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ソウルディア戦記 ~魂歌の響く大地~(砦の魔女編)  作者: 槍の人。


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第16幕:「贈物」

第16幕豆知識

【アストガル】…アストガル・ガンドロウム。旧シーサック王国の上級騎士。王女ファイルがベリューク家に嫁ぐ際に同道した従者のひとりで好々爺。

【バーレット】…バーレット・デルゲント。旧シーサック王国の上級騎士。王女ファイルがベリューク家に嫁ぐ際に同道した従者のひとりで頭脳明晰。


第16幕:「贈物」


◇新生王国暦5年 陽光季98日



まずいことになった、とても、とてもまずい。

僕たちの潜入はもう少しで成功しそうだった、砦の正門はもう目の前で、後は一気に駆け抜けて門を叩き、ソルクスの代理として中に入れてもらうはずだった。

でも突然声が、歌声が聞こえてきて…


「う…ぅ…」

「しゃべっちゃダメだよ、今矢を抜くから!」


歌声に釣られて顔を上に向けたら、消えかけていた体が治っていく弓兵たちが見えた…門の上にいたソウルキーパーたちだ。

周りのみんなも同じように驚いていて、そしたら体を取り戻した弓兵がすぐに矢をつがえたから、「撃たれる!」って思ったけど彼らが狙ったのは山裾の味方だった。

次々に放たれる白い矢が味方に降り注いで、人が倒れるのが見えたから思わず声が出そうになったけど我慢したんだ、だけど…


「お待ちくだ…待てガキ、矢が貫通してんだ抜いたら死ぬぞ!」

「え、え、え、うぁぁああ?」

「ここは私たちに任せろ、こういう矢傷はしっかり止血出来る準備をしてから抜かないと血が止まらなくなる」


もう、どうしたらいいのか分からないよ!

白い矢が味方に降り注いだ直後に、たぶんそれで“味方の矢の狙いが逸れて当たった”んだ、振り返ったらデノンが倒れてた。

とても苦しそうにしてて、矢は背中からお腹まで貫通してて、見てるだけでも痛そうで…


「ショアナ、押さえてて、ナイフで矢尻と矢羽根を切り落とす」

「デノンさん、動かないでくださいね」


思わず目を逸らしそうになったけど、また同じような事があった時に対処できる人がいるとは限らないんだ。

それに、しっかり見て覚えて、そして次に活かすのが僕の役割、対処できる配下を集めるのも大事だけど、いざとなったら自分が率先して行えなければ配下は付いてこない、そう父上に教わったから。

…でも痛そうだよ、デノンものすごく痛そうにしてるよ、デノン死んじゃわないよね…?


「…、  …… …  ……、…」

「ファヴァルの旦那、じゃなくてヴァル坊、奴らが何か話しかけてきてますぜ」


デノンが心配で正直邪魔しないで欲しいと思ったけど、奴ら…奴ら?

上を見たら壁上のソウルキーパーたちが何か話しかけてきているように見える、でもここまで声が聞こえないよ!もっとハキハキしゃべってよ!

困った、交渉はデノンとトゥリスさんがすることになってたのに、今はそれどころじゃ…


「おいそこの!怪我人か!とにかくそこは危ないから中庭まで運び込むんじゃ!」

「えっははい!ありがとうございます!」


すっごくハキハキしてる人が出て来た…

どうやらデノンの応急処置は終わったみたい、まだ矢の真ん中の部分が刺さったままみたいだけど、あれを抜いたらダメなんだろうな。

って、門が開いた…うわ、ソウルキーパーがいっぱい出てきた!うわ、うわぁぁぁぁ…


「…そこを …しっかり…  くぞ」

「おまえたちも…  緒に… げ!」

「  …は引き下がっ…  …は怠るなよ」


うわぁぁぁって言ってる間にデノンが複数のソウルキーパーに担ぎ上げられて砦の中へと運ばれて行く。

そして僕たちも“ソウルキーパーに守られながら”砦の門をくぐった、苔むしていたり一部が崩れたりしているけど、とても重厚で堅そうな門だ。

隊列を組んで僕たちを護衛してくれたソウルキーパーたちは、いかにも洗練された無駄の無い動きで練度がとびきり高いことが分かる。


「おう、おまえたち無事であったか、重傷の者はすぐにもファイル様に癒していただかねばな」


僕たちに声をかけながら現れた白い騎士は、白いせいで分かりにくいけどおじいちゃん騎士みたいだ。

さっき壁の上から声を掛けたのも、周りの白い兵士たちに命令を出していたのもこの人みたい。

決して大柄じゃないけど存在感で言うならビューネさんみたいな感じの、いかにもデキる人、みたいな!

って、デノンが連れて行かれちゃう!どうしよう…


「すまぬがおまえたちはこのまま少し待ってもらおう、まずは話を聞かねばならぬからな、儂は【アストガル】、シーサック王国の上級騎士でファイル様の従者の一人じゃ」


老騎士アストガル!知ってる!僕知ってるよおじいちゃん!はいはいはいはいはい!

と心の中で全力で手を上げていたけど、僕は交渉に出ちゃいけないことになってる、言葉とかが不自然でバレるからって…

デノンをソウルキーパーたちに預けたことでトゥリスさんたちが対応してくれる、かな?

なんかデノンが絶望の表情をしてた気がするけど、うん、ごめんデノン、今までありがとう…


「アストガル様、救助していただきありがとうございます、砦には辿り着けないかと…」


疲労困憊って感じで涙を浮かべて感謝するトゥリスさん、すごい…

いかにも一緒に支え合って頑張ってきましたって感じのショアナさんも、もうダメかと思ったぁって座り込む村人感役の兵士たちもすごい、ブノンズさんはなんとか護衛の任を果たしましたって感じに見える!

…あれ、僕は?

まずい、僕だけ棒立ちだ、まずいよデノンどうしよう…ああアストガルさんがこっち見てる!このままじゃバレる!どどどどうすれば…


「ふむ、その恰好を見るに村の者か?ディオニかバオニかスホーテアか…おうおうもう安心して良いぞ、ここまで大変であっただろう、誰かこの放心しとるのに水を」

「ディオニの、ディオニのアニスと申します…夫はソルクス、この砦の兵士で…」

「なんと、ソルクスの!よくぞ来られた…が、実はそなたの夫は今不在でな…その、ここにはおらぬのじゃ、偵察に出ておる、あー少し前から…な。しかしこの様子!ディオニはメイヤーナの手に落ちたか?すまぬ…」


ありがとうソウルキーパーの兵士さん、なんかこの水変な味がするけどありがとう、たぶんこれ長年放置されてた雨水か何かだ…

そしてはっきりとは表情を読み取れないけど、雰囲気から周りのソウルキーパーたちが揃って僕たちを労わってくれてる気がする。

彼らからすれば僕たちは領内の村人、守るべき対象でそれがボロボロになって敵軍に攻撃されながら砦に逃げ込んで来たってところだよね。


「アストガル様、ディオニは無事です、メイヤーナの将軍エキルは村を攻撃せず素通りしてここへ向かいました」

「おお、そうであったか、それは良かった。ふん、蛮勇メイヤーナにもましなのはいるようじゃの!」

「それで…その、夫のことなのですが、お気遣いありがとうございます。実は夫の残した報告書を持ってきたのです」

「残した…そうか、あれは還ったか…そうか、やはりそうか。儂がソルクスに命じたのじゃ、遠くメイヤーナ領内への偵察任務をな、もうだいぶ前になる」

「夫は…夫は立派に任務を果たし…ですが傷が深く…私たちの村に、生まれ育った故郷に辿り着くと安心したように眠り…そのまま…ぅ…」


ソルクスさん…ソルクスさーーーーん!!!

ダメだ涙が止まらないよ、みんな号泣してるよ、アストガルさんもソウルキーパーたちもみんな泣いてるよ!

ソルクス良い奴だったぜ、とかあの野郎弓の腕比べの約束してただろうが、とか最期は故郷へ帰れたんだな、とか…

でもごめんなさい!トゥリスさんの演技がうますぎる!それ全部作り話なんです!!


「アニスよ、貫弓手ソルクスの伴侶よ、そなたと共に泣こう、儂らはかけがえのない者を失った。そしてすまぬ、危険な任務を命じた儂を如何様にも罵ってくれい」

「そんな!そんなことできません!夫は敬愛する主のために全力を尽くしたのです、アストガル様も夫も…」


すごいよソルクスさん、本当に名持ちの兵士だったんだね…。

きっと本当に優秀で、本当に信頼されていたからこそ、危険な任務を任されたんだよね。

もしソルクスさんが偵察に成功して情報を持ち帰っていたら、父上たちの戦いはどうなっていたのかな、なんて。


「そうだアニスよ、ソルクスは戦いが終わったら故郷の村へ帰りたいと言っておってな、おぬしと娘の…何と言ったか、トゥ…トゥ…トゥリス!そうじゃトゥリスのためにと色々土産を用意しておったはずじゃ、王都からの隊商が来た折にこれは妻にこれは娘にと、他の兵らが酒や装飾付きの武具なんかを買う中あ奴め給金のほとんどを服や飾りや家財道具に換えてのう、皆で笑っておったわ…」

「父さ…夫が?私たちの為に…?そうでしたか。そう、でしたか…」

「ソルクスの部屋は今もそのままじゃ、いつあ奴が任務を終え帰って来てもいいようにな、案内させる故、まずはそこで休まれよ」


涙に包まれた中庭を離れ、僕たちはソルクスさんが使っていたという部屋へと案内されることになった。

んだけども、この砦、元々だいぶごつごつとした場所に造られているうえに戦闘や劣化でだいぶぼろぼろです…歩き難いよ。

岩が基本だから簡単には崩壊しないだろうけど、通路には崩れて転がった大小の岩が散らばってるし、焼けて炭になってるような木材もいっぱいで「ああここは本当に廃砦なんだ」って思った。

そして…崩れた岩や焼け落ちた建物の下に見えるのは間違いなく人骨、かつての戦いで散った兵士たちだ。


「……ませんね、いつまた敵が来るか分から…… …も明日には片づけようと… …たちも早く葬ってやらな……」


ソウルキーパーとしては魂の弱い彼らの意識はあの当時のまま、ずっとずっと長い間、今でも旧シーサック王国のためにここを守り続けてる。

彼らの時は止まったまま、ずっと昔に終わった戦争を今でも戦っている、家族や仲間、祖国のために、死ぬ間際のその想いに縛られて。

そして彼らに話しかけたら、きっと明日も明後日もこう言われるだろう、“明日には片付けようと思ってるんです、死んだ仲間たちも早く葬ってやらないと”って。

どうしたら、彼らを救ってあげられるだろうか、彼らを還してあげられるだろうか、ここにいる、200あまりの忠臣たちを。


中庭を歩き、いくつかの建物を通り抜けて、複雑に入り組んだ岩穴を進み、やがて通路に並ぶ横穴の一つの前で止まった、ここがソルクスさんの部屋みたいだ。

部屋とは反対側の岩壁には等間隔で窓穴が開けられていて、外から光が差し込み通路を明るくしている、きっと有事にはアロースリットとしても使われるんだろうな。

本当にこの砦はすごい、とても良く考えて造られている、もしあそこに見える正門を突破して叔父上たちがなだれ込んで来たとしても、さっき通った建物に進軍を邪魔されて、そしてここやあちこちに見える穴、射撃台から矢が降り注ぐんだ。

そんな戦いをしたら、きっとすごい数の被害が出る、そんな戦いは、絶対にしちゃダメなんだ…。


「ヴァル坊、こっちにおいで」


ショアナさんに呼ばれて横穴に入ると、そこは岩を削って作ったとは思えないほど綺麗な壁と天井、そして机やベッドが整えられた立派な部屋だった。

でも近づいてみると机もベッドも砂埃で覆われていて、長い間誰にも使われること無く放置されていたことが分かる。

そしてじっと部屋を見渡していたトゥリスさんが緊張した面持ちで歩み寄った部屋の奥には、布が被せられた粗製の木箱があった。

受け取った布をパタパタとはたき、丁寧に折り畳んで机に置いたショアナさんが微笑むと、トゥリスさんは意を決したように木箱の蓋をずらして…。



「全員ここにおるかの?」

「はっ… ……こで休んでます、誰も出て… …せん… 」

「うむご苦労。あー遅くなってすまぬ、皆くつろげておるかな?」


しばらくしてアストガルさんがやって来た頃には、トゥリスさんもだいぶ落ち着いていた。

木箱の中にはここらの村では見かけない滑らかで肌触りの良い生地で仕立てられた上等な服や、シンプルなデザインだけど美しい装飾品、そして子供用の玩具にふかふかな馬のぬいぐるみ、家族3人分お揃いの食器の数々、幾ばくかの硬貨がカチャリと音を立てる小袋。

馬が好きだった幼き日のトゥリスさんが馬のぬいぐるみを欲しがって泣いたことがあって、ソルクスさんが毛皮と干し草で手作りしたぬいぐるみを可愛くないと放り投げて困らせた記憶が蘇ったって。

木箱から取り出したぬいぐるみをギュっと抱きしめて涙するトゥリスさんを、ショアナさんが後ろから優しく包んで、ブノンズさんや村人感役の皆は何も見てないよとばかりに机やベッドの掃除を始めて、案内してくれた白い兵士さんもそっと頭を下げて部屋の外に出て行った。

…あれ、また僕だけ棒立ち?あれ?


「お気遣いありがとうございますアストガル様、恥ずかしながら夫の残していた品々に涙しておりました」

「おうおう、さもありなん。だがすまぬの、メイヤーナの軍が再び姿を現したことで砦は厳戒態勢にあるのじゃ、もっとゆっくりしてもらいたいし、兵たちもソルクスの話をしたいだろうがそうも言っておれぬ、報告書について伺いたい、アニス殿をしばし借りるぞ」


そう言ってソルクスさんの鞄を抱えたトゥリスさんを連れて、アストガルさんは軍議室ってとこへ行っちゃった。

行きがけに白い兵士さんに僕たちの食事を用意するよう言ってたんだけど、待ってる間が怖かった、だって…


「あのさブノンズさん、さっき水を貰ったんだけど、腐ってたみたいで…たぶん食べ物も、昔のままだよね」

「うお、そいつは災難でやしたね、そうなると腐った肉、腐った野菜、腐ったスープに腐った果物とか…」

「ねえやめてよ、そんなに腐った腐った連呼されたら来る前から憂鬱になるじゃない」

「でも予定だと砦の前で聖女ファイルへの取り次ぎをお願いして、そのままの勢いでとにかく交渉に漕ぎつけようって話だったから、食べ物とか持って来てないよね…」

「そうね、交渉役のデノン様があれだけの重傷を負うのは想定外だし、トゥリスも連れてかれちゃってうまく話が出来る人も残ってないし、何にせよ長期戦は避けたいところね」

「あまり時間がかかると、外のエグレンの旦那たちもどう動くか…心配して再度攻撃に出るか、もしかしたら諦めて引き揚げちまうってことも」

「ああ!悲劇の英雄ファヴァルは果たして難攻ふら…ぁぅぐ」


…痛い。

デノンがいないのにいつも通り痛い、おかしい。

でも僕らの心配をよそに、戻って来た白い兵士さんが持って来たのは意外にも食べられそうな物ばかりだった。

表面がカッチカチのチーズ、山盛りの殻付きクルミ、そしてとても強く香る果実酒。


「…けど、これで我慢し… ……糧番の奴らが見当たらな… …ら、適当にすぐ食べられそうな物を持っ… 」

「ありがとうございます!とっても美味しそうです!」

「 …か?…でもまあ… 」


「このチーズは表面を削り取れば十分食べれそうです、こっちのクルミも割ってみて黒くなってないのはいけそうね」

「酒は…おお~、こいつはすげえ、良くも悪くもこんだけ熟成された匂いと味は初めてでさ」

「やったね!でね、あの兵士さんが食糧番の人が誰も見当たらなくてそのまま食べれそうな物だけ持って来てくれたみたい」

「そいつは好都合でやしたね、下手に何が入ってるのかも分からないような料理が出されたりしてたら…」

「想像したくないや…」

「それにしても、食糧番の兵士まで防衛に駆り出されてるのね?攻撃からだいぶ経つのに」

「う~ん、この規模の砦ならたぶん料理をする人とか鍛冶職人、その他にも雑多な作業を担当する人たちが兵士以外に居たと思います。…そういった人たちは還ったんじゃないかな」

「なるほど、ここにいた全ての人間がソウルキーパーになった訳じゃないってことですか」

「本来そういうもんですぜ、ここにいると感覚が狂いそうですが、こんだけソウルキーパーだらけなのが異常なんですって」

「だよねー。ベリュークの皆さん頑張りすぎです、もう戦争は終わったんだからそろそろ還りましょうって早く言いに行かないとね」

「そのためにも、まずは聖女ファイルの居る場所を確認しやしょう、もしデノン殿たちが戻って来ない、交渉の席に着けないようならあっしらだけでも行くしかありやせんぜ」


パサパサごりごりで味も食感もイマイチだけど、お腹の足しになる物を濃厚で芳醇でクラクラしそうなお酒で流し込んで、僕たちは行動を起こすことにした。

まずはある程度の砦内の構造把握と、目的地の特定、そしてデノンたちのその後の確認からだ。

ブノンズさんが部屋の前にいる白い兵士に声をかけてくれた、それぞれ行きたい場所があるんだけどって。

…なんだかもうソウルキーパーという存在に慣れすぎちゃって、違和感を感じなくなってきてるね、僕たち。

少しすると何人かの白い兵士がやってきて、僕らをそれぞれ案内してくれることになった、少なくとも敵だとは思われてないみたい、やったね!

そうしてブノンズさんは壊れた武器の代わりになりそうなものを買いたいと言って鍛冶場へと、ショアナさんは料理の手伝いをしたいと言って調理場へ、村人感役の3人には待機してもらうことに。


「…デノン?…ストガル殿… 令でファイル様の癒しを… 」

「はい、たぶん聖女様のところか、怪我をした人を治療する場所に連れて行かれたと思うんです」

「… …ると、まずは祈祷室に… …るか。しかしファ… …と近衛兵で無ければ事情が分か… 」


近衛兵。ベリュークの近衛兵。白い近衛兵。え、それってソルクスさんより強い力を持つソウルキーパーなのでは。

というか今更だけど、その兵士たちをまとめる騎士とか、それ以上の聖女とか将軍ってさ、ええと、…ええー?

ヤバイ、マズイ、コワイ、とか思いながらそれでもちゃんと道順を頭に入れてる僕偉い、合計2回階段を上って5回角を曲がったところですごく大きな半球状の部屋に着いた。

上の方にいくつか天窓があるから、岩山の頂上に近い場所なんだと思う。そこで…


「ん?待て、そいつは誰だ?そんな奴の顔に見覚えはないぞ」

「…ーレット様、こいつはディオニ村から来… …いえば名前を聞い… 」

「ディオニだと?村から逃げて来たのか?村が焼かれたのか?敵の規模は?どこを怪我してる?怪我人の数は?生き残りはどれほどだ?」

「え?あ、えっと、僕は大丈夫です?えっと村?村も大丈夫です?」

「…ーレット様、そんなに一遍に質問され… よ、ほら困ってるじゃ… 」


助けてデノン!と思って部屋の中をよく見て絶句した…

奥には旧シーサック王国の旗と、その旗印にもなっている黒雲くろくもの竜の石像が安置されていて、その前にはいくつものベッドが並んでいて、どのベッドにも古い遺体が眠っていて…


「おいおまえ、私は王国上級騎士の【バーレット】・デルゲント、この砦の祭事を任されている。…まあ、ファイル様がいるから仕事はあまりないがな、だがしかし見ての通り今は戦いで怪我をした者たちの癒しで忙しいのだ、改めて聞くがお前は誰で大丈夫だと言うのにここに来た理由はなんだね?」


我が名はファヴァル・レギエン、メイヤーナ王国の辺境伯、いずれ貴方や貴方の主と雌雄を決し、この地の新たな領主となる者だ…!!


って言いたいとか思ってないから、絶対思ってないから、本当だよ?

ともかくこの強そうだけどよく喋るバーなんとかさんならデノンの事を聞いてるかもしれない、一緒に来た白い兵士の反応を見る限り、僕の事を疑ってるんじゃなくてこの人いつもこんな感じっぽいし。

それに、デノンがあそこのベッドで眠ってる人たちみたいになるのは絶対に嫌だし。


「えーっと、バー…トさん?僕の名前はヴァル、ディオニ村の仲間と一緒にソルクスという兵士さんの報告書を届けに来ました、だけど砦に近づいたら戦いが起こっていて、仲間の一人が大怪我しちゃったんです、デノンという人がここに運び込まれませんでしたか?」

「バーレット!王国、上級騎士の、バーレット、デルゲントだ。我がデルゲント家は王家の遠縁、王女ファイル様に付き従いこの地まで…」

「 …ーレット様、怪我人を探してるんで… …なんだからとりあえずその話… 」

「とりあえずとは何だね!デルゲントの…んん、まあそうだな、怪我人だったか」

「あ、はい。デノンという…」

「ディオニ村は無事、よし。村からソルクス…と言うとあの貫弓手か、あれの報告書を持って来た、ふむソルクスが発ってだいぶ経つがその口ぶりでは無事ではあるまいな、報告書を託された村人たちがここへ来る途中で戦いに巻き込まれたのか、それで重傷の者がデノンと、おいアストガルのじいさんかルダンはどうしたのだ、アローネも居たはずだろう」

「 …のアストガル様の命令でデノ… …を施すために運び込んだそうで…」

「ほう、じいさんがそう命じるならよほどの重傷なのだろう、恐らくは地下の聖堂、ファイル様のところだろうな」


地下聖堂!聖女ファイルの地下聖堂!!なんかカッコイイ…

そしてこのバーなんとかさんはとりあえず偉い人、そしてすごく頭が良さそう、と。

あと何だか名前が出て来たけど、普通に考えたらうちで言うところのビューネさんやランバレアさんみたいな、対外的には名前が知られてないかもしれないけど、軍を支える熟練の騎士や役職者そりゃあいるよね、ベリューク軍怖い…。


「それでディオニのヴァルよ、報告書とやらはどうなっている、それからアニス殿は健在か?ソルクスが還ったのであれば王国を代表して弔慰の使者を出さねばなるまい、あれには幼い娘も居たはずだ」

「あ、アニスさん来てます!今そのアニスさんがおじいちゃ…アストガル様に報告書の話をしてるはずです」

「そうか、ならばよい。ふむ、聖堂だと恐らくおまえたちでは入れまい、一度近衛騎士長のところへ行ってみよ、王国上級騎士、ベリューク軍近衛騎士長、グノッサリオ・ランザーク殿だ」

「ありがとうございます!早速行ってみますね、デノン無事だといいなあ」

「そうだな。…ところでディオニのヴァルよ」



呼び声、それは届けられた様々な声、家族から、知人から、見知らぬ人から、過去から。

振り返ればそこにあるのは笑顔だろうか、そうであって欲しいと誰もが願う、願うだけならば自由なのだから。



「おまえは誰だ?」



◎続く◎


デノンは死んでませんが倒れました。

次々と予定が狂う辺境伯軍、それでも前を向いて進み続けます。

潜入組は情報を得るためそれぞれ別行動をとり始めました、ファヴァルが出会ったのはバーレットと名乗る上級騎士、基本的にベリューク軍に無能はいません…果たして?

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