属してるんだ」
「 …っぱりそうでしたか!私は… …の騎兵隊所属なん… …戦いで斧の一撃を防ぎ切れ… …まってしまって… 」
「そいつは良く生きてたな、即死しててもおかしくなかったんじゃないか」
「 …、ですよねやっぱ… …っすらと私の胸に手を当てて祈る女… …えているんです、あれがもしかしたら聖… 」
「へぇ、それが本当だったらすごい体験をしたんじゃないか?伝説の聖女様の癒しなんてさ」
「 …は良くないと思いま… …の、ましてや今まさに死闘を繰り広げ… …女様と呼ぶなんて… 」
「ああ、そっかすまない、そうだよな、あんたの言う通りだ」
「 …いがその後どうなっているかご存知… …まってからたぶんもう何日か… 」
「あー、そうだな、今頃全軍会議でも開催している頃じゃない、かな、攻めあぐねてそんな話をしていた気がする」
「 …ですか、攻略がうまくいくといいの… …りに私が生還出来なかったとしても… …を勝ち取ればその名声や褒賞は家に… …や母に楽を、何より妹に良縁が舞い… 」
「妹さんがいるのか、私にもいたんだけど小さい頃に高熱を出してそのまま還っちまってさ、そっちの妹さんは幸せになれるといいな」
「 … … …ありがとう… 」
鍵を閉め松明を持った兵士たちが去ると囚われた牢は通路の先から僅かに届く光だけが頼りのほぼ暗がりで、ショアナが微かな泣き声の主、暗闇の先にいるであろう白い影に話しかけたのは自身の恐怖を紛らわす為であった。
しかしそこに居たのはメイヤーナの貴族、先の大戦でエキル軍に籍を置いていた少女だったのだ。
今ここにこうしているという事実が、声の主は既に亡くなっており、そしてこの暗闇の牢の中でずっとずっと泣き続けていたことを意味する、そう悟ったショアナは沢山話そうと思った。
泣き疲れる事も出来ずに泣き続けた少女に泣き止んで欲しいと思ったから、そして叶うなら途切れてしまった少女の物語をその家族に伝え聞かせる為に、それがせめてもの慰めになると信じて。
「 …ガスの領地ですか?… …の東部に広がる低い岩山ばかり… …で民の数も少なく産業は山羊の群れを… 」
「東の方か、あっちには行ったことが無いから全然想像が付かないや、ケルストウ王国に近いんだろ?にしても山肌を覆う数の山羊ってすごいな」
「 …当にすごいんですよ、一斉に… …が揺れるだけじゃなく山まで揺れてるみた… …の民はみんな鐘を着けた杖一本で統… …の山羊たちから採れた毛や角にミルクが王都やケルス… 」
「ほうほう、もしかしたら王都の出店で飲んだミルクにカットガス領のもあったかもしれないな」
「 …うですよ、服や靴に帽子だって… …っとした道具にも山羊の角は… …さな領地ですけどちゃんと王国を支え… 」
「同じ王国の中でも知らない事なんていっぱいあるもんだよな、そうか、カットガス領か」
「なあヴァル坊、カットガス領ってとこと、そこの領主一族が今どうなってるか、知ってるかい?」
「カットガス領…王国の東にあった、今は存在しない場所です…」
「存在しない…?」
「カットガス子爵家の治めた東部オロア地方はケルストウ王国と接する地で、帝国戦争の後期、涙還王の連合王国軍を迎え撃った拠点の一つでした、そのため戦いで土地は荒れ軍も敗れて、戦後はケルストウ王国領になっています」
「本当に無くなってるんだね」
「領主のカットガス子爵はその際に戦死していたはずですが、確かその家族は民を連れて戦いの始まる前に王都へと避難していたはずです」
「その家族のその後は?」
「残念ながらそこまでは、あの戦争では多くの貴族や民が王都へ流れ込み、その後どうなったかは分からない場合が多いそうです」
「そっかぁぁはぁ…なんとか見つけてメリージュの話をしてやりたいなぁ。それにしても詳しいなヴァル坊は」
「これでも一応、王国牙大臣の子なんですけど…」
「そういやそうだった、忘れがちだけど、“これでも”、“一応”、な!」
「うー!ひーどーいーでーすーよー!」
抗議するファヴァルと腹を抱え笑うショアナ、しんみりとしていた空気が和らぎ牢の奥で笑顔が咲いた。
いつものことではあるが、一兵士にからかわれ叩かれる辺境伯というのはこの軍でしか見られない光景だろう。
その見慣れたやりとりにツッコむ者は絶えて久しいがそれはあくまでも辺境伯軍でのこと、初めて見る者にはいろいろな意味で衝撃を与えるのは間違いない。
そう、それが例えソウルキーパーであったとしても。
「 …の声はショアナさん、ですか?… …りの方は、その、牙大臣の子と聞こえ… 」
「あ、やっぱりここにいるんだなメリージュ、そうだよ私がショアナさ、なあ姿が見えないけどどこにいるんだ?」
すると遺鎧の前の歪みが膨れ上がり、ゆっくりと鉄格子へと近づいて来るのが分かった、どうやら座り込んでいたらしい彼女は近づいたことでごく薄く白い体を持つソウルキーパーだと視認出来る様になった。
しかしその体はほとんど霧のような状態で、人の形をしているとは言い難く、常に揺らめいて安定しない。
ベリュークの騎士たちは白い霧を固めたような姿で指一本の仕草まで分かった、ベリュークの兵士たちは人の姿であることは分かるが細かな仕草までは判然としなかった、そしてこのソウルキーパーは一定の形を留められておらず存在自体がとても希薄だ。
それはソウルキーパーとしてはとても力が弱いか、もしくはその魂に残された力が尽きかけている状態なのだろう。
メリージュの見えない姿を見たショアナは再び涙が溢れそうになるのを必死で耐えた、泣いている場合ではない、笑顔で彼女と話の続きをしよう、と。
「あなたがメリージュさんですね!初めまして、ファヴァル・レギエンといいます。えっと、次期牙大臣候補かもしれないエキル・レギエンの子…と仲の良い親戚です!」
「(はあ、なんていうか今はヴァル坊のこの無邪気な感じが救いだよ、それにしても本当に嘘を付くのが下手だなこの人)」
「 …ヴァル・レギエン様、ですか… …お初にお目にかかります、メリージュ・カットガス、従騎士で… 」
「はい、知ってます!ビューネさんの従者なんですよね」
「 …の通りです… …れにしてもファヴァル様の従軍を今まで存じ上げま… …が遅れ申し訳ございません、それにエキル様にお子様が… …も初耳で驚いています… 」
「あーいや、あー、えー、おー?」
「んん、メリージュこいつはエキル様の縁者で奥様もお子様もいらっしゃらないエキル様が養子にと考えているんだそうだそれでつい先日補給物資と一緒に後続として着陣したばかりなんだよあははそうだよなヴァル坊?」
「あ、はい」
「 …あ、はい… 」
「さてとメリージュ、実は私たち捕まったんじゃなくてこの砦に潜入中なんだ、出来れば敵の親玉の二人に会いたいんだけど、何か知らないかな」
「 …ういう事であれば、すごい情報があり… …砦の下の方に敵将の居室なんかが… …そこに繋がる隠し通路がある… 」
「隠し通路!良い響き!それはどこから繋がってるんですか?」
「 …ながら運ばれている時に聞きかじった… …ので不確かですが、敵将の一人が鍵を管理している宝物庫だ… 」
「メリージュそれ本当にすごい情報だよ、さっすがビューネ様の従者!やるねぇ」
「 …かった、少しでも貢献出来… …当に本当に本当に本当に何も戦果を残せ… 」
「そんなことないさメリージュ、あんたはすごい奴だよ、こうしてずっと待っていてくれたんだから」
「 …ーネ様許してくれるかな、褒めてくれるかな、どうしてるかな… 」
「従騎士メリージュ・カットガス、レギエンの名を代表し、そして軍を率いる者としてビューネに代わり、その献身と貢献に敬意を表します、貴女のもたらした情報を必ず役立てると約束し、そしてその願いと功績に報いましょう」
「 …はい、はい…はい… 」
「恐縮ですが今の僕たちには貴女をこの牢から逃がし外まで連れて行く手段がありません、必ずまた来ますから、今はゆっくりと、休んでください…」
「 …はい。ありがとうございま… …ショアナさんもありがとう、どうかビューネ様たちをお守り下さい… 」
「任せとけ、って言ってもまずは私たちも無事にこの砦から出られるかどうか、ってね、あーあ本当に複雑で面倒な砦!」
「 …ふふ…あはははは… 」
「あっ」
ファヴァルの視界の横で明かりが上から下へと落ち、床岩にぶつかってカツンと小さく音を立て消えた。
半ば燃え尽きていた松明はその役目を終え、今は床で鈍く赤く光る燃え炭を残すのみ。
急に本来の闇を取り戻した牢の奥で、二人はしばし佇んでいた。
静謐が訪れ、もう少女の笑い声は聞こえなかった。
残り火、それは消えゆく者が最期に見る羨望、最期に見る失望、最期に見る絶望。
それでも、最後に抱く願望が、最後に抱く渇望が、最後に抱く希望が、その笑顔を繋ぎとめた。
「おやすみ、メリージュ」
◎続く◎
想像してください…地下深く…暗い洞窟の奥…冷たい岩と無骨な鉄柵に囲まれた牢…
楽しそゲッフゲフゲフゴホン
遺跡や廃墟の雰囲気(決してホラーでは無い)が大好きな作者の妄想廃砦の奥深くで待っていたのは、
過去の戦いで結果を残せず後悔を抱えて膝を抱えて(!?)いた少女でした。
この子、割と好きです。




