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ソウルディア戦記 ~魂歌の響く大地~(砦の魔女編)  作者: 槍の人。


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第11幕:「同盟」

第11幕豆知識

【戦士の対価】…メイヤーナ王国の廃止された政策。全ての領地から多くの戦士が徴集され、その対価に多くの金貨が支払われた。


第11幕:「同盟」


◇新生王国暦5年 陽光季76日



ダリーシュ子爵ゴルモの話は突然だった。


「さて。辺境伯よ。レギエンの光よ。俺の願いを聞いてくれ」


らしからぬ物言いに辺境伯軍の騎士の面々が訝しむ中、ニコニコと「なんでしょうゴルモさん」と返すファヴァル。

副官のブノンズだけがやっと本題に入れるとばかりに安堵する。


「俺たちを使ってくれ!」


やっぱり説明が足りなかった、そして「お頭ぁ…」とぼやくブノンズ。

しかしゴルモと付き合いの長い副官は手慣れたもので、早速話しの軌道修正を図り、そもそも自分たちがなぜここに来たのかを語り始めるのだった。


「ラグン地方に異変があった、ってぇ話は俺たちのとこへも届いてやした、何より隣の土地の話ですし」

「ああ。偵察に来た奴らのうちの何人かは、俺たちのとこにも寄って情報を集めてたからな」

「それで旧スホータム砦に向けて軍が出るだろうってことだったんで、俺たちにも声がかかるんじゃないかと準備してたんでさ」

「で。待ってたが動員はかからずだ。ああ、すまんな村長。その頃だ。おまえからの救援依頼が来ていたのは」

「ああ、どうかお気になさらず、そんな王国の軍が動く時に村のことなど…」

「いや。悪かったな。狼の数を甘く見ていた。それにエキル殿なら村も国も救いに動けてただろう」

「お頭はレギエン侯を尊敬してやすからねぇ」

「いや、照れるな、あはははは」

「…あんたじゃないっすよ」

「あは…」

「でまぁ、結局お声がかからなかった訳ですが、新たに任命された辺境伯がレギエン侯のお子さんって分かったもんで」

「ああ。俺に討伐を任せない野郎は恨んだが、エキル殿のとこのが来るならば。そう思って交ぜてもらおうと軍を追ってたんだ」

「…お頭、尊敬するエキル殿も、軍令を出した牙大臣エキルも、辺境伯の親のレギエン侯もぜーんぶ同一人物ですぜ」

「ん?おう。おう?そうか。まぁなんだ。それで街道に出て軍馬の跡を追ったんだが、道を逸れててな」

(やっぱり優秀なのかそうじゃないのか分からねぇなぁこの人たち、でも“大物”には違いないか)

「アルダガ村の方へ続く足跡を調べてたら、赤い狼煙が見えやしてね、慌てて村へ向かってたんでさ」

「私が上げさせた救援の狼煙だな、こちらへ来る子爵の軍勢を見た時には焦ったぞ」

「何を。焦ったのはこっちだぞ。村が襲われたのかとな」

「襲う理由が無いと思うのだが、はぁ、なぜそう思われたのかしら」

「“森の宝石”を狙われたのかと思った。あれはこの辺りでしか採れん。もっと山奥まで行けば分からんが」

「アレか、とても綺麗で甘かったわね…」


昨日の大大宴会で供された森の宝石を思い出し、唾を飲み込む大人たち。


それは森の中で見かける希少な果樹、その大きく育った古木の実が、熟すまで獣や鳥、風雨に負けずに残った際に出来る芸術品。

染み出した蜜に覆われ表面がテラテラと輝き固まり、その中では果肉が熟れ融け若干の歯ごたえを残しつつも醗酵して、ガリッと齧り付けばドロリと濃厚な果実酒が香り、口も鼻も心も満たされるのだ…。


「メルヴ地方の隠れた特産品だ。ダリーシュ子爵家にとっては獣皮や獣肉、牙細工と同じくらい大事だ」

「はい!子爵!獣関連は聞いた事があるけど、木材や山菜野草なんかは扱わないんですか?」

「うむ。木などこの国のどこに行ってもあるからな。草花の類も同じだ」

「そっか、森と山の国メイヤーナでは売れないのか、他国と交易でもすれば売れるかもしれないけど、木材は輸送に手間がかかりそうだし、山菜も野草も乾燥させて大丈夫な物しか無理で…」


交易って安く仕入れて他所へ流せばお金が増えるだけじゃないんだね、難しいんだなーと考え込むファヴァル。

他所へ持って行っても高く売れるとは限らないぞと追い打ちをかけるデノン。


「メルヴの森は俺たちダリーシュ家の方針で敢えて手入れをしていやせん、だからこそ獣は大きく肥え育ち、他の地方より質の良い獣製品が出来やす」

「穀物が取れる場所はほとんど無いがな。だが。隣のエキル殿に肉や革を送れば、たらふく食えるだけの穀物が届く」

「エキル様の治めるズロヌ地方はメイヤーナ最大の穀倉地帯ですからねぇ、物々交換としてはどちらにも利がある良い関係なんですね」

「うむ。だがな。昔から生きるのには困らぬし、森で暮らす民たちは屈強で多くの戦士を戦場へ送った。それで良かった。今は違う」

「戦争が終わって、戦士たちの活躍の場が無くなると、国から支払われていた金貨も無くなっちまって…」

「ああ【戦士の対価】か、確かに地大臣が戦後にまず行ったのが生き残った将軍の持つ軍の解散と常設軍の縮小であったな。牙大臣の兄貴と地大臣とで剣をぶつけて話の落としどころを探っておったわ」

「もちろん。エキル殿が勝ったのだろう?」

「いやお頭、勝った負けたの話じゃないっす」

「なんでこの国は軍の大臣と法の大臣が物理で語って政策を決めてるんだろうな、まぁメイヤーナらしい話だけどさ」

「戦争が終わって数年は面倒な王都とのやりとりが多くてイライラした。だが。国も時代も変わると言われれば仕方がない。それは許せる。だが。だが」


うむむむむ、と唸り頭を抱えて悶えるゴルモ、この屈強な男をここまで追い詰めたのは一体何なのかと息をのむ辺境伯軍一同。


「女王のアレだ!年に一度は王都でぱーてぃ?各家同士でもっと交流を?今後は国民に芸術を??」


分からねぇなぜそうなる、と床をガンガンと叩きまくるゴルモ、理解者ブノンズ、納得する辺境伯軍一同。

宮廷嫌いで有名なゴルモには拷問のような沙汰であり、更に王都や他領への訪問は流石に獣衣では行けない、現実的な話として貴族としての装束と、連れていく部下たち用の正装が必要になり、それには金がかかるのだ。

また軍備優先から芸術優先への政策変更は、決して女王の趣味や気まぐればかりでは無く、敗戦国が継続的な平和を望んでいる事を内外に示すため重要であった。

しかし、ほぼ全てが森の民であるメルヴ地方においては未知の分野であり、その導入においても様々な点で金が必要になった。


「戦士の対価無き今、俺たちに余分な金なんて無いんだ。だから。だからこそ。森の宝石はまとまった金を得られる唯一の武器なんだ」


話を聞いていた村長は、獣衣で巨漢で強面な頼りになる領主の意外な一面に和み、そして思いのほかギリギリの懐事情な自領において、自分たちの扱う森の宝石の重要性に身が引き締まる思いだった。


「あの領主様、その宝石についてなんですが…」

「む。そういえば狼の被害が多くなっているんだったか」

「はい、森で狼に遭遇することが多くなり宝石の収穫量が減っています、貯蔵されている出荷待ちの分にも獣被害が…」

「いかんな。しかしなぜそうなったのか。森は以前と変わっていないはずだが」

「それについてですが、村の狩人が妙な事を言ってまして、宝石を守りすぎたとか何とか…」

「ああ?守りすぎた?守るのが悪いのか?なぜだ。ううむ。ううむ。ううむ?」

「村長!お頭が爆発する前にその狩人を呼んで来い!」


慌てて飛び出していく村長と、もう一度乾杯しようと言い出すブノンズ、勢いのままに注がれ続けた蜂蜜酒は皆を酔わせた、物騒なほどに。


「わけのわかんねぇことぬかしたらしめころすぞ。おい。えらそうなかりゅうどはまだか。おれがじきじきにといただしちぇ…」


現れた狩人は枯れ木の如き老体であった、しかしその足取りは酔った面々よりよほど確かで、深く垂れ下がった眉に半ば隠れた眼光は獲物を狙う狩人そのもの。

その纏う気迫に気圧されたのは、ゴルモだけでなく歴戦の騎士たちも同様であった。

睨む狩人、耐えるゴルモ、固唾をのんで見守る騎士たち、言葉が見つからない村長。


「狩人のお爺さん、初めまして、ファヴァルと言います!」


実は貴族に呼び出されただただ緊張していた老狩人は、ひ孫が初めて訪ねてきた時のように相好を崩し、一瞬にして村の好々爺になった。

ゴロゴロと甘えるファヴァルに、よしよしとその頭を撫でて可愛がる老狩人、そのひ孫が王国辺境伯その人だと知りひっくり返るのはもう少し後である。


「ご老体よ。宝石を守りすぎたとはいったいろういうことあ?む。っん、ごあぁ!…。ふぅ。守りすぎたとは一体どういうことだ?」


流れるように自らの頬を殴り話を進めようとするゴルモ、思わず自分の頬を押さえる他の面々。


「んん、そうですな、ここ十年ほどでしょうか、森の獣が一部で増え始めたのは」

「十年ってぇと、戦争が終わってごたごたしてたのも終わった頃からっすね」

「しかし。戦争はここらの森には大きな影響は無かったはずだが?」

「領主様が森の宝石に大きな価値を見出され、アレが村のご馳走から領地の宝になったことで、森から招かれざる狩人が減ったのです」

「招かれざる…密猟者か。確かに森の宝石とメルヴの肥えた獣を狙っていた奴らを一掃したが」

「数年で領内に潜伏してた山賊やら林賊やらのねぐらをいくつか潰しやしたね、それと取り決めを守らない村人や他領から侵入した狩人も捕まえて…あ~しやしたし」

(ねえ今ブノンズさん何か濁さなかった?)

(聞くなファヴァル、聞いちゃダメな奴だ)

「つまり。密猟者が減ったことで獣が年々増えているんだな。そう考えると、奴らも森の一部だったってことか」

「決して交流があった訳ではございませんが、森に暮らす者同士、何と言いますか、暗黙の縄張りや奥地での焚き火跡の共有はございました」

「そうなると。取り急ぎ狼たちを狩っても解決せんな」

「森の奥地、賊のねぐらがあったような場所に新たな駐屯地か監視塔でも造って定期的な間引きが必要ですぜ」

「だな。よし、こういうのは早いほうがいい。俺はこの矢傷もあるからこっちに残って奥地を見てこよう」

「では部下を分けやすか?」

「いや。村から何人か借りて当たる。だからおまえが、ああそうだった」

(あの矢傷、けっこう重傷だったと思うんだけど元気だよね)

(言うなファヴァル、俺たちの常識は通用しないと思え)


「改めて。辺境伯よ。ブノンズを使ってくれ!」


「どうせ悪役なんだし、徹底的にこき使えばいいんだよね!」


実はまだ根に持っていた器の小さい辺境伯。

ため息が聞こえ、生温かい視線が刺さり、ゴルモとブノンズはゲラゲラ笑う。


「まぁ。そういうこった辺境伯よ。ブノンズも森林兵も頑丈だからな。それくらいで丁度良いかもしれん」

「元々あっしらは辺境伯軍に合流するつもりで動いてたんでさ、ですからお頭の代わりにこのブノンズが森林兵100とちょいを率いてお供しやす、いいですかい?」

「歓迎します、ダリーシュ家の皆さん、一緒に戦えるのは嬉しいです」

「うむ、ダリーシュの森林兵は王国でも一目置かれる山林戦の技巧者、頼りになるだろう」

「ソウルキーパーだらけの砦攻めを前に、仲間が増えるのは大歓迎だよな」

「ところで、こういう場合って報酬はどうなるの?僕の自由になるお金はそんなに多くないんだけど…」

「ふむ?これが傭兵契約になるのであれば、確かにファヴァルからゴルモ殿に契約金が支払われる形だが、ゴルモ殿はそう思っておらんだろう」

「ああ。無報酬だと部下たちがかわいそうだが、そもそも戦士としての栄光を求めてと、友たるエキル殿への支援が動機だ」

「となると、同盟軍だなぁ。この場合は戦利品の一部を貢献に応じて渡すか、もしくは事後にレギエン家からダリーシュ家へという形で金貨袋が贈られることになるかな」

「しかし事後となると、ファヴァルは侯爵家を離れて伯爵になっているだろうから、戦利品分配が考え方としては楽だろう」

「なるほどそっか、そうだね、じゃあゴルモさん、ラグン地方平定の後、そこで得られた物からお礼を考えますね」

「おう。それで問題ない。こいつらをよろしく頼むぜ辺境伯!」


ここ数日でもう何度目か分からない乾杯の音が響き、頼もしい仲間を加えた辺境伯軍は来る激戦に向けて英気を養うのであった。




翌77日、陽光季も終盤に差し掛かったこの日。

アルダガ村を出発する辺境伯軍の表情は、王都出発時と同じくらい明るく、そして誇らしげであった。

本来の行程であれば既にラグン地方に入っていたはずだが、この寄り道が決して無駄では無かった事は誰の目にも明らかだ。

一時は武器を向け合った村人たちとも和解し、ブアンとテリンという絆で結ばれた両者は互いの無事を祈り合い別れを惜しむ。

「平和だが閉鎖的であった村に新たな風が吹き、ゆったりとしていた時間に新たな流れを与えた、王国の発展の歴史はこの日この場所から始まっていたのであろう」

とは、後にこの光景を見ていた吟遊騎士が書き記した、王国史の序章の抜粋である。


「またのご来訪を心よりお待ちしております、辺境伯」

「ありがとうございます村長さん、きっとまたみんなで来ますね、今度はこっちが料理やお酒を持って!」

「それは楽しみですね…そうだそうだ、危うく忘れるところでした、しばしお待ちを」


そう言って振り返ると、娘の肩を借りてドタドタと走ってくる老狩人の姿が。


「辺境伯、辺境伯、お待ちください、シーサックの品で思い出した物があったのです」


息を切らせてやって来た老狩人が差し出したのは、古びてあちこち縫い目が綻びた革の鞄であった。


「これ、これは、はぁ、だいぶ昔に私が森で仕留めた賊が持っていた物です。

 村の様子を探っていたので賊どもの襲撃計画でもあるのかと思い、色々報告される前にと追いかけやったのですが、今となっては賊のような格好をしたシーサック王国の密偵だったのかもしれません」


受け取った鞄には蔓でぶら下げられた躍動感溢れる木彫りの馬と、中には朽ちた食べ物や小刀、羽ペンと空になったインク壷、そしてボロボロの紙束が。


「その紙には何が書いてあるのか分かりませんでしたが、ここアルダガ村の見取り図のような物があります、賊の暗号と襲撃のための下調べだと当時は思ったのですが」

「なるほど、確かにこれはメイヤーナの文字とは少し違いますね、読めなくもない…けど難しいな、王都に送れば史官さんとかが読めるかな?」

「んー、いや、これたぶんシーサック王国の文字だ、こういうのはあの吟遊詩人の旦那が詳しいはずだぜ」


渡しておくわーと言い紙束をランバレアの許へと持って行くデノン、鞄の中を確認していたファヴァルはそれ以上の情報は得られず、老狩人に礼を言って集まった村人たちに別れを告げた。


「ブアン、気を付けて行って来てね、待ってる(チュ)」

「ファヴァル。気を付けて行って来い。待ってるぜ」


顔を真っ赤にして隊列へと加わるブアンと、顔を真っ青にして隊列の先頭へ逃げるファヴァル。

王都出発時にイマイチ格好良く決めきれなかったファヴァルは、今度こそ皆が感動するような号令をと意気込み色々と文句を考えていたが、ゴルモの悪戯にわーわー言っている間に終わっていた。


「よし、辺境伯軍出発だ!アルダガの民よ世話になった!さらばだ!全軍すすーめー!」

「ああああああ!叔父上酷い!それ僕の役目!ねーーーーー!」


笑いの絶えぬ辺境伯軍は、若干の兵を失いながらも、意気揚々と南征を再開するのだった。



道連れ、それは旅の同行者、同じ夢を見る者、共に生きる友。

続く旅路が長く険しく苦しいほど、取り合った手は固く握られ距離は近づく、欠けることなく前に進むために。



「デノン、おいデノン、これはどこで見つけた!これと一緒に鞄は無かったか?」



◎続く◎


続けてちょろっと幕間を挟みます。

そしてここで前半戦は終了、寄り道から本道に戻り辺境伯軍は敵地へと乗り込みます。

辺境伯軍(ファヴァルと愉快な仲間たち)の行く末や如何に…?

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