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未熟なシハルに経験を

 エルフミーラが食事を取りに行ってからどのくらいの時間が経過しただろうか。

 彼女が戻ってくる気配は一向になかった。


 「エルフミーラさん遅いね。何してるんだろう?」

 「さあな、迷子になってるんじゃないか?」


 魔界に初めて来たときもこの部屋だった。

 この建物が何なのか、そしてどのくらいの大きさの建物なのか。

 全く、知りもしなかった。


 そもそも下町とかあるのか?


 そんなこと考えている矢先、エルフミーラが戻ってきた。


 「遅かったな、何してたんだ?」

 「料理作ってたんだよ?」


 食えるものはあるか聞いただけなのに、まさか手作り料理が出てくるとは。

 さて一体どんなものが・・・

 エルフミーラがテーブルの上に置いた配膳皿の上には悍ましい物体があった。

 どうやったらその色合いが出せるのか不思議なぐらいの紫色をした唐揚げ?みたいなものと紫色のスープ。 

 あと、これは米だろうか?

 その米らしき物体はなぜか黄ばんでいて腐ってるみたいだった。


 「エルフミーラこれって・・・」

 「さあ、召し上がれ」


 エルフミーラはごちそうを振るうばかりに両腕を広げて、食べることを催促させる。


 いや、ちょっと待てよ、これ絶対おかしいだろ!

 こんな未知の物体誰が食べるんだよ!

 隣に座るシハルも完全にフリーズしてやがる。

 食い物を用意しろと言ったのは俺だ!

 俺が最初に食べなくてどうする!


 そう自分に言い聞かせて、配膳皿の上にある料理に手を付ける。

 まずは唐揚げから。


 匂いは・・・あんまりしないな。むしろ普通の唐揚げだ。


 そして、俺はその変色の唐揚げを勢いよく口に入れた。


 「・・・・・・うまいな」


 以外にもうまかったのだ。

 普通の唐揚げの何倍もおいしかった。

 エルフミーラは「そうでしょ、そうでしょ」と言わんばかりの顔でこちらを見ていて、シハルは「嘘でしょ!」と今にも言い出しそうな顔をしていた。


 「いいから、シハルも食ってみろって」

 「うん・・・」


 そして、シハルは俺が食べた唐揚げを一つ、恐る恐る口に運んだ。

 涙目になりながら。

 口の中に入れたシハルはその唐揚げを咀嚼する。

 かなりの時間をかけて・・・


 「どうだ?うまいだろ?」

 「うん・・・でも私もうお腹いっぱい・・・」

 「そうなのか?」

 「うん・・・エルフミーラさんすみません。せっかく出してもらったのに」

 「謝ることないよ。今度食べれるときに沢山食べてくれれば」

 「はい・・・」


 どうやらシハルはここでギブアップらしい。


 一体どうしたんだ?さっきはあんな腹の虫を鳴らしていたというのに。


 シハルが食べれないというなら仕方がない。

 この後は、俺がおいしく頂きました。


 


 「なあ?エルフミーラちょっといいか?」


 全ての料理を平らげたサタルドスが何の前触れもなくエルフミーラに尋ねた。

 内容は、さっきの下町についてだった。

 さっそく彼女にそのことを聞くと、彼女は少し悩んだ顔をしていた。


 「んー、そもそもで悪いんだけど・・・・下町って何?」


 どうやらエルフミーラは下町というものを知らないらしい。

 ということはこの魔界には下町はないということになる。

 商業がないというのは少々不安になる。

 エルフミーラが下町を知らないんだ。

 他の暗黒騎士が知らないと言っても、当然だろう。

 だったら、ついでだ。

 こいつらには散々世話になった。

 俺はエルフミーラにある提案をした。


 「今から一つ王国を潰しに行く。そしたらお前らもそこに来い」

 「いや、王国を潰してくれることはありがたいんだけど・・・」

 「けど?」


 エルフミーラの歯切れが悪いな。何かあるのか?


 それをすぐさま察知した俺は訂正を施した。


 「すまない、別に無理にとは言ってない。気が向いたらでいいから」

 「ごめんね?」

 「いいさ、そうと決まれば。行くぞシハル」

 「えっと、もう潰しに?」

 「んなわけないだろ、お前の特訓だ」

 「あー」


 剣もまともに振るえないのに、戦いを強要できないだろ。

 ある程度技術を磨いてからだ。


 「いってらっしゃい。またいつでも来ていいから」

 「わかった」


 小さく手を振るエルフミーラを背中に、俺とシハルは魔界から退出するのだった。


 しかし、この時の俺はすっかり忘れていた。

 この世界がまだ夜中であることを。


 「しまったな・・・・夜だってことをすっかり忘れてた・・・」

 「私も・・・どうする?」


 どうすると言われてもどうしようもない。

 モンスターも休息を取っているのか、夜にはあまり姿を現さない。

 稀に姿を見せるが本当に稀だ。

 夜にモンスター討伐はあまり期待しない方が良いだろう。


 「王国に入ることもできないし、野宿するしかないな」

 「野宿!?」


 びっくりした。

 いきなり大声を出すなよ。

 そんなに驚くことじゃないだろうに。


 シハルは目を輝かせてこう言った。


 「野宿ってキャンプみたいな?」

 「まあ、意味合いはそうなのかな?」

 「じゃあ!じゃあ!火を囲って踊ったりするの!?」

 「キャンプファイヤーじゃねーよ。てか二人だけで踊るとか頭おかしいだろ」


 突然何を言い出すかと思えば、なんてくだらないことを言い出すのか。

 そもそも、キャンプをキャンプファイヤーと勘違いしているシハルは一体どのように育ったのか不思議でしょうがなかった。


 どこかのお嬢様?

 いや、お嬢様でもそのぐらいの識別はできるはずだ。

 何も教えられずに育てられたとか?


 一度はそう考えたが、一通りの礼儀作法はしっかりしている。


 ということは、ただの脳内お花畑さんなのか?


 シハルが何を考えているのか相変わらずわからない。

 まあ、別に深く考えることはないか。


 「さっそく、燃やせる木を集めるぞ」

 「え?何でもいいんじゃないの?」

 「そんなわけないだろ?」

 「サタルドスはキャンプしたことあるの?」

 「そんなのしたこと・・・・」


 ・・・・・あれ?

 まただ。

 俺はキャンプしたことなかったっけ?

 俺一人じゃない誰かがいたような。


 俺はすぐさま「道具」を開いた。

 画面いっぱいに開くと、迷宮で集めた本がずらりと並ぶ中、隅の方に何か木のアイコンがあった。


 あれ?いつも何こんなもの手に入れたんだ?


 自身の身に覚えのない道具が収納されている。

 まさか・・・


 「サタルドス?どうしたの?」

 「・・・・・・何でもない」

 

 そんなことがあるはずない。


 俺が・・・・記憶喪失なんてそんなベタなこと・・・


 とりあえず、今はこの木の枝を使おう。

 俺は木の枝のアイコンをタップし、そのアイテムを取り出した。


 「あ、サタルドス。持ってたの?」

 「ああ、持ってたのを忘れてたんだ」

 「忘れん坊さんですね?気を付けないと危ないですよ?」

 「ハハハハ」


 本当に笑えない冗談だ。

 だって、自分が記憶喪失なのかもしれないのだから。

 シハルは感の良い女だ。

 何か下手なアクションをすれば完全にバレる。

 そしてバレたらどうだ?

 馬鹿にされるのが目に見えてわかる。

 だからこの場は笑ってごまかすしかなかったのだ。


 「取り合えず、川の近くまで移動しよう」

 「そうだね。よくキャンプは川の近くでやってるもんね!」

 「そういうことだ、あと魚を取りに行くぞ」

 「わ・・私、野生の魚取ったことない」


 未知の体験に興味津々のシハル。

 というか野生の魚って言い方ちょっと笑える。

 こういうお気楽なやつがパーティーにいるのは悪くないな。

 場が和むって言うか。

 要するに、彼女はこのパーティーに置いて必要不可欠だということだ。


 「それじゃあ、行くぞ」

 「おー!」


 二人は川辺まで移動を開始したのだった。 




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