表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/48

今後についての会談

 「お前、今何て言った?」


 聞き間違いだろうか?

 今、俺の目の前にいる彼女は今日あったばかりの俺の嫁になると言ったのか?

 いやいや、冗談でも言っていいことと悪いことがある。

 それに俺は魔人族で彼女は人間族。

 どう考えても釣り合うわけがないし、分かり合えないだろう。

 モンスターですら殺せない彼女に俺のパートナーが務まるわけがない。

 要するに彼女は俺のパートナーとして相応しくないということだ。

 彼女の返答次第では断ろう。


 そう心に決めた俺は彼女の返答を待つことに。

 そして、ルビー色の瞳は一段と眩い輝きを放ち、その眼が消えゆくようにニッコリ笑ってこう告げた。


 「あなたの嫁になるって言ったんだけど?」

 「いや、俺に嫁なんていらないから。じゃあな」

 「あ、ちょっと待って!」


 彼女が精一杯俺に手を伸ばすもその手は届かない。

 彼女を置いてすたすた歩み続ける俺の背中に語りかける。


 「どうして・・・?」


 どうしてってそんなの決まっているだろ?

 もう足手纏いはいらないんだよ。

 でも、さすがに自分の気持ちをストレートに彼女にぶつけるのは気が引ける。

 何か良い感じに遠回しに断る方法はないだろうか。

 彼女が嫁入りを諦める良い方法は・・・

 一度足を止め、考えてみる。

 だが、俺が考えている間に時間は止まることはない。

 二人の間にしばらくの沈黙が流れていた。

 何も思いつかないな・・・しょうがない。

 先に口を開き、言葉を放った。


 「もう、俺にはパートナーいらないんだよ」

 「なんで?」

 「なんでもだ」


 そして俺は再び歩み始めた。

 

 「納得できない!何かあるならちゃんと話してよ!」

 

 走って俺の元に向かい、服の袖部分をグイっと自分の方へ引っ張る。

 ったく、しつこいな。


 「あのな、そもそも初対面の俺にいきなり嫁にしてくれとかお前頭大丈夫か?」

 「私はあなたに何か恩返しがしたいの」

 「恩返しね」

 

 さすがにこの質問は自分でも酷いと思う。

 だが、彼女に諦めてもらうにはこうするしかなかった。


 「それじゃあ、お前は人間を殺せるか?」

 「え・・・?」

 「全てを敵に回す覚悟があるか?」

 「それは・・・」

 「世界を変える意思はあるか?」

 「・・・」


 いくら人間をやめたとはいえ、さすがに胸が締め付けられる。

 だがこの問いに答えられない以上、彼女は俺についてこられるわけがない。

 まあ、これで諦めてくれるなら願ってもない話なのだがな。


 「それじゃあな」


 その場を立ち去ろうとするが、彼女が掴む袖から一向に手が離れない。

 

 「早く離してくれないか?」


 下を俯く彼女は精一杯首を振った。

 完全に面倒ごとに巻き込まれたな。


 「あのな、モンスターも殺せない人間が俺についてこれると思ってるのか?俺は世界を変えるために全てをぶっ壊す。それを邪魔する奴は殺す、それが例え人間であってもな。お前みたいな小心者についてくる資格はない。邪魔なだけだ」


 隠してた本性が露わになってしまった。

 人間をやめたくせに気分が最悪だ。

 なんでこんな気分になるんだ?

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 さっさとこいつとは別れよう。


 「もうわかっただろ?お前は俺に恩返しができるわけがない。諦めろ」

 「・・・・やだ。恩返しする」


 強情なやつだな、全く。

 そろそろ諦めてくれないかな。

 いい加減、痺れを切らしそうになる俺に彼女はつぶらな瞳で彼を見つめていた。

 だが、いくら見つめても心境の変化は微動だにして起こらない。


 「邪魔するならお前も例外じゃないぞ?そろそろ俺も我慢の限界なんだが」

 「・・・・わかりました」

 

 彼女は顔に似合った小さな声でそう呟いた。

 そうか・・・死ぬ覚悟ができたんだな・・・

 その容貌は大変美しいものであるがやむを得ない。

 邪魔するものは斬り捨てる、それだけだ。

 俺が刀を構えたと同時に彼女が放った一言。


 「私、やります!」


 ・・・・・・・・・・・・は? 

 何をやる?全く理解できなかった。

 気が付けば構えていた刀に力が抜けていた。

 それにしても、やりますってどういうことだ?

 やられますの間違いじゃなくて?

 彼女の話の真意がいくら読み取ろうとしてもわからなかった。


 「どういうことだ?」

 「だから、あなたに恩返しできるように頑張ります」

 

 あー、そう言うことか。

 どうやら彼女が決心したのは斬り殺されることではなく、恩返しの方だったらしい。

 あーあ、また面倒なことに。


 「お前に人間が斬り殺せる覚悟ができたってことか?」

 「まだ慣れが必要ですけど、行く行くはそうなれるように頑張る」


 彼女は自身の胸の近くでガッツポーズを取っている。

 彼女の決心は相当なものだろう。

 その姿勢からでは感じることのできない何かが、ルビーの瞳の奥で感じられた。

 だが、問題があるとするならば俺の方だろう。


 「ここまで来て言うのもなんだが、俺がダメなんだ」

 「どういうこと?」

 「・・・人間を信用できない」


 裏切られてしまうぐらいなら仲間なんて必要ない。

 クツェルに裏切られたあの日からそう胸に決意したのだ。

 彼のネガティブシンキングは、根深く張っていた。

 

 「なんで人間を信用しないの?」

 「それは・・・」


 なぜ、赤の他人にそんなことを言わなければいけないんだ?

 脳内ではそう思う。

 だが、思考と言動は必ずにして一致することはない。

 気が付けば事の顛末を全て話していた。

 ヘカベルで理不尽に生きながら奴隷の少女を救ったこと。

 そしてその代償に国外追放され、ペランで拾われてまたしても裏切られたこと。

 理不尽にも、俺に関われば「災い」の生贄者の対象に選ばれるデマ情報を流されたこと。

 そして、共に過ごした奴隷の女の子を失ったこと。

 何もかも洗いざらい全て話した。

 そういえば奴隷だった女の子の名前ってなんだっけ?

 気が付けば奴隷少女の名前すら忘れていた。

 まあ、いいか。実害はないし・・・

 

 「もういいだろ。だから・・・」


 俺が彼女の顔を伺うと、彼女はその輝く瞳から数滴の涙を零していた。


 「いやなんでお前が泣くんだよ」

 「だって・・・」


 同情されたくて話したわけじゃないんだが。

 というか話すつもりはなかったんだが。

 これは完全に俺が悪いな。

 

 「すまない。忘れてくれ」 

 「忘れられるわけ・・・ないじゃん・・・」

 

 涙ながらも、そういう彼女は何かを決心したようにこう告げた。


 「私!あなたにやっぱりついていく」

 「いや、やめておけ」

 「いや、やめない。私はあなたから絶対離れない」

 「前の奴隷少女もそんなこと言ってた気がするな」

 「私をその子と一緒にしないで!裏切ったら殺してもいいから。私の覚悟はできているから。だから・・・」


 彼女は祈りを捧げるようにこう綴った。


 「私をあなたの嫁、パートナーにしてください」

 

 こういう前しか見れていない人間に横から何を言おうと通じないんだろうな。

 まあ、仕方がないか。


 「いいんだな?裏切ったら即刻殺すぞ?容赦はしないぞ?」

 「構わない」

 

 まさか、俺が根負けする形になるとはな・・・

 俺は最後に一言こう告げた。


 「好きにしろ・・・」

 「うん!」


 そして刀を仕舞い、彼女を連れて門へと向かっていった。

 だが・・・・


 「あれ?」

 

 俺の身に異変が突如にして起こった。

 それは・・・


 「扉が開かないんだが・・・」

 

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ