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犯罪防具とくまさん服


 「それじゃあ、換金する素材を出してくれ」

 「この使うっていうボタンを押せばいいのか?」

 「そうだ」


 ゴレオンに言われる通りに手を動かし、何とかアイテムを取り出すことができた。

 そして、「サファイアの雫」200個を無事に納品した。


 「この短時間でよくこんなに集めたな」

 「まあな、いくらぐらいになりそうだ?」

 「そうだな・・・」


 親指と人差し指を立て、顎のラインに合わせて考えるゴレオン。

 そして、ゴレオンは人差し指と中指を立てて、


 「金貨2枚ってところだな。銀貨に崩すなら20枚と言ったところだ」

 「それじゃあ、銀貨で頼む」

 「おうよ!毎度あり!」

 「あと、これは何なんだ?」


 俺は、「道具」の中から先ほど一つだけドロップした「サファイアの宝玉」を取り出した。

 売却用と記されていないこのアイテムの使い道をもちろん知らない。

 その取り出したアイテムを見るなり、ゴレオンは俺の肩に手を置いた。


 「お、兄ちゃん運がいいな」

 「そんなにレアアイテムなのか?」

 「そうだな・・・一生かけても手に入らない奴は手に入らないレアアイテムだな」

 「あのモンスターを一生倒すのはごめんだな」

 「例えの話だよ」


 このアイテムは相当な貴重品らしい。

 売るのが勿体ないぐらいだ。


 「このアイテムは何に使うんだ?まさか観賞用とは言わないよな?」

 「おいおい、こんな貴重なアイテムを観賞用とか言う兄ちゃんの目を疑うぜ?」

 「使い道を知らないんだからしょうがないだろ!それで?これは何に使えるんだ?」

 「これ一つで武器を一つ作れるぞ?」

 「それはいいな」


 さっそく武器を作ってもらおう。

 そう考える俺には、ある策が思い浮かんでいた。

 その策を実行に移せたのなら、これ以上目覚めの悪い日々を送らなくて良くなるだろうから。

 俺は一人の少女を見つめながら、


 「それ使って、この子にあった武器を作ってくれ」 

 「え・・・?」


 久しぶりに声を出したせいか、やけに声が高いヒトリア。

 意外と可愛いところもあるじゃないか。

 だが、ヒトリアはそんなことを一切気にしなかった。


 「どうして・・・」

 「武器作ったら、モンスターだろうと貴族だろうと自分で戦えるようになるだろ?金をかけずに武器を作れるんだから名案だと思うんだが・・・」

 「兄ちゃん、最後のいらないだろ・・・」

 「事実を言ったまでだ。それより銀貨20枚と武器を作ってくれ」

 「はいよ。まずはこれな」

 「ああ」


 ゴレオンから銀貨20枚を手渡しでもらう。

 初めて手にする異世界の金銭に重みを感じながらそれを自身のポケットに忍び込ませる。

 そんな俺を前に、ゴレオンはさっそく武器の作成を開始した。


 「なあ、聞き忘れてたが、今いいか?」

 「おう、なんだ?」

 「この金で飯と宿代は払えるか」

 「今日の夜までだな。明日の分はないな」

 「そうか」


 その後は言葉が交わされることはなく、金属を叩く音だけが店内に鳴り響いていた。

 叩いて、伸ばして、また叩いての繰り返し。

 それを繰り返すこと、30分が経過した頃・・・


 「できたぞ」


 ゴレオンが持ってきた武器は幼い子にも扱えるような安物の剣だった。

 俺はその剣に対して難癖をつける。

 決して安い物を作ったことにではない。

 俺がケチをつけたのは、


 「全く、この世界は剣以外の概念はないのか」

 「まあ嬢ちゃんが使うわけだからいいだろ?」

 「まあ、そうだが・・・」

 「ほら嬢ちゃん」

 「あ、ありがとうございます・・・」


 ゴレオンがヒトリアに剣を差し出し、小さな声で礼を言った。

 輝くサファイアの宝石。

 ヒトリアはその輝きから目を離せないらしい。

 そんな微笑ましい光景を後に俺はゴレオンにある疑問を尋ねた。

 それは今後の戦闘における大事な話だった。


 「なあ、俺は刀以外の装備はできないのか?」


 正直、近距離攻撃には限界がある。

 今は成るようになっているが、もし強い敵に出くわした時には恐らく対抗は不可能と思われた。

 だからこそ、自分の得意分野の装備クラスにしなくては、尚更この先生きていけない。

 そう考える俺にゴレオンは、


 「わからないな。「六宝剣」の装備クラスの奴らはその装備以外使えないらしいけどな」

 「俺は違うからできるかも知れないということか」

 「まあ、そうだな」


 だとしたら、やってみる価値はある。

 俺に近距離攻撃は似合わない。

 やはり、中距離・遠距離攻撃がお似合いだ!


 そして俺の目線は、ある武器へ一直線に向かって行った。

 その武器の第一の特徴は、アーチ状に作られていることだろう。

 そしてその武器に糸を一本張り詰めている。

 そう、その武器はまさしく「弓」であった。

 俺はその「弓」を指しながら、


 「ちょっとそこにかかってる弓を試しに装備してもいいか?」

 「おう、いいぞ」


 この店を経営する店主からの許可が下りた。

 俺はさっそく弓の装備を試みる。

 だが・・・・


 バチン!


 装備をしようと手にしたその時、まるで拒否反応を起こしたかのように弓が飛んでいった。


 「兄ちゃん・・・一応商品だからな?」

 「あ、ああ。分かっている」


 そして、もう一度試みる。

 だが、いくら試すも結果は同じだった。


 「クソ!なんでだ。勇者クラスでも何でもないのに」

 「まさか、本当に七人目の勇者なんじゃ」

 「そんなわけがない」

 「それと兄ちゃん・・・それ商品な・・・?」

 「分かっている!」


 勇者クラスである「六宝剣」でもないのになんでなんだ?

 七人目の勇者?

 だとしたらなんでこんな地道な戦い方してるんだ?

 それなら、チート能力が備わってるはずだろ!


 備わっていない以上、俺は勇者じゃない。

 断言できる。


 「しょうがない、諦めるか・・・」

 「まあ、何かわかれば教えてやるよ」

 「助かる。最後に一ついいか?」

 「本当に最後か?」

 「ああ、最後だ」


 俺はヒトリアの肩に手を優しく添え、


 「この子に着れる服はないか?」

 「また唐突だな。まあ、あるっちゃあるが」

 「金は払う。頼む」

 「金なんて要らねーよ。娘のおさがりになるけどいいか?」

 「それで十分だ」

 「ちょっと待っとけ」


 ゴレオンは店の奥へと消えていく。

 姿を消したと同時にヒトリアが口を開いた。


 「あ、あの・・・」

 「なんだ?」

 「どうしてここまで・・・」

 「こんなボロボロの服で歩き回ってたら色々と大変だろ」

 「いや、私なんて・・・」

 「いいから、着とけって」

 「はい・・・」


 会話の終わりと同時にゴレオンが帰ってきた。

 それは何とも可愛らしい服を持って。


 「ほら嬢ちゃん。あっちに更衣室あるから着替えてきな」

 「あ、ありがとうございます」


 礼を言い、更衣室に入るヒトリア。

 着替えが終わるまでしばしの待機。


 「なあ、兄ちゃん」


 先に口を開いたのはゴレオンだった。

 ゴレオンは俺の全身を隈なくみて、


 「兄ちゃんは防具とか買わないのか?布一枚じゃねーか」

 「ああ、そうだな。完全に忘れてた」

 「おいおい、大丈夫か?今なら銀貨二枚で防具一式売ってやるぞ?」

 「ああ、それならもらおうかな?」


 またしても店の奥へ消えていくゴレオン。


 度々店の奥に行かせて悪いな・・・。

 というか、この店は武器屋じゃないのか?

 店名を改めた方がよくないか?


 色々考えたが、今日はいろんなことがありすぎた。

 もう考えるのはやめよう。

 そして再び、店の奥から出てきたゴレオンは防具一式を持ってきた。


 「ほら、これだ」


 そう言って、カウンターに乱暴に置いた防具はなかなかに高値が付きそうな防具だった。


 「おい、これ銀貨二枚以上しそうだが?」

 「サービスだ。お得意様になった記念な?」

 「ああ、わかったよ」

 「冗談だ」


 銀貨二枚を渡し、店主から防具一式を受け取る。


 「装備してみろよ」


 装備一式を「武器庫」ではない「装備庫」に収納し、そこから装備する。


 「おお!似合ってんじゃねーか!」

 「そうか?」

 「おう、この装備は「おたずねもの」という装備だ」

 「俺は犯罪者になってないぞ!?」


 俺の装備着用と同時にヒトリアの着替えも済んだらしい。


 「お待たせしました」

 「おう、おそかったな」

 「ごめんなさい」

 「いや、あやま・・・」


 ヒトリアの着ている服を見て思考が停止してしまった。

 先ほどのボロボロの服よりは百倍くらい良い。

 良いのだが、


 「くまさんはないだろ、くまさんは・・・」

 「え、俺は良いと思うぞ?」

 「ヒトリアもそんな年じゃないだろ」


 ヒトリアの方を見てみると、それは何とも嬉しそうな顔でくまさん付きの服を着ていた。


 本人が良いなら・・・まあいいか・・・


 ヒトリアの方も俺の服装が変わったことに気が付いたようで、


 「あ、あのご主人様」

 「俺はご主人様じゃないぞ?」

 「それじゃ・・・えっと・・・」

 「剣二でいい」

 「剣二様」

 「剣二だ」

 「剣二様」

 「まあそれでもいいか。ところでなんだ?」

 「その、とても似合っています」

 「そうか、とりあえずありがとうと受け取っておこう」


 自分ではよくわからないな。

 まあ、二人に似合っていると言われたのだから変ではないのだろう。


 「それじゃ、行くぞ」

 「はい、剣二様」

 「おい、兄ちゃん。どこ行くんだ?」

 「飯がまだなんだ」

 「そうか、ミニデートだな」

 「デートじゃないだろ!」


 ゴレオンは、ハハハと笑いながら退店まで見届けてくれた。


 「さて、どこの飯屋に行くか・・・」


 こうして二人は、日が落ち切った王国の中でミニデートに出かけるのだった。


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