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ソウルディア戦記 ~魂歌の響く大地~(砦の魔女編)  作者: 槍の人。


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第14幕:「演目」


第14幕:「演目」


◇新生王国暦5年 陽光季97日



ディオニ村を発って4日、ソルクスの娘トゥリスの道案内を得て辺境伯軍は無事に森を踏破しその威容を目にしていた。

旧シーサック王国領における最北端の要衝、対メイヤーナ王国の最前線、そして旅の目的地、スホータム砦だ。

その砦は深い森に囲まれた岩山の上にあり、岩と丸太で作られたとても武骨な外観ながら、見る者の目を奪う美しさがあった。

岩壁の一部は崩れ落ち、大部分が焼けたであろう木造の建物や見張り台などの残骸も散らばっているが、未だ砦と呼べる姿を留めている。

何より…


ガンッ!ガガンッ!!


「おわっ、っと、こいつぁ厳しい!」

「盾を構えつつ後退、森の中へ!木の背に隠れろ!」

「これは素晴らしい歓迎ですね」


先頭に立っていたブノンズ、ビューネ、ランバレアたちが森を抜け、岩山の麓、ごつごつとした岩肌の斜面に姿を現した途端に歓迎の雨が降り注いだ。

その雨粒の一部は盾を貫通しすでにいくつか悲鳴が上がっている、ソルクスが放っていたのと同様の矢が混ざっているようだ。


「確認ですが、私たちは以前にこの砦を攻め落としていましたよね?」

「記憶が正しければそのはずだ、そしてこの攻撃は以前と比べ全く衰えていない」

「あのソルクスってぇのとおんなじようなのが山ほどいる砦、その恐ろしさが一瞬で分かりやした…」



「前衛より報告!部隊は森を抜け砦を視界に捉えるも、“敵は我らの姿に号泣し大歓迎”部隊は森の中まで下がったとのこと!」

「ディオニ村に続いて砦でも大歓迎の宴が!」

「…なぁファヴァル、念のため聞いておくな?本気で言ってるか?」

「開かれたらいいなあって思いました」

「ついに来てしまったな、この時が!変わらず歯応えがありそうで嬉しいような頭が痛いような複雑な心境だな!」

「そんな、前に来た時は特に砦からの反応は無かったのに…」


やや距離を開けて追いかけていた本隊には、ファヴァル、エグレン、デノンと、同行しているトゥリスの姿があった。


トゥリスが泣き腫らした顔で道案内を申し出た事で、村からの同行者はトゥリスに任せるという結論になったようだ。

ディオニ村を出てからもひたすらに森が続き、もし道を知らぬ者が迷い込んだら、どこまで行っても終わらぬ森に絶望しそうな深さだ。

しかしこの森、一刻も早く出たいと願う者には不幸な場所だが、いざ腹を括って居座ってみると幸多いことが分かる。

曲がりくねった大樹の下は十分に雨宿りが出来る広さがあり、見上げれば様々な木の実が空を彩っていて、地に目を向ければキノコや香草なども豊富だ。

時折見かける小さな池には澄んだ水と魚がおり、水場を訪れる動物たちも多種多様、唯一人間にとって問題があるとすれば、霧がかかることの多いこの森では迷いやすく火種が消えやすいことだろう。


「さてと、ついにここまで来てしまった訳だが、流石に14年か、以前に切り拓いたり焼いたりした場所も緑が戻りつつあるようだ」

「急ぎ周辺の状況を確認するため偵察隊を編成しましたよっと、トゥリスさんも手伝ってくれるってさ」

「ソウルキーパーってなんかこうもっと、ふわふわしてるというか、近づいたら何となくぶわーって襲って来るかなーって思ってたけど、あのソルクスさんみたいな人が200人くらいいるんでしょ?」

「残念ながらそうみたいだなぁ、森を抜けた途端射かけてくるあたり、自我を持って警戒してて、ちゃんと敵と認識してすぐに攻撃してくるなんて生きてる人間、それも手練れの兵士と変わんねぇよ」

「そして生前の彼らは言葉通りの手練れだ、自我もあって命令系統も生きてるなら、既に魔女も動き出して更に守りを固めてるだろうな」


言葉を重ねれば重ねるほど、ため息は深くなった。

メイヤーナの将軍が繰り返し撃退された砦、メイヤーナの名将が不本意な作戦で勝利をもぎ取った砦、今なお健在な砦…

大陸オーグロットの南北を繋ぐ地の中央に鎮座し、北上するにも南下するにもこの地を通るしかなく、周囲は山と森ばかりの難儀な地形、無視しようとも炊煙の一つも上がれば砦からは丸見え、ここに大規模な砦を築こうと考え付いた先人を悔し涙と共に褒め称えたい気持ちだ。

唯一救いがあるとすれば、砦に立て籠もる彼らがその場所を守ることに固執していて、討って出てくることは無い点か。

しかし古今いかなる戦いの例を見ても、砦や城を巡る攻防は防衛側に圧倒的に有利だ、それが分かっていても攻め手はなんとか攻略しようとする、あらゆる手を尽くして。

その最たるは兵糧攻めであり、次いで自然を味方に付けた火攻めや水攻め、もしくは謀略を用いて内紛や開門を手引きさせる手もあるか。

攻め手が人なら守り手も人である以上、何かしらの攻略の糸口はありそうなものなのだが、そう相手が人ならば…


「ソウルキーパーって、霞でも食べてんのかね?」

「分からぬが、その場を離れず長い時を在り続けるのだ、やはり人と同じ食事は必要無いのだろうな」

「兵糧攻め、×と」

「近くに川も海も無いし湖も無い、そもそも山の上だし水攻めも無理だよね」

「ソルクスを基準に考えるなら交渉も無理っぽいしなぁ、そもそもその窓口も無さそうか」

「残るは火攻めと正面切っての砦攻めになる訳だが、時間も敵に味方するな」

「こっちはお腹も空くし喉も渇くし疲れるし、怪我をすれば痛いし寝る時間も必要だけど、これってぜーんぶあっちには無いんだよね…?」

「で、あろうな」

「なんか、父上の時よりも難易度上がっ」

「言うなファヴァル、それ以上は言っちゃダメだ、な?」

「物理的な攻撃で人と同じ致命傷にはならずとも効果はあったのだから、火攻め水攻めの類は効くかもしれん、やってみないと分からんがな」


では、一度焼け落ち苔むして緑に侵食されつつある砦のどこに火を放つのか、どう延焼させるのか。

結局、決定的な案は出ず、偵察隊からの報告も打開策を導くには至らぬまま、日暮れを迎えてしまうのだった。



「よし、みんな揃ったね!それじゃー全軍会議を始めるぞ!」


見上げる山上のスホータム砦からの射程を避け、森の中に集まった辺境伯軍一同は、元気に開会宣言を行う中心のファヴァルに疑惑の視線を投げかけていた。


「なあ、騎士様たちは良い案が出なかったのかな?」

「あんな攻撃を見せられちゃなあ、どうやって攻めるんだって話だよな」

「でもまだ何もしてないのにいきなり全軍会議ねえ、エキル様は何度も色んな方法で攻めていよいよって感じだったが」

「そこはほら、経験の差ってやつだろう」


「で、ファヴァル、会議を進めてくれ、固まってる場合じゃないぞぉ、お~い、ファヴァルく~ん?あ~もう心折れてんのかこれ」

「ファヴァル君の良いところはこのやる気と思い切りの良さ、少し足りないのは経験と事前の確認、ってところかな」

「私たちに相談してくれていいのに、ちょっと気負いすぎよね」

「ま、これも含めて何事も経験だ!」

「若くして辺境伯っていうのは大変そうですからねぇ、でもお頭よりだいぶ立派ですぜ」


すっかりいじけてしまったファヴァルを一行で一番新参のトゥリスが慰めているあたり、傍から見ればもうこの軍は破綻しているのでは、と思われても不思議ではなく、実際トゥリスも本気で心配していたのだが。


「くそー!いいもん自分で考えるもん良い案出してみせるもん僕の力で攻略したって言わせてみせるもん!」

「おい、まさか辺境伯が本気を…!?」

「まずいぞ、やりすぎて俺たちの出番が無くなっちまうかもしれん!」

「ベリュークの皆さん逃げて!」

「どうか魔女にも慈悲を…っておい皆、そろそろ真面目に行こうぜ」

「あー笑った笑った、よし元気出たしこの勢いで砦に攻め込むってのはどうよ?」

「おまえ一人で行ってこい!ちゃんと空に還れるように祈ってやるからな!」


そこら中で言いたい放題やりたい放題の無法地帯が広がり、揃って笑い転げ、そして顔が引き締まるのをトゥリスは不思議な現象を前にしたように呆然と見ていた。




「考えても無駄ですよ、これでいつも通りの辺境伯軍なんですから」


ポンと肩に乗せられた手の主を振り返れば、年の近い狩人仲間、辺境伯軍射手隊のショアナだった。

ここまでの道中で射手隊に何人かいる女性同士既に意気投合し、辺境伯軍の雰囲気やこれまでの戦いっぷりなどを聞いてはいたが、これを「和やかな雰囲気」とか「仲の良い主従」と表現するのはどうかと思うのだが。

確かにショアナは気さくで、他の射手隊の面々も自由な奴が多い、何人かは辺境伯をべた褒めしていて気持ち悪いくらいだし。


「じゃあ心配しなくていい、のかな」

「ぜーんぜん大丈夫よ、だってほら…」


指し示された方を見れば、先ほどまで横でいじけていたはずの辺境伯が兵たちに混ざって「やるぞー!おー!」などとじゃれあっているではないか。

くっ、さっきまでの私の心配を返せ、不安を感じていた時間を返せ、と言ってやりたいがあの呑気な笑顔にはため息しか出ない、はぁ。


「あれ、本当に辺境伯なんだよね?レギエンの将軍の息子なんだよね?」

「んー、らしくないけどその通り。だけどあれで人望はあるし、あれで意外と頭良いらしいし、あれでやる時はやるし」

「あれで、ねぇ?」


あれで尽くしの辺境伯、なんとも不安にしかならないが、まあそういうものだと言われてしまえば、うん、んー?

これ以上考えるのは止めておこう、そう、私みたいな田舎者があれこれ考えたところできっと思い至らない何かがあるんだ。


「でさ、実際問題あの砦はどうするんだろうね」

「そうですね…そうなんですよね…」

「一度は勝ってる相手なんでしょ?同じ手は使えないのかな」

「生身の人間相手とソウルキーパー相手ではやっぱり色々と違うみたいです」

「…そういやショアナも直接戦ったことあるんだよね、どうだった…その、どんな戦いだったのかな、ソウルキーパーとの戦いって」

「私自身は直接攻撃に加わったわけではないのですが、最後の戦いでは味方の矢や投擲による…あ」

「続けて、ね?聞きたいから」

「…ソルクスさんは樹上に陣取り、辺境伯を狙いました。その一矢で大将首を狙ったんです、すごい剛弓でした」


もしそれで辺境伯を撃ち抜いていたらどうなっていたのかな、なんて、これも考えちゃダメだよね。


「その矢は盾に深々と突き刺さって、貫通したり砕かれたりして怪我をする兵士もいっぱいいたんです、本当にすごかったですよ」

「すごいな父さん、でもそれで怪我した奴もここにいるんだろ?なんか急に気まずくなってきた」

「きっともう気にしてませんよ、少なくともソルクスさんとトゥリスを結び付けて文句を言うような奴はいないと思います、それが辺境伯軍の空気ですし、そんな奴いたら私がこっそり撃ち殺してあげます」


うふふ、じゃないよ。ショアナって怒らせたら怖いタイプだ、間違いない、そんでもって夫を尻に敷くタイプだな、うん。


「そんなソルクスさんですが、矢と投擲による攻撃は全て白い体を貫通しました、でも当たる度に霧が散るように滲んで、だんだんそれが大きくなって、最期はぶわっと吹き消されるみたいに居なくなりました…」

「そっか。いや、そんな顔しないでよ、私はまだ小さかったからさ、父さんの顔は覚えてるけど戦ってる姿なんて見た事無かったしさ、どんな仕事をしてたかも詳しくは知らなかったんだ、ただ兵士だったって」


ショアナ、良い奴。でもお願いだから泣かないでくれ、私まで泣きそうじゃん。そりゃ両親の顔は覚えてるし、居ないのは悲しいけど、14年新しい家族の中で夫と本当の兄妹みたいに育ててもらって親がいないなんて思った事は無いんだよ。


「じゃあさ、じゃあさ、ソウルキーパーも攻撃を当てりゃとりあえず弱くなるってことだよな」

「ええ、騎士様たちも削り切れって言ってたから、攻撃を当てる事に意味はあるんだと思います」

「よし、それならとにかくいっぱい当てるしかないな、今のうちに枝を削って矢を増やしておくか」

「え、トゥリスは道案内でしょう?攻撃にも参加するつもりなの?危険だし兵士じゃないんだし、それに、お父さんの仲間の人たち相手だよ?」


ああ、ショアナ本当に良い奴。ショアナに変なことする奴がいたら私が撃ち殺してあげるからね!


「大丈夫、さっきも言ったけど小さかった私にベリューク家がどうとかそういうの無いから、それより兵士じゃないけどもし活躍出来たら報奨金とか出るかな?出たら家族にいっぱい恩返し出来るんだけどな、袋いっぱいの銀貨を持って帰ったらきっと…」




こっそりと二人の会話に聞き耳を立てていたランバレアは、その話を書き留めながら思うのだった、やはりソルクスの娘だな、と。

どうやらランバレアによる祈りのソルクス物語は着実に完成に向かっているようだ。

そして彼女たちの話を聞き、彼の日記を読み返していて、ふと思いついた作戦があった、果たしてうまくいくのか全く予想が付かない内容だったが。


「あー、ファヴァル君、ちょっといいかい、砦攻めの作戦についてなんだけど」

「はい、みんな注目!ランバレアさんが良い案を出してくれます!」

「おいおいハードルを上げないでくれよ…コホン、さあ皆さまご注目これより披露致しますのは不肖このランバレアによる砦陥としの英雄の詩、もちろん主役は我らが辺境伯ファヴァル!」


待ってましたとばかりに拍手と歓声が上がり、会議のための円陣はたちまち円形劇場へと早変わりする。


「難攻不落の岩砦、立ち向かうはメイヤーナの若き英雄、しかしその頭上には暗雲が立ち込める、されど雷光の如き閃きを得て、英雄戦わずして門を越え、至は魔女の聖域なり」

「続きも気になるけどランバレアさん、そもそもどうやって攻め入るのかっていう会議なんだけど雷光の如きなんちゃらって、何?」


詩に割って入ったファヴァルに盛大なブーイングが飛び、たちまち兵士たちとの喧嘩が始まるが、今度は学習済みのトゥリスも傍観を決め込んだ。

やがて怒鳴り疲れたファヴァルと兵士たちが、「で、何?」と言わんばかりにランバレアに視線を向ければ何事も無かったかのように話が進むのだった。


「ここにはソルクスの残した記録があります、そしてソルクスのご令嬢も、ここに」


突然スポットライトを当てられ驚くトゥリスが舞台に押し出されてくる、なんとなく笑顔を振りまいて手を振ってしまう辺り既に場の空気に呑まれているようだ。


「ソルクスとは明瞭な会話は成立しませんでしたが、話しかけられた内容は理解していました、そして恐らくその思考は当時のまま、つまり亡くなった戦争時のままだったと思います」


それじゃあ俺なんかはまだ戦争相手のままだな、とエグレンが苦笑しながら呟くが、良い事を言ってくれましたとばかりにランバレアが食い付いた。


「そう、そうなんです!我々は今日初めて砦が見える位置まで辿り着きましたがその際いきなり矢が降り注ぎました、しかしトゥリスさんたち村人がここに来た際にはそのようなことは無かったそうです、そして偵察隊の話では付近に目立った異常や破壊は無かった、これは矢による攻撃の痕跡や撃たれた動物の死骸などもです」

「(ねぇそれで結局雷光の如きなんちゃらって…)」

「(いいから黙って聞いとけな?な?)」

「あー、つまりですね、砦のソウルキーパーたちは近づく者や動く者に無差別に攻撃している訳では無く、しっかりと対象を見て敵かどうか判断していると思われます、恐らく今回は我々の掲げる旗を見て敵と判断されたのでしょう」


自分たちが掲げる辺境伯旗を見上げ、方々から納得の声が上がる、それはディオニの村人から見てもエキルの掲げたレギエン家の旗印と類似し、その縁者と判断するに十分であったからだ。


「ここから先はかなり憶測を含みますが、彼らは今もシーサック王国に仕えるベリューク軍として砦を守っています」

「分かった!シーサック王国軍のフリをして砦に入るんだね!」


満面の笑みでやったねと喜ぶファヴァルだが、いつも通りすぐに地獄へ突き落とされた。


「いえ、旗を見分ける相手に生半可な変装では通じませんし、今からシーサックの旗や軍装を揃えるのも無理です、それに言葉も若干異なりますし、このような辺境に突如大掛かりな増援など…ん?」

「ランバレア、もう十分だ、見ろファヴァルは既にいじけておる」


エグレンとランバレアの視線の先には、ぶつぶつ何事か言いながら土をいじるファヴァルと面倒くさそうにそれを流すデノンの姿があった。

そしてなるほどこれがいつも通り、これが辺境伯軍の日常なのかと三度目にして完全に納得したトゥリスであった。


「えーと、つまり彼らにはそれなりに意志や判断能力があります、そして過去の逸話などによればより強いソウルキーパーほどそれははっきりしていると考えられます、ですのでこの際直接上の者と話しに行きましょう」

「交渉が成立しそうな魔女と直接話す、と、しかしどうやって」

「トゥリスさんを先頭に少人数で、村人として行ってもらいましょう、ソルクスの報告を持って来たと言って」

「…!」


まさか自分に重要な役割が回ってくるとは思っていなかったトゥリスが目を見開く。

この奇策が果たして成功するのか、にわかにざわめきが溢れ、デノンやビューネなどはその成功の可能性の高低を計算し始めたようだ。



「なあおいトゥリス、これはだいぶ危険な話だぞ、失敗すれば真っ先に死ぬ可能性が高いのはおまえだし、仮に潜り込めてもその後の展開次第ではやはり帰って来れないかもしれない」

「でもこれはチャンスだよショアナ、勿論活躍の場って話もそうなんだけどさ」

「命を賭けるほどか?死んだら報奨金も出ないし、もし出てもそれを受け取ったおまえの今の家族は喜ばないだろう?」

「それは、そうだな。でも父さんが果たせなかった任務を私が引き継いで完遂させる事が出来たら、それは父さんの頑張りが無駄では無かったと示せると思うんだ、もし父さんのあの記録を聖女様に届けることが出来たなら、きっと父さんも、それに父さんの活躍を信じてた母さんも、空で笑ってくれると思うんだ…」

「私にはまだ物心ついてから失った家族は居ないから、トゥリスの気持ちは理解してやれない、でもおまえがそうしたいってんなら私も一緒に行くよ」

「なあおいショアナ、これはだいぶ危険な話だぞ、失敗すれば真っ先に死ぬ可能性が高いのは私たちだ」

「でもこれはチャンスだよトゥリス、勿論活躍の場って話だ!」


お互いの肩を叩きあい笑う二人の射手に、ランバレアは作戦の成功を確信していた。具体的な根拠は無いが、なぜならこういった物語の最後は苦難の末に大団円が待っていると相場が決まっているからだ。

そして夫の感性を信じる妻もまた、独自の思考をもとに作戦の成功の可能性が有ると結論を出した。共に参謀格のデノンを見ればこちらも成功の算段が付いたようだ。


「まぁ、結局全軍会議と言うよりいつもの辺境伯劇場になっただけって感じだけど」

「そう言うなデノン、確かに形は違うがトゥリスやショアナがこの場に居たことが大きいだろう、騎士だけではこうはいかない」

「それはそうなんですけどね、ファヴァルって何かしましたっけ?」

「ん?立派に舞台を用意して進行役を務めたではないか。この舞台に大事なのは演技のうまい役者ばかりではなく、観客が見たいと思う舞台そのものを用意する者でもあるだろう」

「なるほど確かに、あれは立派な舞台監督で客寄せピエロだなぁ」

「ふふっ。では具体的な人数や話の持って行き方、実際に砦の魔女を相手にどう交渉するか、詳細を詰めるとするか」


辺境伯主催の第一回“全軍会議劇場”は、盛況のうちに幕を下ろした。

決意を固める射手たち、策謀を巡らせる参謀たち、士気を盛り立てる豪傑に史記を書き綴る詩人。

しかし、指揮を執るべき彼らの主は、未だ兵たちと共に陽気な声を上げているのだった。



思い出、それは楽しき日々のしおり、明るい明日へと繋がる力。

甦る記録は過去を照らし、甦る記憶は心を満たし、やがて甦る既約への導となるだろう。



「そうだ!僕たちで勝ち取るぞー!…ん、ねえデノンたちは?あれ、騎士のみんなは??」



◎続く◎


さて、ついにファヴァルと愉快な仲間たちは、目的地であったスホータム砦に辿り着きました。

しかし早速難攻不落の砦から強烈な洗礼を受け、その攻略に暗雲が立ち込めます。

果たして劇団長ファヴァルの運命や如何に…

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