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ソウルディア戦記 ~魂歌の響く大地~(砦の魔女編)  作者: 槍の人。


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第15幕:「歌声」


第15幕:「歌声」


◇新生王国暦5年 陽光季98日



明けて陽光季98日、森を吹き抜け葉を躍らせる爽やかな風は少しずつ熱気を帯び、炎熱季の訪れをその肌に感じさせる。

出撃の準備を進める兵たちは革鎧の下に着込んだ上衣の布をパタパタと扇がせ、獣衣の森林兵たちに至ってはすぐに着られるからと上半身裸の者も多い。

射手隊や森林兵の女性陣の一部でも、森での生活が長かった狩人出身の者が構わず同様にはだけさせていて、主に騎士たちが目のやり場に困っている。

そんな弓を得意とする者たちの活躍によって狩られた鹿や猪、兎に鳥、そして蛇などが火に炙られ油を滴らせていて、実に美味しそうだ。

人による開拓の進んでいない豊かな森の獲物たちはいずれも肥え太り、並み居る兵たちの胃袋を存分に満たすだろう。

辺境伯の命により持参している穀物や乾物、酒なども半数近くが大鍋に放り込まれ、野草やキノコと共にグツグツと良い音を、腹の減る音を奏でている。

この後の総攻撃に備えてしっかりと腹ごしらえをするよう言われているが、言われなくともこんなご馳走を前に遠慮をする者などいないだろう。

そしてこのご馳走が英気を養うためのものであると同時に、必ず出てしまうであろう還り帰らぬ者への辺境伯からの気持ちであることも、皆知っているのだ。


作戦は既に決まっている、ソルクスの娘トゥリスと共に村人に変装した少数精鋭による入砦と交渉。

だが相手も精鋭である以上、メイヤーナの旗を掲げた軍が一度姿を見せておきながらその後何も動きが無く、“シーサックの村人”が包囲下の砦に突然現れたとなれば疑われるのは必定。

そのため作戦は二段階に分けて実行される、即ち前段のメイヤーナ軍による総攻撃と偽装敗走、後段の追われながらも包囲網を突破し砦に辿り着く村人による潜入である。

前段についは様々な方法が検討されたが、結局砦の立地や準備期間の猶予などから、正攻法で砦の門や崩れた石壁を目指して攻め立てることになり、その時点でファヴァルは「極上の獲物を」と弓を扱う兵たちに命じていたのだ。

そして後段の人事は揉めに揉めた結果、ファヴァル、デノン、ブノンズ、トゥリス、ショアナ、加えて兵たちから3人の合計8人と決まった。

過去の戦いに参加していた者は万全を期すため除外され、交渉役はデノンが担う流れであったが、この作戦が失敗した場合に再度別案で攻略を継続するのは難しく、「危険な任務を部下に任せて座して待つのも、それで失敗したら敗軍の将として王都に帰るのも嫌だ」という、微妙に格好良く聞こえなくもない発言でファヴァルも行くことになり、

その結果護衛としてブノンズが、色白で村人感の薄いファヴァルとデノンを誤魔化すため村人感溢れる兵士3人も選ばれての8人である。




まずは総攻撃を待つ立場のファヴァルたち8人は、本隊を少し離れて待機していた。

肩から斜めに掛けた鞄を大事そうに抱え少し緊張しているトゥリスと村人感役の兵士、笑って声を掛けるショアナ、弓の手入れをするブノンズ、作戦の脳内シミュレーションをするデノン、大の字になって寝転がるファヴァル。


「辺境伯は、あれは大物だね、もうすぐ大きな戦いが始まって、私たちも砦に乗り込もうってのにさ」

「きっと格好良い登場の仕方とか、格好良い名乗りとか、格好良い村人の振る舞いとか、格好良い交渉の姿を考えてるんだろ」

「なるほど無駄だね」


ガバッと起き上がり、目を見開いてトゥリスとショアナを見、今度は膝を抱えて丸くなって寝転がるファヴァル、図星だったようだ。


「なぁファヴァル、本当に行くのか?どう考えてもおまえにゃ村人役は無理だと思うんだが」

「どっからどう見ても育ちの良いボンボンですからねぇ」

「そもそも格好良い台詞とか言おうとしてる時点で村人じゃないんだよなぁ」


ビクッと震え、丸くなったまま何事かぶつぶつとこぼしているいるが何を言っているかは聞き取れない、そして誰もわざわざ聞きに行こうともしない。


「辺境伯にも辺境伯なりの考えやら計算があるんじゃないですか?」

「そうそう、俺たちには思いも付かないような奇策とかが」

「元村人としてはとにかく言われた通りにやるだけですよ」


パァっと満面の笑みを浮かべ振り返り、自分の味方をしてくれる村人感役の兵士たちに声をかけようとするも。


「って言っとけってビューネ様から言われてるんだ」

「とりあえずこう言っとけば報奨金に上乗せあるかな」

「とにかく言われた通りにやるだけですよ、ランバレア様の言われた通りに、ね」


「…ねえ、絶対にそれわざとやってるよね?わざわざ僕に聞こえるように言ってたよね?ねえ?」


涙目で怒るファヴァルを皆で囲んで笑えば準備は万端だ、緊張は解れそこにあるのはいつも通りの空気で、ファヴァル以外の士気は最高潮である。

ねー!!と連呼するファヴァルはいつでも最低で最高なので問題ないだろう。

たった8人で200人近いソウルキーパーたちが立て籠もる砦へ向かうのだ、少し壊れたくらいのテンションで丁度良いのかもしれない。

エキルが見ていたら頭を抱えているだろうし、マインサが見ていたら口元に手を当ててクスクスと笑っていることだろう。

そして誰もが最後にはファヴァルに手を伸ばすのだ、仕方ないな、とばかりに。



「伝令!エグレン様の第一陣、間も無く砦正門へ向けて攻撃を開始します!“手持ちの破城槌で突破出来たらそのまま攻め込む”と」


「…破城槌なんて用意してないよね?」

「あーそれ、エグレン様の遊び心だ、確かそんな台詞を戦争の頃に言ってたらしい」

「エグレンの旦那は当時の攻撃を再現しようとしてるんですかい」

「どうしよう、叔父上が本当に正門を突破しちゃったら僕たちの出番が無くなっちゃうよ!?」

「いやだからだ破城槌なんて無いしまともに乱戦でやり合える相手じゃないんだから冗談だって」


砦へ向かって走り出しそうなファヴァルの背中を革靴で踏みつけ組み伏すデノンが、更なる小言を続けようとしたところで大音声が響いた。



「メイヤーナの勇士たちよ!敵は名高いベリューク軍!英雄ドノヴァーと聖女ファイルだ!相手にとって不足などあろうはずも無い!さあ俺に続いて名を上げろ!」


雄叫びの重奏に続いて一斉に走り始めた兵たちの足音が岩がちの大地に響き、山裾から山頂部へ向けて徐々に赤い軍装が山肌を染め上げて行く。

その勢いは猛り狂った猛獣の如き凄まじさで、そのまま一気に岩場を走り抜け砦の壁に至るかと思われた、が。


「おいファヴァル、“その台詞僕が言いたかった”とか言ってる場合じゃねぇぞ!この戦場の光景はしっかり見とけ!」

「その台詞僕…え、あ、うん」

「これが砦攻め…すごいね、うん、とにかくすごい!」

「分かるよトゥリス、私もこれだけまともな攻勢は初めて見たよ」

「ですが、これはそろそろ…まずいですぜ」


ブノンズの危惧した通り、森を出て岩場を駆け抜け砦へと至りつつあった攻撃が急に勢いを失う。

斜面の勾配が急になり、進撃速度が落ちたところで白い雨が降り注ぎ始めたからだ。

勿論メイヤーナ側もこの事態は想定済みであり、即座に盾を頭上に構えて岩陰に転がり込む者、数人で固まり壁陣を組む者、それぞれに守りの態勢を整える。

そして森から姿を現した第二陣、騎士夫婦の率いる射手隊と森林兵による弓撃により、一番距離の近い砦正門の上に居た白い影たちが乱れた。

これが一般的な砦攻めであったならば、このまま弓矢による援護を受けた本隊の突撃で正門を破り、被害は出しつつも砦内に突入して勝利を収めることも出来ただろう。

だがここは難攻不落のスホータム砦である、近隣を統治し監視するための単なる駐屯拠点では無く、国を守るための防塞として押し寄せる敵を迎え撃つ事を想定して設計された戦うための砦。

正門を抜けた先には幾重にも行く手を阻む建造物があり、そして更に高い位置にある周囲の岩場や岩壁には弓兵が侵入者を狙う射撃台が多数存在する、そしてその射撃台には砦外からでは壁と高低差が邪魔をして矢が届かないのだ。

それでもじりじりと前進するメイヤーナ軍の赤い軍装は誰が見ても勇猛であり、そして砦を攻め落とすという気概が感じられるものだった。


「もうそろそろかな」

「正直、十分な気もするけど、エグレン様たちはまだまだ行く気みたいだねぇ」

「なんだか本当に勝てるんじゃないのこれ?ダメなの?」

「…無理だろうなぁ、相手はまだ弓兵しか出て来てないんだぞ、それにあの岩ばっかりの斜面と矢の雨のせいで行軍速度はかなり落ちてる、ってことは全員が門に辿り着くのに時間がかかるが全員揃うまで一方的に矢に撃たれながら待つのは愚策だ」

「それなら先に入って、うーーん、ダメかあ…」

「そ。そのまま突入しても各個撃破されるだけだな、狭い門を抜けたら敵の歩兵が待ち構えてて、敵には弓矢の援護もある、後続が追い付いて来なきゃ屍を乗り越えてでも一気に押し込むような突撃力も発揮できない」

「えー、それ相手がソウルキーパーじゃなくても厳しいよ」

「それを誰よりも知ってるのがエグレン様や先輩たちだろ、ほら見ろ、第二陣が攻勢を強めるぞ」

「え、もっと攻撃するの?後退しないの?」



「撃て!撃て!敵の弓兵に仕事をさせるな!!」



「よし限界だ!後退!後退!!背中は弓隊に預けろ!そら走れぇぇぇ!!」



それまでの攻勢を一転して勢いよく斜面を駆け下るエグレンたち、その無防備な背中を狙う砦の弓兵たちは、ビューネ指揮下の兵たちの乱射によって狙いを定めきれずにいるようだ。

やがて押し寄せていた赤い波が引いた砦の前には、それまで無かった赤い花がぽつぽつと咲いていた、地面に横たわる赤い服、そして岩を濡らす血の花が。

その赤を避けるようにして、森を飛び出した一団が砦へと走る、大きく手を振り、助けてくれと叫びながら。



「たぁぁぁぁぁすけてぇぇぇぇぇ!!死ぬぅぅぅぅ!殺されるぅぅぅぅ!!うわぁぁぁぁぁ!!」


先頭を走る男はとてもとても情けない声を上げ、ぼろぼろの外套から覗く顔は土で汚れ、その足取りはヨタヨタと頼りなく、見るも哀れな有り様だ。

そんなボロボロの村人と思しき一団へ、黒い雨が降り注ぐ、巧妙に的を外す辺境伯軍の手練れによる弓撃である。

このまま攻撃を受けながら砦の門まで走り抜ける、はずであった。


「鳥たちの囀りを聞き、吹き抜ける風に身を委ね、心はいつか空を舞う」


その声はとても澄んでいて、するりと耳から身体に染み入るようで。


「見渡すその地に平和を、光射すこの家に安寧を、愛すべき家族にこの慈しみを」


突如聞こえて来た歌声に村人たちも辺境伯軍も驚き何も無い空を見上げる。


「願いは祈り、祈るは願い、望むは力、皆を守る力」



ビューネの近くで空を見上げていた射手が白い矢で胸を貫かれて倒れた。

ハッとして砦に目をやった彼女は驚愕に目を見開き、しかし長年染み付いた戦場の感覚が口を動かさせた。


「伏せろぉぉぉぉぉ!!」


直後、勢いを失っていたはずの白い雨がスコールのように辺境伯軍に襲い掛かった。

辺境伯軍第二陣に撃ち抜かれその姿を失いつつあった砦正門の上の弓兵たちも、乱射によって輪郭を崩していた壁上の弓兵たちも、その体を取り戻ししっかりと体勢を整え矢を放ってきている。


「聖女の…癒しかっ…!うぅ…」

「ビューネ!!全員森の中へ!無駄死にするな、逃げろ!」


背中に白い大弓の矢が突き立った妻を担ぎ上げ、ランバレアは森へと急ぐ。

薄れゆく意識の中、ビューネが見たのは倒れ伏す自分の配下の射手たちと、砦の門の前で倒れた仲間に駆け寄ろうとするファヴァルの姿だった。



歌声、それは風に乗り、空を舞い、大地を巡り、海を越え、彼方へと伝わる。

届け傷つき涙する君に、届け夢破れ挫けそうな君に、届け時を超え過去と未来の君に。



「立ち止まるな、ファヴァル君、皆君を信じているから、行ってくれ…」



◎続く◎


難攻不落のスホータム砦、ついに決戦の時来る…!

と見せかけてファヴァルたちは村人になりきり潜入を目指します。

しかし想定外の歌声と、勢いを盛り返した砦からの反撃によりゴルモに続いてビューネも離脱の辺境伯軍、この作戦は失敗だったのか…?

次回、デノン死す デュエルスタンバ(嘘嘘嘘嘘

皆様夏の暑さに負けないように~私は負けました。

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