砦の魔女
初めまして、槍の人です。
異世界「ソウルディア」を舞台に展開される戦記ファンタジーを(勝手に)お届けします。
導入となる開幕は非常に短いので、よろしければ第一幕と合わせてご覧くださいませ。
いやぁ、こんな世界を旅してみたいなぁ。
◆ソウルディア戦記 ~魂歌の響く大地~◆
『砦の魔女』
この世界が生まれ、長い長い時を経て多くの種がその魂と共に生活の基盤を得た。
大地には言葉を生みだした人間が根付き、空には翼をもつ鳥や竜たちが、海や湖には大小様々な鱗をもつ者たちが、雲海や氷海、火山や地底、どこへ旅しようとも必ず誰かに迎えられるだろう。
勿論、そこに生まれるのが友情とは限らないが。
ある時、風に身を任せて旅をしていた一匹の老飛竜が、眼下に強い魂の輝きを見た。
そこにあったのは人間の住む大きな石の家、ちっぽけな人間の雌が歌っていた。
「人間であれほどの輝きを放つ者は初めて見たナ」
それから数年後、大きな気配を感じ取り再びその地を訪れた空の旅人は、より輝きを増した人間の雌を見た。
石の家は巨大な炎と共に魂の輝きで満たされ煌々と揺らめき、まるで夜空の星がそこに落っこちてきたかの様だった。
そして星はまるで双子のようにもう一つ、好奇心を抑えられずに旅人は北へと飛び去った。
さらに月日は過ぎ去り、三度その地を訪れた時、炎も輝きもそこには無かった。
だが崩れた石の家には確かに、あの魂の存在を感じた。
より強く、より大きく、そして深く暗い谷底を旅した時に感じたような恐怖も。
旅する中で出会った偉大な竜や巨大な者たちが残した魂と同質の稀有な魂が、そこに居る。
老飛竜は脆そうな石の屋根にそっと降り立ち、畏敬の念を示すため鋭く一声鳴いた。
「願わくバ、この谷底にある魂も安らかな時を得られますようニ…」
開幕:「魔女」
「どうして…」
どうやら侵入者は、未だ捕まらず砦内を逃げ回っている様子。
「どうして…」
私の、私達の配下は皆優秀な兵士ばかり、精鋭揃いと呼ばれた仲間達。
それがもう丸一日彼の者に翻弄されている。
「どうしてなの…」
ああ、彼の者の足音が聞こえる、皆を引き連れこちらへ向かってくる。
間もなくこの大広間の扉に辿り着き、私の前へと姿を現すでしょう。
なぜ逃げないのかしら、なぜ砦の奥へと、私の元へと向かってくるのかしら。
「私はただ…」
この砦の奥には、財宝が眠っているとでも?
それとも、私たちの使っていた武具や身に着けていた品が目的?
いえ、戦火に燃え陥ち、今やソウルキーパーとなった私たちが守り続けるこの地に、まともな思考があれば近づこうなどとは思わないはず。
お帰りいただきましょう、如何なる理由があったとしても。
これまで同様、二度とこの地へ来ようなどとは思えなくなる恐怖を植えつけて。
「…家族と静かに眠りたいだけなのに」
そして彼女は、朗々と魂歌を歌い上げる。
幾百、幾千、幾万と歌い、磨き上げた己の技を。
魂に響く、慈愛と畏怖の歌声を、美しく悲しきその調べを。
さながらそれは、鎮魂歌か…
「永遠の炎に身を焼かれ 永劫の闇に身を委ね それでも私は……」
◎続く◎
雰囲気、如何でしたでしょうか?
とは言えまだ何も始まっておりませんので、引き続き第一幕をどうぞ。
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2023/03/21 追記
開幕:「魔女」内の五行目を以下の通り修正、その他の変更等は無し
●それがもう5日も彼の者に翻弄されている。
↓
○それがもう丸一日彼の者に翻弄されている。