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犯罪者

 俺は一体どのぐらいの時間寝ていたのだろうか?

 気が付けば太陽は窓から顔を出し、ベッドを問答無用で焼き尽くしていた。


 「あっちー。おい、ヒトリア起きろ」

 「んー」


 ヒトリアはゆっくりと体を起こし、寝ぼけ口調で挨拶した。


 「おはようございます。剣二様ー」

 「ああ。というか、今更なんだけどいいのか?」

 「何がですか?」

 「いや、俺のパートナーってことでいいのかなと」


 ヒトリアの閉じていた目が衝撃を受け、パッチリと開く。

 え、俺は間違えたことを言っただろうか?

 この子はあの貴族の奴隷下から抜け出し、俺のパートナーになったんじゃないの?

 ヒトリアは結んでいた口をゆっくりと解いた。


 「ハハ、私は貴族より剣二様を選んだのです。だから、私はあなたのパートナーです」

 「そうか、わかった。これからは俺のパートナーとしてよろしくな?」

 「はい!」


 活気あるヒトリアの声が部屋に響き渡ったその時ーーーー。


 トン、トン、トン。


 誰かが俺達の部屋に律儀にノックをした。

 もう、チェックアウトの時間なのだろうか?

 ノックされた以上、無視することはできなかった。

 扉をゆっくり開くと、扉の前に立っていたのは、宿主だった。


 「あの、お客さま・・・」

 「なんだ?もうチェックアウトの時間か?」

 「いえ、そうではなくて・・・」

 「だったらなんだ?」


 チェックアウトの件でこの部屋に来たとすればこの宿主は何しに来たのか?

 ルームサービス?

 だったら、最初にルームサービスだと断りを入れるはずだ。

 だとしたら、本当に何しに来たのか。

 すると、宿主はゆっくりとそれを俺に差し出した。


 「なんだこれは?割引券でも入っているのか?」

 「いえ、今朝方、兵士の方がお客様に渡す様に頼まれまして・・・」


 宿主から渡されたのは純白の封筒だった。

 中身を確認してみると、一言だけ書かれた手紙が封入されていた。


 「「王城まで来い」・・・か」


 嫌な予感がした。

 というか、あの陛下に会うと考えるだけでも不愉快になる。

 出来ることなら会いたくない。

 だが、行くしかない。

 もしかしたら、「災い」のことで何か情報を得られるかもしれない。

 それか、この装備クラスが謝って記されていたという不具合の件かもしれない。


 「しょうがない・・・行くか・・・」


 行くと決まれば出発の準備だ。

 だが問題なのは、


 ヒトリアをどうするかだな・・・。


 彼女をあのクソったれ陛下に会わせたくなかった。

 連れてったら連れてったで、また何か言われそうだったからだ。

 だからこそ、俺とヒトリアが一緒にいるところを見られないようにしなくてはならない。


 だとすると、やはり店主のところに連れていくしか案は残されていなかった。

 この世界で、考えなしに語れる仲は店主しかいないのだ。

 店主は見た目とは違って、面倒見がいい。

 話が決まればさっそく行動開始だ。


 「ヒトリア、出る準備をしろ」

 「どこか行くの?」

 「俺は王城にな、お前は店主の所で留守番だ」

 「はーい」


 身支度を急いでし、宿の外に出る。

 すると、宿の前には馬車が待機していた。


 「お前が剣二だな?」


 一人の兵士が俺に近づき、そう聞いた。


 「ああ、俺が剣二だが」

 「それでその小娘がヒトリアか?」

 「そうだ」


 その返答を聞いた途端、袖を無理やり掴んできやがった。

 何がなんでも横暴すぎる。


 「さあ、乗れ!」

 「歩いていくから大丈夫だ」

 「信用ならん!早く乗れ!」

 「分かったから、離せって!」

 「小娘!貴様も乗れ!」

 「おい、ヒトリアは関係ないだろ!」

 「関係あるから言ってるんだ!早く乗れ!」

 「は、はい・・・」


 ヒトリアが乗り込もうとしたその瞬間、兵士は「早く入れ!」と言い、後ろから蹴り飛ばした。


 「おい!お前何してんだ!」

 「それじゃ、王城に向かってくれ」


 兵士は俺の言葉に耳を貸すことなく、出発の指示を出す。

 公衆の面前じゃなかったらその首を跳ね飛ばしていたのに。

 今日一日の始まりがこんなに胸糞悪いなんて。

 しかも、向こうから呼んどいてなんだよ、この始末は。

 まるで、あの兵士の言葉通りに信用されていないような。


 「ヒトリア、大丈夫か?」

 「は、はい・・・大丈夫です・・・」


 昨日の目の輝きは、完全に失われていた。

 本当に胸糞悪い。


 ーー何だよこの国は・・・。


 そして、馬車のおかげで王城まであっという間だった。


ーーーーーーー


 「剣二様・・・」

 「大丈夫だ。何かあれば俺が守るから」

 「はい・・・」

 「おい、早く降りろ」

 「チッ、言われなくても分かっている」


 二人は馬車から降り、そこで二人の到着まで待機していた兵士が、王の間まで案内する。


 「剣二様・・・」

 「大丈夫だ」


 ヒトリアは酷く怯えている。

 無理もない。

 この国は奴隷制度を何とも思わない横暴な連中ばかりだ。


 誰かその過ちに気が付けよ。


 「着いたぞ。さあ、入れ」

 

 扉が開かれ、向こうの世界にはやはりあいつがいた。


 「久しいな?勇者にもなれなかった落ちこぼれ君」

 「ああ、久しぶりだな。クソジジイが」

 「ふん、立場もわきまえられない貴様は本当に人間の失敗作代表だな」

 「あ?ろくに戦えもしねージジイがほざくんじゃねーよ。その首切り落とすぞ?」


 俺の無礼発言に、我慢の限界が来たのか兵士一同が剣を引き抜いた。

 雑魚は束になろうと雑魚なのはわからないのか?


 「皆、剣を収めろ。この男程度に君たちが手を汚す必要はないぞ?」


 兵士達は笑いながら引き抜いた剣を収めた。


 「要件はなんだ?早くしろ」

 「そう急ぐな。時期に終わる」

 「どういうことだ?」


 すると、陛下の横で待機していた兵士が、何かを読み上げた。

 その件に関しては全く心当たりのない内容だった。


 「罪状、この男はギルシュイン殿の奴隷を誘拐し、暴行。挙句にはは淫らな行為をした。間違いありませんね?」

 「は・・・?」


 間違いだらけだ。

 そんなことしていないし、もちろんやった覚えもない。

 誰がこんなデマを。


 「それでは、被害者を入室させてください」

 「おい、被害者なんているはずがない。でっち上げだ。早く取り消せ」


 俺の意思を聞こうとする者は誰一人いない。

 兵士により入室許可が指示され、部屋に入ってきた人物は見たことのある顔だった。


 「あの貴族!」


 昨日、ヒトリアを暴行したのはお前じゃないか!


 そして、俺を咎める裁判はここからが始まりだった。


 「ギルシュイン殿。まず最初に、あそこに立っている奴隷はあなたのもので間違いありませんか?」

 「おい、人を物扱いすんじゃねーよ!」

 「犯罪者は黙ってろ・・・さて、間違いありませんか?」

 「はい・・・間違いありません・・・」


 あの野郎。

 嘘の涙まで流しやがって・・・。

 そんなに俺を陥れたいのか?


 「さて確認は取れました。この後の流れは陛下にお任せします」

 「うむ」


 クソ、最悪だ。

 このタイミングで出てくんのかよ。

 しかも、俺に証言する時間は決して与えてくれない。

 こっちの嫌がることをとことんしてくるじゃねーか。


 「おい、犯罪者。貴様はもう生きている価値がないと思うのだが」

 「いや違う!俺は何もしていない!本当だ!」

 「見苦しいぞ、死がそんなに怖いか?」

 「何もしてないのになんで死ななきゃいけないんだよ!」

 「貴様は勇者でなければ善人でもない。ただの犯罪者だ」

 「だからやってないと言ってるだろ!」


 二人のやり取りに割り込むように少女が声を出した。


 「あ、あの剣二様は・・・」

 「奴隷の分際で勝手に喋るな」

 「おい、今なんて言った!俺達に謝れよ!俺達は決してないとしていない!お前らが謝れ!」

 「なんで罪人と奴隷に謝らなきゃいけないんだ?」

 「お前らが根本的に間違っているからだろ!貴族の証言を聞いておきながら、なんで俺たちの証言は聞こうとしないんだ!明らかにおかしいだろ!」

 「罪人の言語はよくわからんな。おい、早く極刑にしろ」

 「おい、待てよ!」

 「陛下、少しお待ちください」


 そう言ったのは、なぜか被害者面をしているギルシュインだった。


 「さすがに極刑はお可哀そうかと思いまして」

 「ほう、ならどうするのだ?」


 ニヤニヤしながら陛下と会話をするギルシュイン。

 その光景は、全く被害者面とはかけ離れたものだった。

 どう考えても、一目見れば俺達がはめられていることは明白だった。

 だが、誰もそこに疑いの目を向けていなかった。

 向けられていたのは尊敬の眼差し。


 「そうですねー、それならこういうのはどうでしょう?」


 天井に人差し指を立てて、こう綴った。


 「ただ死ぬだけではそこで罪から逃れることができてしまいます。だから、私の情報網を使って犯罪者の悪名を世界各地に広く浸透させるのはいかがでしょう?」

 「うむ、ギルシュインがそれでいいなら構わないが」

 「私はそれで結構です。あと、犯罪者一同は国外追放にしてもらえますでしょうか?顔を見ているだけで、なんだかトラウマが掘り起こされる気がして・・・」


 ギルシュインは手を口に押え、涙を流した。

 てめぇ、さっきまで笑ってただろうが。

 そして、俺たちの判決が下った。


 「この犯罪者と奴隷を国外追放とする。早々とこの国から消え去れ!」


 俺は唇を噛みしめる。

 やってもいないのに犯罪者呼ばわりされ、更には国外追放。

 何を言っても聞く耳を持たないだろうから、我慢するしかなかったのだ。


 「いくぞ・・・ヒトリア」

 「あ・・・はい・・・」


 あークソ、またか。

 ギャラリーが騒がしい。


 「犯罪者はとっとと死ねよ!」

 「生きてる価値ないの自覚ないんですかー?」

 「奴隷と末永くお幸せにねー」


 俺は耳を貸すことなく、ヒトリアを連れて王城を出た。

 町には、まるで見世物を見るかのように人が集まっている。

 例外なく、その中に店主の姿もあった。

 何か言いたそうだったが、これ以上店主に迷惑をかけるわけにはいかない。

 店主と別れの挨拶をすることなくヘカベルを立ち去った。


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