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覚醒

 違う・・・サタルドスじゃない・・・。


 これは何かの間違いだ。

 目の前にいる邪悪なオーラを纏った彼が、親切にしてくれたサタルドスなわけがない。

 そう切に願う。

 だが、どんなに彼じゃないと否定しても彼であるという事実は変わらない。


 「おい、シハル。邪魔だ下がってろ」

 「違う・・・サタルドスじゃない・・・」

 「いいから下がれ。これは命令だ」

 

 その瞬間、全身に強烈な痛みが襲ってきた。

 痛い。

 声が出ない。

 呼吸すらまだまともにできないというのに、追い打ちをかけるようにシハルを苦しめる。


 「カハ・・・!」


 彼の命令を聞かなかった罰のように胸が締め付けられる。

 まるで奴隷にでもなった気分だ。

 奴隷になったのか?

 いや、奴隷にはなっていない。

 だったらこの痛みは?

 もしかして、あの悍ましい姿を見て恐怖が痛みへと変換されたのか?

 シハル自身もよくわからない。

 今は痛みに耐えるべく、蹲ることしかできなかった。


 「ったく、もういい。邪魔にならないようにそこに居ろ」

 

 すると彼は、蹲るシハルを見捨ててキメラへと向かっていった。

 キメラはというと、すでに完治した様子だ。

 そして激しい威嚇を彼に見せつけた。


 「ゴオオオオオオオ!」

 「上等だ」

 

 そう言うと彼は漆黒の羽を具現させる。

 だが・・・

 

 「あ・・・あれは・・・!」

 

 シハルの脳内は恐怖の感情で埋め尽くされ、鳥肌が止まらない。

 目の先に映った光景は、禍々しい羽を生やした彼の姿が。

 見るからに普通の魔人族だとは思えない。

 その姿を見て、彼がどこか遠くに行ってしまうんではないか?

 気が付けばシハルは叫んでいた。


 「サタルドス!ダメーーーーーー!」

 

 だが、シハルの悲痛の声は彼に届かない。

 その邪悪な翼を仕舞うことなく、天に舞い上がった。


 「ギャアアアアア!」

 

 ドラゴンは先ほどのレーザービームを繰り出そうとしている。

 だが・・・


 「ギャアアアア・・・」


 レーザービームを放つことなく、ドラゴンは大人しくなってしまった。

 それどころか、弱体化しているように見える。

 彼が何かしたのだろうか?

 恐らく何もしていないだろう。

 彼はキメラを見つめているだけだった。


 「ゴオオオオオオオ!」


 ドラゴンの弱体化により、次は獅子顔が光線を充填を試みる。

 結論から言うと、その攻撃も不発で終わってしまった。

 一体この戦況に何が起こってるのか?

 シハルには分からなかった。


 「ふん、この程度か・・・」

 「ゴオオオオオ・・・」

 「メエエエエ!」


 一番右に位置するヤギがドラゴンと獅子顔を回復している。

 いや、そもそも攻撃すらしていないのに何を消耗したのか。

 だが、キメラが追い込まれているのだけは見てわかった。

 回復が間に合っていないのだろう。

 キメラは焦っている。

 彼は素早く足を地につけ、動きもしないキメラに暗黒の剣を振るった。

 だが、キメラには近距離攻撃無効化が付与されている。

 効くはずが・・・


 「メエエエエエエエ!」


 刃はバリアに阻まれることなく、ヤギ首を持っていった。

 その風圧で後ろに佇んでいた人像は真っ二つに。


 「これで回復はできないだろう?」

 「ゴオオオオオ・・・」


 なんでキメラに近距離攻撃が・・・?

 いや、今はそんなことはどうでもいい。

 こっちが優勢に立ったのだから。


 「ゴオオオオオ!」


 キメラの攻撃パターンは物理攻撃へと変わった。

 地に足をつけた彼に、隙を与えないように連続して攻撃を繰り出してくる。

 そして彼は、回避をしながらキメラにはついていない翼を駆使して飛び上がった。

 これでキメラは彼に攻撃ができない。

 だが・・・


 「ゴオオオオオオオ!」


 キメラは有ろうことか、その背中にドラゴンの翼を作り出した。

 どうやら隠し玉を持っていたらしい。

 そのキメラの様子をじっと見ている彼の表情はピクリとも動かない。

 まるで予想通りだったように・・・


 「ゴオオオオオ!」

 「ふん、くだらない・・・」


 彼はキメラに急接近する。

 キメラは太刀打ちするかのように物理攻撃を繰り出した。

 しかし、彼の狙いは・・・

 

 「ゴオオオオオ!」

 

 キメラの攻撃を綺麗にかわし、奴の背中に鋭い刃を入れる。

 綺麗にそがれた羽は天高く舞い、そして消失した。


 「どうした?もう終わりか?」

 「ゴオオオオオ・・・」


 だが、どうしてだろう?

 これほどの実力差。

 簡単にキメラを殺せるはずなのに。

 なんで・・・?

 その奇妙な光景にシハルはある疑問が思い浮かんだ。


 「まさか・・・、いたぶって遊んでる・・・?」


 そう思えばいくつか思い当たる節はあった。

 ヤギ首を跳ね飛ばした時、後ろの人像を切り裂くほどの凄まじい火力が出ていた。

 なぜそれほどの高火力を兼ね備えながら他の首を斬り落とさなかったのか。

 それに先ほどの翼を狙った攻撃。

 あれも間違いなく、キメラを仕留められたはずだ。

 それらを複合して考えると、やはりキメラで遊んでいるようにしか見えなかった。

 

 「サタルドス・・・」


 そのようなことを、脳内でちらつかせているからだろうか。

 彼の顔から悪魔のような邪悪な笑顔がにじみ出ているようだった。


 もう・・・いいから・・・元のサタルドスに戻って・・・。


 だが、シハルの思念は彼に届くわけがない。


 「ほら、その後ろで待機している蛇の能力を見せてくれよ」

 「ゴオオオオオオオオオ」


 キメラは最後の力を振り絞って尻尾となっている蛇の能力を使った。

 

 「ほう、これが能力か」


 足の指先から徐々に動かせなくなっていく。

 まるで石のように。

 どうやらこの蛇の能力は「石化」。

 蛇に石化ときたら誰でもメデューサを思い浮かべるだろう。

 メデューサと目を合わした者は石化する。

 まさにその尻尾からなる蛇と目と合わせた彼は段々とその身を封じられていく。

 このままでは完全に石にされてしまう。

 そう思っていたのだが・・・


 「おい、なんでそこでやめるんだ?」


 石化現象は彼の足元て急に止まった。

 キメラはぐったりと地面に伏せている。

 どう見ても魔法が切れて弱体化していた。

 早く彼を止めなくては。


 「サタルドス、キメラは弱ってる。だから・・・」


 彼女がそう言いかけた途端、サタルドスの目つきが変わった。

 鋭い眼光をシハルに向けこう告げた。


 「邪魔するなと言っただろう?邪魔するなら殺す」


 そう言われた以上、シハルは何も言うことができなかった。

 それに加えて、恐怖で体を動かすことができない。

 ただ、彼のやること成すことを黙って見つめること。

 それがシハルに課せられた使命だった。


 「さて、邪魔者は消えた。あとはお前だけだ」

 「ゴオオオオオ」


 憔悴仕切っているキメラに、彼は殺意の目を持って見つめる。

 口出しすることはできない・・・・

 邪魔したら殺されるのだから・・・・


 「なあ?なんだこの中途半端な石化は?」


 彼は下半身に力を入れることなく、禍々しく漂う、闇のオーラだけで石化を打ち消した。

 完全な化け物だ。

 シハルの恐怖は、一段と増して全身を支配した。

 そして、石化を解除した彼は、キメラの獅子顔に右足を力強く踏みつけた。


 「ゴオオオ・・・」

 「なあ?どうした?さっさと答えろよ」


 反撃したくても魔法は全て使い果たした。

 抗う術を持たないキメラに拷問のような残虐を施す。


 こんなの・・・・サタルドス・・・じゃない・・・。


 「なあ?早くしろ」


 一段と力強く踏みつけ、獅子顔は原型を留めないほどに潰されてしまった。

 そして消失していく。

 

 「ったく、手ごたえねーな」


 残るはドラゴンの首と尻尾の蛇。

 1匹ずつ殺そうとしたその時だった。


 「・・・・・・ッグ、ガハ・・・ハアハア・・・」


 彼の様子がおかしい。

 そこにあるであろう心臓を必死に抑えている。

 

 「何が・・・起こってるの・・・?」

 

 彼女が口にした、その時だった。


 「グアアアアアアアアアアアア!」

 

 彼の雄叫びと共に黒炎が彼を中心に数メートル取り囲む。

 もちろんキメラは餌食となった。


 「ギャアアアアアアアア!」

 「シャアアアアアアアア!」


 キメラの悲痛の雄叫びは黒炎に飲み込まれ、黒炎が収まった頃にはキメラの姿は跡形もなく消し去り、その場には彼、ただ一人が取り残されてた。

 いつもの姿に戻って・・・。


 「サタルドス!」


 シハルが彼の名前を呼び掛けたと同時に、彼は・・・


 ドサ・・・


 受け身も取らないで、倒れ込んだ。


 「サタルドス!」


 シハルの声だけが静寂の部屋に響き渡った。

 


 

 

 

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