奴隷少女
サファイア・ミネラルの討伐を始めてからどのくらいの時間が経過しただろうか。
異世界に召喚されたら体力が無限大だと考えていたが、現実はそうではなかった。
「はぁはぁ、意外ときついな・・・」
腕の筋肉は痙攣し、呼吸がままならないせいか、意識も朦朧とし始めていた。
息を切らしながら、なおサファイアミネラルを斬り続けた。
「これで、最後だ・・・!」
「みええええええ・・・」
相変わらずの奇妙な声と共にその姿は消えていく。
今のサファイア・ミネラルを最後に、辺りにサファイア・ミネラルがいなくなったことを確認した俺は、「道具」から獲得アイテムの入手状況を調べることに。
今後の生活に関わる大事なアイテム。
嫌でも確認せざるを得なかった。
「さて、どのくらい素材集まったんだ・・・?」
すぐそばに休めそうな木を発見し、全体重を木に任せるように力を抜いていく。
「ふう・・・あ、武器仕舞わないと・・・」
武器屋の店主に教わった通りに、装備ステータスから「武器庫」を選んで刀を武器庫に仕舞う。
「この作業だるいな。何か良い方法は・・・」
いちいち「武器庫」から刀を仕舞うのは、手間がかかり過ぎる。
すると、武器庫の下の方に何やら便利そうな機能が・・・
「AUTOって・・・最初からこの機能があるならこっちを教えろよ!」
教授願ったのは武器を仕舞うことのみ。
決してゴレオンは間違えたことを言っていないので、彼を責めてることができない。
AUTOの横にヘルプマークである「?」のマークがついていた。
「えっと何々?武器を登録すれば意思通りに武器を仕舞ったり出したりできる・・・か。便利そうだな」
さっそく、AUTOモードに武器を登録させてみる。
「やってみるか・・・」
その場から立ち上がり、武器を出すことに意識を向ける。
すると、武器は簡単に現れた。
今度は仕舞うことに意識を向けてみる。
同様に武器を簡単に仕舞うことができた。
「これは便利だ!」
武器を出すために一度立ち上がったが、また木にもたれかかるように座った。
「とりあえずこれで大丈夫だろう。さて、アイテムの方はどうだ?」
装備ステータスから「道具」をタップし、アイテム捕獲量を確認する。
かなり倒したから、期待は出来そうだった。
期待に胸を膨らませながら、「道具」の中身を確認してみる。
「サファイアの雫」が200個か・・・一体につき一個ってところか」
「サファイアの雫」がどのぐらいで売れるのかは予想できないが、かなり手に入った。
初日にしては上々だろう。
そして、「道具」一覧を閉じようとした時、何かが視界に入った。
「ん?なんだこれ?」
「道具」内には二つのアイテムが収納されていた。
無論、一つは「サファイアの雫」なのだが・・・・・
「サファイアの宝玉?」
「道具」内には、この「サファイアの宝玉」は一つしかなかった。
恐らくレア素材なのだろう。
説明欄にも何も記されていない。
「換金ついでに見てもらうか・・・」
腰を上げ、西門の方へ向かって歩き始める。
「素材が売れなかったら、今日は野宿でもするしかないよな」
最悪の場合を考えながら歩みを続ける。
その時だった。
ドスン・・・
俺の背中に何か小さなものが当たった気がした。
「サファイア・ミネラルか?」
そう思いながら振り返ってみると、どこかで見たことのある女の子がその場で尻もちをついていた。
「この子は・・・」
そうだ、昼頃に蹴られ殴られてた子だ。
その子はボロボロの服を着ていて、どう見ても普通の子のようには見えなかった。
やはり奴隷なのか?
「大丈夫か?」
手を差し伸べたと同時に女の子は身をビクッと動かした。
「ご、ごめんなさい・・・」
「大丈夫だ。ほら、いつまでも尻もちついてないで」
女の子はなかなか俺の手を取ろうとしなかった。
だが、状況は一転し女の子はすぐさま俺の手を握って後ろに隠れた。
主であろう男の登場によって。
「おやおや、これは失礼しました。うちの奴隷が迷惑をかけて申し訳ない」
「大丈夫だ」
主の元に返そうと女の子を引き離そうと試すが、なかなか離れない。
それどころか目に見えてわかるように震えていた。
「酷く怯えてるみたいだが、この子に何したんだ?」
面倒ごとはごめんなのに何やっているんだか。
自分でも何を思ってそんなことを言ったのかわからなかった。
「別に、何もしてませんよ?」
「平然と嘘を吐くな。殴ったり蹴ったりしたら怖がるに決まっている」
「なぜそれを?」
「昼に見かけたからな。それに見かけなくても、あんたとこの子の服の清潔の差を見ただけでもどのように扱われているか容易に見当がつく」
「そうですか」
他人の奴隷なのになんでこんなに無気になっているのか。
早く、この状況を何とかしないといけない。
「この子を返してその後はどうするんだ?昼間と同じようにこき使うのか?」
「ええ、それ以外価値はないんで」
「価値がない?お前は貴族っぽいがこの国の貴族か?」
「観察力が鋭いですね。ええ、そうですが?」
「じゃあ、その貴族様にこれだけは言っておく」
そして俺は貴族を睨みつけるように言い放った。
「俺は権力に居座るだけの国王やお前みたいな奴らが一番嫌いだ」
「そうですかそうですか」
何か反論してくるかと思いきや、貴族は笑いながら背中を向けた。
「良いでしょう。その子を好きにするといいです。奴隷なら他にもたくさんいますから。それでは・・・」
貴族はそう言い残し、女の子を置いて去っていった。
いや、そこは頭を下げてこの子に謝罪するところだろ!
いや、この世界ではもしかしたら普通なのかもしれない。
やはり、日本は治安が良い安住の地なのかもな。
だが、完全に面倒ごとに巻き込まれたのは確かだ。
とりあえず、俺がどうこう言う問題ではない。
この子の意思を尊重しなけらばならなかった。
「えっと、君の名前は?」
「わ、私の名前・・・ヒトリア・・・」
「ヒトリア、助けておいてなんだが、俺の元が嫌だったらあいつの元に戻ってもいいんだぞ?」
ヒトリアの瞳は迷いに満ちていた。
貴族について行けば拷問のような日々がまた続く。
かといってこの人には迷惑をかけたくない。
小さい子はこんなもんか・・・。
だんまりしてしまった彼女に俺は、
「ついてきたかったらついてこい」
「え・・・」
ヒトリアをその場に残し、俺は立ち去ろうとする。
そうすれば、彼女の咄嗟の判断を引き出すことができると考えたからだ。
迷うくらいなら直感で動いた方がいい。
ヒトリアは迷いの末、俺について行くことにした。
西門に到着し、一番最初に向かったところ。
それはもちろんゴレオンが営む武器屋だった。
行く間に住人にジロジロ見られたが、気にはならなかった。
「大丈夫か?」
「あ・・はい・・・」
何が大丈夫なのかよくわからないが、とりあえず聞いてみた。
周りの視線は気にならないにしてもこの空気は気まず過ぎた。
そんな空気の中、無事に武器屋に到着した俺達はさっそく換金をゴレオンに頼む。
「すまない、換金できるか?」
「・・・・・・」
だが、ゴレオンの応答がなかった。
「なんだ?ラグってんのか?」
「いや、兄ちゃん・・・この短時間でよくそんなにツッコミどころを作ってきたな」
「作りたくて作ったんじゃない」
「じゃあ、つっこませてくれ」
「なんだ」
「その子はどうしたんだ?」
ゴレオンがそう言うのは当たり前のことだった。
いきなり幼い女の子を連れてきて、それにプラスしてボロボロの服を着ているのだ。
つっこみたい気持ちになることは仕方のないこと。
後ろで隠れるヒトリアに指を指しながらゴレオンは、
「兄ちゃん。まさか奴隷を作ったのか?」
その答えに辿り着くのは必然的だろう。
このままでは誤解しか生まれないので、事の顛末を仕方なく話すことにした。
「この子はどこかの貴族の奴隷で、怯えてたから連れてきた。後、人に指差すのはどうかと思うぞ?」
「あ、悪い悪い、そっか・・・兄ちゃんは本当は良い奴なんだな・・・」
「俺は元々善人だ。全面的にあの国王が悪いだけだ」
この奴隷少女の話はさておき、さっそく換金をしてもらおう。
「このアイテムを換金してくれ」