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奈落の底へ

 扉の先には地上へと繋がっているであろう、昇り階段が暗闇の先まで永遠と続いていた。


 「これを登らないとな」

 「うん」


 その永遠と続いている階段を見ているだけでしんどさが、今までの倍に膨れ上がって身体に襲い掛かってくる。

 まあ、どちらにせよこの階段を登らないといけないんだが。


 「とりあえず登るぞ。行くぞシハル」

 「うんー」


 気が抜けたように返事を返すシハル。

 彼女は感情が表に出やすいのだろう。

 ものすごく気怠そうだ。

 彼女を見ているだけで、自身のしんどさがさらに上乗せされていくのが分かる。

 だが、しんどいと言っている時間はない。

 勇者一味が軍備を強化する前にこちらも戦力強化しなくては。

 勝てる勝負も勝てなくなってしまう。

 一刻の猶予もなかった。

 

 「ほら、またおぶってやるから」

 「飛行しないって言うならお願いします」

 「そんなに飛行が怖かったのか?」


 空を飛ぶこと自体は恐怖ではなかった。

 寧ろ、シハルは生まれ変わったら小鳥になりたいと思っていたぐらいだ。

 だが、俺の飛行能力は小鳥という生易しいものじゃない。

 ただの暴走列車だった。

 ひたすら走る暴走列車の空気抵抗は相当なもの。

 それに引き離されないように抵抗するのは、体力が尋常じゃないほど消耗される。

 あんな苦労はもうしたくない。

 だから、飛行のお断りを入れたのだ。

 

 「まあ、シハルがそれでいいって言うなら・・・」


 先ほどと同じようにシハルの前に座り込み、背中を差し出す。


 「お願いしまーす」


 そう言うとシハルは全体重を俺に乗せ、身を任せた。


 こいつさっきより重くないか?


 1日でここまで重くなることは人間の性質上有り得ない。

 ということは、さっきは全体重を乗せていなかったんだな。

 彼女の疲弊具合がよくわかる。


 まあ、それだけじゃないだろうが・・・

 いや、考えるのはやめよう。


 考えるだけで疲労感が増してくる気がする。

 ここで弱音を吐いたら男が廃ってしまう。

 俺は力の限りシハルを持ち上げた。


 「行くぞ」

 「うん」

 

 二人は先の見えない階段を登っていったのだった。



 登り始めてから10分後。

 何かが聞こえる。

 耳をよく澄まして音を感じ取る。

 

 スゥスゥ・・・・スゥスゥ・・・・

 

 どこかに風が吹き抜けているところがあるのか?

 音の根源を探すためにさらに耳を研ぎ澄ます。


 スゥスゥ・・・・スゥスゥ・・・・


 どうやら、近くに地上と繋がる裏道があるようだ。

 だが、辺りは暗い。

 1人で裏道を探し出すのは、多大な時間がかかってしまう。

 人手が必要だった。


 「シハル」

 「・・・・・・・・・・」

 

 名前を呼んでも反応がない。

 まさか、もう名前忘れたとか?

 いくら馬鹿でもそこまで馬鹿じゃないか。


 「おい、シハル」

 「・・・・・・・・・・・」


 やはり反応がない。

 シハルが俺を無視することはこの短期間ではなかった。

 ここで反抗期か?

 だが、シハルに協力してもらわないとこには先に進まない。


 「おい、シハ・・・」


 そう言いかけた途端、風の音が一気に近づいた。

 それと同時にシハルの顔が俺の耳元に大きく近づいた。

 この2つの事象からある1つの結論を見出した。

 それは・・・


 「・・・・・寝てるのか?」


 彼女の現状況の確認を取るべく、俺は顔をシハルの顔がある方へ向けた。

 すると、そこには可愛い目と鼻がついた美女がいた。

 ルビーの瞳は瞼という障害物に覆われ、サラサラの綺麗な紫色の髪が肩を通して垂れている。

 それに追い討ちをかけるように女の子特有の甘い香り。

 その香りが俺の鼻を通して脳に伝わり、脳が心臓の鼓動を早くするよう命を下す。

 そして、それと同時に俺の脳内で危険信号が発令される。

 

 「これはまずい・・・」


 何か他のことを考えなくては・・・

 だが、その必要はなかった。

 シハル自身が俺の危険信号を解除してくれたのだから。


 「んんー・・・・」


 俺の耳元で唸り声を出すシハルの口からはダイヤモンドのように輝く聖水がゆっくりと垂れ始めていた。

 そう、よだれである。


 「おいおい、まじか・・・」


 自分の装備に彼女の聖水がしみ込み始める。

 まあ・・・いいか。

 ここで起こすのも可哀そうだし・・・・それに・・・・


 「こんなに可愛い子のよだれは、ご褒美に近いよな」

 

 自分でも気色悪いことを言っていることは分かっている。

 だが、こうでも認識しておかないと自分が壊れてしまうと思ったからだ。

 可愛い子のよだれはご褒美・・・・可愛い子のよだれはご褒美・・・・

 自分の脳内にしっかりと叩き込んでおく。

 

 「さて、登るか・・・」


 再び、足を動かし始める。

 だが、いくら登ってもゴールが全く見えてこない。

 もしかして永久階段に登ってしまったのか?

 ここにきて階段を登ってしまったことへの後悔が芽生え始めてきた。

 それにプラスして足が限界ときた。

 

 「おい、起きろシハル」

 「んー?もう着いた?」

 「着いてるわけないだろ。そろそろ足の限界なんだ。一旦休憩させてくれ」

 「わかった」


 シハルは俺の背中から飛び降りた。

 急に体が軽くなった気がした。

 まあ当然だろう。

 シハルの重量分、マイナスされたのだから。


 「悪いな・・・」

 「いや、私こそごめん。サタルドスが疲れることしちゃって・・・」

 「シハルの謝ることじゃない」


 そして俺は階段の僅かな足踏み場を利用して、壁にもたれ掛かるように腰かけた。

 ・・・・その時だった。

 視界がいきなり遠のき始めた。

 貧血か?

 いや違う・・・これは!

 ここで俺は理解した。

 もたれ掛かっていた壁が消えて、落っこちていることに。

 シハルも俺を助けようと手を伸ばしたが、一緒に自由落下の餌食となってしまった。


 「きゃーーーー!」

 「シハル!」


 俺は漆黒の翼を使って、悲鳴を上げるシハルを救助した。

 前の俺だったらどうすることもできなかっただろうにな。

 だが、今までの疲労が募り、自由落下に抵抗する力も残ってない。

 上手く羽を利用して、落ちていくしかなかった。

 こうして二人は、奈落の底まで落ち続けたのだった。


  

 

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