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襲撃の意味

 迫りくる炎の矢をどうにかして対処しなくてはならない。

 とりあえず、シハルを守ることが最優先だ。


 「シハル!俺の後ろに隠れとけ」

 「わかった」


 誰だ?こんなショボい悪戯を仕掛けてくる連中は?

 俺の邪魔をするってか?

 なら容赦なく殺すぞ?


 一度仕舞い込んだ刀を再び具現させ、構えを取る。

 第一にこんな中途半端な魔法矢に俺がやられるとでも?

 精一杯刀に力を込め、素早く一線を引いた。

 するとどうだろう。

 俺たちに向かってきていた炎の魔法矢全てを、地面に自由落下させた。

 刀による風圧によって。


 「サタルドス・・・・凄い・・・」

 

 圧倒的な戦況に端的な感想を述べるシハル。

 

 「まだだ。まだ後ろに隠れておけ」

 「わ、分かった」


 俺の装備の背中をぎゅっと握りしめるシハル。

 さっきの魔法矢の数にして恐らくソロじゃない。

 だとしたらこの戦況は少しきついだろうか?

 俺の背後にはまだ戦えないシハルという女の子が一人。

 全く、タイミングがあまりにも悪すぎるが、世界をぶっ壊すためにこんな雑魚で足止めを食らうわけにはいかない。

 だが、足止めを食らう他なかった。

 その理由は・・・


 「敵の姿が見えない」

 

 辺り一面を見渡しても敵の姿が一人にして見えない。


 何か特殊なステルス・スキルでも使ったのか?

 それとも敵は存在していなかった?

 だが、俺でもシハルでもない声が聞こえてから魔法矢による攻撃を受けた。

 敵は必ずいるはずだ。


 全集中を戦況に向ける。

 そんな中、ふとその声について何かを思い出しそうになった。

 

 「そういえばどこかで聞き覚えのある声だったような・・・」


 若くて可憐な響きのある声。


 どこだ?どこかで聞いた声だ・・・どこで・・・


 意識が戦況から脳内へと移行したその瞬間を突かれた。

 

 ガチン・・・


 俺はギリギリのところで刀で回避した。

 今でも均衡が続いている状態だ。


 「へえ、やるじゃない」


 声の主がする方に視線を誘導させると、その人物は目の前にいた。

 刀と短剣は交じり合い、武器越しにあったその姿は、長髪の赤毛をハーフアップにした女の子で髪の色と同色の装備を身に纏っている。

 間違いない、奴だ。


 「よお、久しぶりだな?勇者様?」

 「あら?どこかで会ったことあったかな?」


 彼女がこういうのも無理はない。

 当時は俺の髪は黒髪で、こんな魔の化身のような装備をしていなかった。

 知る由もない。

 

 「まあな」

 「あなたみたいな化け物は私の知人リストにいないかな?」

 「へえー、化け物・・・ね」


 何か特殊なオーラが漏れ出ているのだろうか?

 化け物認定するには何かしらの根拠があるはずだ。

 まずはそれを聞き出さなくては。

 

 「なんで化け物だと思うんだ?」


 ようやく均衡は解け、彼女が大きく飛び上がり後ろに後退した。

 よほどの余裕があるのか?それとも恐怖で致し方がないのか?

 彼女は素直に俺の問いに答えた。


 「さっきの上級魔法矢を風圧だけで簡単に振り払ったからね。あなたは一体何者?」

 

 何者・・・か。

 そう尋ねる彼女に正直に答える。

 というか、隠す必要なんてこれっぽっちもない。


 「魔人族だ」

 「魔人族か・・・」

 

 その単語を聞いた途端、彼女は武器を収めてしまった。


 「殺し合いするんじゃないのか?」

 「いや、死にそうだからやめておくよ。私は無謀な戦いをしない主義だから」

 「そうか、命拾いしたな」

 

 だが、このまま逃がすわけないだろ?

 お前たち勇者はいずれ脅威になるんだからな。

 殺せるときに殺しておかないと。


 俺は素早く彼女に近づき、赤毛の彼女に斬りかかった。

 刀が斬り裂く一線は完全に彼女の心を捉えていた。


 とった・・・・・・


 だが、斬り裂いても彼女からは本来出るはずの物が一切出てこない。


 こいつは・・・・・・幻影か。


 彼女はふっと姿を消し、その場には彼女の声だけが響き渡った。


 「伝承の魔人族が存在したとはね・・・これは軍備の強化に当たる必要がありそうだ・・・」


 彼女の言葉はそこで途切れ、場には沈黙が数分間に渡って続いた。


 「サタルドス?」

 「チッ、やられた」

 「やられたって?」

 「こっちの情報だけ持って逃げられたってことだ」


 奴らの目的は威力偵察と言ったところだろう。

 攻略難易度が高いこの洞窟に足を踏み入れた人物がどういう人柄なのかを。

 だが、問題なのは・・・


 「奴らはどうやって俺が入ったことを確認したんだ?」


 防犯カメラらしき器具は見当たらなかった。

 それじゃあ、この洞窟の前にいた群衆がチクったのか?

 いや、奴らは殲滅したはず・・・

 さまざまな推測の元、可能性として考えられるのはやはり・・・


 「群衆はあれだけじゃなかったのか」


 ドラゴンを倒したのが引き金になったとも考えた。

 だが、それだと奴らがこのようなトラップを仕掛けてくるまでに時間があまりにもない。

 この説が立証だとするならば、奴らの対応の速さは凄まじいものになる。

 奴らは人間。そんな力は持っていないはずだ。

 だとすれば、群衆の生き残りがチクったという説が妥当と言えるだろう。


 「クソ、してやられた」

 「サタルドス、この後はどうする?」

  

 奴らは軍備を強化すると言っていた。

 敵に力をつけられては、俺はともかくシハルが苦しいだろう。

 だったら、やることは決まっている。


 「シハル自身の強化をするんだが・・・その前に」


 2人にはやることが沢山ある。

 1つずつ片付けなくてはならなかった。

 そして手始めに・・・


 「魔界に行くぞ」

 「ま、魔界!?」

 「魔人族だからな。大丈夫、何かあれば俺が守る」

 「うん・・・」


 方針が決まったところでさっそくこの迷宮を脱しなければならなかった。

 赤毛の彼女の到来により、運良くも扉は開けっ放しだ。

 

 「行くぞ、モンスターがいればシハルに倒してもらうからな?」

 「うん!頑張る」


 二人は、薄暗い部屋から扉を通じて飛び出たしたのだった。

 

 

   

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