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迷宮脱出

 「シハル、何か脱出への手掛かりはあったか?」

 「いや、何も・・・」


 脱出の鍵となる階段はどこにも見当たらない。

 それに加えて、何か仕掛けという類のトラップもなさそうだった。

 ただの無駄足だったのか?


 「このままじゃ、一向に部屋から出られないな」


 落ちてきたであろう天井を隈なく見渡すも、穴はどこにもなかった。

 じゃあ、俺たちはどうやってこの部屋に紛れ込んだんだ?

 どちらにせよ手掛かりが掴めず、足止めを食らっていた。


 「クソ!」


 俺が壁に拳を打ち付けたその時。


 コン!


 甲高い音が部屋一体に響き渡った。


 あれ・・・もしかして・・・・


 俺はある可能性を見出していた。

 そうと決まれば、


 「シハル!少し離れてろ!」

 「分かった!」


 シハルが反対の壁まで移動したのを確認し、さっそく作業に取り掛かる。

 壁の破壊作業を。


 「うおおおおおおおおおお!」


 拳に精一杯力を込めて、その一撃を放った。

 壁は見事に砕け、部屋一体は砂埃で蔓延していた。

 そのせいでシハルの姿が見えない。

 だが、少し時間が経つと見えなかった彼女の姿も自ずと見えてくるようになる。


 「シハル!大丈夫か!」

 「ゴホゴホ、もう少し加減してできないの?」

 「できないんだ!悪い!」


 正直、力の加減をしたことがなかった。

 こういう場合は適当にあしらっておくのが妥当だろう。


 「そんなことよりも、見てみろ!」


 そう言うとシハルは俺の元へ近づき、その壁の向こうを覗いた。

 するとそこには、上へと繋がる登り階段があったのだ。


 「隠し階段があったなんて・・・・」

 「とりあえず、登ってみるしかないな」


 ここまでやっておいて登らないのは明らかに損だ。

 というか、登らないと何も得るものもない。

 俺達は地上層へと戻るために登らざるを得なかった。


 「行くぞ」

 「はい」


 二人はこの先に何があるかわからないその階段を進んでいったのだった。



登り階段を抜けた先には、一つの古びた扉が不気味に佇んでいた。


 「なんだ?これ・・・」

 「わからない。でも開けよう」 

 「・・・は?」

 「え?」


 今開けるって言った?


 シハルの好奇心旺盛には驚かされる。

 こんな不気味な扉を誰が好き好んで開けるものか。

 正直恐怖でしかない。

 だが、シハルの目はキラキラと光っており、まるで早く開けたいと言っているようだった。

 まあ、開けなければ何も始まらないのだが・・・


 「これは何かのトラップか・・・?」

 「そんなわけないでしょ。ほら!」

 「ちょ、おま!」


 俺の話を聞くことなく、勢いよくその扉をオープンした。

 何かのトラップが発動したか?

 だが、特に何も起こらなかった。

 

 「全く、何なんだよ・・・」

 

 びくびくしていた自分が情けない。

 その扉の先にある光景をゆっくりと見渡す。


 「これ・・・て」


 目の前に広がっていたのは紛れもない書庫だった。

 大分古びており、最近この書庫を使った形跡はない。


 ここには何があるんだ・・・?


 部屋に入り、試しに1冊だけ手に取って表紙を見てみる。

 そこに書かれていたのは、


 「記録簿?」

 

 どうやらこの世界の事象を記録された書物らしい。

 手に取ったのだから試しに読んでみよう。

 俺はその記録簿の1ページ目を開いた時、おかしな点に気が付いた。

 

 「なんだ・・・これ・・・」


 その記録簿の1ページ目は、何にも怪我されることのない純白の1ページでその後をめくっても眩いほどの白い紙が連なっているだけだった。

 それだけじゃない。

 本来そこにあるであろうページが複数に渡って破り捨てられていたのだ。

 恐らく、筆者か何者かが破り捨てたのだろう。

 見られてはいけない何かが書かれていたはずだ。

 だが、この書物の内容を知らない以上、予測もくそもなかった。

 これはお手上げだ。


 「他に何か・・・」


 手あたり次第、書物を手に取ってみるも、「稲作の方法」だったり、「どうしたらモテるのか」など大変どうでもいいものばかりだった。

 ここの司書さんは一体何を考えて、この書籍たちを集めたんだろう。

 そんなわけで、ここでの収穫はゼロだった。

 そう思われたが、シハルが何やら一つの書物を持ってきた。


 「何かあったのか?」

 「これが面白そうだなって」

 「へえー、どんなのだ?」

 

 覗き込むようにシハルが持つ書籍の表紙を見てみる。

 表紙は、綺麗な彩の絵が描かれており、難しい文字は使われていない。

 そう、彼女が持ってきたのは、


 「これ、子供向け絵本じゃねーか!」

 「え!?そうなの!?」

 「どっからどう見てもそうだろう!」


 全く、何を持ってきたと思えば・・・


 だが、ここにある書物は何かの形で役に立つかもしれない。

 「道具」ストレージの半分は埋まってしまうが、やむを得ん。

 

 「ここの本を全て持ち帰る。シハル、片っ端から集めてくれ」

 「了解!」

 

 敬礼をしたシハルは書物の回収へと向かっていった。

 そして、全ての書物を「道具」ストレージに入れるための所要時間は2時間とかかってしまった。


 「さて、地上に出る手掛かりはないものか」

 「あ、そういえば何か魔法陣?みたいなのあった」

 

 シハルの話によると、書物回収の際に発見したらしい。

 早速案内してもらうと、何やらインチキ臭い魔法陣がそこに。


 「これ、クレヨンで書いた落書きに見えるぞ?」

 「そうですか?」

 「まさかだと思うが、シハルが書いたんじゃないよな?」

 「書いてない!」


 頑なに否定するシハルに疑いの目を向ける。

 まあ、とりあえずこの魔法陣の上に乗ってみるか。

 そして俺とシハルは魔法陣の上に乗った。

 だが・・・何も起こらなかった。


 「やっぱりシハルのし・・・」


 その時、魔法陣が白く輝きだしそのまま白の世界へと吸い込まれていった。

 

 しばらくして目を開けてみると、辺りは真っ暗だった。

 空気は澄んでいて木の匂いが漂っている。


 間違いない!外に出られたんだ!


 ずっと願っていた外の世界への帰還。

 計画をやっと進められる。

 日は沈み、辺りは暗いが問題ない。

 さっそく取り掛かることに。


 「シハル!これから・・・」

 ぐうううううー・・・


 誰かの腹の虫が鳴り響いた。

 俺ではない誰か。

 無論一人しかいなかった。


 「お腹空いたー」

 「後でな」

 「えー、これじゃあ戦えないよー」

 「町は入れないだろうし・・・そしたら」

 

 シハルの手を取り、天に向かってこう告げた。


 「テリトリー」


 すると魔界への入り口は簡単に開かれ、吸い込まれるように魔界へと向かったのだった。

 

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