相談お姉さんこと、エルフミーラだよ?
魔界へのワープゲートに吸い込まれると、すぐに魔界へと到着した。
もちろん、ワープ先の場所は暗黒騎士が集う集会場。
だが、今日はその集会場には一人の人物しかいなかった。
「あら、サタルドス。ここに戻てくるのが早かったね?」
「エルフミーラ。ちょうどいい、話がある」
俺は、自分の後ろに隠れているシハルをエルフミーラに見えるように前に出した。
どうやら彼女は緊張しているらしく、まるでロボットのようだった。
そんなシハルの姿を見て、エルフミーラはクスクスと笑いながらこう告げた。
「随分と可愛いお客さんね?誰かから奪いとったのかな?」
「いや、迷宮の奥地で隔離されていたんだ」
「まあ、それは可哀そうに」
笑顔で可哀そうと言うエルフミーラ。
本当にそう思っているのか?
まあそんなことよりも大事な話があるのは事実だ。
「エルフミーラ、大事な話がある。他の暗黒騎士は集められないか?」
「んー、ジェールナ達は次の「災い」に向けて動いてるからねー。呼び出すのは難しいかな?」
「そうか」
それならエルフミーラだけでも構わない。
さっそく話の本題に入ろうと集会席へ移動とした時に彼女は口を開いた。
「あなた達が「災い」を引き起こしているのですか?」
そういえば、シハルに「災い」の件を話すことをすっかり忘れていた。
失敗した・・・話がややこしくなるな。
彼女は正義感が強い女の子だ。
「災い」の元凶が、暗黒騎士と知れば反論を起こすに違いない。
何か打開策は・・・・
俺が打開案を練っていると、先に口を動かしたのはエルフミーラだった。
何か案を思いついたのか?
だが、エルフミーラは何の悪びれなくこう告げた。
「ええ?それが何か問題でも?」
最高級であろう笑みをこぼすエルフミーラ。
あのな、笑ってごまかせることじゃないだろ。
シハルがこんなことで黙っているわけがない。
だが・・・
「い、いえ。何でも・・・・」
こいつ、まさかビビってるのか?
そういえば、忘れていた。
彼女は正義感は強いものの小心者だということを。
どんなキャラ設定だよ。
だが、シハルがビビってくれているおかげで事を速やかに進めることができる。
「シハル、とりあえず聞きたいことだけ聞いておこう。奴らは俺たちよりこの世界について詳しいからな」
「分かった」
「怯えなくても大丈夫よ?シハルさん。ちゃんと「災い」のことも話すから」
「は、はい」
なんでエルフミーラにだけ敬語なんだ?
初めて会うからか?
だが、俺の時は最初からため口だったぞ?
こいつの中でカースト制度が存在するのか?
もし存在するのなら、俺はシハルになめられてるということになる。
その時は仕置の一つぐらいしてやろう。
そんなことを考えていると、エルフミーラが突然笑い出した。
「なんだ?気持ち悪い」
「あー、ごめん。サタルドスが丸くなったなーと思って」
「俺が・・・丸く・・・?」
俺は丸くなったのか?
いや、そんなことないだろう。
まだこの世界をぶっ壊したいと思ってるし、邪魔するものは殺すと理念を掲げているぐらいだ。
丸くなったってのは恐らく、気のせいだ。
「気のせいだ。行くぞシハル」
二人は、エルフミーラが座る集会席へと向かっていった。
「お好きな席にどうぞ」
「は、はい」
「俺もどこでもいいのか?」
暗黒騎士とはいえ一度も集会に参加したことなく、好きに座っていいのは客人の特権。
つまり、俺にはその権利はないので、どこに座っていいのかわからなかったのだ。
「席に決まりはないからサタルドスも好きに座っていいよ」
「わかった」
とりあえず、相談者としてシハルの隣に座り込んだ。
「んで?話って何かな?」
「そうだな、まずは名づけについて知りたい」
俺がシハルを名付けた時に起こった入れ墨現象。
あの入れ墨にはどういう意味が込められているのか。
それを知りたかったのだ。
もしそれでシハルを苦しめるようなことがあれば早急に消し去らなければならない。
「名づけって?」
「俺がシハルを名付けた時に入れ墨が入ったんだ。それって何か意味あるのか?」
「あー、そういうことね。あるよ?」
「本当か!」
だとしたら、さっそく消さないと。
だが、その入れ墨の意味合いは、俺の想像を遥かに超えていた。
それは・・・
「仲間の印だからね」
「・・・・・・・・・・・・は?」
「だから、仲間の印だって」
「だとしたら、実害とかないんですか?」
「うん、全くないね」
心配して損した。
エルフミーラが意味があるというから何かと思えば。
なんだよ仲間の印って。
ふざけてるのか?
鋭い眼光を向ける俺に対し、エルフミーラはハハハと笑いながら弁明した。
「いやー、サタルドスが良い反応するからお姉さんは意地悪したくなっちゃったよ。ごめんね?」
こいつ、俺で弄んでいたわけか。
こいつだけは後日仕返しをしてやる。
なぜ今やらないのか。
そんなの今仕返ししてしまったら話などできなくなってしまうからだ。
だから、仕返しをするなら後日で。
仕返しのことばかり考えている俺に対し、シハルは冷静にエルフミーラに質問した。
「あ、あの。サタルドスの身に変化が起こったんですけど、それって何か知ってますか?」
「は?俺に変化?」
「この通り本人は全く記憶にないって言ってるんですけど、何かの記憶障害ですかね?」
「そこまで言わなくてよくないか?」
するとエルフミーラは、その正体は何なのかがすぐにわかったように即答した。
「あー、魔人化のことかな?」
「魔人化・・・ですか・・・」
「そう、サタルドスは魔人族だけど完全な魔人族じゃないの」
「おい、エルフミーラ。どういうことだ」
俺はあの日確かに魔人族になった。
だが、完全な魔人族じゃない?
エルフミーラが何を言っているのかわからなかった。
「いい?私たちは確かに魔人族だけど完全ではないの。完全な魔人族になるには魔人化が必要になるわけ」
「それじゃあ、あの時のサタルドスが本来の姿ってことですか?」
「その解釈で間違ってないよ」
完全に話の波に乗れていない。
本来の俺?
いや、今ここにいる俺が本来のあれだろうが。
何中二病みたいな設定作ってんの?
俺は空気のように完全に忘れ去られ、完全に二人だけの世界へ突入していた。
「じゃあ、あの時サタルドスが暴走したのって」
「初めて使ったせいでうまくコントロールができてなかったんだと思うよ?」
「それじゃあ、うまくコントロールできれば・・・」
「暴走はなくなると思うよ」
「よかったー」
あーあー。
何も知らないと本当に中二病臭いな。
暴走?コントロール?
俺いつからそんな設定になったの?
ねえシハルさん。
勝手に設定作らないでくれるかな?
俺にもプライドってものがあるんだぞ?
そこんとこ分かってるのか?
俺の反論は全て心の内に仕舞っておく。
ここで反論したら必ずと言っていいほど面倒なことになるからだ。
「まだ何かあるかな?」
「そうだな。あとはシハルに「災い」のこと話せばいいんじゃないか?」
「そうだね」
そこからは、一度聞いた内容がもう一度再生された。
人間に騙され、裏切られ、見捨てられ、差別され。
そんな俺たちが歴史を変えようとしていること。
そして、俺を除いた五人が「災い」を使って人間に反抗運動をしていること。
何も隠すことなく、全てを打ち明けた。
なぜ、手の内を明かしたのか。
それは何も隠すことはないとエルフミーラも分かっているからだ。
シハルが、迷宮奥地で一人隔離されたこと。
それが彼女にどれだけの苦痛を与えたことか。
暗黒騎士の俺たちにも計り知れない。
だからこそ、彼女なら俺たちのことを分かってくれると思った。
類は友を呼ぶということわざを知っているだろう?
まさにその通りだ。
俺たちは分かり合える間柄だ。
少しの前の俺なら迷わず一人を選んでいただろう。
だが、今は違う。
初対面であんな無礼を働いておいて、親切に相談に乗ってくれるエルフミーラ。
俺を信じてくれるパートナーのシハル。
俺は恵まれているのかもしれない。
もしかしたらまた裏切られるかもしれない。
だが、裏切られても粛正するだけの力が今ならある。
でも、彼女たちが奴らや勇者のように裏切るわけ・・・・・・・あれ?
俺は勇者に裏切られたんだっけ?裏切られたのはヘカベルの奴らだけじゃないか?
まただ。
胸の内がモヤモヤする。
だが、これも金髪の女の子が出てきた夢と同様、錯覚だろう。
要するに彼女たちが裏切らないだろうと思うようになったことがエルフミーラの言う、丸くなったの正体なんだろう。
そして、そんな俺を救ってくれたのは紛れもないシハルだ。
「ありがとな・・・シハル・・・」
「ん?何かいった?」
小声で言ったつもりなのに相変わらず耳が良いな。
まあ聞かれなかっただけマシである。
恥ずかしいからな。
「それで「災い」のことはわかったかな?」
「はい、私もあの人たちに少なからず恨みはあります」
「それじゃあ・・・」
「ただし、条件があります」
「条件?」
そう言うとシハルは俺の腕にくっついてこう告げた。
「私とサタルドスを結婚させてくれれば協力します」
「ちょ!お前何言ってんの!?」
「いいでしょう。結婚を認めます」
「お前は俺の何なんだ!」
全く、そんなに俺で弄ぶのが楽しいのか?
まあ、そんなくだらない会話で笑っている自分も大概だな。
「エルフミーラ、シハルはお腹を空かせてるんだ。何か食えるものはないのか?」
「ありますよ。せっかく仲間が増えたことだし、パーティーと行きましょう」
いきなり席を立ちあがり、鼻歌を歌いながら部屋を出て行く。
そして部屋に取り残された二人。
「さて、何すっか」
「あ、サタルドス。ちょっといい?」
珍しいこともあるもんだな。
俺に相談か?
相談と思われた彼女の話は全く相談の欠片もなかった。
彼女が聞きたかったこと・・・それは・・・・
「私と結婚してくれますか?」
あれって冗談じゃなかったの?
完全に冗談だと思っていた俺は動揺を隠せていなかった。
「え、まじで?」
「まじで」
どうしたものか・・・
求婚されたのは生まれて初めてだぞ?
まあ、大学生までに求婚はないと思うが。
それより、どう答えるのがベストアンサーなんだ?
女性経験が乏しい以上、攻略の仕方が分からなかった。
確かに、彼女がいないと俺はこの先やっていけないのかもしれない。
でもそれが好きという感情と結びつくかと聞かれるとそうではないだろう。
だとしたら、俺はどうすれば・・・
でも彼女には離れて欲しくない。
もしかしたら時間が何とかしてくれるかもしれない。
そう結論に至った俺はシハルの問いに答えた。
「わかった。全てが終わったら、俺たち結婚しよう」
「ほんと!?」
「ああ、約束な?」
「約束ね!」
シハルの小さな小指と俺の小指を使って指切りをする。
こうして婚約を取り付けた二人は食事が来るまで待機しているのだった。