第19幕:「軍議・前編」
第19幕豆知識
【アローネ】…アローネ(・ベリューク)。旧シーサック王国の騎士。孤児で元剣奴、ドノヴァーに腕と人生を買われその傍らで戦い続けた歴戦の戦士。
第19幕:「軍議・前編」
◇新生王国暦5年 陽光季98日
「ソルクスの妻が来ていると聞きました、…あなたが?」
「はい、ソルクスの妻でディオニ村のアニスです、騎士様」
アストガル様に連れて来られたのは飾り気のない大部屋だった、軍議室と言うらしいけど村の集会所のような場所なのかもしれない。
部屋の中には長机と椅子が並べられていて、そこには紙束や書物が乱雑に積まれてる、広げられた大きな紙には複雑な模様が描かれていて所々に細い杭が突き立ててあったり色分けされた小さな馬の人形が置かれていて、これは何かのゲームなのかな、ちょっと面白そう。
壁には沢山の地図や風景画、人物画なんかが貼り付けてある、アストガル様は部屋に居た数人のマント付きの兵士から報告を受けて何やら話し込み始めてしまったから、壁の絵を眺めて待つことにした。
この砦を空から見下ろした様な地図とその周辺の地形図、ディオニを含めた近隣の3つの村の地図、それから知らない村の地図もあるけど名前を見る限り南の草原の方の村だと思う。
それから砦を中心に村の位置や国境線なんかが書き込まれた大きな地図、もっと大きなこれは…この、大陸の地図?シーサックとかメイヤーナって文字があるからきっとそうだ、へーこんな形してたんだ。
こっちの風景画は何だろう?豆粒みたいな兵士がいっぱい川を挟んで対面してる。こっちはお城の絵だ、高さとか深さとか飛距離に人数?よくわからない数字がいっぱい描き込まれてる。
人物画はとても分かりやすい、燃えるような赤髪に金冠の男、髭を生やした立派な騎士、重そうな鎧姿の大男、赤いマントが鮮やかな正装の女性、あれ…この虎みたいな顎髭の男の顔には短剣が突き刺さってる、こっちの人にもバッテンが、せっかくの絵がもったいないなあ…。
時折兵士が駆け込んで来たり、逆に何かを復唱して駆け出して行ったりして、アストガル様はとても忙しそうだ。
お話の邪魔をしないように机の端っこの椅子に腰かけて、置いてある物や本を手に取って勝手に見せてもらってるけど、特に何も言われないから大丈夫だろう。
えっと、「剣じゅつしなん書」「風読みのごくいと景色から得るひしゃぶつまでの測定じゅつ」「シーサックしゅよう6軍団」「剣ど騎士~英雄の剣~」「メイヤーナ王国地方全図」「建国記」「らいめいと夜明け」。
…もう少し絵の多い本は無い、かな。どれも字がびっしりで読みづらいし、使われてる言葉が難しい、あ!
「生産物一覧・税収・人口/ディオニ村」、こんな記録があったんだ、いつの間に調査が…あれ?この字、見た事ある、だって、この字って、だってほら、ほらやっぱり、この日記と同じ…
その後私は時間を忘れてその記録に見入ってしまった、内容自体は項目ごとに物の名前や数字が羅列されているだけのもの、見てて楽しいものじゃないけど、所々に注釈やメモ書きがあって、その字を見ているだけでなんだか嬉しくなったから。
「すまぬ待たせたアニス殿、どうやらその後メイヤーナ軍は顔を見せておらぬ、弓兵たちに手応えもあったようだし今日はもう来るまい」
「それは良かったです、またすぐに戦いになったら怖いですもの」
「なぁに、メイヤーナの軍などいくら来ようともこのアストガルが通さぬわい」
「心強いです、ベリュークの軍は強者揃いと聞いていますから、私たちも安心ですね」
確かに強者揃いで、間違いなく兵と兵とのぶつかり合いならそう簡単には負けなかったんだろうな。
でも、今話してるのは遠い昔に亡くなった方々、その魂を空へ還し損ねてしまった悲しい人たち。
私の父さんの仲間、父さんが守りたかった人、父さんが信じた主とその奥さん、父さんと同じく死んでなお戦い続ける、私が助けてあげたい人たち、私が辺境伯軍の道案内役に立候補した理由。
当時はまだまだ子供だったけども、それでもやっぱり私はディオニ村で生まれ育ったシーサック王国ベリューク領の村娘、祖国と主のために勇敢に戦った兵士ソルクスの娘。
既にこの地がメイヤーナ王国のものであることも、自分たちがメイヤーナの国民になっていることも分かってる、この砦に生きている人がいないことも、この砦を守る戦いに意味がないことも分かってる。
それでも、こんなにも感情豊かに、こんなにも一生懸命に、こんなにも領民を想って、こんなにも長い戦いを“生き抜いてきた”人たちを、私は騙したり傷つけたり出来ないかもしれない。
「さてと、そのまま座ってておくれ、先程各部隊の長に召集を掛けたから追々顔を出すだろうて、それまでソルクスの話でもしようじゃないか」
そう言ってアストガル様は砦の戦いでの父さんの活躍や、弓の腕自慢が多い大弓隊で一番だったという的当て訓練での記録などを語って聞かせてくれた。
アストガル様にとってはその通りなんだろうけど、つい先日の出来事のように話されるものだからそれが何だか懐かしくて悲しくて、ついつい涙を見せたらまた謝られてしまった、父さんを行かせた事を今でも後悔していると言う。
とっても仲間想いで優しいお爺ちゃんには、なんだか騎士様なんて似合わないかも、なんて言ったら怒られてしまうかな?うふふ。
生まれた時には既に祖父母がいなかったのをいいことに、アストガル様みたいな人が祖父だったら、なんて不敬な事を考えていたら、思い浮かべた幻想を踏み分けるようにガチャガチャと勢いのある足音を通路に響かせながら一人の騎士様が駆け込んで来た。
革と鉄を組み合わせた鎧は明らかに特注品で、細身だけどそれを軽々と着こなしてて、兜の上に竜が乗っかってるみたいな飾りがすごく目立つ、そして聞こえた声はとても愛らしい女性の声で、ソルクスの妻かと聞かれた私は吸い込まれるようにそうだと答えた。
「ああ、アニスさん、私は貴女に何と伝えれば良いのでしょう」
「わ、あ、の、騎士様?」
入って来た時の勢いのまま駆け寄った騎士様に強く抱きしめられている、怒涛の展開に頭が着いて来ないよ。
…でも、この騎士様がその見た目に似合わずとても力強くて、そして私の為に泣いてくれていることが分かって思わず抱きしめ返してしまった。
後ろ髪を梳くように優しく撫でてくれる手が何よりも雄弁で、この騎士様が戻らぬソルクスのことを、そしてその妻を演じる私のことを労わってくれているのが伝わってくる。
優しい騎士様だ。アストガル様も優しい騎士様だし、父さんのために涙を流してくれた兵士たちも、案内をしてくれた兵士もみんな優しい、それにあの時聞こえた歌声も…
この砦は優しさに満ちている。
「アニスさん、ソルクスは砦を出て遠く危険な任務地へと向かいました、予定では一季以内に戻るはずでしたが既に二季を越えようとしています、ですがそれが必ずしも…」
「あーっごほん、少し良いかな【アローネ】」
「いいえ良くありません!…希望とは諦めない限りそこに在り光り続けるものなのです、私たちが諦めない限りは…」
「待て待て待たぬか、言いたいことは分かるが待ちなさい、それからその言葉はファイル様の受け売りだろうに」
「受け売りでもいいではないですか!ファイル様のお言葉は全てに勝り、ドノヴァー様の命令は全てに優先するのですから!」
「ええい少しは落ち着かぬか小娘が!おまえは本当にいくつになっても負けん気の強さと融通の利かなさが成長せんの!」
「あなたこそ毎度毎度小難しいことを並べて私に学が無いことは知っているでしょう!?」
「学が無いで逃げるでないわ!無いなら学ぶのじゃ!折角ファイル様もドノヴァー様もその機会を与えて下さっていると言うに!」
「そんな暇があったら一矢でも多く一振りでも多く訓練をして戦いで役に立つのが私の役目なんです!」
どうしよう、なんか私のために喧嘩を始めてしまったような気がする、騎士様の肩にうずめた顔を上げるタイミングが無い。
「おまえの腕は既に我が軍でもトップクラスだろうて!そんな暇があったら学ぶのじゃ!王や他領の貴族に笑われるぞい!」
「王様やお貴族様の相手なんてそもそも私の出番無いでしょう!それこそ教養のあるあなたたち“姫付きの臣”で事足りるじゃないですか!」
「必ず誰かおるとは限らんだろうて!それにおまえはベリュークの名を賜っておるじゃろうが!」
「あれは非公式なものです!私なんかがドノヴァー様と同じ名を名乗るなんてそんな畏れ多いこと出来ません!」
「はん!よう弁えとるわ小娘が!じゃが“ファイル様のお言葉は全てに勝り、ドノヴァー様の命令は全てに優先する”のでは無かったのか?はあん?」
「それとこれとは別問題です!本当に面倒くさい人ですねあなたは!」
「そう思うならほれ!学び慎み儂に文句を言わせぬ姿を見せてみよベリュークのお嬢さんよ!」
「黙りなさい!ベリュークは名乗らないけど老いぼれ爺さんの目には勿体ないくらいの素敵なお嬢さんになってやるから!」
「ふははは言ったな!はてさて老い先短い老いぼれ爺さんが生きている内に見られるか見ものだのう!」
「あなたみたいな無駄に元気な人がそう簡単に逝くものですか!せいぜい長生きしてファイル様を喜ばせなさい!」
「おまえこそとっとと教養を身に付けてドノヴァー様を喜ばせるんじゃな!」
「はんっ!」
「ふんっ!」
仲が良いんだなあこの二人、まるで…
「お二人はまるで祖父と孫のようですね」
「こんなお節介な祖父なんて要りません!」
「こんなじゃじゃ馬の孫など要らんわい!」
「二人ともうるさいぞ、反響して一つ上の階層まで聞こえている。おまえたちも止めぬか馬鹿者」
ものすごく不機嫌そうに現れた人はとても偉そうで怖そうで真面目そうだ、怒られたマント付きの兵士たちが背筋を伸ばしつつもしょんぼりしちゃってる。
まあそれはそれとして、問題はその“えらこわまじ”の人がファヴァル様、じゃないヴァル坊の後ろ襟を掴んで持って来たことなんだけど、やっぱりヴァル坊が何かヘマしちゃったのかな。
「おお、バ~ーレット、待っておったぞ座れ座れ、なんじゃ村っ子も一緒だったのか」
「バーレット、だ。こいつを知ってるのか?」
「うむ先ほど到着したディオニ村からの一行の一人じゃ、だいぶ疲れておったようじゃがもう平気かの?」
「はい!お水と食べ物をありがとうございましたアストガルさま!」
「おうおう元気になって何よりじゃ」
「ふむ、そうか、言葉遣いが、いや言葉選びがたどたどしいのに話自体は流麗でな、ペラペラと薄っぺらい身の上話をするものだから出自が怪しいと思い首実検のために連れて来たのだが」
ヴァル坊…やっぱりボロ出まくってるじゃないの…
「だから言ったじゃないですかバーレットさん、僕はただのディオニの村人、ちょっと父さんが強引にメイヤーナの村長の娘だった母さんを奪って来ただけの」
何故なんですか、何故そんな設定にしたんですか、何故そんな話を信じてもらえると思ったんですか、と言うかそれ本当だったら国同士の大問題ですディオニを巻き込まないでください!
「…と、言うのだが」
「…うーむ?」
「…奪って」
ほらぁ!誰も何も言わなくなっちゃったじゃないですかぁ!!ヴァル坊のバカバカバカバカバカ!アホ!ダメ領主!
お願いみんなこっち見ないでください、そんなキラキラした目で同意を求めないで、そんな疑わしい物を見る目で確認を求めないで!
「え、と、そういえばヴァル坊のお母さんって他所から来た人だった、よね?へ~メイヤーナの人だったんだそれで言葉が少し…?」
“えらこわまじ”の人の視線がとても鋭くて痛いです、お願い許して…
ああ聖女様、ヴァル坊の頭を浄化しこの方々の疑念を晴らしたまえ、ディオニとそこに住む村人にご加護を、お願い助けて!
「聖女様の祈りは本当に素晴らしいでやすね、是非あっしもそんな体験をしてみたいもんです」
「 …かにあれは素晴ら… …んな体験をするということは大怪… 」
「ああそうか、それは勘弁してほしいかもしれやせんね。お、居た居た、アストガル様、アニスさん」
…聖女様、ありがとう…!!
アローネと呼ばれた騎士様、バーレットと言い直した“えらこわまじ”の人、あとヴァル坊たちが入ってきたのとは反対側の通路から現れたのは、常識の面で信用出来そうなブノンズさんだった。
あっちの通路は更に下へと降っていく階段になっているみたいだけど、いったい何処に行ってたんだろう?
それに外にいた兵士とも、この部屋にいるマント付きの兵士とも違う、より重装の兵士と仲良さげに話していて、既に打ち解けているようです。
「やや、ヴァル坊もここに居たのか、丁度良かったデノンさんの容態が分かりやしたぜ」
「ほんとに!デノン無事だった?死んでソウルキーパーになっちゃったりしてな…あぐぅ」
「そーーーれは良かったです是非教えてください私も心配だったんです」
怖い、ヴァル坊が怖い、何を言い出すか何をしでかすか何をやらかすか分からなくて怖い、とりあえず側近の方々がすぐに引っ叩いたり蹴り飛ばしたりする理由が良く分かった。
村での歓迎会であんなにも格好良く、あんなにも立派に、あんなにも素晴らしい夢を語ってくれた領主様、だよね本当に、影武者とかじゃないよね。
頭を押さえて涙目の疑惑の領主様(ヴァル坊)をアローネ様と一緒に撫でつつ、それぞれ椅子に腰かけたアストガル様、バーレット様、ブノンズさん、そして立ったまま輪に加わる重装の兵士さんとマント付きの兵士さんたちの話によると。
「…い、デノンと名乗るディ… …いぶ出血も酷く衰弱した状態でし… …による怪我自体は聖女様の祈りで既に… 」
「ふむふむ、やはりファイル様にお願いして正解だったかの、だいぶ辛そうじゃったがもう安心だろうて」
「そうですね、出血が酷かったと言うならば当分安静にする必要はあるでしょうけど、きっとファイル様ならその辺も諸々面倒を見てくれているでしょう」
「その話はグノッサリオかベルニオンには、ああそうか、ならば良い。ご苦労、持ち場に戻れ」
「そんなこんなでグノッサリオ様にはだいぶお世話になりやして、いやはや近衛騎士長様と聞いてびっくりしやしたが」
「だいぶ気さくな方だったでしょう?元々ドノヴァー様と共に戦ってきた者は騎士団に所属しない遊撃の兵団や傭兵出身者ばかりだから普通の貴族とは違うのよね」
「はえ~そいつは剣士から身を立てた英雄ドノヴァー様らしい話ですね」
「普通の貴族とは、どう違うのかね?」
「え?いえ、えっと、どう違うのかと言うと、…バーレット様みたいな頭の良さが無い、とか…あはは?」
どうやらベリューク軍には大きく二つの派閥があるようです、聖女ファイル様と一緒に王都から来た“姫付きの臣”と呼ばれる人たちと、英雄ドノヴァー様と共に戦って来たその戦友の方たちです、分かりやすく頭脳派と肉体派といった感じでしょうか。
「確かに学の違いはあろう」
「う、はい…」
「(はぁ)だが、それは育った環境によるもの、そしてその違いで言えば、お前たちには私たちには無い実戦経験、何より類まれな行動力がある」
「え、はい?」
「(ううむ)グノッサリオやベルニオンのいざという時の決断力、行動の速さ、迷い無く突き進む強さ、私には無いものだ」
「そう、ですか?」
「(ぬぬぬ)ルダンの戦場での感、嗅覚、的確に隙や急所を突く用兵、書物や盤面の上だけでは身に付かぬ」
「そう、かもしれません」
「(うぬぅ)アローネ、お前の剣技も弓術も、実戦で磨かれたものであろう」
「はい、その通りですが…」
バーレット様はとても頭が良さそうですが、ちょっとだけ素直では無いご様子、きっと言うべき言葉はもう浮かんでいるんでしょうけど。
それとも頭が良すぎて色々と考えすぎてしまうのかしら、部下の前では威厳を崩せないと言うのもあるかも。
だってほら、お互いに困り顔の二人を見てアストガル様が必死に笑いを堪えていらっしゃいます。
「っくっくっく、ほれバーレットよ、まだ言う事があろうて、このままでは頭の悪い小娘が学が無いと言われただけになるぞ、肝心な点が迂遠なのはお主の悪い癖じゃ」
「あ、頭の悪い小娘で悪かったわね!バーレット様も無理にフォローしなくて大丈夫ですから」
「違う!…うむ、違うのだアローネよ」
「でも本当に学は無いんで…」
「アローネ、お前の剣は鋭く美しい、お前の弓は流れる星の様だ、お前の努力も人生も褒められこそすれ蔑まれることは無い、その忠誠心は本物だと胸を張るがいい、私や“姫付きの臣”が保証しよう、お前やお前たち英雄の剣たちは、私たちが学と引き換えに持っていない物を持っている、そう誇れ、少なくとも私は…お前たちを見下したことは無い」
「あり、がとうございます?バーレット様もアストガル様も、ドノヴァー様の次くらいには素敵です…」
アローネ様、ものすごい勢いでヴァル坊の頭を撫でてます、アストガル様、ものすごい勢いで笑いながら机を叩いてます、バーレット様、ものすごい勢いでマント付きの兵士に向かってブツブツ言ってます。
砦の皆さんがとっても仲が良さそうで私も嬉しいです、やっぱりこの砦は優しさに溢れています。
「アローネ様、ヴァル坊が気持ちよさそうにしてるのでそろそろやめてあげてください、なんか癪に障るので」
「ああ、すまないついつい、それで何を話していたんだったか…」
「夫のソルクスについてですが、今回私は夫の遺品となった記録や報告書を持って来ているんです」
「遺品…そうでしたか、お悔やみを申し上げますアニスさん、そして惜しい部下を亡くしました、今まで生きている事を信じ避けていましたが“弔いと忘郷の祈り”を彼に捧げましょう。…忠臣ソルクスに」
「そうじゃな…忠臣ソルクスに」
「…貫弓手ソルクスに」
「最愛の夫ソルクスに」
「村の英雄ソルクスに」
「白き射手ソルクスに」
少し前まで、良くも悪くも思い出の中に仕舞い込んで忘れていた父の姿を、可愛くない馬のぬいぐるみを手に途方に暮れていた父の姿を、そして弓を背に片手を上げて村を出発する父の後ろ姿を、しっかりと思い出しました。
村でおかえりはもう済ませたけど、もう一度ここで、おかえりなさい父さん、長い間お疲れ様でした。
流れ落ちた涙はアローネ様の白い腕を伝ってポタポタと、数多の軍靴に削り磨がれた床岩を濡らしました。
「…白き射手というのは面白いな、一体どんな意味があるのだね」
…見逃してくれませんでした、ヴァル坊の失言はどこまで続くのでしょうか、でも今回は不審をもって聞いたと言うより興味をそそられて聞いてみた、といった感じです。
これならばそれっぽく受け流し…ダメです、目が泳いでいて完全に不審者のソレです、なんて正直な領主様なんでしょうか、勿論皮肉です。
ああ聖女様、ヴァル坊の自由を奪いこれ以上の混乱の種を絶えさせたまえ、スホータムとここを守るあなたの忠臣にご加護を、お願い助けて!
忘れじの声、それは亡き笑顔を、亡き姿を、亡き絆を、亡き魂を、無くさぬための声。
皆で語ればそこに居る、皆で祈ればそこに在る、皆で想えばそこに生まれる、消える事の無い無色の貴方が。
「アストガル殿お待たせいたしました、急ぎの軍議と伺いましたがこちらも少々急ぎの案件がございます、そちらの村人に彼女の身元を証明していただきたい」
◎続く◎
トゥリスのターン!私は「ソルクスの報告書」を墓地に送り…ませんが軍議という名のベリューク軍側登場人物のじゃれあいをトゥリス視点でお送りします。
ベリューク軍側の人々の生前の関係性が少しずつ明らかに。
ちなみにトゥリス(アニス)は基本的にただの村人なので、狩りの腕はあるものの学識や村外の情報には疎い模様。




