疑問その2
俺の突然の言動に硬直するシハル。
硬直がゆえに、一言一句が片言になっていた。
「ワタシガ・・・ハダカ?」
「そうだと言っているだろう」
全身に行き渡る硬直のうち、首だけがどうやら解除されたらしい。
シハルはゆっくり下を向き、自分の姿を確認した。
その眼の先に映っていたのは、すっぽんぽんの自分だった。
「え!?なんで私裸なの!?」
そう言いながら、襲い掛かるように俺の方を見た。
それはまるで変態を見つけたような顔で。
言っておくが、俺は変態ではないからな?
第一に、今日初対面だろうが。
そして彼女が放った最大級の一言。
それは・・・
「サタルドスのエッチ・・・」
「俺じゃないって言ってんだろ!」
クスクスと笑い声を出すシハル。
全く、悪い冗談はやめてくれ。
そんな茶番はさておき、とりあえずシハルに着せるものを自分の「装備庫」の中から探すことに。
まあ、装備を買ってない以上あるはずがないのだが・・・
しかし、事態は急変した。
「何か入ってるんだけど・・・」
何かの装備が一式収納されていたのだ。
覚えのない装備一式に、身の毛がよだつ。
誰でも見覚えのないものが自分のストレージに入っていたら恐怖を感じるだろうが、この場ではこの装備を使い、自分の着ている装備をシハルに着せるのが最善の選択だった。
こうなったらやるしかない。
だが、無知の状態で装備を装着するのはどう考えてもよろしくない。
だから何としても詳細は確認しなくては・・・
「詳細は・・・」
詳細を調べるべく、その装備マークを押すと詳細は簡単に姿を現した。
この装備の正体。
それは・・・
「「憤怒」の暗黒騎士装備・・・か・・・」
こんな装備があるなんて聞いていないぞ!
まあ奴らに聞かなくてもステータスだけ見て他を確認しなかった自分の責任だ。
奴らを責めても仕方がない。
「とりあえず装備してみるか」
迷わず、詳細画面から装着ボタンを押した。
すると、俺の装備一式は「おたずねもの」装備から「「憤怒」の暗黒騎士装備」へとチェンジを果たした。
暗黒騎士の装備は、黒のローブが特徴のおしゃれを重視した装備だった。
「おたずねもの」装備とさほど変わらない。
変わるとするならば・・・
「なんで胸の部分がこんなに空いてるんだ・・・」
やけに胸部の部分が開いている。
もしかしたら胸筋が凄い人とかが着たらかっこいいのかもしれない。
だが、俺は元平凡な学生なので、マッスルボディを獲得していなかった。
そんな俺がこんな装備を着てもちっともかっこよくない。
だが、一人の人間の見解は違うようだった。
「えー!サタルドスかっこいいね!」
「そうか?もっと胸筋あった方がかっこよくないか?」
「まあー、それはあるよね」
「あるのかよ」
包み隠さず言ってくれるな?この小娘は。
だが、やはり胸筋があった方がかっこよく見えるようだ。
筋トレしよう・・・
俺の装備の感想はさておき、まずはここにいる赤裸々のシハルを何とかしなくては。
「装備庫」から「おたずねもの」装備を取り出した。
「ほら、これ着とけ」
「あ、うん。ありがとう」
シハルはさっそく「おたずねもの」装備を装着した。
すると、不可解なことがシハルの身に起こった。
正確には「おたずねもの」装備に起こったのだ。
「形状が・・・変化した?」
これまで装着していた「おたずねもの」装備の形状ではなく、いかにも女性向けに作られた形状に変化したのだ。
とても不思議な事象を目の当たりにした。
この事象の解明はどんなに優れた理系でも解き明かすことは困難であろう。
もし、解き明かすことができればノーベル賞も夢じゃない。
まあ俺は理系じゃないから考えるだけ無駄なのだが。
夢を捨て、現実を見よう。
そして、俺は最初の話の段階に巻き戻した。
「んで?なんでシハルは裸だったんだ?」
好きで裸になる人間なんて裸族以外ありえないだろう。
また、どうせわからないとか言うんだろうな。
その推測も大抵当たってしまうのはシハルという女の子だった。
「わからない・・・」
「お前・・・わからないこと多すぎだろ。そこまでくると何かの事件の匂いがするぞ?」
この紫色女子は謎が多すぎる。
ヘカベルにいた時何かあったのか?
いや、あったに違いない。
あのヘカベルのことだ。
またクソくだらないことでもしたんだろう。
だが、記憶を奪うとかマジでやることが卑劣で汚いな。
軍事力があれば潰せるのに・・・
そんなことが頭の中を過った瞬間、名案が思い付いた。
「そうか、ヘカベルにはあの貴族がいたな。あいつを殺して奴隷を奪い、軍事力を上げるのも悪くないな」
「ん?何か言った?」
「いや、なんでもない」
奴隷を奪い取るのは凄い名案だ。
だが、その奴隷と必ずしも良好な関係を築けるとは限らない。
シハルについたドラゴンの紋章にそのような効力があればいいのだが。
まあそんな効力はないだろうが、奴隷を奪い取り、従わせるのはやってみる価値はあるかもしれない。
だが・・・、
ふと視界にシハルが入った。
問題はこいつだよな・・・
モンスターをも殺せない小心者。
果たして人間を殺せるだろうか?
いや、無理だろう。
最初はシハルを鍛え上げるのが優先だ。
まあ、誰かを鍛え上げるのはやったことが・・・・・・・あれ?
まただ。この違和感は何なんだ?
俺が鍛え上げた?
誰を?
誰にも頼らずここまで来なかったか?
誰かの思念が俺に伝わってきているのか?
この違和感が脳に詰まっているようで気持ちが悪い。
すぐさま排除したいところだが、原因物が分からない以上取り出すことができない。
頭を抱えても何も思い出すことはない。
「クソ・・・」
「ねえ、サタルドス?」
「ん?なんだ?」
シハルが黙って人差し指を指す方を見てみると、先ほどの扉が佇んでいる。
殴ってもびくともしなかった頑丈な扉。
変わりようがないように見えたが、それはあくまで瞬間的にだ。
目を凝らし、よく見てみると少しづつだが扉が開いているのが分かった。
「やった、これでようやく・・・」
「ちょっと待てシハル」
走って扉に近づこうとする彼女を止めた。
その真意をシハルが汲み取れるはずもない。
「サタルドス?」
「明らかにおかしい。さっきまでびくともしなかった扉が一人でに動き出すなんてありえない」
何かの罠か?
それともボスの出現か?
それとも・・・
その時だった。
「以外にも良い感しているのね」
その言葉と同時に扉は開かれ、複数の炎の矢が逃げ場をなくすように俺達に目掛けて飛んできた。