表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/48

ミニデート〜1日目の締め〜

 日が落ち、辺りが街灯の光に包まれた城下町を二人の男女がゆっくり歩みを続ける。

 それはまさしくデートと呼ぶにふさわしかった。

 だが、この男女にはある問題が存在していた。


 まずは年齢差。

 俺は20歳で、ヒトリアはどう見ても11歳児にしか見えなかった。


 次に服装。

 俺は戦闘服、ヒトリアは服の真ん中にキュートなくまさんが印字された服。


 最後に呼び方。

 ヒトリアは終始、俺のことを「剣二様」と呼んでいる。

 これを踏まえた上で本当にこれはデートと呼べるのだろうか?

 あの店主は全く何を言っているのやら。


 「ヒトリア。ここに入るぞ」

 「はい、剣二様」


 そこは居酒屋とかそういうところではなくファミレスのような場所だった。

 和気藹々としている中、俺達が入店すると何やら嫌な目つき。

 どうやら歓迎されていないらしい。

 だが、そんなことは今さらどうでもいいか。

 俺とヒトリアは空いている席に揃って座り、注文をする。


 「注文いいか?」

 「はい、何でしょう?」

 「このハンバーグ定食をくれ」


 注文と同時に、メニュー表を見るヒトリアの視線は一つの食べ物に向いていた。

 それは俗にいう、「お子様メニュー」である。


 「この子にはお子様メニューを」

 「え・・・?」

 「嫌だったか?」

 「いや・・・・」

 「じゃあそれで頼む」

 「銀貨二枚です」


 店員が調理場に戻るとヒトリアは俺に尋ねた。


 「どうして・・・?」

 「あれが食べたかったんじゃないのか?」

 「でも・・・わがまま言っちゃ・・・」

 「俺といる時は我慢しなくていい」

 「剣二様・・・」


 その後は静かに料理が来るのを待ち続けた。


 「お待たせしました」


 料理がテーブルの上に置かれ、ヒトリアの目はキラキラ光っていた。

 だが、一向に食べ始めようとしない。


 「食べないのか?」

 「いいの!」

 「それはヒトリアのだからな」

 「わーい!」


 嬉しそうに食べるヒトリア。

 あの貴族は本当にヒトリアを奴隷としか扱ってこなかったんだな。

 この笑顔を見ているだけで、あの貴族を粛正してやりたい。


 「まあ、今更会うこともないな・・・」

 「ん?」

 「いや、何でもない。それよりこのハンバーグもいるか?」

 「くれるの!」

 「ああ、いいぞ」

 「わーい!」


 よほどおいしかったのか、ヒトリアは綺麗に完食した。

 宿探しに時間がかかると思い早めに店を出たが、思いのほか泊まる宿は簡単に手に入った。


 「銀貨十枚か・・・明日も素材集めだな・・・」

 「剣二様!剣二様!外見て!」

 「どうした?」


 窓の外に広がっていたのは街灯が灯る綺麗な街並み。


 「おお、綺麗なもんだな・・・」

 「ずっと見てたい!」

 「部屋に風呂があるらしいから早く入って寝ろ」  

 「はーい」


 出会った時のヒトリアはどこへやら。

 緊張感が解けて何よりだが。


 「今日はいろんなことあったな・・・」


 突然召喚されたと思いきや、いきなり戦力外通告。

 その後はチンピラに絡まれ、店主と会って、モンスターを倒した。

 それでヒトリアを助けた。

 こんなに濃い日常が毎日続くのだろうか?


 それはそれで、刺激を求めていた俺にはご褒美でしかないが。

 

 「まあ、これはこれで楽しいからいいけどな・・・」


 そんな剣二に後ろから声が掛けられる。

 

 「あの、剣二様・・・」

 「なんだ?ヒトリ・・・」


 自分の目を今まで一度も疑ったことがなかったが、この時だけは疑った。

 そして自分の目に狂いがないと分かった時には、自分らしくない大きな声で、


 「ヒトリア、バスタオル一枚で何してるんだ!」

 「剣二様と一緒に入りたくて・・・」

 「入りません。風邪引くから早く入ってきなさい!」

 「はーい」


 びっくりした・・・。


 ヒトリアは風呂の途中で出てきたのか、長い髪は濡れていた。


 「そういえば、あまり気にならなかったが、金髪の子なんだな・・・」


 会った時から今に至るまで全く気が付かなかった。

 自分に余裕がなかったせいだろうか?

 余裕・・・なかったか・・・?


 「ちゃんと向き合わないとな・・・」

 「剣二様、お風呂先に頂きました」

 「早かったな、もう少しゆっくり入っててよかったんだぞ?」

 「いえ、奴隷である私に長風呂は許されません」

 「おまえな・・・」


 寝巻に着替えたヒトリアに近づき、髪をゆっくり触る。


 「剣二様!?」

 「ヒトリア・・・」


 俺は怒ったような顔で言う。


 「髪の毛ちゃんと洗えてません。もう一度洗ってきなさい」

 「えーーーー」

 「洗ってきなさい」

 「はーーい」


 そしてヒトリアはもう一度、風呂場へと戻っていった。


 「ちゃんと洗ってきました」

 「どれどれ・・・よし合格」

 「やっと終わった!!!」

 「女の子なんだから髪の手入れぐらいしっかりしろよ?」

 「はーい」


 分かっているのか、分かっていないのか曖昧な返事をするヒトリア。


 「あの、剣二様」

 「なんだ?」

 「これしてください!」

 「ドライヤーか?」

 「はい!」

 「髪を乾かせってことか?」

 「はい!」

 「ったく、しょうがないな」


 ドライヤーを左手にヒトリアの髪を乾かしていく。


 「どうだ?痛くないか?」

 「大丈夫です!」

 「こんなに髪綺麗なんだから、手入れは怠るなよ?」

 「はーーい」


 ドライヤーをすること十分。

 ようやく髪が乾いた頃、ヒトリアがゆっくりとその口を開いた。


 「あの、剣二様・・・?」

 「ん?どうした?」

 「今日は助けてくれてありがとうございました」

 「そんな礼を言うことじゃないよ」

 「いえ、しっかりとお礼を言うことです・・・本当に・・・本当に・・・ありがとうございます・・・」


 ヒトリアの髪を乾かしていたせいで、ヒトリアが今一体どんな顔をしているのか想像もつかない。

 だが、一つだけはっきりしているのは、肩をプルプルとさせていることだ。

 俺は何も言わずにその頭を撫で続けた。

 ようやく落ち着きを取り戻したヒトリアは、


 「すみません。ありがとうございます」

 「気にするな。そんなことより疲れただろう?早く寝ろ」

 「はい・・・」


 ベッドに入り込むヒトリア。

 そして振り返って告げた。


 「あ、あの・・・」

 「なんだ?」

 「寝るまで手を握ってもらえますか?」

 「いつからそんな甘えん坊になったんだ?」

 「ごめんなさい・・・」


 そんな顔するなよ・・・。

 そんな顔されたら罪悪感が生まれるだろう。


 「しょうがないな。ほら、手を出しな」


 俺がそう言うと、ヒトリアの顔から光が戻っていくのが分かった。


 「ありがとうございます!おやすみなさい・・・」


 疲れが溜まっていたのか、ヒトリアは五分も経たずに眠りについた。


 「さて、俺も風呂入ってくるか・・・」


 こうして、異世界生活の一日目が終了した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ